「さてさて、中々進んで来た頃合いかな?」
プレシアとの邂逅後から入り浸っている時の庭園の一室で、変身魔法を使った大人の状態で笑う。監視スフィアからの映像に映るのはオレンジの毛並みが特徴的な狼の姿をしたアルフと、彼女に念話で話しかけている高町と黒須の姿だ。プレシアがアルフを時の庭園から追い出したのだがその際に魔法で攻撃されていて、体力を回復させる為に狼の姿になっているところを高町の友人に保護されたらしい。
地味に幸運だなぁと考える。何故なら、アルフが時の庭園から追放された同時期に赤城と御剣が町の中を徘徊していたから。どうやらアルフが時の庭園から追放されるのは原作と同じ出来事だったらしく、保護して何かをしようと企んでいたのだろう。高町の友人に拾われていなければ、今頃どうなっていたのか分からない。
相棒のいなくなったフェイトだが、彼女は今もプレシアの言葉に従って管理局の目を盗みながらジュエルシードを探し回っている。アルフが居たとしてもマンパワーで劣っている彼女では時空管理局に負けてしまい、発見することは出来ても封印する前に管理局員に見つかってしまい逃走する事が何度もあった。防御に比を置いているタンクタイプではなく、速さを重視しているスピードタイプだったのが幸いして包囲される前に逃げることには成功しているもののジュエルシードを確保する事が出来ないでいた。
そしてフェイトは現在海の上にいた。陸地でのジュエルシードの確保は難しいと判断して、まだ探していない海の中にある可能性にかけて故意にジュエルシードを暴走させようとしている。仮にジュエルシードが暴走したとしても近くには管理局の目がある。すぐに見つかり、次元崩壊を避ける為に介入するのが目に見えているのでここは放っておくことにした。
『ねぇねぇアクロさん、お母さんがいい加減怖くなって来たんだけど?』
「俺の話を聞かなかった、俺の好意を無下にしたプレシアが全て悪い。きっと裁判官だって満場一致で俺の無罪を証明してくれるに違いない」
『満場一致で有罪判決を下す未来しか見えない』
「ガッデム」
俺は無視しているが、まだ精神の幼いアリシアは怖がっても無理はないだろう。何故なら、今のプレシアはこの部屋の隅で蹲ってブツブツと小声で呟いているから。彼女の風貌と相まってアリシアよりも幽霊をやっている。
精神世界でアリシアとプレシアを合わせて会話をさせる事には成功した。これでフェイトに対する考えが幾らかでも改善されて少しでも親子のようになれればいいと望んでいたが、それは叶わぬ願いだった。
目を覚ましたプレシアの放った第一声が〝必ずアリシアを生き返らせる〟だったから。すでに死んでいる者への未練を断ち切らせる為にアリシアとの会話をさせた訳なのだが、それが逆に彼女への想いを強くさせてしまったようだ。時の庭園の動力源を暴走させ、戦艦落としならぬ庭園落としを実行して管理局からジュエルシードを奪い、その足でアルハザードへ向かおうとしていたので再度彼女を気絶させた。
そんなプレシアの姿を見て、アリシアは四つん這いになって泣き崩れていた。親に想われているのは純粋に嬉しいのだろう。しかし狂気に囚われて、アリシアのクローンであるフェイトを道具のように酷使し、一歩間違えれば世界を崩壊させかねない物を使おうとする母親なんてアリシアは見たくなかったのだ。
アリシアと会話をさせる事でプレシアを改心させる方法は頓挫した。プレシアのアリシアへの想いの強さを図り損ねていた事が原因である。なので別の手段を取ることにした。
価値観の変更ーーー即ち、洗脳である。
一度プレシアの精神を完全に崩壊させ、都合の良いように作り直す。プレシアの自我を保ったままに同じ事を出来なくも無いのだが、そうした場合は些細な違和感で洗脳前の自分を取り戻しかねないので一度人格をリセットする必要があった。一応洗脳する前にアリシアに尋ねたのだがドン引きされ、それでも他に方法が無いと悟り、プレシアがフェイトに優しくなるのならと最終的にはサムズアップをして了承してくれた。
話術と魔法と魔術を使い、プレシアの人格を完全に白紙化させる。前世でも都合の良い手駒をつくる為に洗脳をしていた経験があるので間違える事はない。前世とは違って話術だけでは無く魔法と魔術も使えたので、プレシアのアリシアへの想いが強過ぎて手古摺ったものの成功される事が出来た。現段階では人格を再構築している最中である。
途中でフェイト達が帰ってきて報告に来た時には焦ったが、そこはプレシアにいつも通りに対応しろと命じて解決した。プレシアの人格は白紙化させたが記憶の方までは手を出していない。記憶の中にある彼女と同じような事をさせる事でフェイト達にプレシアの変化を感じさせないようにした。
流石にお仕置きと称してフェイトを鞭打ちするのにはドン引きした。アリシアはまたやってると言って遠い目をしていた。こんな様子ではプレシアの目的通りにアリシアを生き返らせる事ができたとしても、以前のような親子関係でいられるかは怪しかった。
その時にフェイトを助けようとしたアルフを攻撃して時の庭園から追放した事には焦ったが、考えてみれば結果オーライだったかもしれない。これでアルフから高町たちへ、高町たちから管理局へフェイトとプレシアの関係性が伝わり、〝フェイトはプレシアに虐待され、ジュエルシードを集めるように命令されている〟と知られるから。少なくとも一般的な感性の持ち主ならこれでフェイトの事を憐れむ。裁判を受けた時に裁判官への心境が良くなるかもしれない。
「そろそろ仕上げに入らないと間に合わなくなりそうだな」
フェイトが目的通りにジュエルシードを6つ暴走させ、海水で出来た龍となって襲いかかって来るそれと戦っている彼女を見て椅子から立ち上がる。
『時空管理局がここに来るの?座標はバレてない筈だけど』
「バラすんだよ。フェイトが高町たちと協力してジュエルシードを封印した時にプレシアにあいつらを攻撃させる。そうすりゃあ黒幕のいる時の庭園にご案内というわけだ」
『そして管理局員たちは目にする……狂気に囚われたお母さんと保管されている私の死体を……!!』
「最愛の娘を蘇らせる為にアルハザードへ向かうのだ!!娘の代わりとして作ったフェイトなんぞ、ただの人形でしか無かったのよ!!おぉなんて非道な事か!!なんと醜い妄執か!!なんて残酷な事実であるか!!」
『しかしその刹那、背後から現れる影がお母さんの胸を貫く!!』
「ジャンジャジャァン!!プレシアが黒幕かと思った?残念、俺だよ!!アクロ・ダカーハ様がプレシアの事を操っていたのさ!!アルハザード?娘の蘇生?可笑しくって腹痛いわぁ!!嘘、嘘、すべてが嘘!!ジュエルシードを集めるための戯言です!!」
『おのれ!!許すまじアクロ・ダカーハ!!管理局の正義でお前の事を倒してやる!!』
「と、まぁこんな感じで」
『軽い空気で軽々しくやったから茶番感が凄かったね』
見た目通りに幼いアリシアだが、ノリを分かった上で乗ってくれるので話していてとても楽しい。プレシアの娘だけあって頭の回転は悪くは無いし、幽霊やっている年数が長いので知識はあるし。
「アリシアアリシアアリシアアリシアアリシアアリシアアリシアアリシアアリシアアリシアアリシアアリシアアリシアアリシアアリシア…………アリシア?フェイト?アリシアはフェイトでフェイトはアリシア……いえ、アリシアはアリシアでフェイトはフェイトで……アリシアを生き返らせなきゃ……でも、まだフェイトは生きている……違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!フェイトはアリシアじゃない!!アリシアはフェイトじゃない!!でも、フェイトはアリシアの妹で、アリシアはフェイトのお姉ちゃんで、アリシアは妹を欲しがっていたから……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーー!!!」
「っと、またセルフ発狂しやがったな?ちょっと落ち着かせるついでに仕上げをしてくるから、ジュエルシードを封印した頃に呼んで来てくれる?」
『良いけど、手加減してあげてね?こう見えてお母さんは結構良い歳だし病人なんだから』
「一応加減はしてるからこのペースなんだよなぁ……予定じゃ今頃洗脳は終わってるはずなのに」
原作でもあったように、プレシアは病魔に侵されていた。医学の知識はほとんど無いので診察はハスター頼りになってしまったのだが、診察によればもう末期の段階に入っていて治療は不可能。後1年生きられるかどうかという状態だった。もしかするともう手遅れだと分かったからこんな一か八かの勝負に出たのかもしれない。そうでないと、今回の件はあまりにも穴が多過ぎるから。
発狂して頭を掻きむしっているプレシアをバインドで拘束し、隣の部屋へと連れ込む。その際にフェイトの戦っている姿を見ているアリシアを見たのだが、プレシアの事が気になっているようでチラチラと視線を彼女に向けていた。
プレシアがアリシアを愛していたように、アリシアもプレシアの事を愛している。普通なら洗脳なんて非道は何としても阻止するところなのだが、アリシアは年齢に反してあまりにも聡明過ぎた。プレシアがやった事がいかに酷い事かを理解していて、プレシアを死なせればフェイトの心が折れる事を承知していて、だから俺の計画に乗ることを選んだ。
プレシアにこれまでした事の罪を償わせる為に、人形として扱われていたフェイトに母親の愛を教えてあげる為に。
その姿はあまりにも眩しかった。
だから、これから先は御都合主義には頼らない。神様が気まぐれで与えてくれるご褒美を望む事はしない。愛しているが故に起きてしまったこの物語を、せめてハッピーエンドで終わらせる為に。
この時ばかりは御都合主義肯定派である俺だが、御都合主義に対して中指を突き立ててやろう。この終わりは神様の気まぐれなんていう幸運で終わらせるべきではなく、人間の努力によって達成される必然であるべきなのだから。
そりゃあ狂人に望んでいる者を見せたところで改心するわけねーよなぁって事でプレシアさん洗脳ルート。そうしてなきゃ庭園暴走してアースラにドゴォッ!!してジュエルシードを略奪し、次元震発生させて地球崩壊させながらアルハザードにルパンダイブかましてた。
アリシアたんがロリなのに大人びている、キチっているように見えるのは幽霊歴が長いからと、狂人化しているプレシアさんのそばに居たから。いくらフェイトそんのオリジナルだろうが長年狂人化プレシアさんのそばにいたら汚染されるに決まってるダルォ!!
つまり、戦犯はプレシアさんである。