道化の名は必要悪   作:鎌鼬

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dirty heart・2

 

 

マーリンの後ろを歩きながら幼い両夜の後を追う。彼は追っ手を警戒しているのか時折背後を確認しながら、迷路のように入り組んだ街を無造作に、無計画に、だけどしっかりと目的地に向かって歩いていた。追っ手はいないと思っているが気が付いていないだけかもしれないと考えているようだ。警戒に警戒を重ねた過剰すぎる警戒っぷり。しかし、それも街の有様を見れば納得してしまう。

 

 

無法地帯、そう言うしかなかった。

 

人数は少なかったが、見かけた誰もが周囲への威嚇の為か持っている武器を見せびらかせている。

 

道端で普通に、当たり前のように殺し合いが行われている。

 

勝者は死んだ敗者から有り金どころか着ている物を全て剥ぎ取って悠々とその場から立ち去り、死んだ敗者はどこからか現れる子供達や手足を無くした大人達の手によって物陰に運び込まれ、その場で〝精肉作業〟されている。

 

〝精肉作業〟を行なっている彼らも弱者である事には変わらず、五体満足でこの街では比較的マトモな体格の大人に見つかれば蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ出していた。

 

捕まればマトモな扱いをされないことを理解しているからだろう。逃げ遅れた子供の1人が大人に捕まりーーー()()()()()()()()()()

 

そして行為が終われば解放せず、息絶え絶えになっている子供を連れてどこかに立ち去っていく。

 

 

両夜はそれを理解していたからなのか人気のない道を選んで進み、時には物陰に隠れて、時には家の上をパルクールのように登って移動していた。

 

 

両夜の事を追いかけながらマーリンからこの世界の説明を受ける。どうやらこの世界は異世界などではなく私たちのいる地球と同じ世界なのだが、時間軸は前に進んでいる上に過去に起きた出来事が違っている、所謂並行世界に分類される世界らしい。

 

 

分かりやすい例として織田信長を挙げられた。私たちの世界では日ノ本統一を前にして明智光秀に反逆されて本能寺で打たれた武将なのだが、この世界での織田信長は明智光秀の反逆を跳ね除けて逆に明智光秀を本能寺でファイヤーし、喜びの敦盛ブレイクダンスを踊りながら日ノ本統一を達成。天下布武の世界進出の最中に病没したらしい。そのせいで徳川幕府は起こらず、そこで行われるはずだった鎖国も無かったようだ。

 

 

そして軽く今の時代の世界情勢についても教えられた。

 

 

世界のあちらこちらに植民地を有し、角砂糖の代わりに阿片を紅茶にぶっ込んで決まっている英国。

 

神の教えを広めるのと同時に弾薬と爆薬をばら撒いている北欧の宗教国家。

 

重火器をものともしないマジカル武術を研究、開発、研鑽をしている修羅の国アジア。

 

ロシアでは異常気象により年中冬将軍が滞在して人が生きていられる環境では無いので国家は存在せず、なのにどこからか沸いている半裸のモヒカンがボルシチとウォッカで身体を温めながらヒャッハーしている。

 

国土全域を核兵器で完全武装して世紀末帝王になっている超物量国家のアメリカ。

 

 

訳が分からなくなった。特に難しい事を言われていないはずなのに頭がマーリンの言葉を理解する事を拒否していた。

 

 

確かに英国は阿片戦争で阿片をばら撒いていたし、宗教は異端だなんだと理由をつけて虐殺をしていたし、アジアには太極拳や空手といった独特の武術が伝わっているし、ロシアは寒くてウォッカはロシア語で水を意味する言葉だし、アメリカは第二次世界対戦で核兵器を開発していた。でも、だからと言ってどうしてその方向に伸びてしまったのか。世紀末チックどころか頭の先までドップリと黙示録に浸かっている世界観だった。

 

 

こんな世界はすぐに滅びるだろうと思っていたのだが、マーリンはそう考えていないらしい。確かに何か切欠があれば坂を転げ落ちるように人類どころか地球そのものが死の星になるのだが、互いが互いを問題視しているからこそ奇跡的に均衡を保てていると言っていた。

 

 

どこかが弱みを見せれば英国は阿片を送り、宗教国家は救済のために布教しなきゃと言いながら弾薬と爆薬をばら撒きに向かうし、アジアは荒れて修羅場になるのを予想して鍛錬のために人を送り込んで泥沼化させようとするし、アメリカは取り敢えず核撃っとけばいいだろ?的な思考で核兵器を地球の滅亡が決定してしまう過剰な量を放つらしい。

 

 

どこかが動けば地球が滅ぶと理解しているから、一歩間違えれば滅びてしまうような世界で均衡が保たれているらしい。

 

 

ちなみにモヒカンは世界のどこにでも湧き、定期的に駆除しなければ徒党を組んでボルシチとウォッカを抱えながら火炎放射器を振りまいてヒャッハーするらしい。彼らは害獣か何かだろうか。

 

 

ならばここは一体どこなのかと聞けば中東だと返された。中東といえば私たちの世界でも問題が発生している地域だと覚えているが、この世界の中東はそんなレベルではないらしい。

 

 

曰く、世界のゴミ箱。世界から見捨てられた土地。

 

 

中東という地名で呼ばれていたのは遠い昔の話で今はただの土地としか見られておらず、生み出される工業廃棄物や表社会どころか裏社会でも生きられない問題を抱えた人間が集められる土地らしい。

 

 

国としてあるわけではないので法律は存在せず、〝弱肉強食〟というシンプルな掟だけが存在している無法地帯。

 

 

それが、両夜が1度目の生を受けた場所だった。

 

 

マーリンからこの世界の説明が終わったところで両夜は足を止め、周囲に誰もいない事を確認してから近くにあったドアを一定のリズムで叩く。それが合図だったのだろう、鍵が退かされる音がして扉が僅かに開き、両夜はその隙間に身体を滑り込ませて家の中に入った。

 

 

扉には再び鍵がかけられて中に入れなくなったのだが、それは普通ならの話だ。夢を見せられているだけの私たちは壁を幽霊のように通り抜けて家の中に入る。するとそこにいたのは細身であるがしっかりとした身体つきの、最低限の部分しか隠していない半裸の女性に抱き締められている両夜だった。

 

 

即座にその女性に攻撃しようとするが、マーリンに止められてしまう。

 

 

「ドイテ、アイツ、ナグレナイ」

 

「まぁまぁ待たさない。大好きなリョーヤが他の女性に抱き締められてイラつくのは分かるけどさ、ちゃんと状況を把握した方が良いと思うよ。それにどうやって夢の中の人に攻撃するつもりなのさ?」

 

「そこは、ほらーーー気合いと根性でどうにかするのよ」

 

「ちょっと脳筋過ぎやしないかな?」

 

 

マーリンに諭されて渋々握り締めた拳を下ろし、言われた通りに状況を把握しようとしたのだが、どうやら女性は両夜に欲情して襲い掛かった訳ではないらしい。

 

 

何故なら両夜に抱き付いている彼女の顔は、酷く安堵したものでしきりに涙を流して同じ言葉を呟いていたから。

 

 

「……何を言っているのかさっぱりだわ」

 

「言葉が違うから分からないよね?簡潔に説明すると彼女はこの店のオーナーで、さっきの男に店の売り上げを盗まれてそれをリョーヤが取り戻したんだよ」

 

「お店って……やっぱりあっち系のお店なの?」

 

「そりゃあ当然。アジア生まれなら兎も角、普通の女性は弱い生き物だ。そんな彼女たちでは弱肉強食が掟のこの土地では生きていけない。だから強い者の庇護下に入り、身体を売る事で生きる為の糧を得ているんだ。リョーヤが売り上げを取り戻してなかったら、この店の女の子たちは居場所を失っていただろうね」

 

 

そうなったら彼女たちはどうなるのかなんて、散々この土地の有様を見てきたのだから簡単に分かってしまう。同じ女性としてそんな終わり方を迎えるのは嫌だった。

 

 

店の売り上げを取り戻すことで彼女たちを救った両夜だが、それは善意では無いのだろう。何やら言いながら彼は女性から離れ、女性はそばに置いてあった袋を両夜に渡していた。彼が中身を確認するのに乗じて後ろから覗き込んでみれば、袋の中身はパンや瓶詰めされた水が入っていた。

 

 

それを受け取って、何も言わずに両夜は店から出て行く。行きと同じように付いてくる者を警戒しながら歩く彼だったが、その足取りは不思議と浮き足立っているように思えた。数十分歩いた先にあったのは完全に崩壊している廃墟。瓦礫と瓦礫との間を器用に通りながら奥へと進む彼に付いて行く。

 

 

すると奥は広々とした空間が広がっていて、そこには金髪の三白眼の少年が差し込む日差しを灯りに本を読んでいた。

 

 

視界にノイズが走る。何かが起こる前触れかと思い身構えるがマーリンは慌てるそぶりを見せない。数秒もすれば視界が落ち着き、時間が進んだのか夜になっていた。

 

 

明かりとなる太陽が沈んだからか辺りに人気は無い。そんな誰もいないと思ってしまいそうな空間で、両夜と金髪の少年は廃墟の上に座りながら夜空に浮かぶ満月と月を眺めていた。

 

 

「ーーー」

 

「ーーー、ーーーッ!!」

 

 

何を言っているのか分からない、だけど何か大切な事を言っている。それを直感で理解し、分からなくても良いから何を話しているのか聞こうとして2人に近づきーーー

 

 

「ーーーそこまでだ」

 

 

ーーーあと少し、そんなところで横から手が伸びて遮られた。視線を向ければそこには両夜が大人になったらこうなるのでは無いかと思える成長をした男性が立っていた。

 

 

「こいつが誰なのか、一体どんな話をしているのか気になるだろうがもう目覚めの時間だ。悪いが知りたかったら直接()に聞いてくれ」

 

「貴方、もしかしてーーー」

 

 

両夜なのかと聞こうとしたが、視界が歪んで言葉が続かない。眠る時に感じたことがある落ちるような感覚とは違う、逆に浮かび上がるような感覚。

 

 

最後に見ることが出来たのはイタズラが成功した子供のような笑みを浮かべる両夜らしき男性とーーー何故かドヤ顔で胸を押しつけながら彼に抱き付いているマーリンの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー巨乳死すべし……!!」

 

「朝一から平常運転してるなぁ……」

 

 

跳ね上がるようにして目が覚める。辺りを見渡せばそこはさっきまでいた無法地帯などでは無く、私が眠っていた両夜の部屋。クローゼットの前には寝間着からジャージに着替えている途中で半裸の両夜の姿があった。

 

 

その姿を脳内に保存するのを忘れない。

 

 

「……おはよう、両夜」

 

「あぁ、おはよう。気分はどうだ?」

 

 

その言い方から察するに私がどんな夢を見ていたのか分かっているのだろう。つまり、あの夢は彼が自分の意思で見せたものになる。

 

 

「世紀末どころか黙示録突入してる世界見せられて憂鬱なのだけど、貴方の過去を知れたから問題ないわーーーむしろ、今口直しの感覚で両夜の裸体を眺めてるから」

 

「恥ずかしがるような物ではないからなーーー存分に眺めてくれ」

 

 

半裸の状態でポージングをする両夜の身体は同年代の子供の身体に比べて引き締まっている。前に触らせてもらった事があるのだが、彼の筋肉は硬い物では無く、しなやかで程良い弾力があった。

 

 

その時の事を思い出して涎が溢れそうになる。

 

 

「あの先について知りたかったらもう少し待ってくれ……俺の心の準備的な意味で」

 

「あそこで止められると気になってしょうがないのだけど……そこは我慢してあげましょう。その代わり、ちゃんと話すって約束しなさい」

 

 

あの時の光景が彼にとって大切な瞬間であると分かっている。なので待つ事にした。彼の口から、彼の意思であの光景について教えてくれる日が来るのを。

 

 

私の大好きな彼が、一番大切にしてくれるのを明かしてくれる日を。

 

 

 






世紀末どころか実は黙示録に突入していたカガっちの前世。


英国ーー国民を幸せにしなきゃ!!でもどうしたら……そうだ、お薬で幸せになろう!!

宗教国家ーー神の教えを広めなきゃ!!その為には邪魔する者を排除出来る力がいる……銃と爆弾が必要だな!!

アジアーーなんか世界情勢がやばい事になってきたな……武術で身体鍛えれば大丈夫やろ?

アメリカーーアメリカ イズ ナンバーワン。

モヒカンーーヒャッハー!!


こんなとんでも世界でも均衡が取れていたという驚愕の事実。尚、地球崩壊は隣り合わせ。

・注意
この作品は特定の個人、集団、国家、宗教を辱める目的で製作されていません。この作品でそうだからという理由で偏見を持たないようにしてください。

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