道化の名は必要悪   作:鎌鼬

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first time・5

 

 

「ーーー始まったか」

 

 

ジュエルシードに、別の世界の自分の記憶に汚染された愛歌が加賀美と対峙した時、桜木は神社の上空にヴィマーナの玉座に腰をかけてその光景を見下ろしていた。愛歌は自身の影を触手のように扱いながら視界に入っている加賀美の事を襲い、それに対して加賀美は両手にナイフを持って触手を捌いていた。

 

 

本来の加賀美の獲物は高町士郎から教えられた日本刀か小太刀なのだが、それでは間に合わないと判断してナイフを選んだのだろう。事実その選択肢は正しかった。迫る触手は正面から、左右から、背後から、死角からと多様な角度から襲い掛かっている。仮にいつもの武器を使っていたら今頃は死んでいたに違いない。

 

 

『お札のせいで動けない……!!ねぇねぇ、桜木君。両夜君の事を助けに行かないのかい?行かないのなら行かないで、このお札を剥がしてくれると嬉しいんだけど……って、聞こえないか』

 

「貴様、姿は見えぬが(オレ)があやつの事を助けに行かぬ事を疑問に思ったな?そして助けに行かぬのならその札を剥がせとも」

 

『え、聞こえてたの?』

 

「戯けが、聞こえたわけでは無いわ。そう思った、そう考えたと仮定して話しているだけだ」

 

 

桜木には士郎の姿は見えないし、声を聞く事も出来ない。しかし、彼の心理を知っていればそう考えているだろうと推測する事は容易かった。

 

 

何故ならば、桜木の転生特典は英雄王ギルガメッシュであるから。神が人を支配していた古代の時代において、神々の支配から人間を独立させて人類史の幕開けとなった英雄の魂や思想以外の全ての能力を手にしている。〝ギルガメッシュ叙事詩〟に登場するギルガメッシュではなく、創作物の中に登場するギルガメッシュのそれではあるが、そんな彼からすれば姿が見えず、声が聞こえない程度など障害にもならずに不思議な構図にはなるが会話を成立させる事など簡単だった。

 

 

「貴様の懇願、そのどちらにも否と答えよう。(オレ)はあやつの事を助けはせぬし、その札を剥がす事もしない」

 

 

そして桜木は士郎の疑問を否と返した。

 

 

『どうして!?友達じゃないのか!?』

 

「友だから、か……確かに(オレ)はあやつの事を朋友であると認めている。だがな、こればかりは手を出す訳にはいかぬのだ。何故ならば、これは加賀美両夜という人間が乗り越えなければならない試練だからだ」

 

 

本音を言えば桜木だって今すぐにヴィマーナを地上に下ろし、加賀美の助けになりたいと考えている。しかし、桜木が与えられたギルガメッシュの肉体がそれを許さなかった。良くある二次創作のようにギルガメッシュの魂や思想などを与えられる事でそれらがギルガメッシュの物よりになる事を警戒し、混ざらないようにと排除したはずなのに肉体だけで行動を止められていた。

 

 

それに対して憤るようなことはしない。寧ろ流石は英雄王の肉体だと賞賛し、同時にこの程度の事で自由に使えるなどと考えていた己を恥じた。

 

 

『試練……?一体何の』

 

「あやつが真に悪として振る舞えるか否か、それを問う試練である」

 

 

桜木は……正確には彼の使っているギルガメッシュの肉体はこの事態を予知していた。英雄王の目は先の世でさえ見通す。それは未来視と呼ばれているものであり、英雄王の肉体を授かった桜木もまたそれを保持していたが、ネタバレなどつまらないといった理由からそれを使う事はしなかった。本来ならば生涯において使うはずの無かった未来視ーーーそれがある日、桜木の意思を無視して勝手に発動したのだ。

 

 

その時に見た光景は今眼下に広がっている通りのジュエルシードによって暴走している愛歌と加賀美が戦っている光景。そしてその先の2つの未来。

 

 

1つは愛歌が加賀美の事を殺害した未来。致命傷を負いながらもジュエルシードを封印することに成功した加賀美は愛歌を助けられたことに安堵して、しかし悪を果たせない事を悔やみながら死んでいった。そして正気に戻り、加賀美を自分の手で殺してしまった事実に発狂した愛歌に反応してジュエルシードが再び暴走。今の様な中途半端なものではなく、完璧な形でこの世界の愛歌が別の世界の愛歌と同じ〝少女の形をした万能(■■接続者)〟に成り果ててこの世界を滅ぼす。

 

 

1つは加賀美が愛歌の事を殺害した未来。他の暴走体とは比べ物にならない強さを持った愛歌のジュエルシードの封印を困難だと判断し、彼女を生かす事を諦めて殺害する事でなんとか封印を成功させる。その場合は別の未来とは違い加賀美は発狂することは無かったが、人としての生き方を捨て、己が理想を忘れて作業的に悪を成す〝悪性装置〟としか言えない存在に成り果てる。そして善神側の転生者でさえ殺し、機械的に悪を成し続け、最終的に時空管理局が管理下に置いている世界の九割を滅ぼした所で成長した桜木に殺されていた。

 

 

加賀美が死ぬか、愛歌が死ぬか。桜木の見た未来はこの2つしか無かった。未来とは不確定であり、ちょっとした出来事で簡単に変わる事を知っていたが友人である2人の死を彼は避けたかった。なので行動に移そうとしたが……それをギルガメッシュの肉体は拒んだ。

 

 

身体は完全に支配されていて、出来ることなど2人の戦いを眺める事と考えることだけ。桜木の介入によって未来を変える事は許されなかった。

 

 

『エル、僕の事を見限ってくれ。大切な友人2人が殺し合っているのに何も出来ずに見ている事しか出来ない僕の事を』

 

 

数少ない許されたことの1つである思考することにより、桜木は加賀美と共に開発した念話式のチャット機能を使って自分の左腕に巻き付いている鎖型のデバイスであるエルーーー正式名称エルキドゥに語りかける。

 

 

彼は罰して欲しかった。いくら英雄王の肉体だからとはいえ自分の身体を思うがままに動かす事が出来ずに、友人が殺し合っている光景を眺めている事しか出来ない自分を。この先にどうなるのかを知っているのに何も出来ない自分を責めて欲しかった。

 

 

『……ギル、僕の主。僕は決して君の事を見捨てたりはしないよ。例えこの先に待ち受ける未来が最悪であって、それを何もしなかったギルのせいだと誰もが罵ったとしても、僕だけは君の味方であり続ける』

 

 

AIを有しているインテリジェントデバイスであるエルキドゥは桜木の言葉に対して柔らかな声で自分の考えを告げた。自分は貴方の事を責めないと、誰もが敵になったとしても自分は貴方の味方でいると。

 

 

それは桜木にとって望んでいない言葉でありーーー同時に、同じくらいにかけて欲しい言葉でもあった。

 

 

彼が前世で死んだ時の年齢は僅かに16歳、そして転生してから生きた年月はたったの4年。合わせたところで20年しか生きておらず、特別な事情でもなければ現代の世の中で20年生きた精神は成熟していない。彼は頭では自分が悪いのだと理解していたが、感情では自分が悪くないと認めて欲しかった。精神が成熟したものでも苦悩するであろう問題、未成熟な桜木にはそれはあまりにも重たすぎた。

 

 

「さてーーー悪性を掲げた愚者に狂愛に侵された少女。貴様らの行く末、この(オレ)が見届けてやろう」

 

 

英雄王の肉体から語られる言葉は愉悦混じりであり、その表情は出し物でも見ているかの様な微笑を浮かべていた。

 

 

『どうか、この未来が訪れない様に……』

 

 

桜木は自分が見た未来が訪れない様に祈る事しか出来なかった。

 

 

『もしも、そうなったのならーーー』

 

 

その時は、自分の手で決着を着けると覚悟を決めながら。

 

 

 






愛歌ちゃま生存ルート→発狂してジュエルシードの再度暴走により接続者として完全覚醒、即座に世界崩壊エンド。

カガっち生存ルート→愛歌ちゃまを殺したことにより人間性を失って悪行を成すだけの機械にジョブチェンジ。地球は大丈夫だけど、管理世界の九割を滅ぼして桜ギル君に殺される〝悪性装置〟エンド。


桜ギル君の見た未来が絶望的過ぎる件について。どちらも語彙力を失うくらいにヤバいんだよなぁ……

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