道化の名は必要悪   作:鎌鼬

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first time・3

 

 

「ふぁ〜……」

 

 

ジュエルシードがばら撒かれた翌日、俺の所属しているクラスの自分の席で机に上半身を預けながら大欠伸をする。疲れが取れていないせいで眠たくて仕方がない。原因が肉体的なものではなくて精神的なものなので、授業が始まるまで寝たところで気休めにもなりはしないだろう。

 

 

「起きてからずっと眠たそうね、両夜。昨日は寝れなかったの?」

 

「寝る事には寝たんだが……何というか、寝たのに寝てない感じで疲れてる」

 

 

俺の前の席に座る愛歌にも心配されてしまう始末だ。前世では弱みを見せれば付け込まれるような環境で育ってきたので人前では弱っている姿を見せる事はなかったのだが、今世では環境が優しいからなのかつい無警戒になって見せてしまう。前世のあの環境で育っていた当時の俺が見れば驚くかもしれないが、個人的には良い傾向の腑抜け方だと思う。あの時は周りが敵だらけだったから弱い姿を見せてはいけなかったが、今ではこんな姿を見せても誰も付け込もうとしないのだから。

 

 

昨晩、ジュエルシードがばら撒かれて原作がスタートする用意が整った。本来ならばユーノ・スクライアがあの時点でジュエルシードによって作られた生命体によって負けてフェレットになるのだが、黒須の介入により無事に倒したのだ。それを見ながら、開幕から原作ブレイクとはやってくれたなと大笑いしつつ、山に落ちたジュエルシードを回収した。そして家に帰って冷静になったところでことの重大さに気がついてしまったのだ。

 

 

ユーノ・スクライアが無事という事は、高町なのはとの接触の機会が失われるという事である……つまり、タイトルにもなっている魔法少女が誕生しないのだ。

 

 

これは不味い。原作ではあのスタートで様々な経験を積んで成長した彼女だったからこそ超えられた困難がいくつもあった。魔法少女になる時期がズレて成長に原作と誤差が出てしまえば、原作では超えられた困難も超えられなくなってしまう可能性がある。

 

 

他の転生者たちは恐らくこの原作ブレイクに気が付いていない筈だ。昨日、黒須とユーノの共闘を観ながら周囲に監視の目が無いか確認したのだが、誰も観ていなかったのだ。俺の索敵をやり過ごしていた可能性もあるにはある。しかし、転生してから今日まで転生者の存在を捕捉して監視してきたのだが、黒須以外だれ一人として修行らしい修行を行っていなかったのだ。そんな奴らが俺の索敵をやり過ごせたとは到底思えない。

 

 

原作が始まるまで、どういう形で介入したら悪役(おれ)という存在を際立たせながら出来るだけ被害を抑えられるのか考えてきた。しかし、それはどれもが高町なのはが魔法少女として覚醒することが前提条件だ。油断していたと言われても仕方がないのだが、タイトル詐欺なんて流石の俺も予想出来なかった。

 

 

「……何か考え事?」

 

「あぁ」

 

「それって私に話せない事なの?」

 

「あぁ」

 

「両夜って本当にズルいわね……何を隠しているのか教えてくれないくせに、隠しているって事は簡単に教えてくれるんだから」

 

 

転生者ではない愛歌にこんな事を話せるはずが無い。だから俺の悩みを明かせずに困ったような顔をさせてしまった。仮に沙条さんが今の愛歌を見れば、いつぞやの様に包丁を両手に持ったマーダー沙条さんとの猟奇的な鬼ごっこが再開される事になるだろう。

 

 

だけと、愛歌はそれ以上踏み込んで来なかった。俺の隠し事に彼女を巻き込みたくないのだと察してくれているから。力になれない事を口惜しみながらも、俺の意思を尊重してくれている。

 

 

「力になって欲しかったらいつでも言ってね?このパーフェクト愛歌ちゃんがいつでも力になってあげるから」

 

「そんな事にならないで欲しいけど……そうする以外になかったらそうさせてもらうわ」

 

 

それで満足してくれたのか、愛歌は俺の頭を撫でてきた。優しく労わる様に、幼くて暖かな手で撫でてくれる。彼女の顔はまるで母親が子供に向ける様な慈愛に満ちた表情になっていた。そんな顔を見れば、彼女の手を振り払うという選択肢なんて選べるはずが無く、彼女の思うままにさせておくしかない。

 

 

「ーーー(オレ)が来た!!」

『おはようございまーす』

 

 

そんな中で教室の入り口が力一杯開かれて桜木がやって来た。相変わらずの内面と外面の温度差に笑いそうになってしまう。

 

 

「お、桜木じゃん。おはよー」

 

「おはよう、桜木君」

 

「我様!!我様!!我様!!」

 

 

一歩間違えれば頭のヤベー奴の様に思える挨拶と共にやって来た桜木だが、クラスメイトたちは当然の様に挨拶を返すだけだった。実はこのクラス、学年が上がった事による入れ替わりが殆ど存在せずに一年生の時とほぼ同じ顔ぶれで固定されているのだ。なので桜木のあの発言にもすでに慣れてしまい、〝言葉は乱暴だが実は良い奴〟的なイメージを持たれている。一年生の頃は一々俺が間に入って桜木の言葉を通訳してやらなきゃいけなかったのが懐かしい。

 

 

そして桜木が来たという事はもうそろそろホームルームの時間になるという事。少しだけ名残惜しそうな顔をして、愛歌は自分の席へと向かっていった。

 

 

彼女の手が頭から離れる時、少しだけ寂しいなと感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、高町なのは魔法少女化計画を始めまーす」

 

『なんか頭のおかしい計画立てましたね』

 

 

学校が終わって深夜と呼ぶにはまだ早い時間帯。ヴィマーナの上で今夜やるべき事を告げると桜木から頭のヤベー奴を見るような目で見られてしまった。

 

 

安心してくれ、俺もやばい事を言っているという自覚はある。だけどそうしなきゃならんのだ。

 

 

「自分でも頭のおかしい計画立てたって自覚してるけどさ、桜木だって分かるだろ?このまま進められるとやばいって」

 

『まぁ……確かにそうですけど』

 

 

俺と桜木を始めとした転生者たちが持っているであろう原作知識は、全て高町なのはが魔法少女になる事が前提条件となっている。このまま黒須がユーノとジュエルシードを集めて、原作の様に進まなかったら何が起こるのか分からないのだ。21個もあって、その内のたった一つでも地球を滅ぼせる危険性を秘めている。なら原作通りに進ませる事でその危険性を排除したいと考えるのは当たり前のことだ。

 

 

『でも、加賀美さんには士郎さんが憑いているんですよね?娘を危険な目に合わせるのをあの人が許しそうに無いんですけど』

 

「そういうと思って、捕獲した高町士郎がこちらになります」

 

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!離せ!!離せェェェェェェェッ!!なのは!!なのはぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

『うわぁ……空中に浮かんだお札が暴れまわってる』

 

 

士郎さんの姿を視認できる俺からすれば、今の彼は全身にお札を貼られて身動きが取れずにまな板の上で暴れまわる魚の様に見える。しかし霊体が見えない桜木には言った通りにお札が暴れ回っている様にしか見えないのだろう。

 

 

「ちゃんと事情は説明したんだけど、土壇場になってごねられてね。必要な処置だよ」

 

『目の前の光景がホラーなんですけど……でも魔法少女化計画ってどうするんですか?』

 

「捻った事はしないさ。始まりと同じ様に高町なのはとユーノ・スクライアを会わせるだけだ」

 

 

ただし、と付け加えながら海鳴市に設置していた監視用の魔力スフィアから送られてくる映像を空中に投影する。その内の一つには黒須とフェレットになっているユーノが町を探索している姿が、一つには結界も張らずに戦っている赤髪と銀髪の2人の少年の姿が、一つには人気の無い町を徘徊している不定形のジュエルシードの魔力生命体の姿が映し出されていた。

 

 

「赤髪と銀髪の2人に黒須をぶつけてユーノから離し、その後でユーノをジュエルシードとぶつかる。ユーノが負けそうになったタイミングで高町なのはがやって来てくれればベストだな」

 

『要するに原作と同じ流れで魔法少女にさせようとしていると』

 

「その通り。無論、ここで死なれたら困るので最低限のサポートは陰ながらにするつもりだ。それを予め教えてあるのに……」

 

『なのは!!なのは!!なのはぁーーーッ!!』

 

「このザマだよ」

 

『お札がブレイクダンス踊ってる様にしか見えない……』

 

 

是非ともその光景を見てみたかったのだが、生憎と俺からの視点では士郎さんが高町なのはの名前を叫びながらぐるぐる回っている姿しか見えない。

 

 

この作戦が危険だと理解しているので俺たちの存在がバレない限りのサポートをすると約束したのだが、やはりそこは親というべきなのか、土壇場になってこうしてごねられてしまった。これを士郎さんのわがままだと非難するのは容易いが、彼の心境を思えば強くいう事は出来ない。精々のたうち回っている姿を白い目で見るくらいである。

 

 

『でもどうやって彼女を外に出すんですか?原作じゃあユーノが念話を無差別に飛ばす事でなのはに助けを求めてましたけど』

 

「同じ事をやれば良いだけだ」

 

 

あ〜、と喉の調子を整え、声の質を出来る限り少女の物に近づける。前世で習得した声帯模写がここに来て役に立った。子供の身体でまだ変声期を迎えていない事もあって、余程耳が良くなければバレないであろう程の完成度になる。そして魔力スフィアの一つで家で机に向かって勉強している高町なのはの映像を映し出し、ハスターに指示を出して念話を高町なのはに飛ばす。

 

 

「誰か……誰か、聞こえますか……」

 

『にゃあ!?な、何!?何なの!?』

 

「今、私は貴女の心に語りかけています……誰か、誰か助けて下さい……私はここに居ます……誰か、助けて……」

 

 

掠れるような、弱々しい声で語りかけながら念話技術を応用して彼女に幾つかの画像を送る。そこはジュエルシードの魔力生命体の通るルート。この街に住む者ならば位置の特定など容易いだろう。念話を終えると映像に映る高町なのはは今の声が夢なのかどうか迷っていたが、すぐに弾かれたようにして家から飛び出していった。

 

 

そして次は黒須の方だが、こちらは簡単だ。さっきまで黒須たちと離れた場所でぶつかっていたはずの赤髪の少年と銀髪の少年が、同じ画面に黒須と一緒に映し出されている。

 

 

拠点となる場所を放置出来るほど、俺は豪胆ではない。すでに海鳴市を覆うようにして魔術で結界を張っているのだ。誰を通さないとかの特殊な効果は一切持たない、内部は俺の領域だと示すためだけの結界。スペシャリストである坊主と比べればお粗末な物になるが、それでもこの領域内ならばある程度俺の好き勝手に出来る。赤髪と銀髪の2人のいた場所に暗示をかけて、無意識のうちに黒須たちのいる場所に移動する様にしていたのだ。本人たちはそれに気づかず、自分たちの意思でそこに行ったと思っている筈だ。

 

 

そして2人はユーノを連れて歩いている黒須に向かって何かを叫んで攻撃を始める。それに対して黒須はデバイスを展開して軍服のようなバリアジャケットと長剣を装備し、ここは自分が引き受けると言ってユーノにジュエルシードの探索を続けさせた。

 

 

「ざっとこんなものよ」

 

『うわぁ……えげつないくらいに綺麗に嵌りましたね』

 

「事前に調べててあいつらの性格とか分かってるからな。それを踏まえればこの程度の事なんて誰にだって出来るさ」

 

『そうだとしても、それを行動に移してキチンと実現させるのは凄いと思いますけどね』

 

 

黒須が赤髪と銀髪の2人と戦闘を始め、しばらく経ってからユーノがジュエルシードの魔力生命体と遭遇して戦闘を始める。

 

 

フェレットの姿から人間の姿になったユーノが拘束魔法で捉えて封印しようとするが、ジュエルシードはそれを力技で抜け出す。基本的に封印するのならば弱らせなければならない。だがユーノは攻撃が苦手らしく、拘束は何度も成功させるものの封印まで持っていく事が出来ないでいた。

 

 

ジュエルシードを封印する事が出来ず、逆に攻撃されてドンドン追い詰められていくユーノ。そしてーーーそんな彼の目の前に高町なのはが現れた。

 

 

そこから先は俺が覚えていた原作通りの流れだったと思う。高町なのはの潜在的な魔力に気がついたユーノがデバイスを彼女に渡して魔法少女リリカルなのはの爆誕。魔力のゴリ押しでジュエルシードの封印を成功させた。

 

 

そして2人の相手を終えた黒須と合流し、周囲の被害を確認してサイレンの音を聞いてその場から逃げ出した。2人はどうなったかと思えば、気絶して道路の端に置かれていた。加減されていたようで怪我をしているようには見えない。その内眼を覚ますだろう。

 

 

「一応は目的通りの展開にはなってくれたな。これで高町なのははリリカルな魔法少女としてバンバン砲撃を撃ってトラウマを量産してくれるに違いない」

 

『そんな事よりも士郎さんの顔がヤバいことになってるんですけど……』

 

 

それは理解している。だから俺は頑なに士郎さんの方を向こうとはしていなかった。

 

 

『まぁ、僕にとって重要なのはここから何ですけどね』

 

「何かあったか?」

 

『一つだけアドバイスを。加賀美さん……()()()()()()()()()

 

 

そう言って桜木はヴィマーナをしまった。足場にしていた物が無くなったことにより、俺はそのまま自由落下を始める。桜木は再びヴィマーナを出してそれに乗り、士郎さんの事も札の存在で場所を把握していたのか一緒に乗せていた。

 

 

つまり、俺1人だけが落下する事になる。

 

 

「桜木ィッ!!」

 

 

このままでは数秒後には地面に激突して愉快なオブジェクトにジョブチェンジを果たしてしまう。なのでハスターに浮遊魔法を使わせる事で速度を落とし、ゆっくりと着地する事にした。降りた場所は神社の境内、元々が無人なのか人の気配は感じられず、さっきの光景を見られたということはなさそうだ。

 

 

桜木の行動を裏切りかと考えたが、最期の言葉と桜木のなにかを見定める様な視線から違うと結論付けて溜息をつく。

 

 

彼が何を考えているのか分からない。しかし、()()()()()()()()()()()()()

 

 

何か来るのかと身構えていると、コツコツと階段を登る足音が聞こえて来た。一歩一歩の間は大きく空いていたが、足音の軽さから子供のそれだと判断出来た。

 

 

誰が来るのかと警戒していると現れたのはーーー

 

 

「……愛歌?」

 

 

ーーー翠色のドレスのような洋服を着た愛歌だった。

 

 

 






魔王様が魔王様にならない事で生じる誤差を修正するために、魔王様じゃなかった魔王様を無理やり魔王様にしていくスタイル。これでちゃんと魔砲少女リリカル魔王様は誕生したぞ!!

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