道化の名は必要悪   作:鎌鼬

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forth pray・7

 

 

海鳴は海に隣接しており、そのためか早朝になると稀に霧が出る事がある。今日はその稀な日だったようで辺りには霧が立ち込めていたが視界に困る程の濃度ではないし、公園までの道は覚えているので邪魔にはならない。そうやって数分ほど歩き、辿り着いた公園にはフェイトが先に来て待っていた。

 

 

そしてフェイトの側にはアルフと、そしてプレシアの姿があった。

 

 

アルフが来ているのは予想していたがプレシアの存在は予想外だった。時の庭園にいた時の様な黒いドレスでは無くセーターにロングスカートという有り触れた格好でーーー何やら気まずそうにしていた。

 

 

その姿を見る限りではどうやら洗脳は成功している様だ。もしも成功していなければプレシアがフェイトに対してあのような対応をするはずが無く、そもそも憎悪している彼女と一緒に行動しようだなんて考えない。フェイトの事をアリシアと同じくらいに愛している、一緒にいたい、でも彼女に()()()()()()()()()()()()()虐待してしまったので気不味い。といった具合だろう。

 

 

これで失敗していたら隙を見てもう一度プレシアに〝教育〟をしてやらなければならなかったところだ。

 

 

そして、この公園にはフェイトたち以外の気配を感じる。恐らくは管理局の者だろう。フェイトたちの希望を叶える為に外出させたはいいが目を離すわけにはいかないから隠れていると思われる。認識阻害魔法でも使っているのか姿は見えないが、何かあれば即座に飛び出して来そうである。

 

 

魔導師だと彼らには隠しているが、下手な行動を取らなければ問題ないだろうと結論付けてフェイトたちの前に立つ。

 

 

「よ、おはようさん」

 

「あ、リョーヤ……おはよう」

 

「おはようリョーヤ」

 

「この子が貴方たちが言っていた子なのかしら?」

 

「はじめまして、加賀美両夜です」

 

「フェイトの母のプレシア・テスタロッサよ。私が居ない間、貴方には迷惑をかけたみたいね」

 

 

プレシアは凛として、一見してみれば出来る女性の様な雰囲気を漂わせているものの、さっきの気まずそうにしている姿を見てからでは威厳もクソも無い。思わず吹き出してしまいそうになるのを奥歯を噛み締めて堪える。

 

 

「いえいえ、困った時はお互い様ってヤツですよ。こんな歳でストーカーされるなんて経験したく無い事でしょうしね、部屋を貸しただけですけど助けになったのなら幸いです」

 

「リョーヤ、アンタが敬語使ってるのなんだか気持ち悪いんだけど」

 

「ア、アルフ!!本当の事でも言ったらダメな事があるんだよ!!」

 

「……フェイト、それはフォローになっていないフォローだからやらないでくれ」

 

「その……別に敬語なんて使わなくても良いわよ?」

 

「あぁ……うん、そうさせてもらうわ」

 

 

一応年上の人間なのだからと敬語を使って話していたのだがどうやら不評だったらしい。だけどアルフからのストレートな物言いよりもフェイトの優しさの方が心にくる。本人は諌めようとしているのかもしれないが、本当の事でもと言っている時点で彼女も同じように思っていると自分から告げていることになる。

 

 

プレシアの優しさがちょっと嬉しかったが、さっきの気まずそうにしている姿を思い出して吹き出してしまう。

 

 

「さて、フェイトは話があるって言ってたけどちょっとこっち来い」

 

「待ちなさい、今なんで私の顔を見て吹き出したのかしら?正直にーーーって、アルフ!?何をするの!?」

 

「まぁまぁ」

 

 

プレシアを羽交い締めしながら離れていくアルフを見届ける。どうやら俺たちで話すべきだと判断して、邪魔者になるプレシアを遠ざけてくれるらしい。魔法の使用を禁止されているのかそれとも自粛しているのか、2人は身体強化魔法を使っていなかった。それでは病人であるプレシアがアルフに逆らえる訳がなく、抵抗しているもののそのままズルズルと離れていく。

 

 

フェイトはオロオロとしているだけだった。

 

 

「んでだ、フェイトーーー」

 

「リ、リョーヤ……?ファ!?」

 

 

オロオロとしていたフェイトに近づき、彼女の両頬をギリギリ痛いと感じる程度の力加減で摘まみ上げる。

 

 

「ーーーいつも俺がこの時間帯に起きているからって言っても今日も同じように起きている保証は無いわけだよな?朝早くから電話してくれて……お陰で寝不足なんだけど?」

 

ふぁ、ふぁっへひかんふぁふぁふぁったから(だ、だって時間が無かったから)……」

 

「ん?ん?言い訳をする悪い口はこの口かな?この口なのかな?」

 

いふぁいいふぁい(痛い痛い)!!ごふぇんなさい(ごめんなさい)……!!」

 

「謝ってるみたいだけど思いの外楽しくなって来たからお仕置きを兼ねてこのまま続行で」

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分ほどフェイトの頬をこねくり回し、頬から手を離す。肌質なんて同じ物だと考えていたのだが、愛歌のそれとは違った感触が面白く感じてしまい、ついついやり過ぎてしまった。

 

 

「うぅ……リョーヤ酷いよ……」

 

「反省してないみたいだなーーーもうワンセット行っとくか?」

 

 

手を頬に伸ばそうとするとフェイトはビクッと肩を跳ねあげて俺から距離を取った。余程こねくり回されるのは嫌だったらしく、涙目になっている。

 

 

その姿にゾクリと、暗い愉悦が走った。

 

 

「リョーヤ!!顔が怖いよ!!」

 

「あぁ、ごめんごめん。フェイトがイジメられている姿が輝いて見えてな」

 

「嬉しく無いよ!!」

 

 

叫びながら怒っていますと言いたげなポーズを取るフェイトを見て、声を噛み殺しながら思わず笑ってしまう。

 

 

ジュエルシードを探索している間の魔導師として活動している彼女は、俺の家に来て暮らしていた彼女は、自分を押し殺している様に見えた。理由もわからずにプレシアからの命令を実行しているだけの、まるで人形の様な有様だったのだ。

 

 

しかし、今の彼女は自分を押し殺す事なく曝け出せている。俺が与えた理不尽に対してちゃんと怒ることが出来ていた。

 

 

その姿を見るだけで、俺が裏でこそこそ活動してプレシアを生かしている価値があったと思う。

 

 

「で、引っ越すって言ってたけど何処に行くんだ?」

 

「……遠いところ。今までみたいに一緒に遊んだり、気軽に会ったり出来なくなるくらいに遠いところに行くんだ」

 

「そっか……」

 

 

時空管理局の本拠地はミッドチルダにあるので、フェイトはプレシア共々そこに向かう事になる。確かにこの世界からミッドチルダまでは簡単に行き来が出来そうな距離ではなかった。

 

 

「……手紙、書いてもいいかな?」

 

「おう、愛歌と一緒に返事書いてやるよ」

 

「……ビデオレターってのも、やっていいかな?」

 

「おう、俺たちからもフェイトが嫉妬しそうな程に楽しそうなやつ送ってやるよ」

 

「……離れたく無いなぁ」

 

「……俺も、友達とは離れたく無いなぁ」

 

 

フェイトの目から涙が溢れる。俺と離れたく無いと、涙を流す程に別れを悲しんでくれているらしい。生憎と俺は涙の流し方なんて知らないので泣くことは出来ないのだが、もしも知っていたらフェイトと同じように泣いていたのだろうか。

 

 

フェイトと過ごした時間は短い物だったが、かなり濃い付き合いだったと言える。桜木の様な共通点があったから出来た繋がりではなく、愛歌の様な特別な出来事があったから出来た繋がりではない。

 

 

偶然出会って、出来た初めての繋がり。悪としてあらねばならないのに、助けたいと考えて行動してしまう程に大切な存在になっていた。

 

 

「……また、帰ってくるから……!!時間はかかるけど、必ず帰ってくるから……!!」

 

「……あぁ、待ってるよ。お前とアルフが使ってた部屋、綺麗にしておくからさ、また泊まりに来てくれよ?」

 

「うん……うん……!!」

 

 

愛歌に向けている想いとは違った感情だが、不思議と不快な物だとは思わなかった。それこそ、不要なはずのこの繋がりを間違いでは無いと言い切れる程に。

 

 

「なぁ、指切りって知ってるか?」

 

「ユビキリ……?」

 

「知らないみたいだな。日本じゃ約束をする時に小指同士を絡ませてるんだよ。その約束を守る様にって、ちょっとしたおまじないみたいなやつだよ……また帰って来られる様に、指切りをしよう」

 

「えっと……どうやるの?」

 

 

フェイトに小指を出させ、それに俺の小指を絡ませる。そして御決まりの言葉を教え、せーのと声を合わせ、

 

 

「「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます、指切った」」

 

 

必ず、また会える様にと約束を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーお帰りなさい」

 

「あぁ、ただいま」

 

 

フェイトと再会の約束を交わし、別れを済ませて家に帰ると玄関前で愛歌が待っていた。彼女もフェイトが海鳴から……正確には地球から離れる事は知っている。本当だったら電話で伝えたかったのだが起きていないと思い、メールで伝えておいたから。

 

 

「フェイト、行っちゃうのね?」

 

「高町たちと挨拶を済ませたらミッドチルダに向かうそうだ。いつになるかは分からないけど、必ず帰って来るってさ」

 

「そうなの……だったら2人が使ってた部屋は掃除しておかないといけないわね」

 

 

フェイトと会えないと分かっても愛歌は悲しむ素振りを一切見せない。それは彼女が薄情な人間だからでは無い。また会えると信じているから悲しんでいないのだ。

 

 

「……そうだな、いつ帰って来ても良いようにしておかないとな」

 

「もしも2人が帰ってきたらパーティーしましょうよ。ちょっと良いお肉を買って焼肉パーティーなんてどうかしら?」

 

「いいんじゃないか?結局、あの日は2人とも帰って来なかったせいで残してた肉もダメになったしな」

 

 

時空管理局が到着した日に荷物を持って家から出て行ったので2人の為に取っておいた肉はダメになってしまったのだ。色々と忙しすぎて2人は覚えていないだろうが、帰ってきた時にはみんなで焼肉をするもの良いかもしれない。

 

 

「それにしても……両夜、もしかしてまた幽霊が増えたのかしら?」

 

「なんで見えてないのに分かるんだよ」

 

 

愛歌には魔導師のことを教えるついでに俺の目の事を話してある。そうすれば士郎さんと話していても不思議がられる事はないと考えたからだ。普通ならば見えない存在を見ることが出来る者は忌避されるのだが、愛歌はそんな事はせずに、こんな胡散臭い事を疑いもせずに信じてくれたのだ。

 

 

自分も見えないかと目を細くして何もない空間を見ている愛歌の姿をハスターに頼んで写真に撮ってもらった事は今でも間違いではないと信じている。

 

 

「なんか、こう私の立ち位置が脅かされる感じがしてるのよーーーフェイトが来た時みたいに!!私の金髪美少女キャラが!!被ってると私の直感が叫んでるのよ!!」

 

「マジかよ」

 

 

見えていないはずなのに、感じられないはずなのに、愛歌は正確に金髪美少女キャラ(アリシア)の存在を捉えていた。なんでキャラ被りに関してこんなにも神懸かり的な直感を見せるのだろうか。ジュエルシードの時に仕事をして欲しかった。

 

 

「私の金髪美少女幼馴染ポジションは揺るぎないとはいえ、ここはガツンと言っておかないといけないわね……!!」

 

 

意気込んでいるつもりなのか、腕まくりをしながら肩をあげて家の中に入っていく彼女の後ろ姿を見て思わず笑いをこぼしてしまう。

 

 

フェイトがいない事で寂しさを感じていたが、俺の日常はそれでも変わらずにあるのだと感じられたから。

 

 

「ったく……愛歌、見えないのにどうやってガツンと言うつもりなんだ?」

 

「ーーー気合いと根性よ!!」

 

「あらやだ、漢らしい」

 

 

無駄に愛歌の漢らしい姿に感心させられながら、俺も彼女の後を追って家の中に入る。

 

 

別れた大切な友人との再会を願いながら。

 

いずれ訪れる決定的な対立を思い描きながら。

 

その果てでやって来るであろう、俺の望む光景を待ち焦がれながら。

 

 

 






フェイトそんと愛歌ちゃまの修羅場を期待していた方々には御免なさい。そんな物はありません。てか、箱入り天然娘のフェイトそんがそう簡単に恋心なんて自覚出来るわけ無いだろうが!!自覚出来るとしてももっと先になるわ!!

という事で修羅場をお望みの方々はしばらくお待ちくださいませ。

これで無印は終了。10話くらい幕間を挟んでからA's編突入かな?


作者はね、感想と評価をくれるとブヒブヒ喜びながら続きを書く作者なんだーーーだから感想と評価という名の餌を下さい(感想&評価乞食

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