桜木に思い付いた手段を話し、内外ともにそんな事で良いのかと呆れられた後、俺は変身魔法で大人の姿になりその足でプレシア・テスタロッサの居城である時の庭園に来ていた。イメージとしてはRPGに登場するラスボスの居るダンジョンだと言えば良いのか、薄暗い室内に妙に広々と作られた空間を見るとそうとしか思えなかった。
無印のラスボスをプレシアだと捉えれば強ち間違いでは無いが。
時の庭園に到着するのと同時にハスターによる隠密魔法、魔術による隠形、技術による気配遮断を用いているので魔法的、人間的手段で見つかる心配はしていない。しかし機械による探索の場合には見つかってしまう可能性があるので用心しなければならない。それに、侵入者対策に仕掛けられている魔法にもだ。悪性情報による構築崩壊で魔法的なトラップによる脅威は無い。しかし、
幸いなことにトラップの類はハスターの探索で簡単に見つかるのでそれを回避しながら、床の擦れ具合による人の行き来の痕跡から最も人が向かっている場所を目指して進む。プレシアが拠点として使っている時の庭園にやって来る人間なんてフェイトとアルフくらいしか居ない。なのでこの痕を辿ればプレシアのいる場所まで辿り着ける筈だ。
ゆっくりと、焦ることなく、寧ろ上機嫌に鼻歌を歌わないように気をつけながら時の庭園内を進んで行く。そうして2時間程、普通に移動していれば10分そこらで済みそうな距離を行くと下層にあった大きな扉を見つけた。床擦れの痕は他の部屋に一切立ち入る事無くこの扉の中に消えているのでここが目的地なのだろう。念の為に耳を澄ませて中の様子を伺うと、1人だけ部屋の中に居るのがわかる。
『マスター、スキャニングの結果中の人物は高確率でフェイト・テスタロッサの血縁者……つまりプレシア・テスタロッサであると推測出来ます』
「そうか、それは良かった。空き巣みたいにコソコソ嗅ぎまわるのは嫌いじゃないが趣味では無いからな」
そもそもフェイトとアルフが海鳴で時空管理局の目を盗みながらジュエルシードを捜索しているのを確認してからやって来たのだ。帰還していない現在であれば、ここに居るのはプレシア1人だけになる。
カスパールがいつもの位置にあるのを確認し、無造作に、そして無警戒に扉を開いた。
部屋の中は玉座の間のイメージが似合う部屋だった。障害物が何も置かれず、中央には真っ直ぐに絨毯が引かれていて、その先にある玉座には窶れきった表情の年配の女性ーーープレシア・テスタロッサがつまらない物でも見るような目で、驚く事無く俺の事を見下していた。
「我が家にそこそことやって来るなんて一体誰なのかしら?」
「これは失礼、何しろサプライズが趣味なものでして。私はアクロ・ダカーハ、お好きなようにお呼び下さい」
「これは驚いたわ、コソ泥なのに最低限のマナーは弁えているのね」
「親しき仲にも礼儀ありと言います。なら、親しく無い間柄にそれが求められないわけが無いでしょう?」
その目には狂気が宿り、何があっても最愛の娘を取り戻すのだという意志力が燃え盛っている。だというのに彼女は狂気的な意志力を持ったままにどこまでも冷静であった。
侵入者である俺の事を警戒しながら使えるかどうかを見定めていて、万が一に備えて周囲に攻撃用の魔法を構築している。不審な動きをしたり、プレシアの眼鏡に敵わなければ即座にその魔法を起動させて俺の事を殺す腹積もりらしい。
一歩間違えれば死にかねない状況。今世では全く無く、前世では当たり前のようにあったこの状況に仮面の下に隠した口を思わず吊り上げてしまう。
そしてそれだけでは無く、プレシアの後ろで
「アクロ・ダカーハと言ったわね、一体なんの用かしら?ジュエルシードを求めているのならここには無いわ」
「いえいえ、ジュエルシードに興味は惹かれますが既に研究用の分は確保してあります。時空管理局が来た今ではこれ以上の行動は控えた方が賢明だと思いますので。私が来たのは別件ですよ」
返って来るのは無言だが、その目は続きを促していた。
俺とプレシアは初対面だがフェイトから俺の存在は報告されて知っているのだろう。乱入した時と同じ黄色のトレンチコートに蒼白い仮面というどこからどう見ても恥ずかしくない不審者スタイル。高町たちを倒してジュエルシードを回収出来る実力者である俺の協力を得られるのなら自分の目的を果たすことも可能だと考え、俺を自分の側に組み込んで利用しようとしているのが目に見えてわかる。
なのでえぇと、態とらしく間を空けてこちらに意識を集中させて、
「フェイト・テスタロッサ……そして、アリシア・テスタロッサに関してです」
容赦無く彼女の地雷を踏みつけた。
「ーーー」
彼女から放たれるプレッシャーが増大する。狂気的な意志力に突き動かされながらも理性を持ち合わせていた彼女の目から理性が消え、代わりに怒りが増していく。
プレシアはアリシアが死んでいると理解している。だからアリシアを生き返らせようと活動し、この過程としてクローンであるフェイトを作り出して絶望し、最後の望みとして歪んだ形であるが願いを叶えるジュエルシードに目を付けた。
故に、プレシア・テスタロッサの狂気とはアリシア・テスタロッサへ捧げる親愛。それに無関係の人間が土足で足を踏み入れれば怒るのは当たり前の事だ。
「……貴方、自分が何を言っているのか理解しているのかしら?」
怒りを燃やしながらもプレシアは威圧するように、それでいて自分を落ち着かせる様に話しかけて来た。聡明な彼女の事である。俺が無策で時の庭園にやって来ていないと頭のどこかで考え、実は管理局と何か繋がりがあるのではないかと予想し、怒りに身を任せて行動すればこの場所が管理局にバレるのではないかと己を抑えている。ジュエルシードが集まって無いこの状況で見つかるのはダメだと必死になって己を律していた。これらはすべて今の彼女の姿を見ての想像に過ぎないのだが強ち間違いでは無いだろう。
それらはすべて、頭が良すぎるが故に作り出してしまった妄想に過ぎないのだが。
「アリシア・テスタロッサに会いたいですか?彼女の声で母と呼ばれ、彼女の目で姿を見られ、大切だと叫びながら彼女の事を全力で抱き締めたいですか?ーーーフェイト・テスタロッサという、アリシア・テスタロッサの紛い物では無い本人に、会いたいですか?」
「……一体何が目的なのかしら?」
「話が早くて実に結構!!」
回りくどいことは一切無しで直球に尋ねてくれたのはこちらとしても都合が良かった。長々と話したところで時間をいたずらに消費するだけでしか無い。求めている物を持っている者が目の前に現れたのなら、何が欲しいのかを率直に尋ねるべきだ。
ペラ回す様な言葉遊びも好きではあるが。
腰に吊るしていたカスパールに手を伸ばして握る。突然デバイスを手にした事にプレシアはここで初めて驚いた様な表情を見せてくれた。
「そちらにはそちらの目的があるように、こちらにはこちらの目的があります。その目的の為に、一度でも良いから大魔導師と呼ばれた魔導師と戦ってみたいと思いましてね。お手合わせを願います」
これから先、数多くの魔導師と敵対するのは目に見えている。策を練って殺すこともあるだろうが、その多くは直接的な戦闘で殺しあうことになるはずだ。それなのに俺には対魔導師の経験は全くと言って良いほどに無い。
高町のような鍛錬も積んでいない魔導師では無く、
赤城や御剣のようなスキル頼りの魔導師では無く、
黒須のような近接戦主体の魔導師では無い。
純粋にこの世界の魔法を極めた魔導師との実戦経験。それが俺の欲している物だ。
「……成る程、倒して言う事を聞かせろと言う事で良いかしら?」
「いえいえ、こちらが勝ったとしてもアリシア・テスタロッサとは会わせて差し上げます……もっとも、会わせるだけなのですが」
そう言いながらプレシアはゆっくりと、そばに立て掛けてあったデバイスと思わしき杖を手にしながら立ち上がった。身体を動かすのも辛いのか酷く気だるげな動作ではあったが、隙は伺えない。それどころか少しでも目を離せば、そのまま殺られると直感が叫んでいた。
プレシアとの間に緊張が走る。いつでも動けるようにと適度に身体を弛緩させながら、いつもの通りに敢えて構えずに自然体のままでいる。
と、その時、生存本能が全力で警鐘を鳴らした。
その瞬間、とてつもない量の光と音が視力と聴力を容赦無く蹂躙した。
地雷っていうのは踏み込んじゃいけない領域なんだけど、逆に言えば確実に興味を惹かせる事が出来る。なのでカガっち、プレシアの地雷原で盛大にタップダンス。
納得のいく終わりを迎える為に活動しているついでに純粋に魔導師やってる魔導師との戦闘経験をゲッチュする。リリなのじゃあメインのキャラで純粋に魔導師やってる魔導師は少ないからなぁ……魔王様は砲撃ブッパだし、フェイトそんは脱いで加速するし。