道化の名は必要悪   作:鎌鼬

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vampire girl・2

 

 

現代の日本では滅多にお目にする事の出来ない銃を突きつけられて命令に逆らえるはずが無く、俺と月村はリーダーと思わしき人物の指示に従う事にした。俺たちが無抵抗で素直に指示に従うと判断したのかリーダーは無線でどこかに連絡を取る。その間も周りの者たちは油断なく銃をこちらに突きつけていた。

 

 

前世での死んだ時の記憶が蘇る。黒塗りのボックスカーに腕を縛られた状態で乗せられ、数十分の時間の移動で辿り着いた先は豪邸だった。移動時間と体感した車の走行スピードからここは海鳴の外だと思われる。周りには民家は無く、木々が生い茂っているので恐らくは山の中。門の前に立つ警備員達は銃こそ持っていなかったが、俺たちの姿を見ても顔色を変えなかった事からグルだと判断出来た。

 

 

そうして豪邸の一室に月村と共に監禁される。見張りが付けられている上に腕を縛られて監禁されているとは言え部屋は豪華なもので、何をしてはいけないとも言われていない。試しに立ち上がって身体を解すふりをしても、見張りの者たちが僅かに目を向けるだけで何もされなかった。

 

 

「ごめん……ごめんね……私のせいで……」

 

 

奇妙な拉致に目的を図り損ねていると、月村が泣きながら謝ってきた。彼女にはこうなった原因に心当たりがあるようで、俺が一緒に連れてこられた事を悔やんでいるようだ。

 

 

「泣くなよ、俺が悪くないはずなのに俺が悪いみたいになってるじゃないか……ほら、あそこの見張りのやつの目を見てみろよ。俺が月村のことを泣かせたっていう目をしてやがる」

 

 

慌てて目を逸らしたが見逃さない。あの目は確実に俺が悪いと無言で訴えていた。確かに女を泣かせるような男は良い印象を与えないが、だからといって全てが俺が悪いように見られるのは納得がいかない。

 

 

近いうちに、何かしらの報復をする事を誓う。

 

 

「取り敢えず、今すぐに何かされるわけじゃなさそうだからこのまま大人しくしといたら良いさ。誘拐って事は俺たちは人質だ。脅す側の弱みなんだからそう簡単には殺されないだろうし」

 

 

テーブルの上に置かれていたポットに茶葉を入れ、電気ポットのお湯を注いで紅茶を淹れる。正しい淹れ方なんて知らないので適当だが、茶葉が良かったのか雑な淹れ方でも甘く優しい匂いを漂わせる。

 

 

「何でもかんでも自分が悪いって追い込むのは月村の悪癖だな。多少は開き直った方が良いぞ。あ、砂糖とミルク無い?無いの?お茶受けは?そっちも無し?そっかぁ……」

 

「……加賀美くん、ちょっと落ち着き過ぎじゃない?」

 

「こんなの、昔に比べたら危機的状況にもなりやしないからな」

 

 

昔と言っても当然今世の話ではなくて前世の話だが。そもそも前世では人攫いなんていうものは死と同じ意味を持っていた。見つかって逃げられなければその場で犯された上で殺されて食料にされる。運良く犯されて生きたまま連れ去られても、連れ去られた先で手足と声帯を切られて何も出来ないようにしてからオモチャのように扱われる事になる。それに比べたら今の状況なんて優し過ぎるくらいだ。拉致や誘拐なんてものではなく、少し強引にお茶会に誘われたように思えて仕方がない。

 

 

そんな俺の態度を見てか月村は呆気に取られて泣くのを止め、少しだけだが笑い声を零した。

 

 

「そうそう、泣くよりも笑ってた方が絶対に良いって。折角可愛いんだからさ」

 

「か、可愛いって……そんなこと言っちゃって大丈夫なの?沙条さんがこのこと知ったら……」

 

「……ゆ、誘拐なんて事態だから。許されるはずだから」

 

 

自分の言った事を思い返し、完全に口説いていると理解して冷静になるように努めながら出た言葉は誤魔化せない程に震えていた。月村が可愛いと言われて照れて泣くのを止めたので狙い通りなのだが、代わりに俺の危機が出現してしまった。もしも愛歌にこのことが知れたら、間違いなく桜木のされた触手プレイよりも酷いことになるだろう。

 

 

誘拐されて、動揺していた月村を落ち着かせる為にという理由で許してもらえる事を神に祈るしか無い。

 

 

『無理だと思うぞ?あの小娘は嫉妬深い。仮に事情が事情だからと納得されたとしても、それはそれと言われて触手責めされる事になるだろうなーーーハッ、ザマァ』

 

 

神頼みしていたら邪神が聞き届けてしまったようで、有り難い神託などでは無く無慈悲な死刑宣告が返ってきた。

 

 

救いが無いことを悟り、今度ハスターの擬人化同人誌の新作を流す事を決める。

 

 

「もうダメだぁ……おしまいだぁ……」

 

「私からも許してもらえるように謝るから……」

 

 

月村が一緒に謝ったところで愛歌はそれはそれ、これはこれでお仕置きを執行するだろう。希望を信じて目を背けていたが、愛歌は嫉妬深いのだ。頭で理解しても感情で納得出来ないだろう。そういう子供らしさが彼女の可愛らしいところではあるのだが、今回はそのせいでお仕置きされる事が決定してしまった。

 

 

「ーーー失礼します」

 

 

月村に慰められながら項垂れていると、扉がノックされて1人のメイドが入ってきた。顔付きは美人と呼べるほどに整っているのだがまるで能面のような無表情で、仲良くしたいとは思えない人物だった。

 

 

「イレインか、一体なんの用だ?」

 

「安次郎様よりそちらの少年を連れてくるように命じられました」

 

「安次郎叔父様が……!?」

 

 

イレインと呼ばれたメイドが口にした名前に月村が反応する。どうやら叔父様呼びからして月村と関わりのある人物で、声色と反応からこんな事をするような人物では無いらしい。とはいっても本心を隠して月村に接触していた可能性があるので、彼女の印象を素直に受け取る訳にはいかないのだが。

 

 

見張りの1人はそれで考えるような素振りをし、命令に逆らう訳にはいかないと判断したのか俺に向かって顎でイレインに着いて行くように指示を出した。

 

 

現状では逆らう事は下策であるし、それに今回の件の主犯格に会えるので俺はそれに素直に従った。その際に月村が俺の身を案じてくれたが、心配いらないとサムズアップをして別れる。

 

 

移動している最中に屋敷の様子を確認する。調度品の全ては高級そうな雰囲気を漂わせているものの前世でいた成金趣味のように過度の装飾は嫌っているようで全体的に質素な印象を受ける。途中でイレインのようなメイドや警備員とすれ違ったのだが、メイドの全てがイレインのような無表情を浮かべていて、その動作が機械じみているように感じられた。

 

 

《マスター。解析の結果、この屋敷にいるメイドは全て機械……わかりやすく言えばロボットであると分かりました》

 

《マジかよ、日本ってスゲーな》

 

 

前世でも出来ていなかったロボットメイドを完成させている事に戦慄を覚えていると、イレインはとある一室の前で足を止めて扉をノックした。

 

 

「安次郎様、すずか様と一緒に拉致した少年をお連れしました」

 

「ーーー入れ」

 

 

失礼しますと声をかけて扉が開かれて入室を促される。それに従って部屋の中に入れば、そこにいたのは1人の中年の男性。彼から放たれる覇気は集団の長であると認めるには十分すぎるもの。俺を見定めようとしている鋭い目からは強い意志が見え、それだけで彼が今回の件を何かしらの覚悟を持って行っているのだと分かった。

 

 

「私は月村安次郎、月村すずかの親戚にあたる者だ」

 

「これはご丁寧にどうも。加賀美両夜と言います」

 

「そんなとって付けたような態度は止めろ。似合っていないし、不快感を与えるだけだ」

 

「なんで初対面の人からボロクソ言われるのさ……」

 

 

プレシアの時もそうだったが、俺の改まった態度はどうも不評らしい。年上だから、長く生きている目上の人間だからと敬った態度を取っているのにだ。

 

 

言葉遣いをいつものに戻しながらソファーに崩れ落ちるように座り込む。それを見たイレインが紅茶の入ったカップを俺の前に起き、安次郎には()()()()()()()()()()()()()()()()()()を差し出した。

 

 

その匂いは前世では嫌という程に嗅いだ匂いであったので、すぐに何か分かってしまう。

 

 

「……血?カニバリズムなのか?」

 

「ほう?これが血だと分かるか。随分と鼻の利くようだな。だが生憎と私には人肉を嗜む趣味は無い。これは我が一族の生きるために必要不可欠な物なのだ」

 

「血が生きるために必要?おいおい、まさか吸血鬼とか言いださないよな?」

 

「その通りだ」

 

 

冗談半分で口にした言葉を安次郎は真顔で肯定した。嘘かと考えたが、彼の声色と表情から判断する限りでは嘘をついているようには思えない。

 

 

「……本当なのか?」

 

「あぁ、本当だとも。お前を呼び出したのは巻き込んでしまった事の謝罪と、我らの一族について話すためだ。本来ならば秘匿せねばならないのだがな……すずかがお前と話をしている姿が楽しそうだったのでな。万が一、彼女に何かあった時に、理解者となって欲しかったのだ」

 

 

そう、すずかの事を語る安次郎はその時ばかりは僅かに頬を緩めていた。それは子を想う親の様な、孫を愛する祖父の様な印象を受ける。月村が言っていた安次郎は今の彼の事なのだろう。今の彼ならばこんな事をするとは思えなかった。

 

 

「我々月村の一族は人間では無い……いや、人間と同じように活動出来るのだが、我々が生きる為には人間の血が必要不可欠なのだ。そんなに多くの量を必要とするわけでは無いが、血を飲まなければ成長が遅くなったり、衰弱して死んでしまう。それ故に吸血鬼と呼ばれ、我々の一族もそれを自称している」

 

「……吸血鬼、ねぇ」

 

 

吸血鬼という言葉を口の中で転がすように呟く。月村を見る限りでは本の中にあるように太陽の光を浴びても問題無かったし、流水に浸かっても平気そうだった。それだけならば血液嗜好症(ヘマトフィリア)吸血嗜好症(ヴァンパイアフィリア)と呼ばれる血液に執着を見せる精神病のように思えるのだが、生きるために必要となってしまえばそれは精神病の類では無くなってしまう。

 

 

魔法なんてある世界に転生したが、まさか吸血鬼まで現れるとは思わなかった。いや、魔法があるからこそ吸血鬼の存在が許されているのだろうか。

 

 

長々と考えたところで答えは出ないのでそういうものだと理解して終わらせる。

 

 

「そんなに驚いていないようだな?」

 

「そう見えるだけで内心では結構驚いてるさ。ただ()()()()()()()()()()()()()って受け入れただけだ」

 

「成る程、中々器の大きい男の様だな?」

 

「なんで思考停止した様な回答で好印象なんだよ」

 

「考えた上でそう結論づけたのならばそれは思考停止では無い。考えもせずに頭ごなしに否定するだけの愚か者に比べれば幾分マシだ……一族の中には考えることもせずにいる阿呆が多くてな」

 

 

おかしい、さっきまでは集団のトップの様な雰囲気を漂わせいたのに今ではうだつの上がらない中間管理職の様な雰囲気を醸し出している。

 

 

「……なら、こっちから質問させてもらうぞ。なんでこんな事をしたんだ?月村が言うにはあんたはこんな事をする人じゃなかったそうじゃないか。こんな事をして、一体何が目的なんだ?」

 

「……確かに、巻き込まれた貴様には知る権利があるな。良いだろう、話してやる。ただし、誰にも口外しない事を条件にな」

 

 

無言で頷き、その条件を受け入れる。別に俺は彼の行いを正したいわけじゃない。どうしてこんな事をしたのか、それが知りたかっただけなのだ。それを知れるのなら誰にも口外しないなんて条件は優しすぎる。

 

 

そして安次郎はワイングラスに注がれた血で喉を潤し、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 






あちらこちらの二次小説で悪役ムーブをかましている安次郎叔父様をカッコ良くしたかっただけ。とらハ未体験なので元の口調も知らない。もう半ばオリキャラになってる安次郎叔父様。

どうしてこんな事をしたかって?ダンディーなキャラが書きたくなったからだよ!!

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