魔術回路の起動は魔術師それぞれのイメージによる。祝詞と共にイメージするのは暗闇の中に差し込む一筋の光。俺が渇望してやまない物を思い描くと同時に全身に存在している擬似神経が唸りを上げて魔力を精製し始めた。
この世界には無い方法での魔力の精製に気が付き、脅威になると判断したのか愛歌が触手を伸ばす。手数を優先しているらしく触手は細いが数が多い。通り抜ける程の隙間も存在していない触手の壁が迫り来るが、俺はそれを微塵も恐れていない。
魔力を魔術として発動せずにそのまま放出する。それだけで俺を中心として突風が吹き荒れ、迫る触手を吹き飛ばした。
俺の属性は風と水だとマーリンは言っていた。適性があるのはそちらの方面の魔術だと言い、夢の中ではその2つの属性について教えられていた。その為なのか、この世界ではスキルと呼ばれている能力の魔力変換資質としても現れている。
触手が吹き飛ばされた事による一瞬の硬直の隙を突き、その場から逃げ出す。すぐに立ち直って今度は複数の触手を束ねて太さを持たせてきた。試しに魔力を放出して吹き飛ばそうとしたが質量が増している為に僅かに鈍くなった程度で済まされてしまう。
「付属、収束ーーー」
ならばと、手にしたナイフに風を纏わせて振り抜く。予想としてはさっきまでのように弾くのでは無いかと考えていたが、結果として触手を斬り払う事が出来た。ナイフを見ても触手の悪性情報に汚染されている気配は見られず、斬り払われた触手は霧散して消えて無くなる。
そして背中に走る寒気に従い、その場から飛びのこうとするが間に合わないと悟る。なので起源である〝干渉〟を用いて周辺の大気に干渉し、背後から強風を吹かせてそれに乗ってその場から逃げ出す。
するとその一瞬後に地中から触手が飛び出してきた。先端は鏃の様に尖っていて、咄嗟に投げ出さなかったら今頃は串刺しになっていただろう。
「……調子が良すぎるな」
魔術師として魔術を使うのはこれが初めてでは無い。今日までにどんな事が出来るのか、戦闘で使えるのか、どんな使い方が効率的なのかを考えて何度も使用している。その中には今の様な使い方も含まれていて、使った事もあるのだが、明らかに使用する魔力の量が減っていた。今までがコップ一杯分の量を使っていたとしたら、今では小瓶1つ分程度。魔力の効率が良くなり過ぎている。
風を使っている、そう考えれば原因と思わしき存在はすぐに分かった。恐らく、邪神ハスターが与えると言っていた風の加護とやらだろう。旧支配者で邪神というカテゴリーなのだから、もっと扱いに困る様な物を渡されていると思っていた。
ありがとうハスター様。お礼として作ったハスター擬人化の触手同人誌は封印します。
『ーーー……!!ーーー!!ーーー……』
遠く空の彼方から邪神ハスターが全力で叫んでいる様な気配を感じ取ったが無視し、迫り来る触手を吹き飛ばし、斬り払い、あるいは躱す。ナイフも、俺の魔力も悪性情報に触れ続けているが汚染されている気配は無い。試しに魔術で大気圧を使って触手の1つを拘束してみたのだが、その魔術はそのまま触手を拘束し続けていた。
それを見て確信する。この触手に魔術が有効だと。
考えてみればおかしな話では無い。この世界の魔法は科学技術の発達によってもたらされているもので、プログラムを通して発動している。そこに悪性情報が入ってしまえばプログラムは正常に作動せずに、魔法は発動出来ず、展開させ続ける事も出来ない。
しかし魔術は違う。マーリンからの説明では魔術とはその文明の力で再現出来る奇跡であると教えられている。火を出したければライターを使えば良い。風を起こしたければ扇風機を使えば良い。氷が欲しければ冷蔵庫を使えば良い。極論を言えば魔術なんてすべて科学技術で代用出来るのだ。しかし、その結果はすべて神秘を通して齎されている。この世界の魔法しか知らないジュエルシードからしてみれば、俺の使う魔術は未知の領域なのだ。長く使えばいずれは理解されて同じように汚染されるだろうが、短期決戦のつもりで使えば問題無い。
俺に届かない事に苛立ちを覚えたのか、触手の動きが大雑把になりつつあった。最初では無かったはずの触手と触手との間に人一人分の隙間が見える。
それを好機と捉えて地を蹴る。そのままの加速ならば絡め取られそうだから、風を追い風として用いる事で強引にトップスピードまで持って行く。迫り来る触手を吹き飛ばし、斬り払いながら、愛歌の眼前に辿り着く。
「ッーーー」
そして全身に痛みが走った。愛歌の足元にあった影が細く鋭い針となって身体を貫いたのだ。接近を成功させた事によって出来る気持ちの緩みを利用したカウンター。風を乗り越え、ハスターのアンチプログラムも解析されたのか無効化されていた。咄嗟に身体を捻る事で臓器へのダメージは避けれた。
問題はここからだ。
身体の中に入った針から悪性情報が送り込まれる。それは毒というよりも呪詛に近い。悪意、殺意、憎悪、嫌悪、嫉妬……人間が持っている負の感情を寄せ集めて煮詰めて濃くしたような物が垂れ流されている。
それはあくまで情報だけであり、明確な自我や知性を持っているわけではない。ただ、役割として侵し、穢し、冒涜してありとあらゆる存在を殺そうとしている
死ね。
死ね。
死ね。
死ね。
死ね。
死ね。
死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。
始まりの刑罰は五種。
生命刑、身体刑、自由刑、名誉刑、財産刑、様々な罪と泥と闇と悪意が回り周り続ける 刑罰を与えよ。
『断首、追放、去勢による人権排除』『肉体を呵責し嗜虐する事の溜飲降下』『名誉栄誉を没収する群体総意による抹殺』『資産財産を凍結する 我欲と裁決による嘲笑』死刑懲役禁固拘留罰金科料、私怨による罪、私欲による罪、無意識を被る罪、自意識を謳う罪、内乱、勧誘、詐称、窃盗、 強盗、誘拐、自傷、強姦、放火、爆破、侵害、過失致死、集団暴力、業務致死、過信による事故、 護身による事故、隠蔽。
益を得る為に犯す。
己を得る為に犯す。
愛を得る為に犯す。
得を得る為に犯す。
自分の為に■す。
窃盗罪横領罪詐欺罪隠蔽罪殺人罪器物犯罪犯罪犯罪私怨による攻撃攻撃 攻撃攻撃攻撃汚い汚い汚い汚いおまえは汚い償え 償え償え償え償え償えあらゆる暴力あらゆる罪状 あらゆる被害者から償え。
『この世は、人でない人に支配されている』 罪を正すための良心を知れ罪を正すための刑罰を知れ。
人の良性は此処にあり、余りにも多く有り触れるが故にその総量に気付かない。
罪を隠す為の暴力を知れ。
罪を隠す為の権力を知れ。
人の悪性は此処にあり、余りにも少なく有り辛いが故 に、その存在が浮き彫りになる。
百の良性と一の悪性。
バランスをとる為に悪性は強く輝き有象無象の良性と拮抗する為兄弟で凶悪な『悪』として 君臨する。
故に死ね。
死ね。
死ね。
死ね。
死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
叩きつけられ、吐き捨てられ、流し込まれる呪詛をたった一言で斬り捨てる。悪性情報などと言われていたからどんな物なのかと期待していた分だけ落胆してしまう。
「仮にも絶対悪を自称させてもらっている身から言わせて貰えば、
この程度の呪いならば拒む必要も無いーーー
「ぁーーー……」
愛歌を蝕んでいる悪性情報が減ったからなのか、彼女の目に僅かに光が戻った。まだ自我ははっきりとしていないようで言葉は出せていないが、俺の身体に付いた傷を見て悲痛そうに目を見開いている。
だから、俺は愛歌を抱き締めた。傷を見せないように、悲しんでいる彼女を慰めるために、ジュエルシードに囚われている彼女を守る為に。
「愛歌、すぐに助けてやる。だから、もう少しだけ我慢してくれ」
優しく、安心させる声色を作って愛歌の耳元で囁く。自我がはっきりとしていない今では返事は期待していなかったが、それでも彼女は僅かに首を縦に振って肯定してくれた。
待っている、だから助けてと、聞こえないはずの声が聞こえた。
囚われた彼女を救うべく行動に移す。キーワードを呟くと共に暴風が吹き荒れ、俺の起源が大気へと干渉して気象を操作。上空に巨大な積乱雲を発生させる。轟く雷鳴が鼓膜を打つ。本来ならば遠くの敵を一方的に攻撃する為の物であって自爆用の技では無い。それに元よりも明らかに規模が大きくなっていた。
ハスター、やっぱりお前の擬人化の触手同人誌ばら撒くわ。
「ハスター」
『非殺傷設定、正常に作動中。いけます』
これから来るであろう衝撃に備えて歯を食い縛り、万が一に備えて愛歌を傷付けない為にさらに強く抱きしめる。
そして、最後の詠唱と共に神罰は降り注いだ。
仮にも絶対悪を名乗ってる悪役だもの、悪性情報くらい注ぎ込まれたとしても平然と飲み干せてないとね。
風……雷……級長津祀雷命……レッツ超新星したい……