道化の名は必要悪   作:鎌鼬

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幕間
dirty heart


 

 

「ーーーえ?」

 

 

気がついたら見覚えのない場所にいた。目の前に建つ建物はまるで出来の悪い作品のように継ぎ接ぎでチグハグ。足元はアスファルトでは舗装されておらずに乾いた地面のまま。その上に地面や建物の壁には赤いシミのようなものがこびり付いている。

 

 

「落ち着け……落ち着きなさい……私……」

 

 

どうしてこんなところにいるのか分からないが、こういう時に慌ててはダメなのは分かっているので胸に手を当て、大きく深呼吸をしようとしーーー手に心臓の鼓動が伝わらないのに気がついた。

 

 

「嘘、私、死んでる……?」

 

「ーーーイヤイヤ、死んでなんか無いからね?混乱してるからってネタに走るのは止めようよ」

 

 

冷静さを取り戻す手段として両夜から教えられていたネタに走る行為をした時、背後から声を掛けられた。振り返るとそこには薄い桜色の長髪を靡かせた童顔の女性が立っていた。服装はまるで物語に登場するような魔法使いを思わせるローブを、女性らしい体つきを隠そうとしないで羽織っている。

 

 

その為、童顔でありながら凶悪な胸部装甲がインナー越しに曝け出されてしまっている。

 

 

「敵ーーー!!」

 

「うん、今ボクの胸を見て判断したよね?敵じゃないから」

 

「五月蝿いわよオッパイオバケ……!!」

 

 

母親が絶壁なせいで絶望的な将来が予想出来てしまう私の胸に対して嫌味なのだろうか。お母さんはどうしてベストを尽くしてバストを育てなかったのか。そのせいで私の胸の将来が絶望的なのだ。

 

 

彼女が何かリアクションを取るたびにプルプルと震える胸。胸が震えてた回数だけ、私の憎しみが増していく。

 

 

「まぁまぁ落ち着いて。どうしてこんなところにいるのか知りたくない?」

 

 

そう宥められて、一先ず言われた通りに落ち着く事にする。大きな胸を見ると殺意のボルテージが高まってしまうが、今はそんな事よりもこの場所について知るのが先決だ。深呼吸を何度か繰り返して頭に登った血を下げ、なるべく胸を視界に入れないように気をつける。

 

 

「落ち着いてくれたみたいだね?それじゃあまずは自己紹介だ。ボクの名前はマーリン。リョーヤの魔術の師匠で、彼の親代わり的な事をしていたただの魔術師だよ」

 

「……マーリンって、アーサー王物語のマーリン?」

 

「そうそう、そのマーリンであってるよ。別世界のって付くけど」

 

 

魔術師、そしてマーリンという名前から推測出来た人物と同一かを尋ねると、彼女はあっさりと肯定した。思わぬビッグネームの登場に頭が真っ白になりかけるが、深く理解してはダメだと判断して〝そういうもの〟だと納得する。

 

 

魔術に関して、そして両夜が別の世界にいた事に関しては既に本人から教えてもらっているので驚きはしない。最初に聞いた時には信じられないような話であったが、ジュエルシードという現代科学では到底作り出せないような物を見て、そして彼が嘘を言っていなかったので信じる事にしたのだ。

 

 

もっとも、彼の魔術の師匠で親代わりがアーサー王物語に登場する花の魔術師だとは思わなかったのだけど。

 

 

「沙条愛歌ーーー両夜の正妻よ」

 

「恥ずかしげもなく言い切ったね……!!」

 

「奥手なヒロインなんて時代遅れよ!!押して押して、押しまくって攻めるのよーーー人生の墓場までね!!」

 

 

アニメとかで恥ずかしがり屋で控えめなヒロインがいるのだけれどもあれはふざけているのだろうか。好きだと思っている、だけど恥ずかしくて気持ちを伝えることが出来ない。で、好きな相手がほかの女の子といい感じになったら悲しそうにする事で罪悪感を抱かせてその相手の気を引くって。

 

 

そんな事をしている暇があれば羞恥心を捨てて好きだと言葉で伝えるべきだ。行動で示すべきだ。前に両夜が言っていたように、何もしなければ想いは伝わらないのだから。

 

 

「それで、ここはどこなのかしら?」

 

「ここは()()()()()

 

「夢の中……?」

 

 

マーリンからそう言われて、この場所に来る前の事を思い出した。

 

 

両夜がベッドに入った時を見計らい、私は一緒に寝ようと彼に提案したのだ。それははじめての事ではなく、何度もやった事なので両夜は特に悩む素振りをして見せる事なく了承してくれて私はベッドの中に入った。

 

 

そして眠りにつき、ここにいたのだ。

 

 

「ならここは……」

 

「リョーヤの夢だね。無意識なのかわざとなのか分からないけどリョーヤの起源でマナカは干渉されて招かれたみたいようだ。ここは彼の生まれ故郷。幼少期に過ごしていた、最低最悪という言葉が生温い様な街だよ」

 

 

その時、どこからか男が走って来た。身なりは浮浪者の様にボロボロで、手足はロクなものを食べていないのか痩せ細っている。中東系の顔は恐怖で青くなっていて、その手には赤黒い錆の付いたナイフが握られていて、走りながら後ろを気にしている様だった。

 

 

男は進行方向にいる私たちに気付いておらず、このままではぶつかると考えて避けようとしたのだがマーリンに止められる。

 

 

そして、男は()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「これは夢だけど過去の出来事だ。だからボクたちはこの世界から何もされないし、何もすることが出来ないーーーまぁ、ボクくらいの魔術師になれば干渉なんて簡単に出来るけどね!!」

 

 

マーリンがドヤ顔をしながら胸を張る。そのせいでぷるんと効果音付きで胸が震えた。反射的に手を伸ばして忌々しい胸をもぎ取ろうとすると、男が走っていった方向から悲鳴が聞こえてきた。

 

 

悲鳴で正気を取り戻して、男の方を見る。すると男は頭から血を流しながら地面に倒れていて、その側には廃材を握った少年がーーー今よりも幼い姿の、私と出会った頃の両夜が立っていた。

 

 

顔を見られない様にしているのかボロ切れを被っているが、一目見て彼だと分かってしまった。服の下から見える彼の身体は男と同じように痩せ細っていて、その上に暴行でも受けたのか青アザや瘡蓋がいくつもあってとても痛々しい姿だった。

 

 

両夜は握っていた廃材を数回倒れていた男の頭に振り下ろしてトドメを刺すと懐を漁り、財布の代わりだと思われる袋を手にしてこの場から立ち去っていった。

 

 

「ーーーなんて世紀末チックな光景なのかしら」

 

「ネタに走るってことは余裕があるのかな?それとも余裕がないからネタに走っているのかな?」

 

 

マーリンが囃し立てるように行ってくるが割といっぱいいっぱいなので言い返す事が出来ない。想像してほしい。自分が好いている相手が淡々と人を殺し、当たり前のように財布を奪い、何事も無かったかのように現場から去っていく姿を。普通ならば幻滅し、手のひらを返してしまうだろう。そうでなくても殺人という罪を当たり前のように犯して何事も無かったかのように振舞っている姿に恐怖を感じ、今まで通りに接する事が出来なくなるに決まっている。

 

 

だというのにーーー()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

それどころかーーー()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……成る程、異常者である彼が愛した人もまた異常者である、か……異常者同士は惹かれ合うって事なのかな?」

 

「異常だってことは自覚しているのだけどハッキリと口にしないでもらえるかしら?……あぁ、でも両夜と同じだって言われるのは悪くないわねーーーもっと口にしなさい……!!」

 

「自分の欲望にどストレートだね!!」

 

 

いい笑顔でサムズアップをしながらそう言えば、マーリンもサムズアップで返してくれた。ここまでの反応を見て分かったのだが、どうも彼女は私に対して悪感情を持っていないようだ。彼女は両夜の親代わり、つまり将来のお義母さんである。ポイントを稼いでおいて損はないだろう。

 

 

マーリンに言われる前から、私は自分が異常者だと自覚している。周囲に両夜と桜木君という突き抜けた人物がいるので時々自分の事が分からなくなるのだが、それでも普通の人間に比べれば十分に異常の域に入っているのだ。

 

 

同年代よりも頭が良いーーー教科書を読めば、高校生で学ぶことだって簡単に理解出来る。

 

同年代よりも精神が早熟しているーーー10にも届かず、生理もまだなのに両夜の事を繋がりたいと思ってしまうほどに愛している。

 

 

それは異常というしかないだろう。幸いなことに早い段階から自分の異常を自覚していたので優秀で終わらせられる程度に抑えているが、もしも自覚していなかったらその異常性を恐れられて社会から排除されていたかもしれない。

 

 

ちなみに両夜は私と同じようにある程度抑えていて、桜木君は惜しむことなく見せびらかせている。普通ならばそれで恐れられるのだが、彼の持つカリスマ性により逆に親しまれるという事態になっている。羨ましいとは思わないが、純粋に凄いと感心した。

 

 

「良し、それじゃあリョーヤの事を追いかけようか。このままここにいるとよろしくない光景を見ることになるからね」

 

「よろしくない光景ってーーー」

 

 

何なの、と続けようとしたのだが、道の陰から小さな人影がーーー細く、小さ過ぎるのだが、体格からして子供であろう者たちが現れ、男の死体を引きずって物陰に持って行く光景を見て、何となく察してしまった。

 

 

殺された男の姿、そして幼い両夜の姿を見るに、この街では食べる物が足りていないのだと分かる。そんなところで死体が放置されたらどうなるのか……その答えがこれだった。

 

 

物陰に隠れたお陰で直接的な現場は見えないのだが、グチュグチュと湿った音が聞こえてしまい、見えない場所で何が行われているのかを想像する手助けをしてくれる。

 

 

「ーーー早く行きましょう!!迅速に!!あそこを見ないようにしながら!!」

 

「流石にカニバリズムはチョット無理があったみたいだね?」

 

「シャラップ……!!」

 

 

せっかく想像しないように両夜のカッコいい姿を思い出していたというのにマーリンの余計な一言のせいで蒸し返してしまった。

 

 

耳を塞ぎ、物陰で行われているであろう精肉作業を視界に入れないように気をつけながら、私とマーリンは両夜の後を追いかけることにした。

 

 

 






幕間という事でカガっちの過去編に突入。とは言ってもどんな環境なのかの説明だけだけど。

カガっちのホームタウンクッソ世紀末チックな街。法律なんて存在していないので自衛が当たり前。殺された?奪われた?それをされる方が悪いっていう成人だって中指を突き立てるような素敵タウン。慢性的に食料が足りていないのだからカニバリズムだって当たり前だっていう倫理観も道徳も存在しないぞ!!

それにしてもマーリンさんってば登場してすぐに愛歌ちゃまからヘイト稼いでやがるな。

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