「あ゛あ゛あ゛〜ダメになるぅ〜」
黒須との初会合もそこそこに、長湯しているのを理由にして風呂から上がった俺はまだ入っている愛歌を待っている間にマッサージチェアーに座っていた。子供の身体ではマッサージチェアーの規格に合わないかと思ったが、高身長を目指して肉体改造をしているおかげか同年代に比べて背が高かったお陰で何とか使えたのだ。
ゴリゴリと力強く肩と首筋が揉まれ、腰も程よい力加減で刺激される。前世を含めて初めてマッサージを受けたのだが、純粋に良いものだと感じた。前世では目的の為に生き急いでいたところもあって知識としては知っているが経験としては知らないという事が山程ある。こうして知っていたが体験した事がない物を体験しているだけでも転生した価値はあると思った。
「ねぇ、そこのあんた。少し良いかい?」
「ん〜?」
声を掛けられたのでそちらに視線を向けると、そこには浴衣姿で色鮮やかなオレンジ色の髪を靡かせた女性がいた。
「何か御用?」
「気持ちよさそうにしているけど、それって何なの?」
「マッサージしてくれる椅子だよ。そこの肘置きのところにお金入れたらしてくれる。やってみたら」
ふーんと言い、しかし興味はあったのか女性は懐から硬貨を取り出して投入し、恐る恐るといった様子でマッサージチェアーに腰を下ろした。始めの方こそ慣れていないせいでひゃわ、と可愛らしい声をあげていたのだが暫くすれば慣れて全身を弛緩させてマッサージチェアーのなすがままにされている。
「あ゛あ゛〜これ良いねぇ〜……」
最初の警戒は一体何だったのかと問い質したくなる程に蕩けた表情になっているが、注目すべきはそこでは無い。彼女の胸だ。平均よりも大きいサイズの彼女の胸がマッサージチェアーの振動によって細かく揺れているのが浴衣の上からでも分かる。しかも揺れ方からして彼女は下着を着けていないらしい。
実に素晴らしい光景だった。やっぱりデカい胸は最高だなと、自分が男だと再認識出来た。
本音を言えばその揺れをじっくりと観察させて欲しかったのだが、そんな事をすれば殺されても文句が言えない事は理解しているのでこっそりと盗み見するだけに留め、同時にチャット機能をオンにする。
『桜木、俺の隣でマッサージチェアー使ってるお姉様のお胸がメッチャプルプルしてる』
『何ですかその報告は……けしからんですよ。じっくりと観察したいですからどこにいるのか教えて下さい』
『悪いな、この光景は1人用なんだ』
『加賀美ィッ!!』
『両夜?どういう事なのか後でじっくりと話しましょうね?』
あ、と思った時にはもう遅かった。普段見ることの出来ない光景に興奮していたのか、チャット機能を個別にでは無く、全員に届くようにしていたままだった。愛歌から送られてきたコメントは普通の物のはずなのに、触手が蠢いているように見えてしまう。
どうにかしようと考えるが良いアイデアは思いつかず、桜木から念仏をコメントとして送られたので諦めることにした。いくら素晴らしい光景が目の前にあったからといって、それを俺に対して好意を向けている彼女に知らせるのはいけない事である。
刑の執行を待つ罪人の気分でマッサージチェアーに身を委ねようとしていたが、そこで時間になって止まってしまう。もう一度硬貨を叩き込んで再び楽園へと辿り着こうとした時、金髪の少女が俺の隣にいる女性に駆け寄っていくのが見えた。
いつもなら隣の女性の関係者かと疑問を持って終わらせるのだが、今回ばかりは違った。金髪をツインテールに纏めた少女の顔に心当たりがあったから。硬貨を入れようとしていた手を止め、まさかここに居たのかという動揺を隠す為、そしていつでもここを離れられるようにと携帯を取り出して操作しているフリをする。
「あ、アルフここに居たんだ」
「ん?……あぁフェイトじゃないか」
予想していた通り、女性に話しかけて来たのはフェイト・テスタロッサだった。そしてアルフという名前を聞いて、そう言えば彼女はフェイトの使い魔の人間形態だった事を今更ながらに思い出す。原作を見たのが前世でも大分昔だった事もあって、主要キャラの数人以外の顔と名前が朧げになっている。今回は大丈夫だったが、下手をしていたら怪しまれていたかもしれない。
いずれは敵対する事は決まっているが、それは今ではないのだ。愛歌の事もあって出来る限りリスクを冒さないようにしなければならない。このまま偶々出会った一般人を装って彼女たちと別れようとしたのだが、
「よぅ!!フェイトにアルフ!!お前たちも来ていたのか!!」
落ち着いた雰囲気の旅館に似つかわしくない大声と大きな足音を立てながらやって来たのは転生者の1人である銀髪の少年。確か名前は
態度、思考などは完全に二次創作で登場するような踏み台転生者のそれなのだが、その転生特典は桜木が自身の天敵だと語る程のものだ。
魔力量は測定不能、規格外を表すEX。剣を魔力で編み上げて実体化させるレアスキル〝
そもそも人類が生み出した物であれば時間軸を問わずに所持しているというスキルを持つ桜木の天敵になれるというだけで脅威として認識するには十分過ぎる。
本人の思考と戦闘技術は下の下の下だとしても。
そんな御剣はフェイトとアルフに向かって話しかけているが、明らかに2人は好意的に接していない。フェイトは拒絶はしたいがどんな風にすればいいのか分からないという困り顔だし、アルフは殴りたいけど殴ってはいけないから我慢しているという顔だし。そしてそんな2人の反応を知ったものかと、御剣は一人で上機嫌に話しかけている。
「ーーーん?お前……」
と、上機嫌に2人に向かって話しかけていた御剣だが、俺がいることに気がつくとその顔をみるみるうちに怒りで歪ませていく。
「おいお前!!2人に何をしやがった!!」
一体どこに俺が2人に何かをする要素があったというのだろうか。何かしたっけ、と視線を向けるが、2人は顔を横に振って否定する。
「何もしてないけど……」
「嘘を吐くな!!お前が何かしてなかったら2人がこんな顔するわけないだろうが!!」
2人の顔のことには気がついていたようだ。もっともその原因が自分にあると気付かず、俺に原因があると考えているようだが。完全に頭のヤベー奴の思考だった。出来るのなら早くこの場を離れたかったが、どうにかして御剣を沈めないと愛歌に被害が及びそうな気がする。
御剣に絡まれた愛歌がストレスで暴走する未来が見える。
「そんな事を言われても何もしてないぞ。言いがかりはよしてくれ」
「五月蝿え!!モブ風情がオリ主である俺に生意気なんだよ!!」
そう言いながら殴り掛かってくる御剣。流石にこの場で魔法を使わない程の理性は残っているようだが、精神が未熟過ぎるこいつならその内使ってしまいそうだ。幸いなことに殴りかかる挙動は武術を齧っているものではなく、それどころか喧嘩すらしたことの無い素人のそれだったので十分に対処出来る。
大振りに殴り掛かってきた手に腕を添えて受け流し、重心が移動しかかっているのを見計らって足払いをかける。すると前に出ようとしている力は変わらず、だけど支えとなる足は地面から離れているので止まる事が出来ず、御剣は俺を殴ろうとしたそのままの勢いで自分から壁に顔を突っ込んでいった。
「今の内に逃げるぞ」
「え……え?」
「あぁ、ちょっと!!」
御剣の反応は無く、だが時折動いていたので気絶しただけだと判断して2人の手を引いてその場から逃げ出した。その時にチャット機能で愛歌に御剣がいる事、桜木に御剣が暴れようとしたので制圧した事を告げるのを忘れない。我慢の出来ない餓鬼の癇癪で、この旅館が無くなる事が嫌だったから。
「ここまで来れば良いか……急に引っ張って悪かったな」
「ううん、大丈夫だよ」
「寧ろ良くやってくれたって褒めてやりたいくらいさ!!」
浴場から遠く離れた中庭まで来て、御剣が追いかけて来ないのを確認してから2人の手を放す。今回の2人は俺と御剣のイザコザに巻き込まれた立場だと言うのに彼女たちはそれを笑って許してくれた。それどころかアルフの方は満面の笑みを浮かべながらサムズアップを向けている。
正直に言えば2人をこの場所に連れて来たのは御剣から逃げるためだけでは無く、風呂に入っているであろう高町なのはたちと出会わないようにするのも理由に含まれているのだが言わなくても良いだろう。
体力的なものでは無く精神的な疲れから癖で懐からタバコを取り出そうとして、出て来たのはココアシガレットだった。そういえば子供の姿では吸わないようにする為に代わりにこれを持って来ていたなぁと思い出しながらココアシガレットを咥える。
「あの頭のヤベー奴は何なの?キチガイなの?それとも精神病患者?あぁでもモブとかオリ主とか言ってたからシミュレーション仮説の可能性もあるな」
「あはは……ごめんね?あの人、怒りっぽいのかすぐに怒っちゃうの」
「フェイト、あれは怒りっぽいんじゃなくてただの癇癪だよ。自分の思う通りに進まないだけですぐにあぁなるんだ」
「そりゃあ何ともまぁ、未熟だな」
フェイトは元からの気質なのか言葉を選んでフォローしようとしているのだが、アルフはそれをバッサリと切り捨てていた。フェイトは苦手としているだけで嫌っていないように見えるが、アルフは心底嫌いだという風で不機嫌そうにしていた。
フェイトたちに精神的な負荷を与えるという役割では御剣はその役割を十分に果たしていると言える。だが、あまりにも負荷をかけ過ぎるとプレシアによるネタバレの前に心が折れてしまいそうだ。最悪原因……御剣を排除する方向も考えておいた方がいいかもしれない。
同じ転生者なのだから出来る事ならばそうはしたくない。だけど、あいつが存在するせいで支障が出るのならそうするだけだ。
「ところであんた、名前はなんて言うのさ?私はアルフ、こっちはフェイトだよ」
「フェイト・テスタロッサです」
少なくともA's編までは様子を見ようと決めた所で名前を聞かれた。そういえば俺は彼女たちの名前を知っているが、2人は知らなかったなと思い出す。
「そういえば言ってなかったな。俺は加賀美両夜って言うんだ。好きに呼んでくれ。ただしカガミきゅんと言ったらブチ殺す」
「ならリョーヤって呼ばせて貰うよ」
「わ、私もリョーヤって呼んで良い?」
「良いぞ?カガミきゅんと呼ばなかったらな」
「どうしてそう呼ばれるのが嫌なの?」
「恥ずかしいじゃん」
「殺意出してた割には案外普通の理由だったね……」
ジェイルにそう呼ばれた時からそう呼ばれる度に全身に鳥肌が立って仕方がない。これは一種の拒絶反応みたいなものだ。この先絶対に慣れることは無いだろう。
なので今度ジェイルがそう言ったらブチ殺す……と、愛歌の事を診れる奴が居なくなってしまうので、擬人化していないハスターとナイアルラトホテップの同人誌を見せてやろう。
『ーーー……!!ーーー!!』
『ーーー!!ーーー!!』
遠くどこから星から全力のツッコミの気配がした。しかしそれ以外には何も無かったので無視する事にする。今更抗議の声を上げられたとしても、もう同人誌は完成しているのだから遅いのだ。
ちなみにハスターの擬人化触手同人誌は良い値段で売れてくれた。
『ーーー』
『ーーー……!!』
片方の気配が小さくなった気がする。
「あのさ、リョーヤ。もし良かったらフェイトと友達になってやってくれないか?最近この街に来たばかりだから知り合いが誰もいないからさ……」
「ぼっち?一人ぼっち?」
「一人ぼっちじゃないよ。アルフがいるし、母さんもいるし」
「ほら、ご覧の通り純粋な子でさ……」
「言いたいことは分かった」
ぼっちと言われてもアルフと母親、その2人しか挙げられなかった時点でもう察する事は出来た。アルフはフェイトの使い魔であり、原作では彼女の為にプレシア・テスタロッサと対立を厭わない。だから偶然出会った、魔導師ではない俺に友達になってほしいのだろう。
でも、残念だけど今はその返事をする余裕は無いんだ。
「悪いけど返事は後回しにさせてくれ……これからちょっと、お話しなきゃならないから」
「ーーー両夜」
言葉にすれば音符マークが付いていそうな声で、いつのまにかやって来た愛歌が俺の名前を呼んだ。浴衣姿で、温泉から上がったばかりなのか頬は紅をさしていて髪の毛には水気が残っている。その微笑みはとても無邪気で、見慣れていない者がそれを見れば天使のように見えたかもしれない。
全身から放たれる怒気を除けば。
愛歌はスキルを使ってはいけない。彼女の特異性を隠すために使ってはならない。だから今はスキルを使用していないはずなのに、彼女の背後には黒い触手が蠢いているように見えた。もちろんそれは愛歌の怒気が見せているイメージだと理解している。
「さぁ……逝こうか」
すぐに戻ってくるからと2人に告げ、俺は愛歌に引き摺られて近くの茂みの中に入っていった。
見た目は子供でも中身は大人。カガっちだって男なのだからお胸様の魅力には逆らえないんだよ!!おいおい、あいつ死んだわ。
リュー君に引き続いて転生者のヤイバんと遭遇。カガっちの評価は頭のヤベー奴で特典のヤベー奴。つまりはヤベー奴。踏み台チックな行動しかしてないけど、ギル様の宝物庫の凄さを知っているなら天敵になれる時点で脅威と認識して当たり前なんだよなぁ。
フェイトそん、アルフと遭遇。そして愛歌ちゃまとのO☆HA☆NA☆SI……皆さま、カガっちのご冥福をお祈りください。
評価が黄色からオレンジに変わったぞ!!なら、次は赤色だな!!(評価&感想乞食