「ようやく終わりが見えてきたな……」
時の庭園に訪れた時、プレシアが腰を下ろしていた玉座に彼女の代わりに足を組みながら座り、時空管理局の到着を待つ。
プレシアの再調整が終わって洗脳が完了したところでジュエルシードが封印出来たらしく、そのままプレシアに命令させてフェイトと高町に攻撃させてジュエルシードを時の庭園まで持ってきた。いくら時の庭園から地球までという、単純な距離ではなく次元さえも超えて雷撃を落としたプレシアの魔導師としての腕に舌を巻く。強さという括りでは彼女はこの世界でもトップクラスの実力者である事には間違いないだろう。
よく勝てたなぁとしみじみ思う。非殺傷設定、そして悪性情報のメタがあったとはいえ。
『アクロさんアクロさん、管理局員たちが転移して来たよ』
「もうか、案外早かったな……ところで、お前が言い出したこととはいえ本当に良かったのか?」
『うん。私はもう死んでるし、それに残ってたらお母さんがいつまで経っても闇落ちしてるだろうからね』
「お前が死んだ時点でもう闇落ちして手遅れなんだよなぁ……」
フワフワと俺の隣に浮かんでいるアリシアはそう返すと楽しそうに笑っていた。考えてみれば彼女が死んでから今日までの間、俺以外の誰とも会話をしていないので話す事が楽しくて仕方がないのだろう。彼女が死んでから何年経っているのか分からないが、長い年月人との交流を絶たれたのだから飢えてしまうのも理解出来る。
「それじゃプレシア、打ち合わせ通りに頼むぞ」
「……えぇ、分かっているわ」
最初に出会った時とは真逆の立ち位置で、眼下に立つプレシアにそう言えば彼女からはしっかりとした返事が帰ってきた。今ここにいるプレシアは原作通りにアリシアだけを愛している狂人ではなく、フェイトの事も娘だと認識している普通の母親だ。
洗脳を完了させた時に、自分が今までフェイトに対してやった事を思い返して死にそうな顔をして自殺しかける程には普通の感性を持っている。
その時に腹を抱えて爆笑していたアリシアにイラッとした。
「だけど、ちょっと待ってくれるかしら?」
「何だよ」
「最後にアリシアに言いたい事があるのよ……アリシア、私は馬鹿な親だったわ。貴女が死んだ事を認めながらもその死が認められず、色んな外道に手を出してしまった馬鹿な女……だけど、私は貴女を愛している。母親として、この気持ちに嘘は無いわ。ありがとうアリシア、私の娘に生まれて来てくれて」
『お母さんーーーいい感じの雰囲気に持って行こうとしているのは分かるけど、フェイトにやった事は絶対に許さないからね!!有耶無耶にしようとしても誤魔化さないんだから!!』
「ーーーだ、そうだが?」
「カハーーーッ」
アリシアからの言葉をそのまま、変な歪曲なしで伝えるとプレシアは血反吐を吐いて顔から倒れた。白目を剥いて痙攣している辺り、相当ショックを受けたのだろう。子離れ出来ていない親バカが最愛の娘からそんな事を言われたらこうなってもしょうがないと思う。
そしてアリシアはそんな母親に向かって白目を剥きながら舌を出して両手の中指を突き立てていた。
とてもじゃないがフェイトのオリジナルだとは思えない。こんなのからあんな天然娘が出来たなんて信じたく無かった。というよりも俺と会話をするようになってからアリシアが外道になっている気がする。久しぶりの会話でテンションが上がって隠されていた外道の本性が明らかになったのだろうか。
取り敢えずアリシアに習って俺も白目を剥きながら舌を出して両手の中指をプレシアに向かって突き立てておく。した後で仮面を被っていた事を思い出して顔芸が見えないじゃないかと思ったが、外すのが手間なのでこれでいいかと放置しておく事にする。
「ゴフッーーーそ、そろそろ扉の前まで来た頃よ……」
『格好つけてるけど足が生まれたての子鹿みたいに震えてるんだよねぇーーーハッ、ザマァ』
「聞こえてないからいいけど死体蹴りが酷くね?」
アリシアのプレシアへのヘイトが凄まじい事になっているが、闇落ちして自分のクローンであるフェイトを代用として生み出した事、些細な違いからフェイトを娘として認めなかった事、アリシアを蘇生させる為にジュエルシードという危険物を集めさせた事などを考えればここまでヘイトを稼いでも納得してしまうのが悲しいところだった。
アリシアの言葉を伝えれば間違いなくプレシアは再起不能になってしまうので敢えて伝えず、扉に視線を向けてタイミングを見計らう。
そして扉が開いた瞬間ーーー肘掛を指で軽く叩くワンアクションで真空波を作る魔術を発動させ、プレシアを斬り刻んだ。
鮮血を撒き散らしながら崩れ落ちるプレシアの姿を見て、部屋に突入しようとしていた管理局員たちの足が止まる。予想外の光景から生まれた、意識の空白。それを見逃せる程に余裕は無いのでハスターにバインド魔法を行使させて管理局員たちを拘束する。
「ーーーようこそ、時の庭園へ」
『よっしゃーーー盛大に歓迎するよ!!』
仰々しく両手を広げるような行動をとりながら管理局員たちを出迎える。アリシアは倒れるプレシアを見てガッツポーズを取った後、姿が見えないのをいい事に両手でダブルピースを作りながら動けない管理局員の周りを回っている。
その姿を見て確信するーーー最大の敵はもしかしたら彼女なのかもしれないと。
「私の名はアクロ・ダカーハ。有り体に言えば、今回のジュエルシードを巡る騒動の引き金を引いた張本人だ」
『ーーーそれはどういう事なのか、説明していただいてもよろしいですか?』
空中にモニターが投影され、そこに黄緑色の髪をポニーテールで纏めた女性の姿が映る。背後の光景から推測するに、戦艦アースラからの映像だろう。そしてこのタイミングで登場したという事は、彼女は今回送られてきた隊員の中で一番身分の高い者なのかもしれない。
「語るのは構わないが些か無礼じゃないかな?こちらはしっかりと名前を教えたというのに、そちらは名乗らないとは……嘆かわしい、時空管理局の程度が知れるぞ?」
『あら、それは失礼しましたわ。私はリンディ・ハラオウン、時空管理局の提督で巡航艦アースラの艦長です』
『ムムッ、お母さんと同じ匂いがする……つまり、あの人は子持ちの熟女に違いない……!!』
アリシアの発言に吹き出しそうになるが、地球にも高町桃子さんという子持ちでありながら二十代前半で通じそうな人間がいるので堪えることに成功した。姿を見る事が出来るのが俺だけだとはいえ、一応シリアスな雰囲気なのでそういう発言は控えてほしい。普段は流せるような発言だが、今の雰囲気と合わさると威力が高過ぎるから。
「ご丁寧にどうも……どういう事なのかと言われてもその通りなのだが?プレシアにユーノ・スクライアが発掘したジュエルシードの性能について伝え、それがあれば望みが叶うのではないかと唆しただけだが?」
『ジュエルシードを始めとしたロストロギアの危険性については貴方もご存知の筈ですが?』
「危険物だから時空管理局によって管理されるべきだと?そんなので我慢出来たら法律なんて作られやしないだろうさ。生憎と俺では管理局の守りを抜く事は出来なかった。だからそれが出来るような実力者を唆した。お陰でーーー」
ポケットの中から俺が集めたジュエルシード5つを取り出す。内3つは魔力が無くなっていてただの宝石に成り下がっているが、残り2つに込められた魔力は健在。封印処置は施しているので暴走する心配は無いのだが、知らなければ1つでも次元震を起こせる危険物を5つも所持しているように見える。
「ーーーご覧の通り、5つもジュエルシードを得ることが出来た。プレシア様様だ。感謝してもし足らないというはこの事だな……まぁ彼女は病気に侵されていて、殆どはあの人形娘に任せていたみたいだが」
《今、フェイトの事を人形扱いしたかしら?》
《ステイ、お静かに》
人形娘と、悪印象を持たれる為に蔑んだ呼び方をしたら血みどろになって倒れているプレシアが反応してしまった。一応致命傷にはならない、重傷になる程度の傷しか負わせてないので意識はあるが興奮すれば出血が酷くなってそのまま死んでしまう危険性もある。
『おや、フェイトの事を人形扱いしてたお母さんが何か言ってる』
《ーーーだ、そうだが?》
《ガフーーーッ》
なのでアリシアの言葉をそのまま伝えて、プレシアにとどめを刺しておく。
『人形娘……フェイトさんの事ですか?』
「そうだ、だってそうだろう?
本来ならばプレシアが伝える筈だった事を、代わりに俺が口にする。リンディは冷静を装って黙っているのだが、彼女の背後からは微かなざわめきが聞こえている。
そして、乗り合わせていたフェイトの絶句も。
『どういう、事ですか……』
「こういう事だよ」
困惑しているフェイトが乗り出すようにして画面に現れたのを見計らい、玉座の後ろに設置されている扉、それに目掛けてカスパールを向けて引き金を引く。砲撃魔法によって破壊された扉の先にはーーー近未来的な施設の部屋があり、その中央の培養液らしき液体に満たされたポットにはフェイトと同じ顔の少女ーーーアリシアの肉体が保管されていた。
『あ、不味い。私の身体、何も着てなかった……』
《良かったな、全裸でケーブルデビューだぞ。喜べよ、この映像絶対に証拠として残されるぜ》
『ノォォォォォ……!!』
数年使っていないとはいえ自分の身体が映像に残されるのは嫌なのだろう。アリシアは顔を両手で覆いながらその場に崩れ落ちた。このまま静かになってほしい。主に俺の腹筋の為に。
「管理局なら犯人がプレシアだと分かった時に彼女の経歴について調べてるんだろ?なら、フェイト・テスタロッサという人物の戸籍が無いことも知っている筈だが?」
『本当、ですか……?』
『……えぇ、私たちが調べた限りでは、プレシア・テスタロッサの子供は娘のアリシア・テスタロッサただ1人だけ……フェイトさんの事はどこにも記されていなかったわ』
「それはそうだ。何せ、フェイトはアリシアのクローンだからな」
玉座から立ち上がりーーー途中で不自然にならないように転がっているアリシアの事を蹴り飛ばし、アリシアの遺体が保管されている部屋に入る。
「彼女はとある実験の暴走事故に巻き込まれて死亡した。僅か5歳の時だった。娘の事を溺愛していたプレシアだ、彼女の死をキッカケに狂気に囚われてもおかしく無いだろう。そうして娘の蘇生手段の1つとしている選び、実行したのがアリシア・テスタロッサのクローンを作り、そのクローンに記憶を転写させる事……そうして出来たのがフェイト・テスタロッサだ。しかし、そんな事をしても出来上がるのはアリシア・テスタロッサの記憶を持っただけの別人だ。2人の齟齬に気づき、それでも愛さねばと思い、神経を擦り減らして疲弊していくプレシアは再びアリシアを蘇らせる方法を模索した」
『それがジュエルシードだと?』
「正確にはジュエルシードを使い、アルハザードに向かうように唆したのだがな……涙ぐましい努力じゃないか。まぁ、情緒不安定になったせいでフェイトには虐待を行なっていたようだが、彼女の背景を考えればそれも微笑ましく思える」
肩を揺らしながら笑ってみるが、映像の向こうにいるリンディはクスリとも笑わない。それどころか俺へと敵意を向けている。今の彼女の俺への印象は、〝娘の死を嘆く母親を唆した悪党〟といったところだろう。順調にヘイトを稼ぐことが出来ているようだ。
「まぁそれもここまでだ。いくらプレシアが条件付きとはいえSSランクの魔導師だとはいえ病に侵されて死に体では管理局の相手など出来ない。欲しかったものは手に入れたし、俺は逃げさせてもらおうか」
『この状況で逃げられるとお思いですか?』
包囲が完成しているわけではないが、この場には管理局の目がある。普通に転移して逃げたところで解析され、転移先を判明されて追いかけられるのが目に見えている。
だから、他の事に目を向ける事にする。幸いな事にそれが出来るオモチャが目の前に転がっている。
「いいや、逃げるさ。流石の管理局だろうと、ジュエルシードが暴走しているのを見逃すわけにはいくまい?」
『まさかーーー』
リンディが俺が何をしようとしているのか気がついたようだが、この場に居ないものにはどうすることも出来ない。プレシアに奪わせさせたジュエルシード15個、それにカスパールの銃口を向け、引き金を引く。
魔力弾がジュエルシードに当たる。それにより施されていた封印処置が解除され、
「ジュエルシード15個、ついでに時の庭園の動力源も暴走させておいた。早く止めなければ近くの時空に被害が出るぞ?」
『なんて事を……!!』
「あぁそうだ、最後に1つだけ伝えたいことがあるんだーーー人が大切にしているものを壊すのって、愉快だと思うんだ」
カスパールの銃口をアリシアの入っているポットに向け、躊躇うことなく引き金を引いた。非殺傷設定のしていない砲撃魔法が放たれてポットを飲み込み、培養液に漂っていたアリシアの遺体を欠片も残さずに消し飛ばす。
これはアリシアから頼まれていた事だ。自分の遺体なんてもの残っているからプレシアは生き返るかもしれないなんていう希望を持ってしまう。洗脳して価値観を変えたので大丈夫だと思うのだが、何かの拍子でかつての狂気に再び囚われる可能性がある。
だからアリシアの遺体を消し飛ばした。それがアリシア本人の望みだから。
プレシアが気絶していて良かったと思う。予定では目の前でアリシアの遺体を消されて泣き叫ぶ彼女の姿を見せつけるつもりだったが、そんな事をしたらこのやり取りが狂言だと口走るかもしれないから。
『なんてことを……!!』
「それじゃあ頑張ってくれたまえ。私は家に帰ってポップコーン食べながら特撮アニメ見るから」
そう言って通信機の役割を果たしていた魔力スフィアを破壊する。ついでにバインドを締め付けを強くして拘束されていた管理局員たちの意識を奪い、プレシアのも含めて全てのデバイスを悪性情報で汚染しておく。これで人の目は無くなり、デバイスに音声を録音される心配も無くなった。
プレシアの方に関しても心配していない。アリシアの遺体を消し飛ばした腹いせに狂言だと発言される可能性を考えて、魔術を仕込んである。目が覚めた時には俺の事はあやふやにしか覚えておらず、リンディに言った通りに俺がジュエルシードの事を話したという具合に記憶操作される筈だ。
『これで良かったのかなぁ……』
「分からん。だけどやれるだけの事はやった。やれば良かったと後悔するよりもこっちの方がまだマシだ」
『……そうだね。うん、そう思う事にする』
「俺は帰るけど、お前はどうするんだ?」
『アクロさんに着いていっても大丈夫かな?私と話せる人がいるってだけでかなり安心するし、地球がどんなところなのか見て見たいし』
「要らないことを話さないのなら良いぞ」
幽霊であるアリシアの存在を見ることが出来るのは俺だけだ。しかしそれは〝今は〟と付くものであって、これから先にそういえことが出来るスキルの持ち主が現れないとは限らない。本格的に活動するまで……最低でもA's編が終わるまでは舞台である地球にいたいのだ。
それに対してサムズアップをして頷いてくれたアリシアを引っ張り、転移魔法を行使する。ジュエルシードの暴走の影響で調べにくくなっているらしいが念には念を入れ、隠蔽に隠蔽を重ねた上でいくつかのダミーをばら撒いておく。これでバレたのなら流石だと相手を褒めるしか無いだろう。
「こんなところで躓いてくれるなよ〝英雄候補様〟?
願わくば、俺が倒されるに相応しい存在になってほしい。その為の舞台は用意した。これを乗り越えて英雄になって魅せろと仮面の下で静かに笑いながら、時の庭園から去っていった。
裏側を知っていればただの茶番なんだけど、知らなかったらクッソシリアスな場面だったっていう。
一番の敵はアリシアちゃんだったよ……どうしてか知らないけどクッソフリーダムな幽霊になってしまった……動かすの楽しいから良いけど。