道化の名は必要悪   作:鎌鼬

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原作前・日記
悪役日記


 

 

●月△日

 

俺は転生した。ライトノベルの様に、二次小説の様に良くある記憶を持ったまま転生するあれだ。奇妙な体験をしたことを記念して、今日から暇を見つけて日記をつけようと思う。

 

 

日本で散歩していたら後ろから甲高い車のブレーキ音と誰かの叫び声が聞こえ、振り返ったら赤い液体を着けた黒塗りの高級車が突っ込んで轢き殺されたのだ。最後に考えたのが疲れていないのにという辺り、俺も能天気だなぁと思う。

 

 

轢かれて死んだと思ったら、次の瞬間には何もない真っ白な空間にいた。ここが死後の世界かな?なんて考えていると、何もなかったはずの空間が歪んで1人の男性が現れた。スーツを着込んで黒髪を七三に分け、人当たりの良い笑みを浮かべていたのでサラリーマンか何かと考えていたがこんなところにサラリーマンがいるはずが無いと考え直して警戒する。

 

 

するとその男性は飛び上がった。後方にトンボを切りながら空中で身体を捻らせ、そのままぶれる事なく膝を折って背中を曲げ、頭を前に倒す。曲芸か何かかと見間違えてしまう程の行動の果てに、余計な音を一切立てずに着地した時のその姿はーーー土下座だった。日本人ならば誰もが理解している、謝罪や懇願するときに用いられる姿勢。本来ならば最後の最後、それ以外にどうすることも出来ない様な状況下でしか使う事の許されないそれを初っ端から持ち出して来たのだ。

 

 

後方宙返り土下座という東洋の神秘を、日本人におけるファイナルウェポンを開幕から使って来たことに戦慄を覚えながら、このままでは話が出来ないと理由をつけて何とか彼に土下座を止めさせて話を聞くことに成功した。

 

 

彼は悪神の使いらしい。悪神の使いというジャンルで固有名詞を持っていないらしいので、俺は彼のことを見た目と後方宙返り土下座という東洋の神秘からタナカと呼ぶ事にした。何でもとある世界に転生者が送り込まれた事により善悪のバランスが善に傾き過ぎて崩れそうになり、そのバランスを取るために俺にその世界に転生して欲しいとの事だった。

 

 

善と悪で思い付くのはゾロアスター教の善悪二元論だろう。悪とは善に打ち倒される物で、善性を肯定するための踏み台だという考えを持っていたので善に傾いていた方が良いのではないかと尋ねたのだがそう簡単な話では無いらしい。タナカによれば善と悪のバランスは俺が考えている以上に緻密で、世界のどこかで善行が行われれば世界のどこかで悪行が行われる。それがある程度ならば世界そのものがバランスを取るように設定されているのだが、とある善神が転生者を送り込んだ結果、善と悪のバランスが設定を超える程に崩れてしまうらしいとの事だった。善悪のバランスが保たなくなってしまえばその世界は崩壊し、連鎖的に他の世界にも影響を及ぼす事になるらしい。それを防ぐ為に俺に悪としてその世界に転生してくれと、タナカは今度はトリプルアクセル土下座を決めながら懇願して来た。

 

 

こいつはどれだけ土下座の引き出しを持っているのかと戦々恐々しながらも、タナカの言葉に嘘が無いと経験から理解出来たので断るという選択肢を出せなかった。それに、生前でもそういう悪性に分類される様なことを生業としていたので抵抗が無かったからというのも理由にあったりする。

 

 

俺が引き受ける事に地面を頭に打ちつけながら感謝の言葉を述べるタナカを止め、詳しい説明を受けた。転生して欲しい世界というのは〝魔法少女リリカルなのは〟の世界らしい。一部作では終わらずに複数の続編が放映された人気作品で俺も知っている作品だったが、部で言うところのstrikers編まで俺に悪役を務めて欲しいとの事だった。そこまで俺が悪役を務めれば、後は世界のバランス設定でどうにか出来るレベルに落ち着くと予想しているらしい。

 

 

そうして俺はこの世界に転生した。前世の記憶と人格を引き継いで、タナカからの依頼を覚えた状態で。肉体年齢は5歳程で、記憶にあるその頃の俺の容姿と似通っていた。タナカによれば俺には肉親は存在せず、彼が保護者を務めているらしい。前世の親の顔も覚えていない親不孝者だが、いきなり見知らぬ夫婦のことを親として慕うふりをしなくて済んだ事には感謝しなくてはならない。

 

 

●月□日

 

今日は色々な確認を行った。

 

 

身体能力はまさに5歳児そのもの。重い物は持てず、簡単に息切れを起こす上にすぐに腹が減る。当たり前と言っては当たり前なのだが前世の頃とは比べものにならない程に低下していた。それを理解して落ち込んだのだが、逆に言えば肉体をリセットして成長し直せると言う事。目指せ、身長180センチの細マッチョボディー。

 

 

しかし変わらない物はあった。それは前世で修めていた技術だ。5歳児ボディーになった事でリーチこそ短くなっていたのだが、武術を始めとした技術は問題無く使う事が出来たのだ。未熟な事が理由なのか、縮地を連発したら身体が悲鳴をあげていたのだが、それも成長すれば解決するだろう。そこら辺は気長にやるしか無い。

 

 

そして魔術も違和感を少し覚えたのだが問題無く使用する事が出来た。前世の幼少期から見ていた夢で、花に囲まれた塔の中にいる女性。ユルフワ系な彼女だったが前世でも架空の存在とされていた魔法ーーー彼女に言わせれば魔術を使う魔術師を名乗っていた。その彼女にここまで来たご褒美だと魔術を幾らか習ったのだ。彼女に習った魔術は前世の世界では架空の存在だったという事もあり使用は控えていたのだが、この世界では魔導技術は存在している。使っても問題無いだろう。

 

 

心配があるとすれば、また彼女に会えるかどうかだ。前世の世界だから彼女に会えていたのであって、この世界では彼女に会えない可能性がある。母の様な、姉の様なーーー俺の初恋の人だ。会えなくなる事を寂しく感じる。タナカから頼まれた事を終わらせたら、彼女の事を探してみるのもありかもしれない。

 

 

身体能力には不安を感じるが、成長すれば解決すると判断してタナカから貰ったデバイスの確認もする。この世界における魔法使いの杖の役割を果たすデバイスは黄色の首飾りを模していた。黄色という色から前世でどハマりしていたクトゥルフTRPGを連想してしまい、名前の登録の際に思わずハスターにしてしまった。それが原因なのかバリアジャケットは真っ黄色のトレンチコートになっていた。解除した時に手足が無事か心配になったが、しっかりと骨は残っていた。これに蒼白い仮面を被って悪役を務めよう。

 

 

ハスターから話を聞いたのだが、彼女ーーーどうやらAIの性別は女性らしいーーーは俺の事情を認知しているとの事。その上で俺を絶対に裏切らないと、何があっても側に居てくれると約束してくれた。最悪1人でやり切る事を覚悟していたのでハスターのその申し出は嬉しかった。

 

 

そしてハスターとこの世界の魔法についてのアレコレを話し合って夜の9時に寝る事にした。寝る時間が早いかもしれないが、これも180センチの身長を手に入れる為だ。寝れる時に寝る。

 

 

●月×日

 

何であんたがそんな所にそんな状態でいるのさ……ッ!!

 

 

(ここから先はグチャグチャになっていて読む事が出来ない)

 

 

 






Q.結局こいつって何なの?

A.悪神側に頼まれて悪役を演じる転生者。オリ主が善に突っ切った結果、善悪のバランスが崩れる可能性があり、それを防ぐために送り込まれた。前世でも似たような事をやっていたので躊躇いは無く、それでいて善悪のバランスを崩さないように気を使うのでその内胃薬とお友達になる。

一応こいつは型月の魔術使い。前世では魔術なんて存在しなかったはずなのに、夢の中で出会ったユルフワ系の女性に教えられて使えるようになっている。前世では架空の存在とされていたので使うことは控えていたけど、こっちじゃ自重しない。

それにしてもこいつの師匠は一体誰なんだ……


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