道化の名は必要悪   作:鎌鼬

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second action・5

 

 

「なんでここに居んのさ」

 

 

フェイト・テスタロッサが月村邸で高町なのはと邂逅を済ませた後の連休。俺は予定していた通りに沙条さんに連れられて温泉旅行に来ていた。沙条さんはチェックインを済ませてくると移動で疲れて眠った綾香を連れて行ったのでこの場には俺と愛歌、そして誘うは誘ったけど断ったはずの桜木がいた。

 

 

それも大人の姿でだ。

 

 

俺のように魔法で大人になっているのかと思ったが、ハスターに調べてもらったところ()()()()()()()()()()()と返って来た。恐らくは宝物庫から取り出した財宝を使って大人になっているのだろう。前に若返りの薬があると言われて実物を見せてもらったのでその逆の効果のある薬を持っていてもおかしくは無い。問題なのはどうして大人の姿でこの場にいるのかと言うことだ。

 

 

「何、(オレ)はこの宿屋のスポンサーであるが故にな。その関連でここに来たに過ぎん。貴様らの邪魔はせぬ故安心して逢引に励むが良い」

『僕がここのスポンサーをしていて、優待券を貰ったから来てるんですよ。心配しなくても面倒事に巻き込みなんてしないんで安心してデートを楽しんで下さい』

 

 

周りの目を気にしてか、浴衣姿の桜木は設置されているマッサージ機能付きの椅子に座りながらチャット機能と平行して尊大な物言いで語りかけて来た。右から女将と思われる和装の女性に酌をして貰い、左から支配人と思われるナイスガイに団扇で煽がれている。スポンサーというよりも完全にここの主人のような態度だが、従業員の誰もが文句どころか嫌な顔をしていないので彼らにとってこれは当たり前の事なのだろう。

 

 

「本当かしら?もしも嘘だったら……」

 

「まぁ待て、流石の(オレ)も馬に蹴られるのは御免被る。精々貴様らの蜜月を肴として楽しませて貰うだけだ」

『お馬さんに蹴られるのは嫌なんで。まぁ2人のやり取りを見て楽しませてもらうくらいはしますけどね?』

 

「それなら良いわ」

 

 

愛歌は桜木の事を嫌っているという訳ではなく、純粋にこの場では邪魔だと思っているだけのようで、邪魔をしない事を約束すると敵意を鎮めた。

 

 

「あぁ、分かっていると思うが隠したければ(オレ)のくれてやったそれを外すなよ?」

『2人とも、そのブレスレット外さないで下さいね?バレちゃいますから』

 

「分かってるよ」

 

 

桜木から渡されたブレスレットは隠蔽効果があるらしく、これを着けている間は索敵などに引っかからなくなると言っていた。信じていない訳ではないが念のために性能を調べた所、ハスターが探知能力を全開にしても反応を捉えることが出来なかった。桜木の言う通りに、これを外さなければ愛歌の存在はこの旅館にいる魔導師たちにバレないだろう。しかも愛歌だけではなく俺の分まで渡された。俺は黒色で、愛歌は白色。これを着けた時にお揃いだと言って嬉しそうにしていた彼女の笑顔は忘れられない。

 

 

桜木に別れを告げて、借りた部屋に向かう。割り当てられた部屋は畳張りで、家族向けなのか広々とした部屋だった。沙条さんは急須にお湯を入れてお茶の準備をしており、綾香は沙条さんが用意したと思われる布団の上で横になってスヤスヤ眠っていた。

 

 

「2人とも来たか……両夜君、君の知り合いだと言っていた彼だが一体何者なんだね?」

 

「俺の親父の知り合いですよ。滅多に家に帰らないからか顔は広くてですね、こっちは知らなくてもあっちは知ってるって人がいるんです」

 

 

着替えを詰め込んだバックを部屋の隅に置きながら沙条さんの疑問に答える。あいつが桜木だと言っても信じてもらえないから、親父ーーー正確には保護者となっているタナカの知り合いだと誤魔化して。前に一度だけ沙条さんにそう思わせる為にタナカに頼み、挨拶に行かせた事がある。その時にタナカは仕事の関係で外国出張が多いと家にいない理由を騙っていたので、沙条さんは疑う事なくアッサリと信じてくれた。

 

 

「低姿勢なのにグローバルな方だよ、あの人は。そういえば彼は連休中には帰ってこないのかい?」

 

「忙しいみたいで帰れないって言ってましたよ。何でも今は北半球と南半球を反復横跳びしてるみたいで」

 

「そうか、一度腰を落ち着けてゆっくりと話したかったのだがな……まぁ良い。私は綾香が目を覚ますまで離れられないから、2人は今のうちにお風呂に入って来たらどうだ?」

 

「そうさせて貰います。愛歌、行こうか」

 

「ここのお風呂って混浴なのかしら……うん、私たちは子供だから許されると思うけど、そういうのはまだ早いと私は思うの!!もっと大人になってから……もっとこう、ロマンチックな雰囲気でお願いしたいわ!!」

 

「少し落ち着け。焦り過ぎてとんでもない事を口にしてるから」

 

「両夜君……君はまさか、愛歌と混浴するつもりなのかね?」

 

 

押しが強いクセして意外と乙女チックな愛歌のせいで阿修羅様がご降臨なされたようだ。憤怒で顔を歪ませている沙条さんの背後には燃え盛る炎を身に纏った三面六臂の阿修羅様が控えている。

 

 

どうして温泉に来たのに死亡フラグが立ってしまうのだろうか。

 

 

「いや、流石に公共の場ではやらないですよ」

 

「ほう、それは公共の場では無かったらやるという事か……!!」

 

「お父さん?両夜に手を出したら……洗濯物別々で洗うわよ」

 

「グハッ……!!」

 

 

沙条家の家事は愛歌が一手に担っている。なので洗濯物を洗うのも彼女なのだが、洗濯物を別々に洗うというのか沙条さん的には急所だったらしく胸を押さえながらその場に崩れ落ちた。よく聞く反抗期の娘は父親と一緒に服を洗濯したくないというやつなのだろう。何やらブツブツと呟きながら崩れている沙条さんからは普段のダンディーさからは考えられない程に哀愁が漂っていた。さっきまで憤怒に燃えていた阿修羅様でさえ、両手両膝をついて崩れ落ちている。

 

 

「綾香の教育に悪いから黙りなさい」

 

 

愛歌がそう言っただけで呪詛のような呟きはピタリと止み、代わりに嚙み殺すような嗚咽が聞こえて来た。

 

 

「全くお父さんったら………両夜、行きましょう」

 

「南無阿弥陀南無阿弥陀」

 

 

俺が出来るのは沙条さんのこれからを祈って念仏を唱えることくらいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ゛〜……ダメになるぅ〜……」

 

 

旅館の浴場で肩まで浸かりながら全身を弛緩させる。まだ早い時間帯だからなのか利用者は俺以外に誰もおらずに貸し切り状態。家の風呂とは違う少し熱めのお湯と、露天風呂特有の開放感が合わさって言葉にし辛い快楽を感じられる。初っ端から沙条さんwith阿修羅様という死亡フラグに見舞われてしまったのだが、これさえあればそれも許せる。日頃の行動によって蓄積していたストレスが溶け出していくようだった。

 

 

『メンタルケアという点では今回の旅行は十分な効果を出せたようですね』

 

「あぁ、温泉なんて話に聞いてただけで普通の風呂と変わりないって思ってたけど違うわ。これは良いものだ」

 

 

他に誰も居ないので外に声が漏れないように気をつけながらハスターに話しかける。機械なのに水に浸けても大丈夫かと心配していたが、防水加工は施されていると妙に力説されたのでこうして連れて来たのだ。デバイスであるハスターに温泉なんて意味があるのかと思ったが、声がいつもよりも柔らかく聞こえるので効果はあるのだろう。

 

 

「はぁ〜……何も考えずにヒャッハーしたい……やりたい事をやりたいようにやりたいなぁ……」

 

 

温泉に浸かっているからなのか気持ちが緩んでしまい、愚痴が溢れてしまう。今世ではあれやこれやと色々と考えて行動をしているのだが、元々俺は深くは考えずに基本的にその場のノリで行動するタイプの人間なのだ。計画しての行動は出来なくは無いのだが、好みでは無い。もっと気持ちが赴くままに好き勝手に行動したい。

 

 

でもそれではダメなのだ。然るべき手順を踏んで高町なのはを始めとした主役たち、善神側である黒須龍斗を成長させなければならない。自称ではあるが絶対悪を名乗っている俺と敵対するのなら、それに相応しい存在であって欲しい。

 

 

今は我慢の時期だ。極限の空腹状態で出される料理が最上の美食となるように、我慢に我慢を重ねて彼らの成長を待とう。

 

 

「ん?君は……加賀美君か?」

 

「あれ、恭也さん?」

 

 

口をお湯の中に入れて我慢我慢と暗示のように呟いでいると士郎さんにそっくりな青年ーーー高町恭也が現れた。〝翠屋〟のシュークリームにどハマりして常連になっているので向こうも俺の事を知っている。彼も来る事を知ってはいたが、偶然会ったという反応を見せる。

 

 

「久し振りだな。君もここに来てたのか」

 

「えぇ、友達の旅行について来たんですよ。恭也さんは?」

 

「俺も同じだよ。でも生憎と女所帯でな、俺を含めて男はたったの2人なんだよ」

 

『やぁ、加賀美君』

 

 

実は3人だって言っても信じてくれないだろうなぁ、と考えながら恭也さんの背後に浮かんでいる士郎さんの姿を視界に捉える。露骨に視線を向けると不審がられるので焦点を合わせる事なく、あくまで恭也さんだけを見る。幽霊で誰にも見えないのだが良識はまだ失われていないようで男湯に来たらしい。流石に妻や娘だけじゃなくて他の女性も利用している場所には入らなかったようだ。

 

 

「はぁ〜広いですね……」

 

 

ペタペタという足音が聞こえて来たので視線をそちらに向ければ、そこには想像していた通りの人物がいた。

 

 

短めに切り揃えられた黒髪に実直そうな顔付き。風呂に入るために全裸になって見える身体は細身ではあるがしなやかに引き締まった肉体で実践に向けて鍛えられた身体だった。

 

 

「恭也さんの知り合い?」

 

「あぁ、そういえば加賀美君は知らないんだったな。彼は黒須龍斗、なのはの友達だ」

 

「えっと、はじめまして、黒須龍斗です」

 

「歳近いんだからもっとフレンドリーで良いぞ?俺は加賀美両夜、〝翠屋〟の常連だ。宜しくな」

 

 

互いに全裸でなんとも締まらないものだったが、これが善神側の転生者である黒須龍斗との初めての邂逅だった。

 

 

 






桜ギル君、しれっと温泉旅館のスポンサーに。ギル様の能力が特典だから黄金律だって当然持ってる。その関係で集まる金を適当にばら撒いてたら偶々スポンサーになっていた。

善神側の転生者のリュー君との邂逅。なお全裸。温泉だから仕方ないね!!

一時期競うようにして投げ込まれていた評価が静かになって少しだけ寂しい……誰か入れてくれないだろうか……(懇願

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