「さって、どうしようかねぇ……」
リビングのソファーに腰掛けながらそう呟くが、それに反応して返してくれる人物は誰もない。フェイトとアルフは時空管理局が来たからか、
現在の海鳴の町には管理局員の人海戦術によるジュエルシードの捜索が行われている。認識阻害を施したいい歳の大人たちが飛行魔法でビュンビュンと飛び回っている光景は見えている俺からすれば大笑い物なのだが、1つでも地球を滅ぼせるジュエルシードがまだ未封印の状態で放置されているのだから笑い話にはならない。
その時に高町と黒須が管理局員たちと共に行動をしているのを目撃した。どうやら今回の件は局員だけでの解決は難しいと判断されたらしく、現地の協力者として彼らの助けを求めたようだった。反対に赤城と御剣は普段通りに生活をしているのだが感じられた魔力は以前よりも大幅に減少していた。どうやらこの間の行動が原因で魔力封印処分を受けたらしい。
管理局の法律に当てはめれば公務執行妨害でしょっぴく事も出来たはずなのにそれだけで済ませると言う事は法律に当てはめる事をせずに、だけど見逃すわけにはいかないと取られた苦肉の策なのだろう。これで2人は以前のように膨大な魔力に任せた戦い方をすることが出来なくなった。封印処分が解かれるまでは気にしなくても良いだろう。
問題なのはこれから先、どういう風に行動をするべきなのかだった。管理局員の目に関しては最初の2人の他に2組程〝質問〟をして彼らの識別コードを入手したのでレーダー上に限って言えば誤魔化す事ができる。知りたかったプレシア・テスタロッサが居る時の庭園の座標に関しても、フェイトが時空管理局が来た事を報告する為にか転移魔法を使用していたのを解析する事で知ることが出来た。その気になれば今からでも乗り込むことが可能である。
ジュエルシードに関しても、未回収の場所は把握出来ている。海鳴全体に広げておいた魔術の結界のお陰で判断が付く。市内には残り2個、海の方に5個程反応がある。俺が保持しているのは愛歌に取り憑いた結果魔力を無くした3つと合わせて5つ。なので計算上では時空管理局側とフェイト側と合わせて9個確保している事になる。
今の局面はストーリー上で言うのなら佳境を迎えた頃だろう。下手に手を出して遅れが発生すれば何もかもが台無しになってしまうという予感がある。ならば静観しているのが正解なのだろう。だがストーリー任せにしてしまえば間違いなくフェイトが鬱展開に放り出される事になる。流石に友人がそんな展開に陥るのを知っていて何もしない程に人でなしでは無いつもりだし、こんな状況で何もせずに見ているだけと言うのは
どうせならば物語は大団円で終わるべきだ。苦難を乗り越え、悲しみを踏破し、残った誰もが笑いながら喜び、未来を見据えて生きていく。そんな終わり方が好ましい。
どうやって動けば物語が大団円で終わり、尚且つ
一番丸く済むのは時空管理局が時の庭園に突入した時に乱入する事だろう。管理局員とプレシアを纏めて倒し、ジュエルシードを総取りにするようなロールプレイをすれば嫌でも俺の事を敵認定してくれる。黒須に俺の前世の名前がアクロ・ダカーハである事を告げてあるので間違いない。問題なのはそうしたところでフェイトを取り巻く環境は何も変わらないという事。フェイトがプレシアの実子のクローンであると言う事も、プレシアはフェイトの事を娘として見ていない事も、何一つとして解決しない。それらの事実がプレシアの口から語られる前にプレシアを倒すというのも一つの手だが、フェイトを悲しませたくない以上俺はプレシアを殺さずに管理局へと引き渡すつもりでいる。そうなってしまえばいずれ尋問でその事を告げられ、遅かれ早かれフェイトの耳に届いてしまうだろう。
ならば悲しませる覚悟で、恨まれる覚悟でプレシアを殺して保管されているプレシアの実子の死体を処分する。そうすればプレシアの心境と真実はフェイトに届く事なく終わる。しかし、時空管理局が黒幕がプレシアであると分かった時点で彼女の経歴を調べるのは目に見えている。実子のクローンであるフェイトの存在はプレシアの経歴の中には存在せず、残された研究の内容からそういう存在なのではないかと推測されるのが目に見えている。何よりも、これでは過程が変わった程度で
「はぁ……頭痛くなってくる。俺ってばこう、もっとその場の勢いとかノリとかで行動するタイプの人間なのにねぇ……あぁヤダヤダ!!もっとヒャッハーしたぁい!!頭空っぽにして行動したぁい!!超時空戦艦アースラ乗っ取って、〝戦艦落とししようぜ!!目標時の庭園な!!〟とかやりたぁい!!」
「止めんか戯けが。その様な事をしたところで得られるのは其の場凌ぎの快楽でしかないぞ」
管理局員に〝質問〟をして得た情報を纏めた資料と、これからの行動を整理するために書いていた紙を放り投げてソファーに転がると、誰も居ないはずなのに声が聞こえて来た。顔を上げてそちらを見れば、そこには桜木が立っていた。
愛歌に触手でお仕置きされた時の事を思い出してしまい、吹き出してしまう。
「待て貴様、今何故笑った」
『加賀美さん、今なんで笑ったんですか?』
「この間の愛歌ちゃんウィップによる桜木の処刑を思い出して」
「あの日は、何も、無かった。いいな?」
『愛歌ちゃんウィップ……処刑……触手責め……あ、頭が……!!』
変わらぬ反応をしてくれる桜木の中身は兎も角、いつも傲慢な表情を浮かべている外面さえ冷や汗をかいてあの日の事を無かった事にしようとしている辺り、愛歌ちゃんウィップによるお仕置きは相当に効いたらしい。
どうしようか一瞬だけ迷い、面白さを優先するべきだと判断してネタにする事に決めた。
「まぁ兎に角座ったらどうだ?生憎茶も菓子もアルフが全部消費したせいで出せる物は無いけど」
「あの駄狼め、あれ以上肥えてどうするつもりなのだ?」
『接触するつもりは無かったんで会っては無いですけどアルフのスタイル変わってなかったんですよね……胸以外は』
「詳しく聞かせてくれ」
「良いのか?貴様の女に話すぞ?」
『愛歌様の怒り狂う姿が目に浮かぶのですが……』
「無しだ無し!!やっば無しな!!代わりに触手責めの事はネタにしないから!!」
「貴様ァッ!!」
『それネタにしたらバビロン待った無しですよ?宝物庫全開放しちゃいますよ?』
一通り話したところで不快そうに鼻を鳴らしながら桜木は俺の向かいのソファーに腰掛ける。流れる様に自然な動作で脚を組む姿は子供の姿では似つかわしくないはずなのに優雅に見え、支配者階級の人間の風格を漂わせていた。
「で、こんな時間に何の用だ?てか学校はどうしたんだよ」
「何、我が友が悩んでいる気がしたので先達として相談に乗ってやろうと考えただけの事よ……暇潰しも兼ねてな」
『そろそろ加賀美さんが悩む頃合いかと思って相談に乗ろうと思って来たんですよ。学校なら仮病で休んでおきました』
そう言って桜木は俺が投げ捨てた紙の内の一枚を無造作に手に取る。拾われたのは偶然なのか俺がこれからどんな行動を取ろうかを考える為に書いていた紙だった。
「あの2人を救う腹積もりだったのか?全くもって笑わせる。過去に囚われた女と考える事を放棄した紛い物、そんな物を救って何とするというのだ」
『フェイト救済ですか……無理ゲーですね。二次創作なら親バカになってるプレシアもあり得ますけど、原作の彼女はアリシア一筋。フェイトの事は完全に代用品としか見ていません。何気に親の言う事だからって疑いも無しにジュエルシードを集めようとするフェイトも厄ダネなんだよなぁ』
「
「いや、何も悪くは無い。幸福を得ようと努力するその姿勢は人間として当たり前の姿だ。例えそれが己が器に不相応なものであれ、その遍くを
『ハッピーエンドを目指す事自体は良いことですよ。小綺麗で賢いバッドエンドよりも汚くて馬鹿なハッピーエンドの方が好きなんで。問題はそのハッピーエンドを迎えるのがクッソ難しい事なんですけどね』
「ホントそれな」
一番なのはプレシアに実子をーーーアリシア・テスタロッサの事を諦めさせ、フェイトの事を娘として見るように仕向ける事。それが出来るのならフェイトがアリシアのクローンであると暴露されたとしても、フェイトはプレシアに支えられる事になる。原作のように高町に支えてもらうのもありなのだが、下手をすれば依存症真っしぐらなので出来る事ならば避けたいところだ。
「過去に囚われて先を見据えぬ者に未来を向かせる事は並大抵の事では無いぞ?さて、どのようにするのだ?」
『ハッピーエンド迎えようと思ったらアリシアの事を諦めさせるのが一番なんですけどね、クローン作ってまでアリシアの事を生き返らせようとした彼女にそれが出来るのかどうか……一瞬でも良いからアリシアが生き返って、〝こんな事してるお母さんなんて大っ嫌い!!〟って言ってくれたら解決しそうですけど』
「死んでる奴に何を求めてるんだ……って、あ〜……」
「ん、どうした?何か思いついたのか?」
『何か思いつきました?』
思いついた。思いついてしまった。何故今の今まで思いつかなかったのかと自己嫌悪してしまう程に簡単でお手軽な手段を思いついてしまった。
何せ状況は違えど、似たようなシチュエーションの問題を俺は一度解決している。その時と同じ手段を用いれば良い。結果は前回と同じになるか分からないが、何もしないでこうして頭を抱えているよりはマシだろう。
「確実とは言えないけど一つ思いついた。もしもの時にはお前にも協力してもらう事になるけど、乗るか?」
「
『どんな方法を思いついたんですか?是非とも聞かせてください』
内外ともに俺の思いついた方法に興味を引かれたらしく、身体をやや前のめりに倒しながら桜木は尋ねてきた。
この方法は考えついた中で最も
だけど俺はそれを実行する事を選んだ。何故なら、それが成功した時の終わり方が最も
悲劇など少ないに越した事は無いーーー俺の生み出す悲劇以外は認めない。
嘆きに満ちた終わりなんぞ糞食らえーーー俺の生み出した嘆き以外は認めない。
仮に失敗した所で全ての責は俺だけにあり、
自分の思う通りに物事が進んで行く未来を求めて、俺はその手段を桜木に語った。
考えに考え抜かれたバッドエンドも悪くないんだけど、個人的には御都合主義的なハッピーエンドも好きでな。カガっちもそういう類の人間。尚、それに託けて悪行カウントを積み重ねるつもり。
ひょーかとかんそーちょうだい(直球