「カハーーーッ」
あまりの衝撃に意識が遠のき掛け、気付がわりに用意していた魔法により意識を繋ぎ止める。妙な浮遊感を覚えながら今の攻撃で受けたダメージを把握する。全身からスタンガンでも喰らったかのように痺れを感じ、視力と聴力は光と轟音のせいでしばらく使えそうになかった。それでも非殺傷設定にはされていたのか痺れ以外には身体に不調は感じられないし、視力と聴力も時間が経てば回復する程度の物でしかなかった。
つまり、非殺傷設定という手加減を施された上で意識を無くす程のダメージを与えられたのだ。これが実戦で、非殺傷設定がされていなかったら今の攻撃で終わっていたに違いない。
『ハスター』
『監視スフィアとソナーを展開しました。それらを繋いで視力と聴力の代わりとします』
一瞬、何かと繋がるような感覚を覚えたかと思えば聞こえないはずの耳以外で周囲の音が聞こえ、見えないはずの目以外で
どうやら先の一撃で足場の床が崩壊し、吹き抜けの部分に繋がった事で落下しているようだ。足の近くに魔力で足場を作り、痺れで違和感を感じている身体を無理やり動かして足場を蹴って近くにあった出っ張りに指を引っ掛ける。
「もう終わりなのかしら?大層な口を聞いた割には大した事ないのね」
片手で壁にぶら下がりながらどのくらい身体が動くのかを確かめていると穴の空いている天井からプレシアがゆっくりと、飛行魔法を行使しながら現れた。彼女の周囲には三十近い魔力弾が展開されていて、そのどれもが紫色に帯電していた。
『マスター、どうやらプレシア・テスタロッサは魔力変換資質の持ち主のようです。先の一撃も構築していた魔法と変換した電気の合わせ技かと』
『よりにもよって相性が悪いのだったかぁ』
愛歌から与えられた悪性情報は魔法に対して絶対的な優位を誇っている。バインド魔法ならば触れるだけで崩れ落ちて目的である拘束をさせないし、砲撃魔法だって構築を崩してしまえばただ魔力の塊をぶつけられているだけになってダメージを減らす事が出来る。
しかし、この悪性情報はスキルに対しては効果を期待出来ない。才能によって発現するスキルは魔法のように術式によって作られたわけではないのだから。今回のようにプレシアの魔法自体は悪性情報の汚染によって無効化する事が出来たが、変換資質によって電気に変換された魔力をそのままぶつけられたのだ。まともに魔法を喰らうよりもダメージは少ないのだろうが、それでも痛手を負ってしまった。
「何を言っているんですか?まだまだこれからですよ」
「あら、元気そうね……だったら、もう少し威力を上げても問題なさそうね」
まだ上がるのかよ、と仮面の下の顔が引き攣るのを感じながら壁を蹴ってその場から移動する。足の握力で壁を掴み、腹筋と背筋を使って重力に逆らい壁に向かって垂直に立ちながら、地面と変わらない速さでの移動。2歩目に踏み出した足が壁から離れるのと同時に帯電した砲撃魔法が俺のいた場所に放たれていた。
痺れが抜け切るまで攻撃を喰らうわけにはいかないと判断して底が見えない程に深い吹き抜けの壁を縦横無尽に走り回りながらカスパールの引き金を引く。殺すわけにはいかないので非殺傷設定で放たれた魔力弾だが、プレシアはそれを一瞥すると避ける事はせずに全てを障壁で受け止めていた。
威力には自信があったと言うのに、ヒビすら入れることが出来なかった。
『マジかよ』
『純粋に魔力の差です。カスパールの魔力弾よりもプレシア・テスタロッサの障壁の方が使用される魔力が多かった、それだけの話です』
『理解はしてたけど、実際に見せつけられると心に来るな』
魔導師で魔術使いだといえば聞こえが良いかもしれないが、実際にはどちらも極めていない半端者なのが俺である。対するプレシアはこの歳まで魔導師一筋でやって来ている。純粋に魔導技術で培った年月が、積み上げられた鍛錬が違い過ぎる。カスパールの魔力弾を一瞥しただけで大凡の込められている魔力を計り、必要な魔力を見切って障壁を使用しているのが何よりの証拠。
舐めていたわけではない。
油断も慢心もしていないはずだった。それでも、越えることが出来ない程の差が俺とプレシアとの間には存在していた。
「ーーーサンダーレイジ」
側面からーーープレシアの視点からしてみれば頭上から雷撃が落ちて来た。魔法で再現されたからなのか自然現象での雷程には速さは無いのだが、それでも人間の反応速度を越える速度で落ちてくるそれを避けられるはずがない。
「ーーーッ!!」
視界の端に光が見えた瞬間に避けられないと悟り、耐える事を選択していた。だから全身を雷撃に襲われても最初の時のように意識が遠退くような事は無かったが、ダメージは間違いなく蓄積していく。
「
このまま逃げ回っていたところで事態は好転しないと判断して魔弾を放つ。初見必殺、回避不能であるカスパールの魔弾はハスターによってプレシアの体内に撃ち込まれ、魔力ダメージで意識を奪うはずだった。
プレシアの側に魔弾が転移し、明後日の方向に飛んで行く。
「体内への魔力弾のピンポイント転移……初見であるのなら必殺になりそうな技ね」
「は、ハハ……」
切り札が無効化された事実に思わず乾いた笑いがこぼれ出してしまい、その数秒後にはプレシアの周囲に停滞していた魔力弾が撃ち込まれる。
「だけどお生憎様、
考えてみればプレシアの言う通りである。ここはプレシアの拠点で、俺は彼女からすれば侵入者。自身が有利になり、相手が不利になるような仕掛けなんて用意して然るべきなのだ。それを卑怯だと糾弾するつもりは無い。自分の優位性を確保しつつ相手に劣勢を強いて戦うのは戦闘の基本なのだから。
プレシアの領域になんの備えも無しに飛び込んでいった俺が悪い。
「サンダースフィアーーーファランクスシフト」
帯電する魔力弾に撃たれながらも足を止めてはいなかった。避けられる物は避け、迎え撃てる物は迎え撃ち、躱せない物は覚悟して受け止めていたのでダメージは最小限で抑えられている。それをプレシアは見越していたのだろう。魔力弾によって上がった砂埃の中から飛び出して来た俺を待ち構えていたのは総数が100を越える魔力スフィアたち。
それらが容赦無く撃ち込まれた。
「ァーーー」
壁のように迫る魔力スフィアの弾幕をダメージを負いすぎた状態で逃げられるはずが無く、俺は弾幕に飲み込まれた。意識はある、しかし電気を食らい過ぎた事による痺れが身体から自由を奪い、力を込めるのが困難になっていた。
壁を握っていた足の力が抜け、重力に従って落下する。
元より、この結果は覚悟していた事だ。魔導師としての実力はプレシアの方が上だと分かっていた。碌に魔導戦闘の実戦も積んでいない俺がプレシアに勝てるという幻想など抱いていなかった。
魔導師としての俺は、プレシア・テスタロッサには敵わない。それが客観的、主観的に自分の実力を把握していて出した結論だった。
底が見えない程の深い穴を落ちて行く。
視力が回復した目で上を見上げれば、そこには蔑んだような、呆れたような目で俺の事を見下しているプレシアの姿があった。偉そうな事を散々抜かしていたのにこんな結果で終わった事に対する感情なのだろう。少なくともそう思われても仕方の無い、反論の出来ない内容だったと自覚している。
よってこの戦いの勝者はプレシア・テスタロッサ。身の程知らずの俺は敗北するーーー
「成る程、魔導師の戦いというものを理解させてもらったーーーだがな、
ーーー否、否だ。魔導師としての実力が劣っているのは認めるが、だからといって勝負に敗北する事は認めない。
悪とは善に倒される存在である。故に善以外に負けることなどあってはならない。それが俺の前世から抱いている矜持だ。
プレシアは善とは呼べぬ存在である。だから負ける事は許されない。魔導師として劣っているのなら、それ以外で戦うだけの事。生憎と格上との戦いなんて前世では飽きる程にやっているのだ。要所要所での負けは認めようとも、全てを覆せる最終的な勝利は認めない。
落下しながら近くにあった壁に
「第二ラウンドだーーーッ!!」
認めなければ負けていない。そんな子供のような穴だらけの自論を振りかざしながら、俺はプレシア目掛けて突貫した。
時の庭園は拠点だから自分が有利になるような仕掛けくらいやってるよなって話。Fate風に言えば陣地作成持ちのキャスターの作った陣地内で、対魔力無しで戦うような物。尚、仕掛けが無くても普通に戦える模様。原作の評価を見る限りだと、このくらいは普通に出来そうなんだよ。