道化の名は必要悪   作:鎌鼬

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forth pray・6

 

 

「満点花丸というわけにはいかなかったが及第点くらいは取れたか」

 

 

愛歌も桜木も誰もいないリビングで1人呟く。空中に投影されたモニターにはノイズが走っているが、さっきまでは時の庭園内の映像がーーー黒須と高町、そしてフェイトの活躍がリアルタイムで映っていた。

 

 

プレシアが用意していた機械兵を打ち倒しながら、胸に秘めた思いを叫びながらーーー信じられない現実を知らされて絶望しながら、それでも再起して立ち上がる勇気を見た。結果として彼らはジュエルシードと動力源の暴走を止める事に成功していた。死者は0人。一番被害が大きかったのはプレシアで、重傷らしく緊急手術が行われていたが、それでも一命を取り留めていた。

 

 

中々に良いものを見せてもらった。ポップコーンは無かったのでポテトチップスを齧りながらの観戦だが。

 

 

転生者という異物があったが故に多少の変化はあったものの、大まかな道筋は原作と変わらなかった。そうであった方がこれからの出来事の予想がつきやすく、何かあった時の対処も楽になると判断してそうなるように仕向けていたからそうなったのだ。思うように物語が進んでいくことへの愉悦はあったのは認めるが、取り返しがつく範囲で道筋から外れて欲しかったという期待もあった。

 

 

高町、そしてフェイトに関しては特にいう事はない。ジュエルシード3つ分の魔力を取り込んでいる愛歌には及ばないものの、桜木をして〝世界に愛されている〟と言わしめるほどに才能に溢れている。マトモな訓練を受けているフェイトに短い時間で追いつくどころか追い越せるほどの実力を身につけた高町の姿を見れば、桜木の言葉に頷くしかない。

 

 

流石は魔砲少女で魔王なだけはある。超高高度から砲撃をバカスカ撃たれるなど御免被る。

 

 

黒須に関してはまだまだ未熟としか言えなかった。ガリア・オールライトという英雄に焦がれ、目指している彼は自分に出来る事を把握して、高町とフェイトのサポートに回って機械兵を倒す事に集中していた。これがガリア・オールライトならば出来る出来ないなど関係無く、やらなければならないという意志力を持ってして不可能を可能にしていたに違いない。剣の腕に関しては光るものを感じさせたが、それ以外の魔導戦に関しては半人前というのが時の庭園での戦闘を見ての評価だった。

 

 

しかし、だからといって失望はしない。未熟だという事は、裏を返せば成長出来る余地があるという事だからだ。この世に産まれながらにして完成している生物など存在しない。どれもが未熟で生まれ落ちて成長し、成熟して完成する。今はまだ未熟としか言えないような存在であっても、これから先どうなるかは分からない。俺が本格的に活動するまでまだまだ時間はあるのだ。その間に、未熟という評価を撤回出来るほどに成長してほしい。

 

 

ともあれ、これで無印編は終わりを迎えた。

 

 

ジュエルシードは俺が待っている物以外は全て時空管理局に回収され、フェイトとアルフとプレシアは事情聴取の為に身柄を保護された。これからの裁判次第だが、俺の暗躍によって彼女たちは被害者であると認知されて情状酌量の余地があると判断されることを祈るしかない。もっとも魔導師としての実力は一級品であるフェイトと、条件付きとはいえSSランクの魔導師であるプレシアを惜しみ、何かしらの条件をつけて管理局に縛りつけようとしているのは目に見えているので然程心配はしていない。

 

 

ジュエルシードの暴走に巻き込まれたせいでリンカーコアを持たない魔導師となってしまった愛歌。定期的にジェイルの元に向かい検査をしているが、いくらか身体能力が向上した程度で今のところは大きな異常は見つかっていない。恐らく魔力を宿した事が影響しているのだろう。それもデメリットでは無くメリットとして愛歌本人は受け入れて喜んでいたので問題では無さそうだった。

 

 

俺を心配させない演技である可能性も考えたが、飛び跳ねて全身を使って喜びを露わにしている彼女の姿を見てそれは無いと悟った。

 

 

結果的には大団円とは言えないが十分にハッピーエンドと言っても良い終わり方だろう。最良なのはアリシアの遺体をしっかりと埋葬させてやるまでだったが、本人から残さないでと頼まれたのだから仕方がない。

 

 

本来ならば死ぬはずだった(プレシア)が生き残り、心に消えない傷を負うはずだった少女(フェイト)を救えたのだ。この終わり方をダメだと否定してしまえばバチが当たる。

 

 

一先ずこれで物語の限りを迎えたと判断して身体の力を抜く。必ず成功させると意気込んでいたせいで妙な力が入っていたようで、今頃になって倦怠感がやって来た。冷蔵庫に向かい、中に入っていたペットボトルの水を一気に飲み干す。

 

 

「おーい、俺は寝るから静かにしてくれよ。士郎さん、彼女にちょっとこの家のルールとから教えてやって下さい」

 

『おー、私以外の幽霊なんて初めて見たよ!!私はアリシア、よろしくね……おじ様♪』

 

『お、おじ様……!!どういう事だ……なんかこう、ゾクゾクするような感覚に襲われる……!!』

 

 

アリシアのおじ様呼びで何やら新しい感覚に目覚めつつある士郎さんを放置して、俺は寝室へと向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーあ゛ぁ゛?」

 

 

心地良い眠りの中にあったのだが、携帯から着信を伝える音が鳴らされたせいで目を覚ましてしまう。時間は午前5時、いつもならばもう起きている時間帯なのだが、疲れていたからなのか妙に目覚めが悪い。思わず苛立った声を上げてしまい、携帯の画面を目覚め切っていない眼で確認すればそこにはフェイトの名前が表示されていた。

 

 

「……もしもし?」

 

『あ、リョーヤ?おはよう』

 

「……おはよう」

 

 

まだ眠い、こんな朝早くから電話するなと言いたかったが、彼女は俺の生活リズムを知っている。だからこの時間ならば起きていると考えて電話して来たのだろう。そう考えると怒るに怒れなかったので、感情を声に出さないように注意しながら電話に出る。

 

 

『こんなに朝早くからゴメンね?実はちょっと話したい事があって……』

 

「今じゃないとダメな事なのか?」

 

『うん……その……か、母さんの都合で海鳴からしばらく離れる事になったんだ。それで空いてた時間が今くらいしか無くて……』

 

「離れるのかぁ……そうかぁ……」

 

 

地球でいう所の警察としての権限を持っている時空管理局に捕まった以上、彼女は裁判を受ける事になる。そのために地球から離れなくてはならないのだろう。しばらくと言っているので帰ってくるつもりはあるらしいが、いつになるのか分からない。その前に世話になった俺に別れの挨拶をしたいと言ったところか。

 

 

それはそれとして、建前ではあるがプレシアの都合と言われて笑いそうになってしまう。

 

 

「愛歌はまだ起きてないけど良いのか?」

 

『うん、本当だったらマナカにも挨拶したかったけどこんな時間だからね』

 

「こんな時間に叩き起こされた俺について何か一言」

 

『え?リョーヤはいつもこの時間に起きてるから大丈夫でしょ?』

 

「dammit」

 

 

俺のようにネタや煽りでは無く、フェイトは心の底からそう思って口にしているのでタチが悪い。これが天然娘の恐ろしさかと戦慄しながら、ベットから起き上がる。

 

 

「場所はどこだ?」

 

『この前の公園で良いかな?』

 

「公園……あぁ、あの御剣(ストーカー)被害の相談を受けた場所?」

 

『そう、そこ……待ってるからね』

 

 

さり気なく御剣をストーカーだと認めていたフェイトに天然なのかそれともわざとなのか判断が付かない。待っていると、どこか寂しそうな声で電話が終わった。

 

 

寝間着を脱ぎ捨てて適当な服を着てリビングに降りると、そこには四つん這いになった士郎さんの上に座りながらテレビを見ているアリシアの姿があった。

 

 

その姿を見て顔を覆った。

 

 

「何やってんの……!?」

 

『あ、アクロさん……じゃなくて今はリョーヤだったね?おはよー!!これは純然たるゴーストカースト決定戦の結果による物だから!!』

 

『ハッ!!ち、違うんだ両夜君!!これはゴーストカースト決定戦に負けたからこうなっただけで僕の趣味じゃないんだ!!決して桃子との生活を懐かしんでなんかいないからね!!』

 

「もう取り繕えてねぇよ……クッソガバガバで語るに落ちてるじゃねぇか……」

 

 

士郎さんが慌てて否定しているがアリシアに肘を落とされてどこか嬉しそうに呻いている時点でギルティである。もっともアリシアからされる行為に喜んでいるのではなく、その行為から生前のことを思い出して喜んでいるのだと思われるが四つん這いになって幼女に乗られて喜んでいる成人男性という絵面のせいでどうすることも出来なかった。

 

 

「ちょっと出てくるわ。ごゆっくり……」

 

『いってらっしゃ〜い』

 

『違う、違うんだ……!!言い訳を!!釈明の機会をくれ!!両夜君ーーー!!』

 

 

尊敬していた大人の知りたくもなかった一面から目を逸らし、士郎さんの未練がましい声とアリシアの笑い声を聞きながら家から出た。

 

 

 






ゴーストカースト決定戦というパワー溢れる勝負によりアリシアちゃんは加賀美家のゴーストカーストの頂点に立ちました。つまり、士郎さんはアリシアちゃんの下僕に成り下がったというわけだ……!!

次回でフェイトそんとお別れして無印編は終了の予定。

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