「いやいや、お待たせ」
「え……えぇ……」
「お待たせって、さっきから凄い音が聞こえてたんだけど何がどうしてそうなったのさ」
愛歌に茂みの中に引きずり込まれてから数十秒後、何事も無かったかなように出てきた俺と愛歌を見てフェイトとアルフは明らかに引いていた。それは俺の格好が原因なのだろう。アルフが言っていたように凄い音を立てるようなことはあったが俺は無傷のまま、目に見えるところだけではなく見えないところにも傷一つ付いていない。
頭に犬の耳を生やし、首には首輪とリードを付けられているが。
「念のためにと思ってだけど持って来ておいて良かったわ。すぐに目移りしちゃうようなダメ犬の手綱はしっかりと握っておかないといけないって、死んだお母さんも良く言っていたし」
「お、それはもしかして沙条さんの事か?」
「何でそんなに平然としてるのさ……」
「だって俺が悪いのは自覚してるし。このくらいで済むのなら安いものだろ」
嫉妬からくる暴力でも振るわれるのではないかと覚悟していたが、まさか犬の耳と首輪を着けさせられるとは予想外だった。幸いにも首輪は苦しくなく、リードを握っている愛歌はご満悦の表情を浮かべている。これならば俺の羞恥心が死滅するだけで済みそうだ。
「えっと……似合ってるよ?」
「そりゃあそうよ。だって両夜に着けるために選んだのだからね!!……ところで貴女たちは誰なのかしら?」
「金髪の方がフェイト・テスタロッサ、オレンジ色の方がアルフ。御剣に絡まれてた近くにいたら絡まれたんで、逃げるついでに連れてきた」
「初めまして、フェイト・テスタロッサです」
「私はアルフ、宜しくな」
「沙条愛歌よ。先に言っておくけど、両夜は私のだから渡さないわ!!」
「ちょっと落ち着こうか」
俺の前に立って2人に向かって威嚇するように宣言する愛歌を後ろから抱き締める。始めは理解していなかったが、その事を認識するとボンッと、首から上が真っ赤に染まった。割と俺への好意を公開しているが、逆にこちらから攻められるのには滅法弱いのだ。抱き着きだけではなく、少しアダルティーな感じで指を絡ませながら手を繋ぐだけでも顔を真っ赤に染め、借りてきた猫のように大人しくなる。
「悪いな、俺の連れが暴走して」
「そんな事ないよ」
「世の中には色んなタイプの人が居るって改めて認識したよ……」
「そういえばさっきの友達の件だけどな」
愛歌を大人しくさせたところでアルフから持ちかけられた話を蒸し返す。無自覚系ぼっちであるフェイトの友達になってほしいと頼まれていたのだ。交友関係を広げる事で心の支えを作ろうとしているのだろうアルフの考えには賛成だ。
「生憎と、俺って作ろうと思って作ってる訳じゃなくて、気がついたらなっていたっていう人間なのよね。だから、友達になろう!!うん!!で友達になったとしても、これって友達って言えるのかなぁ?なんて考えるわけよ分かる?あと愛歌、そのままグリグリやられると帯が解けてアダルティーな感じになるから止めてくれない?」
「嫌よ」
「嫌か……嫌ならしょうがないな」
「諦めちゃうんだ……」
やられっぱなしでは不服で反撃のつもりなのか、いつも何か愛歌は反転して俺に抱き着いていた。それにより帯が解けそうになっているので一旦止めて欲しかったのだが、一層強く抱き締められるだけだった。
このままでは露出ショタが出来上がってしまう。隙を見て帯を締め直そう。
「言いたいことは分かるけど……」
「だから、今日一日一緒にいようぜ。それで気兼ねなく話せるようになったら友達って事で」
生憎と胸を張って友人だと言える人間は桜木と愛歌くらいしか思いつかない。その彼らとだって、一緒に行動をしていて気がついたらそういう関係になっていたのだ。なら、フェイトとだってそういう関係になれるかもしれない。悪役だとか主要人物だとか、そういう小難しい事は一旦置いておいて、今日一日はやりたいようにやらせてもらうとしよう。
「お、そりゃあ良いね。見ての通りこの子は世間知らずで箱入り娘だから、色々と教えてあげてよ」
「アルフ、私は箱に入ってないよ?」
「取り敢えず天然さんだって事は理解した。愛歌もそれで良いか?」
「貴女がそうしたいと決めたのならそうしたら良いわ。ただし、さっきみたいな事はしちゃダメよ?次は愛歌ちゃんウィップでお仕置きするわよ」
どうやらあの凶悪極まりない触手の名前は愛歌ちゃんウィップに決まったらしい。愛歌の風貌で鞭と聞くとドMロリコン大歓喜の光景が出来上がるのだが、あの触手が使われると痛気持ちいいを通り越して人が死ねるのでご遠慮願いたい。
そもそも、俺は虐められるよりも虐めたい派なのだ。
「じゃあそこら辺探索しようか。本当だったら温泉の定番と聞いてる卓球でもやってみたいけど、ある場所がさっきの奴が居たところの近くだからな……」
「あははは……」
苦笑いするフェイトとため息を吐いているアルフの姿を見てこいつらも苦労しているなぁと、軽く御剣の所業に同情しながら、抱き着いている愛歌を引きずるようにして中庭の散歩をする事にした。
フェイトとアルフと出会ったのが昼頃、そこから散歩をしたり、桜木から御剣が強制排除された事を聞いて卓球をしたり、その際にアルフの胸に目が行ってしまった事を愛歌にバレて愛歌ちゃんウィップの刑が約束されてしまったり、卓球をして汗をかいたからと2度目の温泉に入ったりと時間を過ごした。始めの方は戸惑いがちであったフェイトだが、俺の前世で習得した詐欺師まがいの話術により徐々に警戒心を無くしていき、卓球をした時はガッツポーズをする程にはしゃいでいた。
そして夕食の時間になり、良かったら一緒に食べないかと誘ったのが30分前。現在では、少し顔を覆いたくなるような光景があった。
「沙条さん……!!」
それが俺の目の前で酒瓶を抱き締めながら眠っている沙条さんの姿だ。元々アルコールに弱かったのもあったが日頃の疲れが溜まっていたらしく、愛歌が二、三度酌をしただけであっさりと酔い潰れてしまったのだ。普段ダンディズム溢れる沙条さんが顔をだらし無く弛緩させながら眠っている光景は、彼に少しだけ憧れていた身からさせて貰えば複雑なものがあった。
「これで良いのよ。お父さんったら今日の旅行の為に結構無理をして予定を空けたみたいなのよ。身体を休めるのが目的なら、しっかりと休んでもらわないとね」
「たしかに最近は帰るのが遅かったみたいだけどさ……」
普段はぞんざいに扱っているのに、こういう時の気配りは出来るらしい。愛歌は押入れからタオルケットを取り出すと身体を冷やさないように沙条さんにかける。
常日頃の態度が塩なので嫌っているように見えてしまうが、やはり愛歌は沙条さんの事が好きなのだ。でなければ彼の体調を気遣って酔い潰したり、こうやってタオルケットをかけたりはしない。反抗期というべきか、精神が早熟しているというべきか、少しばかり周りよりも早く育っているのでそういう対応をしてしまうだけなのだ。
「フェイトちゃん、アルフおねーちゃん。これ美味しいよ!!」
「そうなの?ちょっと頂戴ね……うん、美味しい」
「いやぁ来てからずっと思ってたけどこっちの料理は美味しいねぇ」
綾香はすでにフェイトとアルフに懐いたようで、2人に挟まれながら料理を一喜一憂しながら食べている。これが美味しいあれが美味しいと一口食べる度に2人に報告する姿は見ていてとてもホッコリする。
こっそりとその様子を写真に撮って桜木に送ったら、チャットで読めない文字が返ってきた。
「綾香、ちゃんと野菜も食べなさいよ」
「アルフも食べないとダメだよ?」
「う……お野菜嫌い……」
「や、野菜なんて食べなくても生きていけるし……」
その瞬間、綾香とアルフはガッチリと手を握り合い、野菜嫌い同盟が結ばれた。
「そうなの……だったら、野菜を食べない綾香にはこの旅館自慢のデラックス温泉パフェはあげられないわね……」
「お野菜食べりゅ!!」
「綾香!?」
しかしその同盟もデラックス温泉パフェの魅力には勝てず、あっさりと崩れ去る事になったが。
「それにしても、リョーヤは美味しそうに食べるね?」
「そうか?俺としては普通に食べてるつもりなんだけど」
「確かに、こう一口一口を味わって噛み締めてる感じ?」
そんなつもりは無かったのだが、指摘されてみると心当たりはある。前世で少年期に育ったところの環境は劣悪に劣悪を極めていた。命の危険なんてそこら辺に転がっていて、人権なんてものを語れば笑われてから肉袋のように扱われる、そんな場所だった。そんなところで何も力を持たない子供が満足に食べていけるはずがなく主食は食べられそうなものであれば何でも、腐りかけた残飯がご馳走という有様だった。
そんな環境で育ったからなのか、美味しいものを食べたいという欲求はあるし、長く味わっていたいという気持ちもある。それが彼女たちからすれば気になったのだろう。
そうやって楽しく食事を済ませ、綾香の持ってきていたトランプで遊んでいると夜も遅くなっていた。綾香はまだ遊びたがっていたが船を漕いで今にも寝落ちしそうだったので、また明日も遊ぶとフェイトとアルフと約束して倒れるように眠りに落ちた。
「……アルフ、そろそろ」
「何だ、もう帰るのか?」
綾香が寝たのを見計らってフェイトが立ち上がろうとしていたのでそこに声をかける。恐らくはここにきた目的であるジュエルシードの探索をしようとしているのだろう。
「うん、綾香ちゃんも寝ちゃったから私たちも寝ようかなって」
「だったらお茶でも飲んでけよ。まだいると思って人数分用意したんだ」
少しだけ迷ったそぶりを見せながら、それでもお茶の一杯なら良いかとフェイトは湯気が立つお茶の入った湯飲みを手に取り、息をかけて冷ましながら飲む。一口、二口と少しずつ飲んでいたが、湯飲みが空になった頃には顔を真っ赤にし、フラついたかと思ったらその場で倒れた。
「フェイト!?リョーヤ、何をしたんだ!!」
「何をって、お茶の中にお酒入れたんだよ」
チャポチャポと中身のまだ残っている徳利を揺らしながら悪びれもなく言う。あのまま帰していればフェイトたちは目的であったジュエルシードの捜索に向かっていた。だが、ここにあったジュエルシードはすでに俺が回収している。見つからないジュエルシードを探させるわけにはいかないと、こうして沙条さんの飲み残しであるお酒を使ってフェイトを酔わせたのだ。
「見たところフェイトは疲れてるみたいだったからな、少し強引だったけどこうさせて貰った。流石に友達が疲労で倒れるなんて目覚めが悪いからな……てかアルフ、体調管理くらいしっかりしろよな?」
「うっ……だ、だってフェイトがやる事があるからって……今日も本当だったら休ませるつもりだったんだけど……」
「押し切られかけてるじゃねえか……だからこうやって酔わせたんだよ。フェイトがここまで弱かったのは予想外だったけど。そのまま布団に入れて朝まで寝かせてやれ。基本的な生活習慣を改善しないと焼け石に水とはいえ、しっかりと寝かせてやればマシになるだろ」
「分かった……フェイトの事、ありがとうね。リョーヤ」
「友達だからな」
少しだけ恥ずかしさを感じながら、フェイトを抱えて出て行くアルフを見守る。アルフは休むのかは分からないが、フェイトはこれで休めるだろう。原作でも彼女はギリギリまで追い詰めていたのは覚えている。これで少しでも休めれば幸いだった。
「今日会ったばっかりの子に優しいわね」
「したいように行動してるけど、打算も混みだからな。あいつがここで潰れるのは俺としても不利益になるんだよ」
魔法による監視、盗聴が無いことを確認してから綾香を寝かせてきた愛歌に話しかける。徳利を口につけて中身を飲むが、地酒なのか度数は然程高くなく、後味のスッキリとした清酒で中々に良い酒だった。
「あれやこれやを気にかけてやらないといけないんだよ」
「分かってるわよ……」
「何だ、嫉妬してるのか?」
「してるわ。だから……」
掛け布団を引っ張りながら愛歌は俺の膝の上に乗り、それに包まる。2人とはいえ子供の身体なので、余裕を持って包まれることになった。
「今日はこうして一緒に寝ましょう?」
「了解です、お嬢様」
逆らう理由も無かったのでその申し出に従い、リモコン操作で部屋の電気を消してそのまま寝る事にした。
トクントクンと、密着する事でより強く感じられる愛歌の鼓動。それを子守唄代わりに聴きながら。
シリアスっぽい場面もあっただろ?これ、全部カガっちは犬耳首輪装備でこなしてるんだぜ?
原作でもフェイトそんは結構追い詰められているイメージがあったのでお酒の力を借りて無理やり眠らせました。喫煙飲酒は二十歳から、私との約束だぞ!!
評価がモリモリ送られて、ランキングにも載って嬉しい限りです……ヴァルゼライド閣下なら出来たぞ?(光の奴隷並感