●月●日
予想外の出来事があったせいで混乱したが一日かけてようやく落ち着く事が出来た。何があったのかを考えを整理する意味合いを含めて記そうと思う。
昨日、俺は家の外に出た。テレビ越しでしか見ることが出来なかった上に土地勘の全く無い町なのだ。何処に何があるのか知るために、ハスターと一緒に散歩に出かけた。
低身長で見る街並みは前世で見ていた時と視点が変わっていてとても新鮮だった事を覚えている。一応自分でも覚えるようにしていたが、ハスターとの会話を楽しみながら見知らぬ町の街並みを眺めていた。
そしてとある公園に差し掛かった。昨日は休日だったせいか公園には我先にと遊具に群がる子供達の姿と、その保護者らしい大人達が集まって談話をしている姿があった。俺があの頃の年代の時にはあんな無邪気さを持ち合わせる事が出来ない環境だったので、何があんなに楽しいのかと呆れると同じくらいにあの無邪気さが羨ましいと感じていた。
そこまでは良かった。そこまでは休日に良くある微笑ましい光景で片付けられた。問題はここからだった。
心中に湧き上がっていた呆れと羨望を振り切って散歩を続けようとした時にある光景が飛び込んできたのだ。それは公園に当たり前のように設置されているベンチで、そこには2人の子供が腰掛けていた。
1人は茶髪の女の子。遠目からでは判断し辛かったのだが、初対面のはずなのに彼女には見覚えがあった。恐らく彼女がアニメの主人公であった魔砲少女こと高町なのはなのだろう。雰囲気が暗く、顔を俯かせていたので何があったのかと考えたが、確かこの時期に彼女の父親が仕事の関係で大怪我を負ってしまい家庭環境がよろしくなかった事を思い出す。恐らくその関係で彼女はああしているのだろう。
1人は黒髪の男の子。男の娘では無い。彼は高町なのはの隣に座って懸命に話し掛けていた。恐らく彼がタナカが言っていた転生者だろう。見た所、二次小説に登場する様な踏み台転生者の様な下心を持たずに彼女の事を励ましてやりたいという雰囲気を感じた。俺の役割が役割なので俺から彼女に接触することは出来ない。そういう意味では彼が彼女の側に居ることに安心した。
そして2人の背後に1人の男性の姿があった。ベンチに座る2人の真後ろに隠れもしないで立っていてすぐに気づかれそうなものなのに、2人は彼の事など見えていない様に平然と話し合っていた。男性が口を動かして話しているというのに、聞こえていない様に無視してだ。
その時から嫌な予感がした。原作の事など過去に見たことのあるもので薄っすらとしか覚えていないのだが、それでも彼らの背後に立っている男性に見覚えがあったから。なので気配を断ち、2人の視界に入らない様に大きく迂回しながらその男性に近づく。すると彼は気配を消しているはずの俺の事をあっさりと看破してくれた。前世で鍛えたはずの技術が簡単に見破られた事に落ち込むが、同時に彼ならば仕方がないと考えてしまう。
この世界の主人公である高町なのはの父親、高町士郎。彼が足の無い半透明の姿ーーー霊体でいた。
普通ならば生者は幽霊を見ることは出来ないのだが、俺は物心ついた時から幽霊を見る事が出来た。俺に魔術を教えてくれた女性曰く、俺は天然物の魔眼を持っているらしい。霊視の魔眼と彼女が名付けたそれの効果は名前の通りに通常では目視出来ない霊体を視認できるというもの。それに加えて俺の起源である干渉により、俺は霊体を見るだけではなくて触れる事も出来る。
自分の事が見えていると気づいた士郎さんに2人に聞こえない様に声をかけてその場から離れ、どうして死んでいるのか尋ねた。俺の記憶が確かならば彼はこの時期に大怪我を負うが、死にはしなかったはずなのだ。
士郎さんが言うにはボディーガードの仕事で襲撃者から対象を守っている最中に膝に銃弾を受けてしまい、その隙に神風特攻よろしく手榴弾を持った襲撃者の自爆に巻き込まれて即死したとの事だ。どうにか対象者を守る事が出来たが彼は死んでしまい、その結果家族は自分の死を引きずっているのが未練となっている様だ。高町なのはに背後霊よろしく引っ付いていたのもそれが理由らしい。
死んだ理由を聞いて馬鹿じゃないかという感想を抱き、そのまま口にした。家族を持って守るべき家庭があると言うのに命の危険がある仕事に就いているとは何事か。その仕事じゃなければ生きられないという極限状態ならばまだしもそうでなくてもいいのなら足を洗うべきなのだ。重箱の隅を突く様に自分の考えを述べ、途中で口を挟まれても即座に論破しながら説教じみた事をすると士郎さんはその場に両手を着いて崩れ落ちていた。
霊体なのに器用だなぁと思う事で現実逃避をする。
実はこの世界、魔法少女とか言う可愛らしいタイトルなのに割と頻繁に危機的な状況になるのだ。無印編では確かジュエルシードとかいう宝石が原因でいくつかの世界が危なくなり、A's編では闇の書という本が原因で地球崩壊しかけたりする。それを救うのが高町なのはを始めとした魔法少女たちなのだが、物語の設定上の都合なのか活躍する殆どが年端もいかない少年少女なのだ。身体は当然の様に幼く、それと同時に精神も未熟である。
この世界の主役である高町なのは。もしも士郎さんの死がきっかけで家庭崩壊を起こし、アニメの時の様な状態になっていなければ……最悪、無印編で地球滅亡とか普通にありえるのだ。
そんな事になってしまえばタナカからの依頼が果たせなくなる。彼との依頼でstrikers編までこの世界を続けなければならない。幸いな事に高町なのはの方は転生者の方がどうにかしてくれるだろう。後は荒れているであろう高町家をどうにかして崩壊させない様にするだけだ。
なので、戦闘民族と名高い高町家でも最強と称される士郎さんに武術の稽古をつけてもらう事を条件にこの件をどうにかする事を約束した。
現在、士郎さんは俺の背後霊をやっている。
●月¥日
この日は高町家の観察に費やした。士郎さんの未練をどうにかすると約束したはいいが、俺は高町家の現状を憶測でしか把握していない。実際に見た方が良いと思ったのだ。
高町なのはの方は転生者が付き添っているので問題ないだろう。士郎さんの死により前とは変わってしまった家族たちに怯えている様だがそれは時間で解決する問題だ。それよりも高町なのはの頭を撫でている転生者の姿を見て悪霊に成りかけていた士郎さんを落ち着かせる事の方が問題だった。
士郎さんが経営していた喫茶店は彼の奥さんである高町桃子さんと高町美由希さんの2人が後を引き継いで経営していた。士郎さんの死を悲しんでいる雰囲気を漂わせ、泣いていたのか目元を少し腫れさせながらもしっかりと顔を上げていた。それは悲しみに暮れるだけではダメだと、守るべきものがあるのだと理解している者の顔だった。今こそ忙しくて高町なのはの事をなおざりにしてしまっている様だがこれも時間が解決してくれるだろう。
問題があるのは高町恭也だった。丸一日見ていたわけでは無いが彼の行動は店の手伝いは最小限、それ以外の時間をすべて道場で修行に明け暮れるというものだったのだ。士郎さんの死んだ原因が自分が無力だったからと、残された者たちを守る為に強くあらねばと感じているのだろう。その姿は鬼気迫るものがあり、痛々しくてとても見ていられなかった。
俺から言わせて貰えば高町恭也の行動は本末転倒としか言えなかった。強くなりたいという理由は理解でき、彼の心境にも共感できる。しかし、だからといって大切な者たちをなおざりにしてしまっては駄目だろうが。今は店の方は桃子さんと美由希さん、それと彼の最低限の手伝いでどうにか回せているが、このままの状態が続けばいつか2人が体を壊すのが目に見えている。そうなって恭也は自分のやってきた事の無意味さに気がつき、何をしていたのだろうと絶望する姿を想像するのは容易かった。
高町家の観察をした結果、恭也さえどうにかすれば大丈夫だという結論に至った。士郎さんも同意見の様で、どうするのか尋ねられた。今の彼に言葉で語りかけても無駄なのは今日の彼の行動を見て分かっている。言葉がダメならば行動でどうにかするだけだ。
ハスターに考えついた魔法を話し、実現出来るか聞いたところ時間は必要だが問題無いと言われた。魔法の完成を待って行動を起こす事にする。それまでは士郎さんに稽古をつけてもらう事にした。前世でも一応武術の類は修めたのだがその大半は見稽古で、まともな師事を受けて修めたものではないのだ。そう考えると結構危ない現状だがワクワクしている。
さて、最強レベルの戦闘民族の実力とやらを体感させてもらおうか……!!
高町士郎死亡済み、死因は膝に銃弾を受けてからの神風特攻。そりゃあ作中最強レベルの戦闘民族殺そうとしたらこのくらいやらなきゃ殺れないよ。
主人公は魔法少女リリカルなのはのアニメは知ってるけどとらハのことは知らないので混乱している。最強レベルの戦闘民族が死んでいる事にも、それが原因で世界がヤヴァイという事にも。
作中の高町家の現状はこんなところ。なので原作ではこうだったとかいうツッコミは無しでオナシャス。