「あ゛〜ダメだこれ。気持ち悪過ぎる……」
ソファーに寝転がっていたジェイルはそう言いながら白衣を漁り、懐から錠剤が詰め込まれた小瓶を取り出してその中身を口に入れた。まるでラムネ菓子でも食べているかのように景気良くボリボリと音を立て、飲み下してから数秒後、
「ふぅ……復活!!復活!!マッドサイエンティストスカさん復活!!特に誰も待っていないだろうけど待たせたね!!」
さっきまで死にそうにしていたはずの顔を元に戻して元気にソファーの上でピースした手を顔の前で横にしながらウィンクをしていた。どうやら二日酔いの治療薬を使用していたらしい。服用からたった数秒で完治するなど今の医学のレベルではどうあがいても実現出来ない領域である。言動こそ頭のヤベー奴のそれだが、その技術、知識は間違いなく現人類よりも数歩も先を行ってきた。
「二日酔い用の薬があるのならさっさと使えば良かったじゃねぇか」
「分かってないなぁカガミきゅんは……」
「おう、カガミきゅん止めろや」
「確かに私は自他共に認める天才で、好奇心の為ならば倫理観なんてゴミ箱にシュートするような天災さ。だけど、知識としては知っていても経験として知らないことはあるんだよ。今回の二日酔いだってそうさ。知っていたけど経験した事はない、だから敢えてなってみたんだよ」
その理屈は理解出来る。人というのはただ知識として知っているだけではダメだからだ。例えば骨を折ると痛いという事を知識として知っているよりも、実際に骨折を経験していればどのくらい痛みがあるのか、そしてそれによりどれだけ不便になるのかを経験し、経験していないものよりも骨折をしないように気をつける。
理解は出来た、ただしカガミきゅんは許さん。
「で、愛歌はどうなんだ?」
「う〜ん……多分君が知っているのと大差ないと思うよ?」
俺たちのいる部屋の壁には大きなモニターが設置されていて、そこには検査用と思わしき大型の機械に入れられた病衣姿の愛歌が映っていた。最初、ジェイルは魔法で愛歌の診察をしようとしていたのだが、ジュエルシード暴走の際に使っていた悪性情報が愛歌の意思で使えるようになった事による弊害でレジストされ、機械による診察へとシフトされていた。機械とはいえ、悪性情報に侵されて正常に作動しなくなるのでは無いかと考えたが、魔法がレジストされていた時にアンチプログラムを作成していたようで不具合を起こしていない。
二日酔いという悪条件でありながら、一瞬でアンチプログラムを作成したジェイルの優秀さに舌を巻く。彼がその気になったら、この時代を終わらせることも可能であろう。
「まぁザックリといえば愛歌君そのものがリンカーコアになっているようなものだね。本来ならリンカーコアというのは大気中の魔力を取り込んで貯蔵するための器官だ。先天的に備えているものがほとんどで、時折後天的に備えられるケースがあるのだが、それは置いておこう。しかし、調べた限りでは彼女の体内にはリンカーコアに該当する器官は見当たらない、
「やっぱりかぁ……で、治りそうか?」
「分からないとしか言えない。何せこんなケースは過去に事例が存在しない。後天的にリンカーコアが備わったケースはあるにはあるが、彼女の件とは全くの別物だから参考にはならないしね……うん!!久し振りに面白い事になってきたぞぉ!!私の脳細胞がトップギア!!」
白衣を脱いで上機嫌に振り回しているジェイルを見て、
ジェイルが愛歌に興味を持った事により、こいつは愛歌から目を離さなくなった。過去に事例が存在しない、先に同じような存在が登場するのか分からない、愛歌と同じ状態の人間を作れるのか分からない。だから、ジェイルは愛歌の事を調べたければ彼女を守るしかない。より多くの未知のデータを得る為に。
「この事で愛歌の命が脅かされる可能性は?」
「絶対にとは断言出来ないけど無いと思っていいんじゃないかな?リンカーコアが存在していないと言っても、今の彼女の状態はリンカーコアを備えている魔導師と変わらないんだ。貯蔵している魔力の量が桁外れに多い事と妙な魔力変換資質を持っているけどね。少なくとも今の安定している状態が続くのなら、彼女は無事な筈だよ。細胞なんかも魔力を貯蔵する機能が追加されてるだけでその他の働きは正常だから、肉体的な寿命はそのままじゃないかな?」
「そうか……それは良かった」
安全が保障されたわけでは無いが、ジェイルの説明でこの先愛歌の命が脅かされるような可能性はほとんどないと理解して肩の力を抜く。俺たちの事情に巻き込まれたから、彼女はこんな存在になってしまったのだ。これで仮に寿命が縮んだとかいつ死ぬか分からないとか言われたら……想像しただけでゾッとする。
「で、物は相談なんだけど……」
「愛歌のデータが欲しいんだろ?本人の了解があればくれてやる。その代わり、あいつに何かあったら全力で救え。死なせるんじゃないぞ」
「こちらとしても興味深い存在だからね。死なせない事を約束しよう……
何やら深い意味を感じさせる言葉を言われたがそれに対する反応はしない。ジェイルならば気がついてもおかしくないと考えていたから、話していない事を知っていたとしてもそれに対して驚かないのだ。
「やっぱり気付いてたのか?」
「愛歌君を魔法で調べようとした時についでと思ってカガミきゅんもスキャンしようとしてたんだよね」
「成る程、それはバレるな。あとカガミきゅんは止めろ」
「君、
そう、ジェイルが言った通りに俺は愛歌の悪性情報に身体を侵されている。服の上からでは見えず、普段は見えないようにハスターの魔法で変わらないように隠しているが、首から下の身体には黒い刺青の様な物が刻まれている。愛歌を助けた後にこれが刻まれていた事に気が付き、調べた所、愛歌の使っていた悪性情報と同じものであると分かった。ハスター曰く、リンカーコアにまで届いているとの事。
そして興味深い事に、この刺青は
「個人的に調べたけど特に問題は無いぞ?あ、データいる?」
「頂戴頂戴!!……それでも既存の魔導技術に対する天敵なんてものを身体に直接宿しているのだから何が起こるか分からない。私からすれば、カガミきゅんも愛歌君と同じくらいに興味を惹かれる存在なんだ。私が満足するまで死んでもらったら困るよ」
「なら、俺の方も頼んどこうかね。優先するのは愛歌だけど……カガミきゅんはいい加減止めろ」
物凄い勢いでキーボードを打っているジェイルから目を逸らしてモニターに映る愛歌を見る。どうやら機械による検査は終わったらしく、愛歌は横たわっていた診察台から降りていた。
側にいた、白熊の背中に乗って。
機械を操作していた、羆と月の輪熊に手を振って部屋から出て行く。
「……なぁジェイル、なんで熊が助手みたいな事してるんだ?」
「別に深い理由は無いよ。人手が足りないなぁって思った時に偶々近くにいたのが彼らだったから、改造して人間並みの知性を持たせてるだけさ」
「そっかぁ」
深く突っ込んだら負けのような気がしたので、それ以上は突っ込むことはせずにジェイルの作業を眺めておく事にした。
現在の愛歌ちゃまは人間型のリンカーコアとでもいうべき存在。身体そのものがリンカーコアと同じ役割をしている。なので珍しいは珍しいが、簡単に言えばリンカーコアを持たない魔導師である。魔力変換:悪性情報とかいう魔導技術に中指立てるスキル持ってるけどな!!
なお、カガっちも悪性情報を使える模様。そりゃあ魂、リンカーコア、魔術回路で刺された悪性情報ゴキュゴキュしてりゃあねぇ。
現在のスカさんの助手は白熊、羆、月の輪熊の熊三兄弟。スカさんに改造されてるから機械の操作だって出来るぞ!!会話はスケッチブックで行われる模様。