「はぁ……」
空を見上げてため息を吐きながら同時に煙を吐き出す。視界に映る空は泣きたくなるほどな真っ青の晴天。しかし視線を下に向ければ薄汚れ、倒壊しかけている廃墟が目に入る。人が住み着かなくなった、手入れがされなくなった、建設の途中で放棄された、純粋に年月が経って落下している、などなどの様々な理由で廃墟と化しているのだが、空が晴天である事を除けば前世の生まれ育ったあの場所を思い出すので個人的には好ましく思っている。まともじゃ無い事を自覚している俺からしてもあの場所は中指を立てたくなるほどに劣悪な環境であったが故郷である事には変わりない。帰りたいとは考えないが、ふとした拍子に懐かしく思うのだ。
タバコがフィルターまで燃えたところで吸い殻を投げ捨て、地面に鼻血を流しながら転がっている男に視線を向ける。折れた鼻を押さえながら男は必死に後退りして逃げようとするのだが、すぐ背中が廃墟にぶつかってしまって逃げられない。
「なぁ、俺は言ったよな?聞きたいことがあるって。それなのに返事が銃を武装したチンピラ5人ってどういう事なのさ?ちょっと理解が出来ないから教えてくれない?」
桜木や愛歌に向ける笑みとは違う、攻撃的な意味合いを含めた笑みを男に向ければヒィッと、情けない声を上げる。男の周りで惨殺されているチンピラたち、自分もこうなるのでは無いかと危惧して怯えているのだろう。
「こ、ここら辺のボスがお前に懸賞金かけてんだよ!!生死問わずで!!」
「すっごい分かりやすい説明ありがとう」
命を狙われた理由を簡単に説明してくれた事のお礼として腰から銃型のデバイスを引き抜く。ハスターとは違ってこのデバイスにはAIが入っていない。偶々壊れていたのを見つけて修理して使っているのだ。
そして引き金を引く。音もなく銃身から薬莢が吐き出されて男は額に穴を開けて動かなくなる。死んだ事を確認して、さらに引き金を引く。装填しているだけの弾丸を全て撃ち、男の顔が穴だらけになって判別がつかなくなったところで一言、
「悪くはないけど音がないのは寂しいな」
『隠密性を重視するのならばそちらの方がよろしいのでは?』
「そうなんだけどさぁ、銃ってこう、撃ったときの反動と音が欲しいわけよ。サイレンサーの有用性は理解しているけど、音がないのは気に食わん。ただの好みの問題だ」
人間を6人殺しておいて出たのはそんな感想だけだった。今更人を殺してウジウジするような貧弱メンタルなんてしていない。前世では手段を問わずに何人も殺して来ている。初めて殺したのは、確か四、五歳くらいの時だったか。子供だった俺をショタ専門のホモ野郎に売りつけようとしていた奴を近くに落ちていたガラスの破片で殺したのが初めてだった。
試運転を終わらせて新たなマガジンを入れた銃型のデバイスをガンアクションで遊んでから腰のホルダーに叩き込む。ハスターがあるのに他のデバイスに手を出すのはどうかと思うかもしれないが、このデバイスとハスターとでは役割が違う。
ハスターは俺のサポートに重視している。魔法の解析や俺が魔法を使用する際の補助、周囲の索敵に隠蔽とサポーターとしての働きは100点中120点を出す程の性能を誇るのだが攻撃性が無い。もっと言えば、黒須のデバイスのように武器にはならないのだ。だからこそ、このデバイスにはハスターには無い攻撃性を重視している。
魔力を弾丸として撃ち出す事は当たり前で砲撃魔法も熟せ、時空管理局が質量兵器として忌避している
『どうやらこの顔は狙われているようですね。変えますか?』
「ついでにバリアジャケットも色だけで良いから変えてくれ。ハスターに任せる」
『了解しました』
地球で愛歌に勧められて買った中折れ帽子のズレを調整しながら指示を出せば、すぐにバリアジャケットの色が黄色から黒に変わり、下に着ていた服も質の良いダークグレーのスーツに変わっていた。手鏡で顔を見れば前よりも中性的な物に変わっていて、じっくりと観察されたらバレるかもしれないが一見では気づかれないだろう。
「やれやれ、先は長そうだ」
前よりも若干高くなった声でそう呟きながら路地裏から外に出る。探している人の手掛かりを掴めるとは思えないが行動するしか無いと気合を入れ直し、もう一度、
愛歌に憑いたジュエルシードの暴走は無事に止める事ができた。非殺傷設定とはいえども戦略級を目的とした魔術を使った事で俺も愛歌も気絶してしまったが、上で見物していた桜木がジュエルシードの封印処理をした上で俺たちを連れて帰ってくれた。なんでも桜木は愛歌がジュエルシードに憑かれる未来を見ていたので止めようとしたのだが、身体がそれを許さなかったらしい。チャット画面が処理落ちする程に謝られたので一発殴るだけで済ませる事にした。
問題はそこからだった。桜木が言うには愛歌に憑いていたジュエルシードに魔力は殆ど残っていなかったらしい。即座に愛歌の身体を解析すれば、無くなったジュエルシードの魔力全てが愛歌の身体に宿っていたのだ。この世界の魔導師のようにリンカーコアがあるわけでもなく、俺の様な魔術師の様に魔術回路を宿しているわけでもない。愛歌の身体そのものが魔力を宿し、さらには魔力を生成していたのだ。
それを知って俺がとった行動は愛歌に裏側の事を全て話して謝る事だった。彼女を裏側に入らせない為に隠していたのだが踏み込んでしまい、さらにジュエルシード3つ分の魔力を持っているとなれば知らせない方が危険であると考えたから。
それを聞いて愛歌は笑った。隠し事を話してくれてありがとうと、助けてくれてありがとうと、これで俺の事を堂々と支えてあげられると。
悔しいけど、それが少しだけ嬉しかった。
兎も角愛歌の存在を高町なのはを始めとした主人公連中、転生者たちに隠す必要が出てきた。ロストロギアと呼ばれる危険物であるジュエルシード3つ分の魔力を宿している愛歌は、生きているロストロギアと認識されかねない。監視されるのなら幸運だが、高い確率で時空管理局は愛歌の存在を危険視し、封印するなどと言うだろう。幸いなことに桜木の宝物庫の中には魔力を隠せる財宝があったのでそれを使って愛歌の魔力を隠した。
そして俺はミッドチルダに向かい、プレシア・テスタロッサの手掛かりを探している。今は安定しているが、ジュエルシード3つ分の魔力を宿している愛歌の容体がいつ急変してもおかしく無いから、詳しい人間に診てもらうことにしたのだ。現段階で魔導技術に詳しく、愛歌の身体を診てくれそうな人物にそれ以外に心当たりが無かったから。時空管理局は論外、strikers編ではジェイル・スカリエッティという人物が該当するのだが現段階でどこで活動しているのか分からないので候補から外した。
人間は生きているだけで何かしらの痕跡を残す。それはプレシア・テスタロッサも例に漏れず、食料品などの物資の補給をミッドチルダでやっていると予想してミッドチルダまで移動し、金さえあれば何でも話すという情報屋を探しては尋ねているのだが全く手掛かりを掴むことが出来ない。フェイト・テスタロッサがやって来たらそこからプレシア・テスタロッサの居場所を掴むことが出来るのだが、桜木からの報告では未だに姿は見えず、仮に接触出来たとしても警戒されるのがオチだ。
見つからない可能性を求め続けて一週間が経った。
「……そろそろ一旦帰るか」
『その方がよろしいかと。エルキドゥを通じて愛歌様から送られるメールがそろそろ4桁を迎えそうです』
「4桁ってマジかよ」
モニターを投影してもらえば確かに未読のメールが900通以上溜まっていた。試しにいくつか読んでみれば、その日の出来事や俺に会いたいという旨が綴られている。一応夜に通信はしていたのだがそれだけでは物足りなかった様だ。
そこで今日の夜に帰る事と、愛歌の手料理が食べたい事をメールに書いて送信する。すると5秒も経たずに返事は返って来た。内容は沙条さんにおねだりしてでも美味しい料理を作るから必ず帰ってきてとあった。
「ハッハッハ、
『愛歌様はもしかしてヤンデレと呼ばれるタイプの女性なのでは……』
「ヤンデレって、病的なまでに異性に対して愛情を向ける奴の事だろ?そこまで愛されるのなら男冥利に尽きるってもんだ。嬉しいとは思うけど怖いとは思わないな」
そんな事をハスターと話しながら歩いているととある店から男が1人飛び出してきた。
トランクス一枚に白衣という格好で。
「いってて……いやぁまさかガチで身包み剥がされるなんて思わなかったよ!!何とか白衣だけは死守出来たけど、最悪白衣の下は全裸で帰ることになるとこだった!!」
『マスター、時空管理局に通報を』
「待って……待て……!!何でこんなところでパンイチ白衣で居るんだよ……!!」
頭を抱えてその場に蹲る。身包み剥がされたと言っていたから恐らくは賭け事に負けて服を取られたのだろう。彼が出てきた店はここらでは有名な賭博場だったから。
問題なのはその人物だった。
菫色の髪に優男風の顔付きの男性は、俺が探していたけど真っ先に切り捨てた人物……ジェイル・スカリエッティその人だった。
ジュエルシード3つ分の魔力を宿した愛歌ちゃま。管理局に見つかったら封印orモルモット間違いなし。なお、本人はカガっちの側にいることが出来ると笑って喜んでいる模様。
皆んな大好きなスカさんをパンイチ白衣で登場させるという試み。流石にパンツまで取るのは可愛そうだと思っていたけど、候補の中には全裸白衣が上がっていた。