道化の名は必要悪   作:鎌鼬

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vampire girl・4

 

 

モーニングバズーカならぬモーニング爆破により、泣き疲れて眠っていたすずかは飛び起きた。流石に爆発があっても寝ていられる程図太く無かったようだ。

 

 

「な、何ーーー!?」

 

「どうやらお迎えが来たみたいだぞ」

 

 

さっきの爆発で屋敷そのものが揺れた感覚はせず、だけどそれなりに近いところから爆破音が聞こえて来た。俺たちが屋敷にいるのは分かっている、だけどどこにいるのか分からない。だから爆発で人の目を引き、その間に侵入しようとしているのだろう。

 

 

見張りたちは無線機で連絡を取り合うと床に崩れていたロリコン野郎を含めて1人残らず部屋から出て行った。侵入者がどうのこうのと聞こえたのでそれの対処に向かったらしい。爆破してすぐのタイミングで見つかったところからすると、その侵入者は囮だろう。派手に暴れ、その隙に他のところーーー恐らくは爆破のあった方向から、だれかが侵入していると思われる。

 

 

見張りたちが居なくなった事で俺たちは自由になった。逃げられる事を考えていなかった訳ではないだろう。彼等はきっと、()()()()()()()()()()()()。むしろ逃げてくれた方が都合が良いのかもしれない。

 

 

このまま待っていれば迎えが来るのは分かっている。だけど、どうしてもやりたかったことがあったのでここで動くことにした。

 

 

「月村、今から安次郎のところに挨拶に行くけどどうする?」

 

「……え?この状況で?」

 

「この状況だからこそだな。上手くいけばあいつの本音が聞けるかもしれないけど……どうする?待っていれば迎えが来て安全に帰れるぜ?」

 

「……会いたい。どうして叔父様がこんな事をしたのか、私は知りたい」

 

「良し、それじゃあ行こうか。エスコートは任せてくれ。鉄火場の立ち回り方なら心得ているからな」

 

「……加賀美くん、一体どんな人生を送ってたの?」

 

「R指定が付きそうなほどに血生臭い人生」

 

 

月村の質問を冗談でも言っているかの様な軽々しいトーンで濁しながら答える。友人であるとはいえ、俺の過去を明かしても良いと思える程に俺と彼女との仲は深くは無い。それにマトモな彼女に俺の前世の話なんてしたら優しい彼女は心を痛めてしまうか、最悪は拒絶されてしまうだろう。桜木の様な2度目の人生を送っている者や、愛歌の様な通常から外れた異常者ならば俺の話を聞いても驚きはするがそれで済ませるだろうか、吸血鬼であるとはいえ普通である彼女にこんな話をする気にはなれなかった。

 

 

だが、それは今の話であってこれから先はどうなるのか分からない。

 

 

願う事ならば俺と彼女の仲がそれを話しても良いと思える程に深くなり、話しても受け入れらる事を望みながら座っている月村に向かって手を差し伸べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イレインに案内された時から人の気配が少なかった屋敷だったが、今では無人なのではないかと思ってしまうほどに誰もいなかった。一階の入り口と思われる場所からは銃声が聞こえているのでそこで侵入者と戦っているのは分かる。まさかその対応に全員が使われているのだろうか。

 

 

だとしたら好都合だった。安次郎の部下ならば俺たちを見ても無視するか、或いは逃がそうとしてくれるだろうが、それ以外ならばその場で射殺、もしくは捕まって刑事ドラマの様に人質扱いされかねない。周囲に気を配りながらも堂々と、無人の通路を月村を連れて歩いて行く。

 

 

そして安次郎のいた部屋まで辿り着いた。部屋の中には気配があり、安次郎がまだここにいる事を教えてくれている。幸いにも安次郎以外の生きている者の気配は感じられず、さらにこの部屋に近づいて来る者の気配も無かった。

 

 

月村に入り口から離れた場所で静かにしているようにハンドサインで指示を出し、頷いてくれたのを確認してから扉を蹴破る。蝶番こそ壊れなかったが蹴破られた事で扉は閉まらなくなり、通路に繋がる。これで部屋の外にいる月村にも話が聞こえるだろう。

 

 

「よぉ、別れの挨拶に来たぜ?」

 

「ドアを足で開けるな。貴様はマナーを学ばなかったのか?」

 

「生憎と礼儀作法なんてものとは程遠い場所で生まれ育ったからなぁーーー知ってるけど使う気にならなかったし」

 

「悪童め」

 

 

部屋の中にいたのは安次郎、そして彼の側に控えているイレインだった。安次郎は侵入者がやって来て全員で対応しているのに焦っている様には見えず、それどころか憑き物が取れた様な晴れやかな表情をしていた。

 

 

「俺が悪童だったらあんたはタヌキジジイかペテン師だな。自分を信じてついて来てくれた奴らを裏切ってさ」

 

「あやつらがそんな殊勝なものか。吸血鬼だからと人間の上位種であると勘違いし、人間を支配するべきだと騒ぎ立てるだけの愚者に過ぎん」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「あぁ、そうだ」

 

 

事の始まりは月村の一族、夜の一族の派閥内の争い。下等種族である人間を支配するべきだと主張する強硬派、人間を共存相手としてこれまで通りにひっそりと生きていこうと主張する穏健派。その2つの内の強硬派が行動を起こそうとしていた。安次郎は強硬派のトップであったがそれは先代から引き継いだだけであって本人としては穏健派だった。それでも彼は穏健派に移る事をせず、目を離せば暴走しかねない強硬派の手綱を握る為に敢えてその座を保持していた。

 

 

そしてある日、強硬派が行動を起こそうとしていた。夜の一族の中でも名家の党首である月村忍の妹の月村すずかを人質にとり、月村忍の持つ技術を使って暴動を起こそうと計画していたのだ。安次郎は時期尚早だと言って収めようとしていたが強硬派はそれでは治らず、安次郎の意向を無視してまで行動を起こそうとしていた。

 

 

なので、安次郎は考えた。この計画を上手く使えば強硬派の力を削ぐ事が出来るのではないかと。

 

 

そうして実行されたのが今回の件。夜の一族で戦える者と保持していた自動人形を全てこの屋敷に集めた。普通ならばそれだけの戦力を集めれば誰も勝てないのだが月村忍のそばには御神流の師範代である高町恭也と同門である高町美由希がいた。人間でありながら戦闘能力は夜の一族さえも凌駕している彼らの存在、夜の一族の月村忍、彼女が保持している自動人形のノエル・K・エーアリヒカイト、それらを合わせればこの程度の戦力など叩き潰されると確信して。

 

 

そうして安次郎の計画通りに物事は進んでいる。下から聞こえる戦闘音、正確には銃声はドンドンと小さくなっており夜の一族側の不利を知らせている。殺しているのか、それとも無力化しているのかは分からないが、今回の件で強硬派は力を削がれて穏健派の方が増した事には変わりない。

 

 

「部下には悪い事をしてしまったと罪悪感を覚えているが、言ってしまえばそれだけだ。今の世は人間の物だ。いくら優れているからとはいえ夜の一族が出しゃばったところで数により圧殺されるだけ。それならば現状のまま、人間と共に共存した方が良いのだ」

 

「月村、悲しそうにしてたぞ?叔父様がこんな事をするはずが無いってさ」

 

「……すずかには悪い事をしたな。だが、()()()()()()()()()()()()

 

 

そう言い切った安次郎の顔には言葉通りに後悔しているようには見えず、その姿に思わず前世の友人の姿を重ねてしまった。

 

 

「確かに、私のやった事は大多数からしてみれば間違った事なのかもしれん。しかし私はこれが正しいと確信している。過去の歴史の中で迫害されていた我々が、正体を隠しているとはいえ穏やかに暮らすことが出来ているのだ。それを下等種族だと、上位種族だとくだらん理由で壊されてたまるものか……!!」

 

 

その言葉は今までの彼とは思えない程に熱く、そしてずっしりとした重みを感じさせるものだった。

 

 

彼は夜の一族の事を真摯に思っている。故に一族の台頭よりも平穏を選び、平穏を壊そうとしていた者たちを切り捨てた。自分が信じ、決めた事を成し遂げんとするその姿勢は、俺の親友であり英雄である彼と全く同じであった。

 

 

「で、これからどうするんだ?逃げるのか?」

 

「バカをいえ、やった事に対して責任を取らねばならんだろうが」

 

「つまり、自分が全ての黒幕だと言い張るつもりか?」

 

「言い張るも何も実際にその通りだ」

 

 

一族の事を思いやった事ではあるが、それでも罪であることには変わりない。彼はこのまま全ては自分の責任だと言って月村を助けに来た者たちの前に立つつもりなのだろう。

 

 

それを間違っているとは言わない。その行いで悲しむ者が現れるが、それでも罪は罪であり、罰を受けなくてはならないのだから。

 

 

「そうか……お疲れ様です、月村安次郎。貴方の行いが実を結ぶ事を心より願います」

 

「ふん……その口調は不快だから止めろと言ったはずだ。さっさとすずかを連れて出て行け。ここから先は子供が見るようなものではないからな」

 

「人の好意を悉く無碍にするなぁ……!!」

 

 

中指を突き立てるものの、これ以上話す事は無いと言わんばかりに安次郎は俺に背を向けて微動だにしない。イレインの一礼に見送られながら部屋から出てーーー声を殺しながら泣いている月村に近づく。

 

 

「行くぞ」

 

 

泣き声を零さないようにと口を押さえながら、月村は頷いた。本当なら止めたいだろうな、こんな事をして何になるんだと叫びたいだろうに、彼女はそれを必死になって我慢している。ここでそんな事をすれば安次郎の思いを無碍にしてしまうと思っているからだろう。

 

 

そうして俺は月村と共に部屋から離れた。

 

 

一族の平穏を願うが故に、その身を犠牲にした1人の男をその場に残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……行ったようだな」

 

「そうですね。扉の陰にいたすずかお嬢様と一緒に行かれたようです」

 

「最後まで生意気なガキだったな、あいつは。自分から話さないと約束しているからか私に話させよった」

 

「誓いを破ってい無いはずですが?」

 

「こういうのを契約の裏をかくというのだ、覚えておけ。にしても、最後にあんな子供にいいようにやられるのは気に入らんなぁ……そうだ。イレイン、命令を下す。これは最優先であり、何があっても従うように」

 

「畏まりました。何なりと」

 

 

 






ダンディー安次郎がカッコよく書けていることを祈るばかり。

恭也と美由希が強過ぎたかなって考えたけど、御神流とかいうとんでも流派を納めているから問題ないって結論になった。

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