「いい加減、機嫌直せよ。てか、休みがこれだけで潰れたんだけど?」
「う〜!!」
「お願いだから人語で話してくれない?その言語はちょっと俺には早過ぎるから」
リビングのソファーに腰を下ろし、その上から愛歌が座る。そしてそれを後ろから抱き締めるというのが彼女を慰める時のお決まりの体勢となっていた。朝のアルフの胸部装甲によるショックから未だに立ち直ることが出来ず、せっかくの休日だというのに愛歌を慰める事で1日を使い潰してしまった。別にやりたい事があった訳でもなく、今日は土曜日で明日も休みなのだがどうしても損をしている気分になってしまう。
朝からこの姿勢になって夕方まで続けているのだが、辛いとは感じていない。愛歌は軽く、見ているこちらが心配になりそうな程に細身の身体をしている。殆どが自己流とはいえ鍛えている俺からすれば、この姿勢を一日中続けていても然程苦痛には感じない。
「リョーヤ、マナカ、ちょっと出掛けてくるね」
「てかあんたらまだその格好でいたのかい?」
「捥ぐわ」
「止めろよ」
アルフの姿を視界に入れた瞬間に即答するあたり、今日はダメージが大きかったのだろう。愛歌の目には躊躇いが感じられず、俺が抱き締めていなかったら宣言するのと同時にアルフに飛びかかり兼ねない凄味を感じさせていた。
本当に止めてほしい。あんな立派な胸を捥ぐだなんて勿体無いから。
「出掛けるっていうけど飯はどうするんだ?」
「出掛けたついでにアルフと食べてくるから大丈夫だよ」
「両夜、折角だから良いお肉を買ってきて焼肉しましょう」
「フェイト、別にご飯食べてからでも良いんじゃないかな?」
「アルフ……」
焼肉というワードを聞いた瞬間、迷う事なくアルフは目を輝かせながらそう提案してきた。初対面ではお姉さんっぽいなぁ、なんて感じていたのだが、我が家に泊まるようになってから食事に対する貪欲さを見る限りではただの食いしん坊にしか思えなくなっている。事実、そんなアルフを見るフェイトの目も憐れなものを見ているようなそれになっている。間違っても身内に向けるような目では無かった。
だけど俺は見逃さない。フェイトも焼肉というワードを聞いた瞬間に僅かに反応していた事を。
ジュエルシードを探す事に熱心だったせいなのか、フェイトの食生活やら生活習慣はかなり乱れていた。魔導師について知らないという俺たちと一緒に暮らす事で生活を合わせる必要があり、そのおかげでいくらか改善されたからなのかフェイトもアルフ程ではないが食事に対して楽しみを覚えているようだった。
「心配せんでも取っておいてやるから、明日の昼にでも食べればいいだろ?」
「そう、だね……アルフ、行こう」
「リョーヤ!!お肉取っておいてくれよ!!」
「焼肉の匂いが充満した部屋で待っているわよーーー空になったパックと一緒にね!!」
「マナカァッ!!」
愛歌の煽りのせいで見た目成人女性VS少女のキャッツファイトが行われそうになったのだが、それよりも先にフェイトがアルフを引き摺って行った事でそれは未然に防がれた。その時にフェイトが身体強化の魔法を使っていたのだが突っ込んではいけないのだろう。
「愛歌、少し煽り過ぎじゃないか?」
「だって……アルフの胸がぁ……」
「何でまだまだ成長の余地があるのにそんなに胸に対してヘイト稼いでるのさ」
「……私のお母さん、胸が小さかったのよ」
愛歌の胸に対する異常な怒りの正体が分かった。要するに胸が成長しない可能性に危機感を覚えているのだろう。身体の成長は個人差があるとはいえ、親の遺伝によるものが大きい。母親が小さかったから自分も小さくなるのではと考えて、その結果胸への憎しみに繋がっているのだ。
「それに、両夜は胸の大きい人が好きみたいだし……」
「好きかどうかは置いておいて、確かにデカいのに目が行くのは認める」
「認めちゃうのね……」
「男だからな」
女性の胸の大きさというのは孔雀の羽根のようなものだとどこかで聞いた事がある。孔雀の羽根が派手なのは、それで異性の目を惹くためだという。つまり、胸の大きな女性は男性の目を惹こうと胸を大きくしているのだ。よって俺が大きな胸に目を惹かれてしまう事はおかしな事ではない、健全な事だと完璧な理論を展開する。
そもそも俺の精神はすでに成熟しているのだ。肉体的には未成熟で精通も済ませていないショタボディーであるが精神年齢は今世と前世を合わせれば三十路を超え、来年には四捨五入すれは四十路に突入するところまで行っている。故に成熟していない愛歌よりも、成熟している女性に目が行くのは仕方の無い事だ。
だけど、まぁ、
「別に愛歌の胸の成長が絶望的だとしても、気にしないけどな」
「……それは異性として見ていないからという意味でかしら?」
「いや、お前に対する感情は変わらないっていう意味で」
だからといって、愛歌への想いは変わる事はない。確かに立派な胸に目を惹かれることは認めるが、それは愛歌への想いが無くなったということでは無いのだ。
前世ではマーリン以外に抱く事が無かった誰かを愛おしいと、傷つけたく無いと、大切にしたいという感情。精神年齢三十路越えの俺が10にもなっていない愛歌に恋をするというどこからどう見ても事案案件であるのだが、この気持ちを隠すつもりも偽るつもりも欠片も無い。
俺は沙条愛歌の事を愛している。それはきっと、彼女から拒絶されたとしても変わることの無いだろう。
『おやおや、前世じゃあ30になっても女の気配の無かった君がこんな愛らしい少女の事を好きになるだなんてねぇ……結婚するならアヴァロンで用意しておくよ?来賓にアーサー王でも呼ぼうか?きっと祝砲代わりにカリバーしてくれるよ』
夢でしか会えないはずのマーリンの声が聞こえたのだが無視する事にする。彼女の事だから夢の中で結婚したいと言えば全力で頑張ってくれるだろうがまだ早過ぎる。ハウスと念じると、ハッハッハ……なんていうどこか胡散臭い笑い声と共に彼女の気配が遠くなっていった。
油断していたら現実の世界にやって来そうである。こう、徒歩で来たとか言って。
それよりもエクスカリバーを祝砲代わりにするんじゃない。
「……」
「どうしたんだ、急に黙って……まぁ耳が赤いから照れてるのは丸分かりなんだけどな」
「もぅ……!!両夜ったら唐突に恥ずかしげもなくそういう事言い出すから卑怯だわ!!ゼロ距離から砲撃喰らった気分よ!!」
「想いなんてものはな、言葉にしないと通じないんだよ。だから恥ずかしげもなく言わせてもらうのさ」
「ーーーッ!!」
恥ずかしさと嬉しさがごっちゃになってしまって何を言っていいのか分からなくなったのだろうか。愛歌は顔を赤くしながら俺の胸に顔を埋め出した。それを拒む理由も無いので受け入れ、彼女のやりたいようにやらせる。
すると、リビングの入り口の方から視線を感じた。
そこにはニヤニヤといやらしく笑う桜木の姿があった。
「不法侵入か?」
「この
『暇だったから遊びに来たんですけどお邪魔だったみたいですね。お馬さんに蹴られる前に逃げますから、終わったら連絡してーーーって!?』
いつものように王様口調で語りかけて見世物でも見ているように楽しげに語っていた桜木だったが、自分の影が競り上がり、足元に絡み付いているのに気がついて顔色を変える。
「出歯亀は嫌われるわよ、桜木君?……乙女の至福のひとときを邪魔した事への報いを受けなさい」
誰が何をしたなんて確認するまでも無く分かるーーー愛歌だ。桜木がさっきの光景を見ていたことに気が付き、ネタとかノリとかでは無く機嫌を悪くしている。わざわざ悪性情報を使って桜木の動きを拘束し、更に魔法の展開を阻害している辺り本気度が伝わってくる。
悪性情報に触れると魔法だろうが生身だろうが容赦無く汚染されるはずなのだがそれは暴走状態の時に限った話らしく、愛歌の理性が保たれているならば悪性情報を使用しても汚染をある程度コントロール出来るようだ。現に悪性情報の触手が触れている桜木の服は朽ちることなくその姿を保っている。
「ま、待て!!流石にそれはやり過ぎては無いーーー」
『待って!!謝ります!!謝りますからそれだけは御勘弁を、ご慈悲をーーー』
「問答無用ーーー!!」
許しを乞うていた桜木だったが、愛歌は聞く耳を持たずに腕を振るうと桜木の姿が消えた。
そして廊下の奥の方から桜木の悲鳴と、聞いているだけで精神が不安になりそうな生々しい音が聞こえてくる。
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」
家に張り巡らせている隠匿の魔術が問題無く作用している事を確認し、悪性情報を使っても愛歌の存在が外にバレる心配は無い事を確かめる。
俺に出来ることは廊下の奥の方で地獄を味わっているであろう桜木の冥福を祈る事くらいだった。
前回の後書きでも書いていたはずなのにほのぼの書いちゃったよ!!書きたい事をかけて幸せなんだけど話が進まねぇ!!
中身三十路越えのショタが9歳の愛歌ちゃまに恋をしているとかいう事案判定の難しい事態。
それにしても前回感想欄が愛歌ちゃまへの励ましに溢れていたことに笑いが止まらない。