道化の名は必要悪   作:鎌鼬

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third title・2

 

 

御剣と赤城が倒された後の彼らの反応は、命を賭けた実戦経験がほとんどない者とは思えない程に早かった。ジュエルシードを回収しようとしている者たちと奪おうとしている者たち、互いの仲間に視線を向け、恐らくは念話で短い会話を交わし、それぞれが違う行動を選んだ。

 

 

黒須、高町、ユーノの3人はその場に残り、構えて交戦の意思を示した。ジュエルシードの危険性を知っているから、それを奪おうとしているように見える俺の事を放っておかないと判断したのだろう。黒須が前に出て長剣型のデバイスを構え、その後ろに高町とユーノが立つ。接近戦を主としている黒須が前に出て、砲撃とバインドによるサポートの高町とユーノが後方に控えるというのは定石通りなのだが悪くない判断だった。

 

 

対するフェイトとアルフだが、()()()()退()()()()()。敵である俺に背中を向け、なりふり構わずに全力でこの場から逃げ出す。俺がジュエルシードを封印して確保した事で、この場のジュエルシードは諦めたらしい。戦力が未知数の俺と戦うのは得策ではないと考えての行動だろう。その行動は慎重を期するのであれば間違いでは無かった。

 

 

フェイトたちを攻撃する事は出来たがその即断を讃えてそのまま見逃す事にする。ジュエルシード争奪戦に本格的に参加するつもりならば彼女たちをこの場で処理した方が良いのだろうが、俺の目的はあくまで俺の存在を知らせる事。ジュエルシードを確保したが、それは興味深いからという理由で2つもあれば十分なのだ。今回のように爆弾の近くでガンパーティーするような事がない限りはこれ以上俺は介入するつもりはない。

 

 

逃げ出していくフェイトの後ろ姿を見て高町が悲しそうな声を出していたが、ユーノに叱咤されて改めて俺に注意を向ける。桜木に聞いた話では高町と同い年くらいだと聞かされていたが、どうも戦いの基本というものを理解しているようだ。遺跡の発掘をしているらしいから、その最中で原住民族とかち合う事があったのだろうか。

 

 

「three、two、oneーーー」

 

 

緊張感が高まり、黒須が飛び出す為に僅かに重心を移動させた瞬間、カスパールを持っていない手を前に突き出して指を折りながら3カウントを取りーーーゼロになった瞬間に短距離転移(ショートジャンプ)で高町の隣に移動し、頭に銃口を押し当ててゼロ距離射撃を行う。

 

 

なんでもありの戦闘経験は間違いなく俺の方が多いのだが、この世界の魔法を使った戦闘においては向こうの方が多い。加えて数の方も一対三と向こうの方が有利である。馬鹿正直に真正面から戦えば向こうに圧されることは目に見えている。故に黒須から動き出す事で奪われそうになっていた主導権を動き出す瞬間に3カウントをする事で奪い取り、正面から短距離転移(ショートジャンプ)による奇襲でイニシアチブを取った。

 

 

出来る事ならばこれで高町が落ちてくれれば良かったのだが、魔力弾を食らって仰け反った程度で然程ダメージを負っていないように見える。バリアジャケットの防御が赤城よりも厚いらしい。一応アンチマテリアルライフルを想定している威力なのだがこの程度で済ませられるとは自信が無くなってしまいそうだ。

 

 

なので追加。突然の奇襲を受けて何が起きたのか把握し切れていない高町の頭部に更に魔力弾を叩き込む。

 

 

カスパールは引き金を引き続ければマシンガンのように連続して撃てるように設計している。故に銃口を高町の頭部に向けたまま引き金を引き続ければ、秒間20発射出可能な魔力弾の全てが頭部に目掛けて放たれる。流石に防御が高いとはいえ集中して頭だけを狙われればダメージは積もる。脳震盪でも起こしたのか、高町は意識は残しているもののその場に崩れ落ちた。

 

 

「なのはーーーッ!!」

 

 

この奇襲を目の当たりにし、真っ先に正気に戻ったのはユーノ。フェレットの姿のまま高町の側へと駆け寄りながら、俺を拘束する為にバインドを何重にも重ねがけする。それは力任せ魔力任せに行使されるものではなく、どこをどの様に止めれば暴れにくいのかを理解した掛け方だった。より少ない労力で大きな相手を抑え込む。まさしく理想的な拘束の仕方。力任せではこの拘束からは逃れ辛く、下手に手を出さずに黒須が正気に戻ってやって来るまでの時間稼ぎに努めているのがよく分かる。

 

 

だからこそ、今回は相手が悪かったとしか言えない。

 

 

俺を縛り上げるバインドーーーそれらが()()()()()()()()()()

 

 

「なーーー」

 

 

何が起きたのか理解出来ていないユーノを蹴り飛ばす。愛歌の悪性情報による汚染を飲み込んだ影響で、俺の身体にも悪性情報の魔法を汚染して不発にさせるという効果が出ている。砲撃系の魔法の様な魔力を叩きつける系統の魔法であるのなら魔法そのものが維持できなくても魔力そのものをぶつける事は出来る。しかしバインドの様な攻撃性を持たない魔法であれば、俺の身体に触れた瞬間に悪性情報に侵される。

 

 

仮にユーノが攻撃性のある魔法を使っていれば結果は変わったかもしれないが、不得手なのか監視している最中で彼がそんな魔法を使った所を見た事がない。そもそも使えていればジュエルシードに負けて誰かに頼るということは無かったはずだが。

 

 

ともあれ、これで高町とユーノは無力化した。御剣も赤城も目覚める気配は無く、残されたのは黒須1人だけ。転生してからずっと知りたかった俺の対抗者の実力をようやく知る事が出来る。

 

 

「オォォォォーーーッ!!」

 

 

一気呵成と言わんばかりに魔力をジェット噴射の様に噴出させて迫る黒須。俺の目が錯覚で無ければ噴出された魔力が炎となって燃え上がっている様に見える。

 

 

『ーーー解析完了。あの炎は魔力変換によるものです』

 

「燃え滾る正義感ってか?物理的に燃え上がるとはたまげたものだ」

 

 

その姿はまるで自身を薪にして燃えている様で、酷く痛々しく見えた。

 

 

だがそれはそれ、これはこれというやつだ。痛々しく見え、そう思っただけでそれ以上は何も感じない。

 

 

黒須が間合いまで詰め、切りかかって来る瞬間に短距離転移(ショートジャンプ)でその一閃を躱し、背後から撃つ。高町を倒した魔力弾の連射、それを黒須は長剣に炎を纏わせながら振るい、炎の壁を発生させる事で防ぐ。距離は離れていたがその熱量は膨大で、火傷を負ってしまいそうな程。

 

 

飛びかかって来る火の粉を空いていた手で払いのけーーー死角から迫ってきた黒須の斬撃をカスパールを盾にして吹き飛びながらも防ぐ。

 

 

「技術、柔軟性は十分だな」

 

 

あの炎の壁は魔力弾を防ぐだけでは無く、自分を隠す為にも使われていた。そして俺が姿を見失った隙に死角に回り込み、一閃。

 

 

さらに振るわれた剣は僅かに2度だけだが、十分に鍛錬を重ねて研鑽された技術を感じさせた。黒須の実家は剣術家で、教わっていたことを知っていたが剣の練度だけで言わせてもらえば()()()()()()()()

 

 

それに関しては仕方がないと諦めるしかない。俺は幽霊である士郎さんから教えられているが、それは全て口頭か士郎さんが手本を見せてくれるだけ。それに対して黒須は生きている人間から教わり、手合わせも経験している。実戦に程近い環境で剣を振るう事に関しては向こうの方が先を行っているのだ。それは幽霊で身体を持たない士郎さんとは出来ない事。時折手合わせの様な事を士郎さんとはやっているが、実際にぶつかり合える訳ではないのでどうしても遅れてしまうのだ。

 

 

「まぁそれだけだけどな」

 

 

接近戦の練度に関しては向こうに劣ると理解した。なので()()()()()()()()()()()

 

 

始めに見せた魔力放出による移動を警戒しながら一定の距離を保ったままカスパールの引き金を引く。黒須は高町の様に遠距離、中距離からの攻撃を持たないのか、どうにかして俺に近づこうと魔力弾に被弾しながら向かって来るが、向かって来た分だけ俺が距離を開けるので届かない。黒須の土俵で戦えばこちらが不利になると分かっているのだから、黒須の土俵で戦わない。明らかに向こうが弱いのなら敗北からの成長を期待してわざと相手の土俵で戦うことをするのだが、生憎と俺では敵わないと悟ったのだ。

 

 

故に黒須の剣が届かない位置から攻撃する。

 

 

前に進もうとする足を、

 

剣を握る手を、

 

力を込めている腹を、

 

気合いを叫ぶ喉を、

 

睨めつけて来る目を、

 

呼吸をする肺を、

 

鼓動している心臓を、

 

 

一撃で止まる様な柔な精神をしていないと直感で察して、削ぎ落とす様に少しずつ身体を動かすための力を削る。

 

 

そうやって数分後には非殺傷設定のお陰で無傷だが、満身創痍の状態で地面に転がっている黒須の姿があった。

 

 

「あ……ぁぁ……ッ!!」

 

「まだ動こうとしているのか」

 

 

立つのもやっとな状態でありながら前に出ようとして何度も転げ回った影響で全身は泥まみれ。そんな状態でも剣を手放していないのは素直に感心する。黒須の挙動を警戒しながら近づいてしゃがみ込む。動かそうとしているのに動けない黒須だが、前世ではこんな状態なのに平然と動き回れる様な奴を知っているので警戒を解かない。

 

 

「なぁ、お前は何がしたいんだ?同類」

 

 

同類と、自分はお前と同じ転生者だと暗に告げながら動く事のできない黒須に問い掛ける。本当ならば黒須が動けなくなったところで撤退するつもりだったのだが、気になることが2つ出来たので訊ねる事にしたのだ。

 

 

1つ目は、どうして善神側の転生者になったのか。人とは苦痛よりも楽な事を選ぶ生物だ。正しい事は痛くて辛く、間違っている事は楽。だからこそ、人は間違っていると知りながらも間違った事(楽な方)を選ぶ。善神側の転生者として生きるという事は苦痛しかないいばらの道を歩くのと同意義。何故そんな道を選ぶ事が出来たのか、それが知りたくなった。

 

 

2つ目は、妙な感覚があったから。高町程の防御力を持たない黒須は、アンチマテリアルライフル級の威力を持つ魔力弾を受けながらも戦い続けた。己を顧みず、目の前の敵に向かって真っ直ぐに挑むその姿に……()()()()()()()()()()()()

 

 

気になった、知りたくなった、だから訊ねた。聞こえているのか、答えてくれるのか分からない。だが、どうしても聞かずにはいられなかった。

 

 

「僕、は……俺は……なるんだ……」

 

 

意識がハッキリしているのか混濁しているのか分からないが、黒須から掠れた声が聞こえてくる。喉を痛めつけ過ぎたかと自分の行動を少しだけ後悔して、一言一句を聞き逃さない為に集中する。

 

 

「あの人の……様な……後悔しない……皆んなを守れる……正しい……道を歩ける……英雄に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーガリア・オールライトの様な英雄に……!!」

 

「ーーー」

 

 

ガリア・オールライト。その名前を聞いた瞬間に頭の中が真っ白になった。そして思考する力が戻ったと同時に驚愕と納得する。

 

 

驚愕の理由は、その名は俺の前世で現代に現れた英雄と世界中に称された男の名前だったから。まさかこの世界でその名前を聞くとはカケラも思わなかったのだ。

 

 

そして納得の理由は、ガリア・オールライトの様になりたいと聞いたから。それならばお前があいつの様にーーー()()()()()()()()()()感じたとしてもおかしくは無い。

 

 

「クーーークハッ、ハハッーーーアハハハハハーーーッ!!」

 

 

全てが繋がった。まさかの因果を感じてしまい思わず笑いが溢れてしまう。成る程、あいつを目指しているのならば善神側の転生者として転生したことも、その対抗馬として俺が選ばれた事も納得出来る。

 

 

「成る程成る程、ガリア・オールライトが貴様の憧憬か!!」

 

 

公明正大、滅私奉公、絶対正義の体現者。あらゆる悪を憎み、あらゆる悪を許さず、あらゆる悪を切り捨てる正義の使徒でありながら、()()()()()()()()()()()()()()()。そんな人間に憧れ、そんな人間の様になりたいと誓っている人間の相手なんぞ、俺以外に出来るものなんて存在しない。

 

 

倒れている黒須の髪を掴み上げて顔を起こし、鼻先が付きそうなほどに顔を近づける。黒須の目には未だに炎の様に燃え盛る光が宿っている。悪役(ヒール)としての役割はどこかで頼まれたからだと考えていたが、その考えはこの瞬間から切り捨てる。善神と悪神の役割なんぞ知らん、世界の崩壊なんてどうでも良い。

 

 

この瞬間から、黒須との対峙は俺と黒須だけの物になる。

 

 

「ならば予言してやろうーーー噎び泣け、貴様の最果ては英雄だ。天上に燃ゆる太陽を思い、焦がれ、焼かれながら黄泉路へと堕ちるが良い。この俺、()()()()()()()()が祝福してやろう」

 

「ーーーアク、ロ……!!」

 

 

前世の名前を告げた瞬間に、黒須の目に怒りの色が混じる。前世で俺と何かしらの関わりがあったのだろうか。因果なものだと思いながら黒須を投げ捨て、湧き上がる興奮を抑えながらこの場から立ち去った。

 

 

 






奇襲、相性、ガンメタによる完全勝利。正々堂々なんて投げ捨てているが、作者はこういうのはされても対処出来ないのが悪いと考えるタイプなので。非殺傷設定があって良かったね!!無かったら死んでたぞ!!

因果とは収束するもの。転生しても途絶える事なく、影法師の様に付いてくる。

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