オーバーロード~死の王と幻影の王~   作:ミズナラ

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残業は悪い文明


7話

 リ・エスティーゼ王国、人口900万人の200年以上の歴史が有る由緒正しき人間の国家。国王は民の事を考え民の為に税を安くし、より良く住みやすい国づくりを目指している。貴族は自分達の領地に住む民の声を積極に聞いて民の為に資材を投資してくれるすばらしい方々。

「なんてことは絶対にあり得ない、そんな国ならどれだけ救われる事が多いかしら」

 実際は最早ただ古いだけの国。確かに国王は民の事を考えている、しかし実際のところは王派閥と貴族派閥の二分を抑える事で精一杯。重い税で国民は苦しい生活を強いられている。貴族達は自分達の領土でやりたい放題、気に入らない事が有れば勝手に税を重くし、民が思い通りにならなければ殺害し、気に入った娘が居れば税の代わりや借金のカタに問答無用に連れて行く、まさに自分の領地では自分は国王とでも言いたいのだろう。

「くだらない、実にくだらない。こんな国に最早未来は無い」

 ではどうする?帝国に亡命でもする?確かにあの皇帝なら私の価値を理解して辺境の地に隔離してくれるはずだ。でもそれでは駄目、絶対に駄目。

「帝国だけは絶対に駄目、あの国に行けばあの方と離れ離れになってしまう。それだけは絶対に死守しなくてはいけない」

 王国に未練は無いが恐らく私があの方と暮していくのに都合がいいのはこの国。

「でも腹立たしい事に誰もあの方の力と価値を本当の意味で理解していない」

 ザナックお兄様は私のことを『化け物』と言っている様だけどあの方の前では私ですらただの人、本当の化け物というのはどれ程巧妙に知略を張り巡らしてもたった一つの行動で全てをひっくり返してしまうような力を持っている方のこと。

「あぁ、私のレオン様。早く私の元に帰ってきてください。そして早く私に」

 私の願いはただ1つ、レオン・D・ファンション様と結ばれたいだけ、できれば私に首輪をつけて飼って下さいな。

 

 

 

 

 

時は戻って10年前

 

 

「申し訳ありません姫様、霧が濃く視界が悪いためこれ以上のスピードが出せないとの事です」

「ええ、分かっています」

 リ・エスティーゼ王国の大通りを走る豪華な装飾が施され側面にはリ・エスティーゼ王国の国章が描かれている立派な馬車、本来であればその装飾も輝いて見えるのだがこの日は生憎の濃霧。

 そんな濃霧の中を走る馬車の中に居るのは第三王女ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフと初老の男性と護衛の騎士が1人。

 なぜ第三王女であるラナーが城の外に居るのか、父であるランポッサ三世にラナーの拒食症について医者に見てもらう為に城を出ていたのだ。

「しかし原因不明とは困りましたね、アレで王国随一の医者とは…」

「まあ、あの医者の調子が悪かったという事で…しかしラナー様、久々の城下はいかがですか?」

「そうですね、いつもと違う景色は新鮮です」

 拒食症、その病名の通り食事を受け付けない。ラナーの体はやせ細り刻一刻と死へと向かっているのが見て分かる程だ。

 ランポッサ三世はそんな娘の病状を如何にかする為に王国で随一と言われる医者の元に向かわせたのだ。医者を城に呼ばずに娘を向かわせた理由は城の中が息苦しいのだろうと思い気分転換になれば、と言った親心からだった。

(この症状が治ることはないわ、誰も私の言う事を理解しない。いえ、理解できない人間ばかり、こんな世界に私の居る場所は無いのでしょう。なら体の望むままに死を受け入れるだけ)

 どれだけ様々な政策を言っても周囲のラナーに対しての評価は『理解不能な事を述べる薄気味悪い少女』であった。ラナーは天才だった、しかし天才過ぎた。周囲にラナーの言っている事を理解できる者は誰一人として居なかった。

 それがラナーにとって耐え難いストレスとなっていたのだ。

「何だ貴様?道を開けよ。この馬車には第三王女様であるラナー殿下が、な!?貴様らいったが!?」

 御者の慌てふためく声が聞こえたかと思ったのもつかの間、声どころか物音すら聞こえなくなってしまった。

「何事だ!?」

「い、いったい何が!?も、もしや賊が!?」

 慌てふためく2人をよそに最も落ち着いているのはラナーだった。

(賊、確かにそうかも知れないけれど少し違う、もう少しで始まる戦争によって徴兵されて稼ぎが無くなる恐れの有る民の暴動といったところかしら)

「戦士殿!よ、宜しくお願いします!」

「は!御任せください!御2人は馬車の中からけして出て来ないようお願いします!」

 戦士は手に持っていた剣を抜くと颯爽と馬車から出て行ったが、そこに広がるのは視界を遮る濃霧、馬車の中に居て外の様子を見ていなかった戦士は霧がどれ程濃いか把握できていなかったのだ。

「くそ!これでは敵が何処に居るか分からないではないか、だが条件は敵も同じ事。見えた瞬間に成敗してくれる!」

 そう言うと馬車を背に剣を構えた、背中を馬車に預ける事で集中する方向を正面左右の3方向に絞ったのだ。

「さあ賊よ!掛かってくるがいい!」

 自分は王国に仕え鍛錬している戦士、そこ等辺の賊などに負けるはずが無い。戦士はそう考えた、確かに今回ラナーの護衛として呼ばれた男は王国に仕える戦士の中ではトップに入る力の持ち主だ。だが。

「どこからかかってくる?…な!?ぐ!?がぁぁぁぁ!?」

 それはあくまでも正面からの戦いであれば、と言うだけだ。濃霧によって視界が遮られている状況ではその力は発揮できない。そして賊の中には視覚異常を無効にできる生まれながらの異能(タレント)持ちが居た事によってパワーバランスは完全に覆されてしまった。

「足が!?俺の脚がぁ!!!!」

 戦士は馬車に背を向けることによって背後からの襲撃に備えたのだがそれは『背中』を守っただけに過ぎなかった。戦士は剣を構えたまま前に倒れてしまった。

「やった!やったぞ!これでそいつはもう動けない!今だ、やれ!」

 生まれながらの異能(タレント)持ちが馬車の下から忍び寄り戦士の足を切り付けたのだった。それを合図に武器を持っていた5人の男達が一斉に襲い掛かる。

「が!?貴様ら!ひきょう!な!」

「うるせえ!手前らばっかり良い思いしやがって!」

「どうせ俺達は死ぬかもしれないんだ!だったら少しでも家族の為に金を残してやるんだ!」

「ぐ!ぐぞう、ひめ、さま、に、げ…」

 男達が戦士に次々と剣やナイフを刺し続け、戦士が動かなくなる頃には辺り一面は赤に染まっていた。

「さあ!さっさと姫様さらって逃げるぞ!」

「分かってるよ!」

 主犯格と思われる男が生まれながらの異能(タレント)持ちの男に指示を出し馬車の扉を開ける。

「さあ大人しくしてれば怪我はしないぜ」

「ひ、姫様お逃げください!」

 男が扉を開けると中から初老の男がナイフを構え男へ体当たり押したのだ。

「な!?ぐ!くそがぁぁ!」

 男は突然の出来事に判断が遅れナイフが腹部に刺さり初老の男性ごと馬車から落下した。

「くそが!死ね!死ね!」

 男は手に持った剣で初老の男性の背中に何度も剣を突き刺していく。

「おい!もう死んでる!そんなジジイほっとけ!」

「はあ、はあ、ちくしょう!いってえ!」

「誰かナイフを抜いて止血してやれ、それで家に戻ったらポーション飲ませてやれ」

 そう言うと主犯格の男は馬車の中に入っていった。

「怖くて動けなかったのか?せっかくジジイが逃げるチャンス作ってくれたってのに」

 馬車の中には逃げる事も無く主犯格の男を見上げるラナーが座っていた。

「いえ、逃げても無駄だと思いましたのでここにいました」

「そうかい、そら助かるよ、それじゃあ俺達の家まで来てもらうぜ」

 男達はラナーを連れ濃霧の中へと消えていった。

 

 

「うぅ、姫様…誰か…姫様を…ぐ、ぁぁぁ」

 初老の男性は辛うじて意識が戻ったようだった、馬車から落ちた衝撃で気を失い剣を刺された場所も致命傷を避けていたようでまだ意識があったのだ。だが流れ出る血の量からしてもう長くはもたない。

「だれか、誰でもいい…から」

 あれだけの騒ぎにも周りの民家から人が出てくる気配は無い、残念な事に多くの民は重税に苦しみ貴族の身勝手な行いを憎んでいた。それによってこの騒ぎを聞いても関わって面倒ごとに巻き込まれたくない、自業自得だ、ざまあみろ、等の感情が勝ってしまっているのだ。

「おねが、だか、ら、だれでも」

「どうした爺さん?えらい出血じゃないか」

 そこには先ほどまでとは違って一人の男が立っていた、その男が誰かは分からないが初老の男性は最後の望みを掛けて願った。

「!おねがい、です、姫様が、賊に連れて、行かれて」

「えぇ…俺に利益無いんだけど」

「助けて、いた、だければ、こくおうさま、から報酬が」

「あー本物の姫様なのか」

「おねがいします、今は、これだけしか、もっていませんが」

 ポケットから金貨を6枚取り出し男へ差し出した、男はそれを眺め尋ねた。

「爺さん先に自分を治してくれとか言わないのか?自分の方がやばそうだぞ?」

「自分が、もう駄目なのは、わかって、います、なので、どうか姫様、だけでも」

「そうか、いいぜ、その依頼受けてやるよ」

 そう言って男は初老の男性が差し出した金貨を拾っていく。

「ああ、ありがとう、ございます、これで、あんしん、して」

 最後まで言葉を紡ぐことなく力尽きた、しかしその顔はどこか満ち足りたようだった。

「本当に引き受けてもらえるかも分からないのに何本望って顔してやがんだよ、でも約束は果たしてやるよ」

 男は立ち上がると周りを見渡す。その目には濃霧など関係ないかのように周囲を観察していく。

「さて、この馬車には女の子の匂いが有るはずだ、そしてその路地へと続いている血痕は賊のモノだろうな…さてカーディナル、仕事だ存分に働いてくれよ?」

 男がそう呟くと霧の中に紅い光と深紫の4つの輝きが見えた。

 

 

 

 

 王都の大通りから2つ程裏路地に入った場所に男達の隠れ家は在った。

「で、これからどうするんだ?堂々と城に身代金寄越せって行くのか?」

「んなわけあるか、そこ等辺のガキに要求の書いた紙でも持たせて城に行かせるんだよ」

「受け取りは?」

 男達が今後の行動について話し合っている中捕らわれの姫となったラナーは涼しい顔だ、自分がどうなるのか、開放されるのか、殺されるのか、最早どうでも良いことなのだろう。

(なんてくだらない、身代金を要求するならもっと効率のいい方法があったでしょうに、まあ私にはどうでもいいことね)

「いてぇ、くそ!やっぱりあのジジイもっと殺しとけばよかった!」

 今回の作戦で負傷したのは1人だけだった、それも有るのだろう怒りが収まらないといった風だ。

「もう良いじゃねえか、ポーションも飲んだんだろ?少しは落ち着けって」

 仲間の言葉など聞こえていないのだろう刺された男はポーションによって塞がった腹部を擦りながら酒を飲んでいる。

「…あ?てめえなに澄ました顔で居やがる、ちったあ怖がれよ」

「おい、おちつけよ」

 男の怒りの矛先がラナーへと向けられた、ほかの男達からすればただの八つ当たりだ。

「怖がった方がいいんですか?」

「あ?普通こんな状況だったら泣き喚くもんだろうが」

「ああ、なるほど普通とはそういった事なんですか、すみません貴方を怖いと思わなかったもので」

 ラナーとしては素直に感想を言っただけなのだろう、しかし男にとっては何も面白くない、家族の為、金の為に怪我をするリスクが有ることは分かっていた。だが自分は怪我をして痛い思いをしてこのガキをさらって来た。そしたらそのガキは今の状況が怖くないと言い出した。男の怒りは限界だった。

「ああ!?だったら大人の怖さってのを男の怖さってのを教えてやるよ!」

「お、おい!おちつけ!」

 主犯格の男が止めに入るが最早男の怒りは止まる事を知らないようだ。

「あ!?いいじゃねえか!どうせ失敗したら殺されるんだ、だったらこんなガキでも楽しませてもらわねえと割に合わないだろうが!」

 殺される、その言葉が他の男達が止めようとするのを止める。考えないようにしていた殺されるかもしれないという恐怖。

 その恐怖は男達の正常な理性を崩壊させて行く。

「た、たしかに少しくらいなら…いいよな?」

「でも相手はこんな女の子だぜ?」

「なら黙って見てろよ」

「いや、見てるくらいなら…」

「それに良く考えれば『姫様』だろ?…こんなチャンスもう二度と…」

 もはや男達の考えは1つにまとまってしまった。

「さあ、姫様よ怖かったら泣いても良いんだぜ?」

(ああ、所詮男なんてこの程度の生き物だという事ね、家族の為だなんて大義名分を掲げていても結局のところ、性欲(本能)にしか従えないという事かしら)

「ごめんなさい、やっぱり怖いと思えないわ」

「上等だこの糞ガキがぁ!!」

(私はここで犯されて死ぬのかしら?つまらない人生だったし衰弱死で死ぬとばかり思っていたけど、こんな死に方もあるのね)

 ラナーはこれから自身に行われる行為にすら興味が無いようであった。

 

 

「ったく、こんなちびっ子に欲情するとか相当な変態共だな」

「え?」

 自分の身に男達の手が届くと思った瞬間それは起こった。自分は先ほどまで椅子に座らされていた。そのはずだ、なのに自分のいた場所から離れ入り口の前に移動しただけでなく何故自分は今先ほどまで居なかった男にお姫様抱っこされているのか。

(なぜ瞬きもしていない状況で私の置かれた状況が変わっているの?なぜ!?理解できない!)

「あ、あの」

「ん?怪我は無いな?そらよかった」

 突然現れた男は困惑するラナーをおいて同じく理解できていない男達と対峙する。

「な、なんなんだお前?」

「本当は姫様助けたらさよならバイバイのつもりだったんだけど、ロリコンの集まりってなったら話は変わってくるかなー」

「なんなんだよお前は!」

「あ?ただの化け物だよ」

 化け物、自身の事をそう呼んだ男が左手を男達にかざす。

「社会的、いや常識的か?まあお前らやばそうだから死んどけ龍雷(ドラゴン・ライトニング)

 男の手から男の腕よりも大きな龍のごとき雷撃が3本放たれた、それは男達を貫き家の壁をも破壊する。とどまる事を知らない雷撃は直線状にあった建物を4棟ほど破壊した後空に消え去った。

「あ、やりすぎた」

 男の呟きは誰に言った後悔の言葉なのだろうか。男の表情は若干の困惑した表情が見て取れる。

(やっべー想定外の威力なんですけどー!?なんで!?『俺』の龍雷(ドラゴン・ライトニング)なのになんであんなに威力でるの!?なんでーって背中の槍のせいか!)

 ユグドラシル時代に作り上げた『魔法三重化(トリプレットマジック)』『魔法位階上昇化(ブースデットマジック)』『魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)』『上位全能力強化(グレーターフルポテンシャル)』『上位魔法盾(グレーター・マジックシールド)』『上位硬化(グレーターハードニング)』を組み込んだサプライズ武器。その武器を背負った状態だった。

(なに今の魔法!?あんなの見た事も聞いた事もない!私の知らない事が起きてる!最初に私の場所が変わった事だけではなく。もっと知らない事が有る!?)

 ラナーの目に光が差す、それは今まで感じた事のない高揚感。もしかしたら目の前に居る人物は自分の言っている事を理解してくれるかもしれない、自分の知らない知りえない事を教えてくれるかもしれない。何より。

(私の理解を覆してしまうほどの力を持っている!あぁ、なんて、なんてすばらしい事なんでしょう」

「え?なんかいった?」

「いえ、何でもありません♪」

「そう?んにしてもしまったなー少々やりすぎだよなコレは」

 目の前に広がるのは5体の男の死体、打ち抜いてしまった壁の向こうにも子供だろうか丸まった黒焦げの小さな遺体が有る。そしてその先にもぽっかりと穴が開いていつ崩壊するのか分からなくなった建物と黒焦げの遺体らしきモノが。

「そこは安心してください、私を助ける為にと言えば罪には問われませんので♪」

「そういう問題なのかな?まあ、罪人扱いされるよりはましか」

「はい、問題ありません♪」

「ところで何で君はそんなに嬉しそうなの?」

「それはもちろん貴方様に会えたからです!私の王子様!」

「王子様!?」

「はい王子様です♪あ、お名前を聞いていませんでした、教えてください♪」

「レオン・D・ファンション…です」

「今後とも末永くお願いしますレオン様♪」

 ラナーの死を待つだけの人生に光を与えたのは人であって人ならざる者。

 ラナーの新しい人生はここから始まったのかもしれない。

 レオンの就職先も見付かった瞬間だったのかもしれない。




レオンさんとラナー様との出会いはいかがでしたでしょうか?

え?メイド?聞こえんなぁ…

時間が欲しい!誰か私に1日36時間ぐらい下さい!(切実)

最近ツイッター始めたらしいので気が向いたら見てやって下さい
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