道化の名は必要悪   作:鎌鼬

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first time・4

 

 

予想もしていなかった愛歌の登場を妙だと警戒する。沙条の家からこの神社まではそこそこの距離離れていて、気軽に来ようと思うような場所ではない。しかも今の時間帯ならば、家には沙条さんが間違いなくいるはず。彼が溺愛している愛歌の深夜徘徊を簡単に認めるとは思わなかった。彼女が沙条さんの目を盗んで家から出たまでなら分かるが、それならば何故この神社に来ているのかと疑問に思う。

 

 

「どうしたんだ愛歌、こんなところに来て」

 

 

警戒を解かずに、それでいてそれは俺も同じだと思う言葉を愛歌にかける。幸いな事に俺のバリアジャケットは黄色いコートで仮面を付けていないので誤魔化す事が出来る。彼女からここにいるわけを聞き、家に帰そうと考えていた。

 

 

愛歌は幼馴染で、数少ない大切な人だ。前世ではそう言える人間はたった2人しか思いつかなかったが、彼女がそのカテゴリーに入っている人間だと胸を張って言える。だから非日常的な光景が平然と広がっているこの場所にいて欲しくなかった。日常で楽しそうに笑う彼女に、こちらの世界に来て欲しく無かったから。

 

 

だが、現実は非情であった。

 

 

「りょう、や……」

 

 

掠れた声で俺の名前を呼び、俯かせていた顔を上げて表情を露わにする。愛歌の両目からは涙が流れていて、洋服のデザインで露出していた胸元には()()()()()()ーーージュエルシードが埋め込まれていた。

 

 

「たすけ、てぇ……」

 

 

そして懇願を求める声と共に、彼女の影が蠢いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たまには夜の散歩も悪くはないわね」

 

 

時間が少し巻き戻る。加賀美と桜木が黒須の行動によって魔法少女にならなかった高町なのはを魔法少女にしようとしていた頃、沙条愛歌は家から出て夜の街を歩いていた。その行動にこれといった理由は無い。ただ、偶々夜の街を歩きたくなり、それを実行しただけの話だ。

 

 

父親の目は厳しかった物の、他の同世代の子供と比較して優秀である彼女にとってその目を盗んで外に出る事は不可能なことでは無かった。授業で疲れたから早く寝ると言って部屋に戻り、適当な荷物を自分の代わりにベッドに入れて身代わりにした。良く観察すれば即座にバレそうなお粗末なものではあったが、彼女の父親は娘である愛歌のことを溺愛している。疲れている事に気を遣って部屋に入るどころか近づきもしないと予想出来るのでバレる心配は無かった。

 

 

太陽が落ちた事で冷えた空気の中、夜の街並みを堪能しながらお気に入りの翠色のドレスを着て愛歌は鼻歌交じりに歩く。少し前までは夜は何か恐ろしいものが潜んでいるのではと考えて怖い時間だったが、ある日を境にして怖さを感じなくなったのだ。

 

 

その日とは加賀美と出会った次の日の事。好奇心の赴くままに行動した結果、図書館まで来てしまい帰り方が分からなくなって泣いていた自分の事を加賀美は助けてくれたのだ。今の自分がその時の自分を見れば何をやっているのかと呆れるが、同時に良くやったとサムズアップをするだろう。

 

 

用事があってここまで来たはずなのに泣いている自分の事を心配して家まで送ってくれたのだ。知らない事で生じる怖さを感じさせないようにと自分の事を気遣いながら、はぐれないようにと言って手を握ってくれながら、優しく、優しく、大切に接してくれた。

 

 

それで彼女は恋に落ちた。単純だと思うかもしれないが、幼かった当時の彼女はそんな単純な事で加賀美両夜という少年の事を好きになったのだ。

 

 

まるで絵本に登場する王子様のようだと思った。顔は誰もが恋をするような甘いマスクなどでは無く、目付きの悪い顔付きだが、その日から愛歌にとって加賀美は彼女の王子様になった。

 

 

彼と過ごす日々は楽しかった。まだ詳しくないだろうと街の案内をすると言われて2人で出かけた時は心臓が爆発するのではないかと思ってしまうほどに緊張した。

 

 

彼の友人だと言われて桜木累という少年を紹介された時には少しばかり嫉妬してしまったが変わった話し方をする彼に毒気を抜かれてしまい、今では友人の1人だと言えるほどに親しくなっている。流石に加賀美程に彼の言葉の真意を理解する事は出来ないのだが。

 

 

今が楽しいと、幸せなのだと間違いなく胸を張って言うことができる。しかし、だからこそ学校での加賀美との会話に少しばかり苛立ちを感じてしまった。

 

 

「両夜ったら、隠してる事は教えてくれるのに何を隠しているのか教えてくれないのよね」

 

 

それは加賀美の隠し事。これまでの付き合いから彼は後ろめたい事があるから隠しているのではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()のだと理解している。

 

 

大切に思われているのは理解している。だからこそ、その隠し事がなんなのか聞くことが出来ず、隠されている事に苛立ちを感じていた。

 

 

まるで自分では、彼の隣に居られないのだと言われているような気がしたから。

 

 

普段はしない夜の散歩をしたのには気分転換がしたかったからという理由がある。普段とは違った景色を見ていれば、少しはこの苛立ちが治るのではないかと期待したのだ。

 

 

「完全にこれって私のアレよね……」

 

 

自身の行動を省みて、適切な言葉が出てこずにあーうー言いながらその場で頭を抱える。分かっている、分かっているのだ。この苛立ちが間違っている感情である事など。

 

 

加賀美がどうして自分に隠し事をしているのか、聡明な彼女はその理由を理解していた。それは、知れば巻き込まれるから。自分を守る為にそれを隠す事で、巻き込まれないようにそれから遠ざけているのだ。

 

 

「嬉しいのは嬉しいのだけど……私ってそんなに頼り甲斐が無いのかしら……」

 

 

自身のスペックを優秀だと理解している彼女からすれば加賀美の行動は嬉しさを感じるのと同時に歯痒さを覚えてしまうものだった。優秀である、それだけではダメな出来事に遭遇している。一番近しい自分に頼る事なく、たった1人でそれに立ち向かっている。

 

 

「うぅん……よし、明日になったら聞きましょう」

 

 

どうしたらいいのかとその場で考えても答えが出ず、どうしていいのか分からなくなってしまった彼女はその場で深呼吸して()()()()()()()()。それは思考を放棄した訳ではなく、答えが出ない問題をいくら考えてもしょうがないという合理的な判断だった。

 

 

うだうだと考えても答えは出ない。だからと言って考えなくても気になって仕方がない。なので、愛歌は直接加賀美に何を隠しているのかと聞く事にした。朝にはいつでも力になると待つつもりでいたがそれは止める事にする。女心と秋の空という言葉があるのだから大丈夫だと免罪符を用意しておく事を忘れない。

 

 

そうと決まれば明日に備えて早く寝ようと踵を返して家に帰ろうとした。

 

 

「……あら?何かしら」

 

 

しかし、そんな彼女の視界の端に何かが入った。気になってそれの近くに行けば、そこにあったのは()()()()()()()()()()

 

 

「宝石?落し物かしら……」

 

 

倫理観がまともな彼女はそれを見なかった事にするという選択肢は選ばずに、盗まれないように一度持って帰り、朝になってから交番に届ける事を選んだ。そしてそれを実行する為に宝石に手を伸ばしーーーその指先が宝石に触れた。

 

 

その瞬間、世界が一変した。

 

 

「ッーーー!?」

 

 

脳髄に直接情報を叩き込まれたような衝撃が彼女を襲う。咄嗟に宝石から手を引こうとするものの身体は意思に反して離れようとはせず、それどころか宝石を離さないようにと力一杯に握り締める。

 

 

「ぁーーー」

 

 

彼女の脳内にとある映像が流れ込む。それはとある世界の1人の青年と1人の少女の姿。金髪で凛々しい顔付きの青年はまるで絵本に登場する白馬の王子様のよう。少女の方は多少成長しているものの、まるで()()()()()()()()()。見えない何かを手にして戦う青年とその後ろに立つ少女は、2人の風貌も相まって王子様とお姫様にしか見えなかった。

 

 

それだけでは終わらない。

 

 

続けて流れ込んできたのは少女の感情。少女が戦う青年へと向けるーーー狂愛だった。彼が好き、彼が大好き、彼を愛している……だから、何でもしてあげると。愛している青年の為に、青年の感情さえも無視して行動する……完全なサイコパスだった。

 

 

それが彼女を蝕む。ジワジワとなんていう優しいものではなく、塗り潰すかのように行われるそれはまさに汚染だった。仮に映像で見せられた彼女のように愛歌も同類(■■接続■)ならばそれに抗えたであろうが、この世界にいる沙条愛歌という少女は優秀なだけのただの人間でしか無かった。

 

 

「ァ……ぁァ……嫌……いやぁ……!?」

 

 

自分が自分では無くなる、そんな体験した事のない恐怖を感じながら愛歌は自由が失われていく身体を必死になって動かした。その頃には手にしていたはずの宝石は胸元に埋め込まれて怪しく輝いていた。このままでは自分が自分に良く似た怪物になってしまうと分かったから。助けを求めて、彼の元へと向かった。危機的な状況に陥っていたからなのか第六感が働き、いつもならばいるはずのない場所にいる彼の元へと辿り着く事に成功した。

 

 

そこにいたのは彼女の知っている加賀美両夜ではなかった。いつものような自然体でいるが、彼から感じられる気配はどこか鋭く、不自然な行動をとれば即座に攻撃するだろうと分からされるだけの気迫を発していた。

 

 

あぁ、これが隠したかった事なのかと場違いな感想を思いながら、

 

 

「りょう、や……たすけ、てぇ……」

 

 

彼女の意識は〝彼女の王子様〟に助けを求めたところで消えた。

 

 

 






戦犯ジュエルシード。3つが纏めて暴走する事により世界に僅かな穴を開けて、近くにいた愛歌ちゃまに別の世界軸に存在してる愛歌様の記憶を強制的にインストールさせた。

記憶を打ち込まれただけで愛歌ちゃまそのものは根源には接続してないけど絶望が半端じゃない。というより記憶だけで愛歌ちゃまを汚染できる愛歌様ぇ……

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