「ゴウン殿お元気で!」
ガゼフも相手との戦力差は理解できているがただ殺されに行く訳ではない、勝てないと分かっていても万に一つの可能性が無い訳ではないからだ。
全てを理解した上で死地へ向かう王国戦士長の背中は悲しみや恐怖を感じさせなかった。
戦士長達の背中が小さくなるとアインズは重くなった空気を払うかのように思いをこぼす。
「やれやれ、初対面の人間には虫に向ける程度の親しみしかないが…どうも話してみたりすると小動物に向ける程度の愛着が沸くな」
「ですからあの尊き御名前を用いてまでお約束されたのですか?」
「そうなのかもな、いや、死を覚悟して進む人の意思に」
「なかなか悪くないものだろ?不器用だけど力強くまっすぐ進む意思って」
アルベドの横から先ほどまで居なかった男の声が聞こえるが姿は無い、レオンが不可視の魔法を使って合流したのだろう。
「ええ…自分とは違うなと思いました…どうしますか?」
「取り合えず様子見といこうか、伏兵の確認ぐらいはしとく?」
アインズはアルベドに指示を出し戦士長達が向かった先に目を向ける。
「さて、この国最強の戦士とスレイン法国の戦力を調べさせてもらいますか」
「とどめだ、数体で確実にしとめろ」
止めを刺せと声が聞こえる、自分もこうなることは予想できていた。だがこんな自分に従ってくれた部下の為にもこんな所でくたばる事など出来ない。
この男を倒さなければ沢山の民が犠牲になるかもしれない。
「があああああ!なめるなああああ!!!」
全身に力を入れる、痛みでろくに力は入らないがそれでもこんな所でむざむざ殺されてやるわけにはいかない。
「俺は王国戦士長!この国を愛し、守護するもの!この国を汚す貴様らに負けるわけにいくか!!」
あの村の民はゴウン殿が助けてくれれうだろう、ならば自分は敵の数を一人でも多く減らし負担を減らしておこう。
王国も心配だが王国にはアダマンタイト級冒険者の彼女達も居る、そしてあの男も文句を言いながらも国の為に動いてくれるだろう。
なら俺はここで王国の民を一人でも救うために剣を振るうまで。
「ふ、はははははは!!下らんな!そんな夢物語なんになる?お前を殺した後村人も殺す、貴様は部下も民も救えないのだ!」
敵の指揮官と思わしき男が高らかに笑う、敵の部下たちも笑っている声が聞こえてくる。
「はっ、まったくだな。力無き者が語る夢など空想、妄想でしかない。だからもっと強くなれといっただろ?ガゼフ・ストロノーフ」
自分のすぐ後ろから聞こえてきたのは自分の言葉をあざ笑う声だが敵意は無い、そして自分はこの声を知っている。だが声の主がここに居ることなど…
「レオン、殿?なぜここに?」
振り向くと先ほどまで自分の後ろには部下たちが横たわっていたはずだが、その部下の姿は無く。自分の姿を嘲る1人の男が立っていた。
「よお、なかなかにいい顔になったじゃないか戦士長さん、男前が増したんじゃないのか?」
その場に似つかない飄々とした態度で声を掛けてくる。
「何者だ?」
「通りすがりの村人ですよー、お気になさらず…さて、邪魔者はそそくさ退散させてもらいますか」
退散という声が聞こえたと思った時には周りの景色が変わっていた。
先ほどまでいた草原ではなく建物の中だった、建物の中には怯えた表情で自分を見る村人と先ほど居なくなったと思っていた部下が転がっていた。
「ここはいったい?」
ふと口を出たのは純粋な疑問であった、誰かに答えを求めたわけではないのだが。その問いに答えてくれたのは先ほど撤退を宣言した男であった。
「ここは村長の家ん中だ、仮面の旦那が魔法を掛けてくれてる」
「なぜ…あなたがここに?それに仮面の旦那と言うのはゴウン殿?」
「さっき言っただろ?『通りすがりの村人』だって、まあ安心して寝ておけばいいよ」
レオン殿は部下と俺を見ると鼻の先で一笑する。
それを見ると力が抜けたのか膝を着いてしまった。
「ですがやつらの相手は?」
「それこそ心配ないだろうよ、仮面の旦那が相手をしてくれてる」
なるほど、ならば心配ないのだろう、安心すると全身の力が抜け地面に転がってしまった。自分があれだけ苦戦した相手だったが。ゴウン殿が負けるイメージが全くわかないのだ。
「ところでレオン殿はゴウン殿を知っていたのですか?」
「この村を助けるのに偶然知り合っただけだよ」
「なるほど…ところで俺や部下に治癒魔法を掛けていただいても良いんですが?」
「掛けてやってもいいけど超割り増し料金になってもいいかな?」
「それは怖いな…大人しくポーションを使っておきましょう」
レオン殿が鼻で笑ったのを見て意識を手放した。
「どうやら決着がついたみたいだな。村長、俺はアインズの旦那と合流してくるよ」
「もう我々は出て行って大丈夫なのでしょうか?」
村長はレオンが家を出て行くことに不安を覚えるが、決着がついたという事は自分たちは安全なのだろう。村人たちも安心ているようだった。
「ああ、みんな自分の家に戻っていいよ、村長は俺と一緒にアインズの旦那に会いに行く?」
恩人にお礼を言うのは当然だろう、村長はアインズに合いに行くことを承諾し村人はそれぞれ自分の家へと帰る準備を始めた。
「レオン殿、私も共にいきましょう」
そう言ってレオンのほうへ近寄ってくるのは顔の傷が癒え切っていないガゼフであった。ポーションを使っても受けたダメージが大きかったのかこの短時間では回復しきってはいないようだった。
「なんだもう気がついたんですか、王国戦士長殿」
レオンからの嫌味にも取れる返事が返ってくるが、ガゼフは苦笑いし受け流す。
「村を救っていただき更に我々も助けて頂いた御仁にお礼を言うのは当然です」
ガゼフの後ろを見るとまだ気を失っている部下が沢山いるようであった。ガゼフより攻撃を受けていた訳ではないが、やはりガゼフと部下の実力がそれほど離れているということだろう。
「まあ、良いんじゃないか?それなら村の英雄をむかえに行きますか。っと先に行っててくれ」
レオンはガゼフ達を置いてエンリのほうへ近づいていった。
「…村長、あの姉妹は?」
「あの姉妹はレオン殿がこの村に来られてから1番交流があったエモット家の子供です。両親が今回の一件で亡くなってしまったのですが…」
「それは…すまない」
自分がもっと早くこの村に来ていたら、いや自分を誘き出すために村を襲っていたのだ、あるとしたら全ての責任はやはり自分なのだろう。
「エンリ、ネム大丈夫か?もう村を襲ってくる連中は居なくなったみたいだから安心していいぞ?」
「レオンさん…本当に大丈夫なんでしょうか?」
エンリとしてはレオンが安全といっているのだからきっと問題は無いのだろうが戦いに出たアインズが戻ってきていない状況では不安が残るのだろう。だがネムはレオンの言葉を聴いて安心したのだろう、レオンへ抱きついてしまった。
「レオンさん、もう大丈夫なんですか?もうお家にかえってもいいんですか?」
「ああ、村を囲っていた敵の気配がなくなったからアインズの旦那が追い払ってくれたんだろう、だからもう心配しなくてもいいんだぞ?」
レオンは2人を安心させるためにネムを抱き上げエンリの頭を撫でる。ネムは完全に安心したのかレオンへ抱きついていた。エンリも撫でられていた手を握り落ち着いた様子だ。
「2人とももう落ち着いたかな?俺は一度アインズの旦那に会って来るよ」
ネムを下ろしアインズの元へ行こうとするが。
「エンリ…服を離してくれないと行けないんだけど?」
「え?」
レオンは苦笑いをしながら下を見る。エンリもその視線の先を見るとそこにはレオンの服を握る自分の手があった。
「ご、ごめんなさい!」
エンリは慌てる、特に意識していたわけではなかったが、無意識の中でレオンの服を握ってしまっていたのだろう。
「…エンリ大丈夫だよ、ネムもいるだろ?しかし…そうだな、2人で家に帰っときな。アインズの旦那に礼を言ったら二人の所に行くから、な?」
レオンはエンリをやさしく抱きしめ落ち着かせるとアインズの元へと歩いていった。
レオンがアインズの元へ着くとガゼフが王国に来た時にはぜひ我が家にと招待している様子であった。
「やあ、ご無事なようで」
「これはレオンさん、ええ、レオンさんが仰っていた通り中々に強敵でしたよ」
もちろんアインズからすれば嘘なのだが目の前の2人の関係が完璧に把握できていないので下手なことが言えない状況だ、だがレオンがガゼフを救ったということは少なくとも敵対関係などということではないのだろう。
「それは失礼、なら戦士長を連れ戻ったらそちらに加勢するべきだったな」
「いえいえ、レオンさんは村人の安全を第一に考えられ村長のお宅で待機という話でしたので」
ガゼフは2人を観察する、レオンは知り合いではないと言っていたが互いの実力を理解しあっている様にも感じられるが。この村を救うときに共闘しお互い力を理解したという事か?…今は深く追求する時ではないのだろう。
「ところでゴウン殿はこれから如何されるのですか?」
「そうですね、我々はもう出立します。何処に行くかはまだ決まっておりませんが」
「これほど暗くなってきては危険では…いや、失礼したゴウン殿のような強者には関係の無いことでしたな。では王都に来たときにはぜひ我が家に。そして罪の無い村人を救って頂き本当に感謝する」
アインズはレオンの方に一度顔を向けると一度ナザリックへ帰還するために帰っていくのであった。
「ところでレオン殿は如何されるのですか?我々は今夜村で休ませて貰い明日の朝王国へ出発しようと思っていますが」
「俺はエンリ達の家に行って適当に魔法で帰るつもりだよ」
「なるほど、レオン殿なら帰還も魔法で一瞬というわけですか、いやはやうらやましい限りです」
ガゼフはやれやれと頭を振っていたがレオンの視線に気づき見ると先ほどの飄々とした態度ではないレオンが立っていた。
「…ガゼフ・ストロノーフ、君が国王に今回の事を報告するのかは知らないが俺の名前は絶対に出すなよ、後々めんどくさい事になっても困るからな」
「それは貴族派や国王派などの理由ですか?それとも」
「そんな事じゃねえよ、今日は休みの日じゃないんだこの村に俺が来てるって大将が知って減給されたらたまったもんじゃないからな」
「あの方はそのような事をするとは思えませんが…」
「まあ何はともあれ俺が居た事は他言無用でよろしくー部下にもちゃんと言い聞かせといてくれよー」
用は無くなったと言わんばかりに会話を一方的に打ち切りレオンは村の方へと歩いていった。
レオンは村長やガゼフ達と別れエンリの元に向かう最中に一旦アインズと連絡を取っておくことにした。
「メッセージ。アインズの旦那、聞こえる?」
「聞こえてますよ、俺とアルベドはもうナザリックに転移してきました、レオンさんも転移してこられるんですよね?」
「この村でのやる事が終わったら一旦ナザリックに行くことにするよ。そっちに転移するときってナザリックに行くって念じるだけでナザリックまで行ける感じ?」
「そうですね、それで来れると思いますけど…不安でしたらゲートで迎えに来ましょうか?」
「アインズの旦那が面倒じゃなかったら迎えに来てもらおうかな?ナザリックの場所を把握してる訳じゃないから一回で転移できる自信無いや」
「分かりました、では用が済んだらまた連絡してください…ところでアインズの旦那って呼びかたは何なんですか?」
「いやー『アインズ君』って初対面同士の人間が呼んでたら怪しまれるかなって思ったから思わず『アインズの旦那』って言っちゃった」
てへ、とおっさんの声で可愛らしく言われてもアインズからすれば気持ち悪いだけなのだが。
「…また連絡してください、そのとき色々とお話しましょう」
「あ、スルーしたなって…切れてる」
レオンは人の少なくなった村を歩く、王都などの主要都市には『
「エンリーネムーまだ起きてるか?」
家から光が漏れてはいるが疲れきって寝てしまっているかもしれない、しかしレオンは姉妹が寝てると思ってはいなかった。
「はーい!レオンさん!いらっしゃい!」
元気な声と共に出迎えてくれたのはネムだった。
「やあネム、お邪魔させて貰ってもいいかな?」
「はい!どうぞ!お姉ちゃんレオンさんだよ!」
ネムはレオンを家へ招き入れエンリを呼びに言った、その服装は昼間のときの衣装とは違って寝巻きのようであった。
「レオンさんいらっしゃいませ、何もご用意できませんがどうぞごゆっくりして下さい」
家の奥からエンリがネムに連れられて出てきたがネムと違って服装は昼間のままだ。
「もしかして着替えの最中だったか?なんなら着替え終わるまで出ておくが?」
「い、いえ私はまだやる事があったので着替えは大丈夫です」
そうかと言いレオンは椅子へと座る、年頃の娘に着替えなどと何度も言うことでもないだろう。
「ところで2人は何か食べたのか?」
「いえ、ネムも私もあまり食欲がないと言いますか…あまりご飯を食べる気にならなくて…」
突然村を襲われ母親と父親を殺されあのような凄惨なモノを見たのだ、食欲もわかないのだろう。
「なるほど、あんな事があったんだから食欲も無くなるのは当然か…でも少しでも食べておかないと夜目が覚めたりしてぐっすり眠ることが出来ないぞ?」
「それはそうなんですが…」
「ふむ…ああ、そういえば昨日作ってそのうち食べようと思っていたクッキーが何枚か有ったなー。でも俺今お腹空いてないんだよなー誰か食べてくれないかなーそろそろ食べないと痛んじゃうなーコマッタナー」
レオンは『
「クッキー!?ネム食べたい!レオンさんいいですか!?」
「こ、こらネム!レオンさんに失礼でしょう!?」
食欲がないと言っていたがクッキーを目にしたネムは大はしゃぎだ。エンリもネムを咎めてはいるが目線はレオンの手元にあるクッキーから外せずにいる。
「はは、もちろんいいぞ、ネムの好きなだけ食べるといい…エンリも気にせず食べれるだけでも良いから食べるといい」
ネムは受け取ったバスケットからクッキーを取り出し勢いよく頬張っていた。エンリは迷っていたがレオンが手で勧めると遠慮がちにだが食べ始めた。
この村にはそもそも甘味と言うものが存在しない、しかしレオンが来ると村の子供用にと時々クッキーやパンケーキなどのお菓子を持ってくるのだ。子供達は村では味わえないお菓子に喜ぶのだ。
レオンは両手にクッキーを持ち満面の笑みで食べるネムと遠慮がちにだが笑顔で食べるエンリを見て口元が綻ぶのであった。
「ネム食べ終わったらそろそろ寝なさい、お腹が膨れたら眠たくもなってきただろ?」
「うん、分かりました!…レオンさんネムが眠るまで一緒にいてくれますか?」
ネムの突然の提案にレオンとエンリは呆気に取られていたがレオンは微笑みネムの手を取った。
「ああ、いいともネムが寝付くまで一緒にいてあげよう、エンリも一緒においで」
「ええ!?私もですか!?」
エンリはまさか自分も呼ばれるとは思っておらず何と返答して良いかわからず慌てていた。
「お姉ちゃんも早く!」
そんな姉を置いてネムはレオンを連れて寝室へと向かっていた。
寝室に置かれていたベッドは元々姉妹2人で使っているのだろうネムとエンリが横になっても余裕があるようだった。
「ネムが真ん中でエンリが壁側かな?俺はベッドの横に椅子でももって来るとしよう」
「ううん、レオンさんは真ん中!その横にネムとお姉ちゃんが横になるの」
「ちょ、ちょっとネム!?」
この提案には流石にエンリが1番驚いたようだった、エンリとしてはレオンが提案した方法でよかったのだ、自分も流石に年頃の娘だいくら昔から知っているとは言え男性が直ぐ隣で横になるのは恥かしいのだ。
しかし
「…ネムはそれで、いやそれがいいのか?」
「はい!」
「そうか、ならそうしようか、ほらエンリもこっちに来るといい」
「ええええ!?」
レオンに手を引かれベッドに入っていく、川の字ならぬ小の字のようだ。
「さあネムもう寝なさい」
「はーい!…レオンさん手を握って貰っていいですか?」
「ああ勿論構わないよ」
ネムは満足したようだがエンリは動転していて直ぐ寝れる気分ではなかった。
それからどれだけの時間がたったかは分からないがネムは眠っていたがエンリはまだ眠れていなかった。この状況に慣れていないのか胸がドキドキしていて寝れないようだった。
「…エンリ眠れないか?」
「は、はい、すみませんネムの我侭に付き合っていただいて」
「気にすることは無いよ不安だったんだろう」
「そう、なのかも知れませんママとパパを殺されてネムは不安なんだと「それだけじゃないと思うぞ?」え?」
エンリは言葉を遮られ驚きレオンの方へ顔を向けるとレオンが上半身を起していた。
「ネムが不安になっていたのは両親を失ったことだけではないと思うぞ?」
「それだけじゃない?それって…」
「ネムゆっくり休むと良い…悲しい夢を見る事もないほど深い眠りを『
レオンはネムへと魔法を掛け周囲へも。
「『
レオンはそういうと再び横になりエンリを抱きしめた。
「れれれ、レオンさん!?ああああのこれはいったい!?」
エンリは突然の出来事に慌て気が動転しているがレオンに抱きしめられている為に起き上がることが出来ないでいた。
「よく頑張ったな辛かったな」
「え?」
「怖かっただろ?兵士に襲われて。悲しかっただろ両親を殺されて。不安だっただろ姉妹2人きりになって」
「…確かに怖かったし悲しかったけど私にはネムが居るから…ネムの前では頑張らないと…」
「ネムは気づいていたぞ?」
「そんな…」
「ネムはエンリが無理しているのを分かっていたから俺が真ん中に来るようにいったんだと思うぞ」
ネムが自分を真ん中にすれば両サイドに信頼している人に囲まれて安心して眠ることが出来るだろう。しかしそうすると姉はどうなるのだろう?自分の前では気丈に振舞ってくれているが本人も怖いはずだ不安なはずだ、実際に村長の家から帰るときにレオンの服を握っていたのはそういう事なのだろう。だからこそレオンに真ん中で寝てもらえば姉も安心できるのではないのか。
「私、ネムを不安にさせない様にって振舞っていたのに本当は心配させていたんですね…お姉ちゃん失格ですね」
「それは違うよ、大好きなお姉ちゃんだからこそ一緒に安堵したかったんじゃなかったのかな?」
「一緒に…」
「自分を守ってくれる大好きなお姉ちゃん、だからネムは大好きなお姉ちゃんが悲しくならないように守るねって。そういうことなんだと思うよ」
「でも…私はお姉ちゃんで…ママもパパももう居なくて…私が頑張らないと…」
「なにもかも1人で抱え込まなくて良いんだ、ネムと一緒に頑張っていけばいいんだそれに俺も居るだろ?これからは俺ももっと小まめに来るようにするから。みんなで頑張ろう」
「それでも…私はお姉ちゃんで…」
「なら今日思う存分に悲しいことや不安を吐き出すといい。魔法を掛けているからネムが起きることはないし家の外に音が漏れることは無い。明日からしっかりしたお姉ちゃんで居たいのなら、弱いお姉ちゃんをここで出しておくといい」
レオンが優しく抱きしめるとエンリも抱きつき、思いが止めどなく溢れ出した。ネムの為に頑張らなくてはと思っていてもエンリもまだ子供なのだ。本来はこの悲しみを抱え込めるほど強くないのだ。
「ぱぱぁぁ!!ままぁぁ!!何で死んじゃったのぉ!!いやだよぉ!2人になりたくないよ!!まだ一緒にいたいよぉ!!ネムと2人だけなんて…いやだよぉぉ!!ままぁぁぁ!!!ぱぱぁぁぁぁ!!!」
どれ程時間がたったのだろうか、声が枯れるほど泣き叫ぶと疲れたのだろうエンリも眠ってしまった。
レオンは眠るエンリにも『
「さて『
「いえいえ、大丈夫ですよ。どこに『
「んー村の中だと誰かに見られても面倒だからこっちで最初に出会った場所でいいかな?あそこなら少し離れてるし」
「分かりましたではゲートを開きますね」
「んじゃ俺も直ぐ行きまーす」
レオンはアインズと合流しナザリックにある黒曜石が光り輝く円卓が有る部屋に来ていた、アルベドはレオンの『守護者たちは元気かな?悪いんだけど会ってみたいから呼んで来てもらえるかな?』の一言によってナザリックを走り回っていた。
「ナザリックがリアルになったらこんなに豪華絢爛なんだね、いやゲームの頃から豪華な造りだとは思っていたけどさ」
「そこらへんに置いて有る物とかリアルでは絶対に見ることが無いようなものが沢山有りますね」
レオンがナザリックの来てまず驚いたのはその豪華な造りだった、ユグドラシル時代に毎日と言っていいほどログインして見慣れていたが、そのすべての物がリアルの現物になっていると今までと見える景色が違うのだ。
「さて、アルベドが戻ってくる前に気になったことを聞いてもいいかな?」
レオンはモモンガと再会してからどうしても気になっていたアインズとアルベドの関係性について。レオンの記憶ではアルベドは守護者統括であってアインズの恋人、嫁という認識は無い、しかしこの数回会って話しただけでも『アインズ様好き好き』が凄すぎたのだ。
「いったい何があったの?アルベドからずいぶん好かれてるみたいだけど、ナニがどうしてナニがあったの?」
「何の発音を変えないでください!そういったことはありませんから…」
「そういうこと?ん?どんなことだい?お兄さんに言ってごらん?」
「どこの助平親父ですか!?本当にレオンさんの言っているようなことは有りませんから!ただ…」
アインズは言いよどむ、何時かは言わなければならない、だがいざ自分が行ったことを言葉にすると恥かしくなってくる。まるで自分の黒歴史ノートでも見せる気分だ。
「あー話したくないようなことが有ったならもう構わないよ?なんか悪いことを聞いたみたいだね…悪かったね」
レオンはばつが悪そうにしているアインズを見て聞いてはいけない事だったのだろうと考え頭を下げた。
「や、やめてください!レオンさんが謝るような事ではないんです!実は…」
アインズはユグドラシル最終日に何があったのか、レオンを待っている間に自分の行ったことを話した。因みに自分の行いを話している間にアインズは3回ほど精神の沈静化を繰り返すのであった。
「く、くくくくく…はははははは!モモンガを愛してる!?いいね!いいじゃん!モモンガ君もそういう気持ちがあったんだね!いいじゃん!美人に愛して貰える!男なら一度は夢見る願望じゃん!」
アインズの苦悩やいざ知らず、レオンは涙が出ているのか目頭を押さえ盛大に大笑したのであった。
「そんなに笑わないでくださいよ…自分でも気の迷いだったと反省してるんですから…」
「はあ…はあ…あーやっべー笑いすぎでダメージ食らった気分だったわ、悪い悪いでも良いじゃん最後ぐらい自分の好きにしても、誰も文句なんて言わないよ」
笑いすぎて疲れたのか肩で息をしていた。
「しっかしタブラさんも人が悪いな自分の作ったNPCにビッチって…あの人の性癖そんなんだったのか」
「まあビッチが可哀想に感じたので変更したんですが、こうなる事なら変更せずに消すだけにして置けばよかったと後悔してます」
「そう?結果よかったんじゃない?」
「なぜです?自分が盛大に笑えたからですか?」
「そういじけるなって、だって考え方を変えたらモモンガ君は『絶対に裏切らない仲間』を手に入れたんだろ?聞いた話ではNPCが裏切る事はなさそうだけど、それでも絶対的な味方を手に入れたと思えば気持ちもまぎれるんで無い?」
NPCは自分達に盲目的に信頼し忠誠を誓ってくれているがもしもの事が有る可能性が無い訳ではない、そのときアルベドは恐らく―モモンガを愛している―この設定によって裏切ることは無くなるだろう。
「確かにそうかも知れませんが…タブラさんの設定を汚してしまった気がして」
「んーまあもうすんだ事だと思って吹っ切れなって。それにタブラさんも気にしないと思うよ?」
「なぜです?」
「だって自分で作った設定にビッチって書く性癖の持ち主だぜ?下手するとモモンガ君に設定をいじられた事に喜んでる可能性が有るよ」
そういうとレオンはまた大笑するのであった。アインズもレオンの意見に納得してしまいそうになっていた。
「失礼いたします、各階層守護者を連れてまいりました」
「うむ、入れ」
アルベドの声にアインズが入室を許可すると第4と第8以外の各階層守護者と執事が入ってきた。
「やあ皆久しいね、元気にしてた?」
レオンは入ってくる守護者達に飄々と声を掛けるが声を掛けられた方は驚愕の表情を浮かべていた。アインズから異常事態が発生したと言われ、その日からレオンを探すように言われていたが無事発見できたと報告は受けていなかったのだ。
「な!?これはレオン様ご無事でしたか」
守護者たちが驚いている中最も早く状況を理解したのはデミウルゴスであった、彼はアルベドが自分を呼びに来た時『アインズ様がお呼びよ』としか言ってはいなかった。まさかこの様な事ならばもっと早く来るべきで有った。アルベドを横目で見るとまさにしてやったりと言った顔だ。
「レオン様!お帰りになられていたんですか!」
「お、お帰りなさいませレオン様」
デミウルゴスの言葉を聴き各守護者たちが思い思いの言葉を発し始める。
「ああ、レオン様御無事でよかったでありんすえ、わたしに御声を掛けていただいてから御姿が見られないとの事でしたのでとても心配していたでありんす」
「至高ノ方々ノ御1人デアルレオン・D・ファンションサマデアレバナ何モ問題ハナイト思ッテオリマシタガ、御無事デ何ヨリデゴザイマス」
「御無事で何よりでございます、お帰りなさいませレオン様」
各守護者達が思い思いの言葉を言い終わるとレオンが椅子から立ち上がりシャルティア、アウラ、マーレの前に歩いていく。
「レオン様如何なさいましたか?」
「レ、レオン様?」
「い、いかが為さいましたか?レ「かーわーいーいー!」ひゃい!?」
唐突に大声を出したかと思うとレオンは目の前に起っていた3人を抱きかかえた。
「なーにーこーれー!?ちょー可愛いんですけど!何!?アインズ君こんなに可愛い子を独り占めしてたの!?それは駄目だわーずるいわーいやーやっばいわー」
3人を抱きかかえ小躍りを始めたレオンにアインズは愕然としていた、セバスとデミウルゴスは微笑みコキュートスは下顎をカチカチと鳴らしていた。そんな中私もウエルカムですよと両手を広げアインズの方へにじり寄る守護者統括殿。
「レ、レオンさん!?どうしたんですか!?」
「どーしたもこーしたも無いでしょ!?こんなちょー可愛い子達を独り占めは駄目だわーそんな事されたら激おこだよー」
かわいいよーと連呼しながら三人へ頬ずりをしていくレオン、アウラ達も恥かしいが嬉しいのか顔を赤らめながらもなすがままであった。
「ええ…」
アインズとしても3人が可愛いことは認めるがそれ以前にレオンの言動に驚いていた。共にゲームをプレイしていた時からカッコいいモノや可愛いモノが好きなのは知っていたがここまで醜態をさらすような人ではなかったのだが。
「いやーユグドラシルの時から可愛いなーとは思ってたけどさ、何ていうの?レオン様とか言われたらもう無理だよね?」
「ええぇ…私としては今のレオンさんの言動の方がちょーやばいですよ…」
「え?なに?アインズ君はこんなに可愛い子達を撫でたいとか思わないわけ?抱きしめたいとか思わないわけ?可愛いは正義じゃないって?良いだろう表出ろや戦争だ」
レオンの言葉に守護者達の空気は固くなるがレオンが本気で言っている様子も無いので安心する。
「あ、あのレオン様!聞きたいことが有るのですが!」
アウラが抱き締められながらもレオンとアインズのやり取りに違和感を覚え質問をする。
「ん?なーに?誰が1番可愛いかって?それは決められないよー?皆が1番だよー」
すでにまともな会話にすらなっていない、デレッデレである。親バカを通り越して最早爺バカである。
「はぁ…レオンさん話が進まないし話が出来ないので3人を降ろしてください」
「えーしかたないなーじゃあまた今度ゆっくりお話しよーねー」
文句を言いながら3人を降ろしていく、アウラとマーレは顔が真っ赤になっており、シャルティアはだらしない顔をしていた悦楽に酔いしれているようだ。
「それでアウラよ、レオンさんに何を聞こうとしていたんだ?」
「ひゃ、ひゃい!先ほどからレオン様がモモンガ様の事をアインズ様と呼ばれていたので気になってしまって」
「そのことか、アルベドよ他の者は王座の間に揃っているのか?」
「ああ、アインズ様も私を抱き締めていただいても良いんですよ、ああ!そんなところをおさわりに…」
アインズが声を掛けるもアルベドは妄想の世界へと旅立ってしまっていた。レオンが人目も気にせず3人を抱き締めるものだから自分もアインズに人目を気にせず抱き締められたいのだろう。欲望駄々漏れ過ぎですね守護者統括様。
「あー守護者統括殿がお疲れのようですので私が代わりにお答えしてもよろしいでしょうかモモンガ様?」
「そ、そうだな頼むぞデミウルゴス」
「はい、モモンガ様が戻られアルベドが我々を呼びに来た時にしもべの者を厳選し王座の間へ集めるように仰せ付かっていたので既にモモンガ様とレオン様の威光をその目に焼き付ける為に忠誠を誓っていることかと」
「ふむ、ではそろそろ我々も行くとしよう。アウラよ先の質問の答えは王座の間で答えるとしよう」
「畏まりましたモモンガ様!」
「我々は先に向かっておりますのでモモンガ様とレオン様は御緩りとお越しください、行きますよアルベド」
呼んでも反応の無いアルベドにデミウルゴスがフックをかましていたがアルベドは特に気にした様子も無くけろりとしていた。さすがナザリック最高の盾だなーと感心していたレオンにアインズは王座での打ち合わせを始めるのだった。
「さてレオンさん色々とお聞きしたいことが有るんですが、よろしいですか?」
「昼間に聞いたこと以上に細かく詳しくかな?」
「ええ、ですが全てを教えて頂けるわけではないんですよね?」
「そうだね、自分で色々見て回るのもいいことだよ。でもこの世界でやっていくのに必要なことは教えてあげるよ。報酬しだいで」
「えぇ、お金取るんですか?」
「当たり前よー俺の10年分の知識が欲しいならそれなりの対価は頂かないとね?知識とは、情報とは、大切な資産ですので」
そう言ってレオンは左手の親指と人差し指で円を作りいやらしい笑みを浮かべる。
「何が欲しいんですか?武器作るのに必要なデータクリスタルとかですか?」
武器やアイテムを作るのが好きだった人の事だからこっちの世界に来ても武器を作っていただろう、ならデータクリスタルが減っているだろう。そう思いアインズは自分の所持しているデータクリスタルを探すが。
「いやそこまでしてもらう必要は無いよ、俺が教えれる事なんて少し調べたらいくらでも分かるような事だから。俺が欲しいのはポーションとかの消費アイテムを少し貰えたらってだけだから」
「それだけで良いんですか?」
「それだけって簡単に言うけどねアインズ君、ここがユグドラシルで無い以上今もっているアイテムは今後手に入らない可能性が高いという事、そしてユグドラシルではハズレアイテム等ですらこの世界では一級品のアイテムに早代わりなんだよ」
「なるほど…」
レオンの言葉にアインズは改めて考えさせられる、今自分たちが所持しているアイテムは『ユグドラシルの物』ばかり、それは今後手に入らない事がレオンの言葉によって明確になった。ならば現地でのアイテムで代用していくしかない。
「まあこの話は後日ゆっくり話そうか、王座の間に彼らを待たせているんだろ?ならそろそろ行こうよ」
「そうですね、この世界の情報だけでなくレオンさんがこの世界でどうやって生活していたのかも気になりますからね」
王座の間に集まっている多くの者が跪き頭をたれ忠誠を顕していた、その中をアインズとレオンの足音が響く。しもべたちは足音がアインズ一人のものでない事に気づき頭を上げその姿を拝見したい気持ちに駆られるが今はその時ではないと自制する。
階段を上りアインズが王座へ座りその横にレオンが立つ、王座から見える景色にアインズは感動を覚えていた。自分達が、ギルドの仲間たちが作り上げた景色。
「面を上げよ」
アインズはしもべ達が自分達の姿を確認するのを見る。
「今回謎の異常によって行方が不明となっていたレオン・D・ファンションが無事ナザリックに帰還した、そして喜ばしい事にこの世界の情報を手に入れての帰還となった」
アインズの言葉にしもべたちから歓喜と驚愕の声が漏れた。
その様子を見たレオンが一歩前に出る。
「諸君、見知ってもらえている様だが名乗らせてもらう、レオン・D・ファンションだ。諸君らよりはこの世界の事を理解できている。諸君らはその情報を元に行動しナザリックのために行動せよ。なに、存分にこの世界を楽しもうではないか」
「この場の者、そしてナザリックの者に伝えるべき事が有る―――『
モモンガの魔法によって天井から垂れていた大きな旗が地面へと落ちる。
その旗に書かれていた模様はモモンガのモノだった。
「私は名前を変えた、今後私の名を呼ぶときはアインズ・ウール・ゴウン――アインズと呼ぶがいい」
アルベドが満面の笑みで声を上げた。
「ご尊名窺いました。アインズ・ウール・ゴウン様万歳!」
しもべたちが唱和し、万歳の連呼が王座の間に広がる。
「お前達に厳命する!アインズ・ウール・ゴウンを不変の伝説にせよ!」
「アインズ君かっこよかったよー、魔王ロールは伊達じゃないね」
「それ褒めてます?でもなんか精神が高揚してきましたね」
「さて、気分が乗ってるアインズ君には悪いけど朝になったからエンリたちの元に戻ってから俺もこっちで住んでる家に帰るとするよ」
「そういえばレオンさん何処で暮してるんですか?と言うか何処で何やって生活してるんですか?」
「俺?客将やってるよ」
「はい?」
「だから『リ・エスティーゼ王国』で客将やってるんだよ」
「はあ!?」
「あ、屋敷住みで可愛いメイドも1人いるよ」
いかがでしたしょうか、今回でアインズとレオンの再会とカルネ村でのお話は終わりです。
次回からはレオンが王国でどうやって生活をしているのか、客将になった経緯を書いていきたいと思っております。