道化の名は必要悪   作:鎌鼬

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forth pray・3

 

 

回復魔法を使って再起したように見えるが、回復魔法が優先的に回復するのは負傷でダメージが抜けるまでは時間がかかる。目と耳は回復したが、身体の痺れは未だに残っているのだ。

 

 

プレシアもそれを理解しているのか、俺の再起に対して動揺した素振りを見せずに杖を振り上げ、魔力スフィアを展開するのと同時に帯電する砲撃を放ってきた。

 

 

スキルなどの要素を抜きにして言えば魔法というのは発動するために使用された魔力の量で優劣が決定する。俺の魔力はAランクで、プレシアには上回られているだろう。総量で上回られている以上、放たれる魔法に対してそれよりも魔力を消費した魔力を使ったところで先に息切れするのはこちらになる。ならばこの場の選択肢は避ける以外には存在しないのだが、それを選べば展開されていた魔力スフィアが襲い掛かってくるのが目に見えている。

 

 

流石は大魔導師。自分の有利な空間で戦いながらも慢心を欠片もしていない。冷静に、冷徹に、勝つ為の最善手を思考して実行して来る。

 

 

なので、まずは彼女の予想を裏切る事から始める。

 

 

「アァッハッハァーーーッ!!」

 

「なーーー」

 

 

プレシアが絶句するのを気配で感じながら高笑いをあげてさらに加速し、()()()()()()()()()()

 

 

全身を襲う魔力ダメージは回復魔法でカバーし、全身を襲う電気の痺れは()()()()()()()()()。前世では怪我をしても医者に罹る事など出来なかったので痛みは全て我慢していた。

 

 

肉を断たれる斬撃に比べれば、

 

骨を砕かれる打撃に比べれば、

 

身体を貫かれる刺突に比べれば、

 

内臓を侵される病魔に比べれば、

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

全身を雷撃に襲われて身体の感覚は鈍っているというのに精神は高揚し、それに釣られるように身体は万全の状態よりも好調になっていく。その種は気合い、根性ーーー精神論と呼ばれるそれらである。ある程度ならばそれらでどうにかなるが一定を越えればそんな物ではどうにもならない状況なんて多々ある。しかし、それ以上を越えるためには精神論が必要不可欠なのだ。

 

 

肉体の不調を、生存本能でかけられている安全装置(リミッター)を、気合いと根性にて無視し、意図的に外して前に進む力に変える。精神力で肉体の限界を超越する、誰にでもできるような事ではないと理解している。だが、前世の親友は容易くやってのけていたのだ。なら、彼の敵としてあった俺も出来なくてはならない。出来ないと釣り合わない。

 

 

「ならーーーッ!!」

 

 

効いていない訳ではない、しかし止まる気配を見せないのを見てプレシアが動き出す。何時迄も続くかと思われた雷撃が止み、彼女の周囲にあった魔力スフィアの数が100以上に増え、同時に背後に特大の魔法陣をいくつも展開させている。中途半端な一撃では、チマチマとした連撃では効果が無いと判断したからなのだろう。

 

 

実際にその選択は正しい。いくらダメージを誤魔化せると言っても限度がある。今まではハスターのヒーリングで足りていたが、今準備されている魔法を使われれば回復量を超えてしまうだろう。

 

 

しかしそれは物事を一方からだけ見た時の考え方だ。プレシアは今、必殺の魔法を放つ為に準備をしている。術式を構築し、魔力を込め、魔法を行使するまでの時間、距離的に俺がプレシアの元まで辿り着く事は出来ないが出来る事など幾らでもある。

 

 

祇園精舎の鐘、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を表す。驕れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き人も遂には滅びる、偏に風の前の塵に同じーーー

 

 

壁を足場として踏みつけながら魔術回路を起動する。第二ラウンドだと叫んだのは己を奮い立たせる為だけではなく、言葉通りの意味でもあった。これから先は魔導師としてでは無い、加賀美両夜(アクロ・ダカーハ)の全てを出して戦うという宣言。

 

 

早口で呟くのは平家物語の一文。魔導における詠唱ではなく、魔術における詠唱。この世界の科学技術の発展の恩恵では無く、別世界の神秘の恩恵による魔術を邪神の後押しを受けながら、愛歌の悪性情報に汚染された魔力を消費しながら行使する。

 

 

一切合切朽ちて果てろーーー吹き荒べ、塵界(じんかい)の風ェッ!!

 

 

プレシアの魔法が使用されるよりも早くに、俺の背後から追い風が吹く。その風は当然のように俺の先にいるプレシアの元まで届きーーー()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

同時に、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「なんでーーー!?」

 

 

塵界の風、俺の魔力変換資質の風と愛歌の悪性情報による汚染を組み合わせたこの世界には存在しない魔術。悪性情報に汚染された突風を吹かす魔術で、全力で使えば()()()()()()()()()()()()()()()()。それをした場合の被害を考えて今回は出力を抑えていて、物体を若干脆くする程度の効果しか出せていないだろう。しかし、悪性情報による汚染の本命は魔法術式の構築の阻害にある。

 

 

この空間一杯に悪性情報をばら撒いているのと同じなのだ。すでに使われている攻撃系の魔法ならば兎も角、展開途中の魔法や飛行などの補助魔法は使えなくなる。プレシアが予め用意されていた仕掛けによって優位に立っているのなら、俺はその優位性をすべて台無しにした上でプレシアから魔法という唯一の手段を奪う。

 

 

そしてプレシアが落下しているということは、彼女から俺の方へと近づいて来てくれているのと同じである。

 

 

壁を蹴り、落下しているプレシアに接近してカスパールを向ける。銃口には魔法陣が展開されていて、使われる時を今か今かと待ち望んでいるように見えた。

 

 

「悪いな、勝たせてもらうぞ」

 

「ァーーー」

 

 

プレシアが何かをいうよりも先にトリガーを引き、砲撃魔法を放つ。悪性情報に汚染されている俺はこの空間に満ちている悪性情報の影響を一切受ける事なく魔法を使う方が出来る。

 

 

至近距離からの砲撃魔法を魔法が使えないプレシアが避けられる筈がなく、彼女はカスパールの銃口から放たれた砲撃に飲み込まれて姿が消えた。

 

 

「アイ!!アム!!チャンピオォォォォォン!!」

 

『魔法では負けていたのに態度が大きく無い?てか何をしたの?』

 

「最終的に勝った奴が勝者なんだよぉ!!勝てば官軍ってな!!何をしたかとか、企業秘密だから教えないぞ!!」

 

『うっわムカつく』

 

 

意外と毒を吐くなぁと思いながら、意識を失って落下しているプレシアを拾い、近くにあった部屋へと飛び込む。非殺傷設定だったので負傷はしていないのだが、彼女は気絶していた。バリアジャケットは使用していたはずなので気絶はしないと考えていたのだが、どうも予想していたよりも弱っていたらしい。

 

 

だが、プレシアが気絶してくれたことはこちらにとって都合が良かった。目の前に浮かんでいる、フェイトと同じ顔をした半透明の少女に視線を向ける。

 

 

俺が望んでいた通りに、アリシアは霊体となってプレシアのそばに居てくれた。もしも彼女がプレシアのそばに居なかったら桜木に頼んであの世を写す鏡を宝物庫から出してもらい、アリシアの事を探さなくてはならなかったが手間が省けて良かった。

 

 

「確認するけどプレシアの娘のアリシア・テスタロッサで良いんだよな?」

 

『そうだよ、私がアリシア・テスタロッサ……って、アレ?どうして貴方は私と話せるの?そもそも私の事が見えてるの?』

 

「見えてる見えてる、超見えてる。俺のスキルでお前みたいな存在が見えるようになってるんだよ」

 

 

正確には俺の〝霊視の魔眼〟のお陰なのだが、初めから説明するのが手間なのでスキルという事にしておく。出来る事ならばプレシアが気絶している間に済ませておきたいからだ。アリシアもそれで納得してくれたようで頷いていた。

 

 

「で、物は相談なんだがプレシアと話してみたくないか?」

 

『え……出来るの?』

 

「出来るから提案してるんだよ。どうする?」

 

『……話せるのなら、お母さんと話したい。私が死んでからの事とか、フェイトの事とか、沢山話したい事があるの。でも、どうして初めて会う私たちにそんな事をしてくれるの?』

 

「俺には俺の都合があるんだよ。で、こうした方が俺にとって都合が良いからそうしてるだけだ。言ってしまえば俺のためだから」

 

 

プレシアに改心させる事でフェイトに訪れる鬱展開を無くしたい。俺がこのタイミングでプレシアに接触を図ったのはそれだけが理由なのだ。仮にあの温泉旅行でフェイトと会っていなかったら、友達になっていなかったら俺はプレシアがジュエルシードを使ってアルハザードへ向かおうとするまで介入するつもりは無かった。

 

 

フェイトと交友を結んだから、俺は今この場所にいるのだ。

 

 

「それじゃあ、今からプレシアと話が出来るようにするけど、一つだけ注文がある」

 

『何かしら?』

 

「この前を見ようとしていない馬鹿を目一杯叱ってやってくれ」

 

 

過去を蔑ろにしろとは言わない。人間が生きるための原動力なんてものはいつだって過去にあり、過去があるから未来を見据えて生きるのだから。しかしプレシアは過去に囚われていた。最愛の娘の死を嘆き続け、過去だけを見て、未来に目を向けようとしなかった。プレシアの所業に関しては特に思う所は無いのだが、それだけは許せなかったのだ。

 

 

どんなに暖かくても、どんなに眩しくても、過去は過ぎ去った出来事でしかない。それだけに目を向けて現在と未来を見ようとしていないプレシアの事が気に入らなかった。

 

 

なので最愛の娘に叱られて、ついでに嫌われたらいいんじゃないかと思ってそう言ったのだが、アリシアもアリシアでプレシアの所業に思うところがあったらしく、満面の笑みを浮かべてサムズアップをしてくれた。

 

 

壱 弐 参 肆 伍 陸 漆 捌 玖 拾

布留部 由良由良止 布留部

 

 

それを見届けて準備が出来たと判断し、起源を用いた魔術の詠唱を行う。元々半透明だったアリシアの姿が更に希薄になり、横になって気絶しているプレシアと重なる。前に恭也に対して行った事と同じ、プレシアにアリシアを憑依させる事で精神世界で会話をさせる。

 

 

恭也の時はこれで上手くいったのだが、今回もこれで上手くいくとは限らない。最悪、これによってプレシアが更に過去へ執着してしまう可能性もあるのだ。

 

 

だけど、その可能性を考慮した上で俺はこの手段を選んだ。この方法以外にフェイトの鬱展開を回避する方法が思いつかなかったから。

 

 

上手くいって欲しいなぁと思いながら、これ以上俺に出来ることは無いので祈る事しか出来なかった。

 

 

 






悲報、カガっちはトンチキ勢。そりゃあ自分から進んで悪役をやるようなキチガイがまともであるはずがないよ。

魔法を使うから強い?なら魔法を使わさなきゃいいじゃない!という事で作られた魔導師メタ魔術〝塵界の風〟。AMFとは違い、魔力を無効にしているわけじゃなくて魔法の術式そのものを壊すことで発動さえ許さないとかいう。

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