dark knight
「ガッデム、まさか白菜とキャベツを間違えて買ってしまうとは」
「あり得そうだけど普通ならしない間違えよね?わざとなのかしら?」
「違う……違うんだよ……白菜とキャベツが隣に置いてあったから間違えだんだよぉ……」
10月に入り、夜になれば肌寒くなり防寒着が手放せなくなった頃、俺は愛歌と一緒に夜の町を歩いていた。寒くなって来たから鍋にしようと支度をし、その最中で白菜だと思って買っていた物がキャベツだと気がついたのだった。
その事実に俺は唖然として愛歌は苦笑い、桜木は内外共に大笑いしていたので顔面にキャベツをぶつけておいた。
「それにしても寒いわねぇ。手が悴みそうだわぁ」
「棒読みだし、視線が分かりやすいんだよなぁ……」
その言動で愛歌が何を求めているのか分かったので彼女の手を握ってやる。それが正しかったのか、愛歌は照れ臭そうにはにかみながらも機嫌を良くしていた。普段は嫉妬深いのだが、今の彼女の姿を見る限りでは普通の少女にしか見えない。とても桜木から一歩間違えれば地球を滅ぼすと言われた存在だとは思えなかった。
「そういえばすずかさんからメールが来てたみたいだけど何かあったの?」
「あぁ、何でも図書館で新しい友達が出来たってさ。良かったら暇な時に一緒に遊ばないかって誘われた」
「ふぅん……ところで両夜、気になる映画があるのだけど今度一緒に観に行きましょう」
「そんなに警戒するくらいならそうしなきゃ良いのに」
月村が俺に対して好意を持っていると明確にした翌日、愛歌に月村から宣戦布告されてそれを受け入れたと話された。それを聞かされた時、どういう反応をしたらいいのか分からなかった。愛歌が俺に対して愛情を持っているのは理解しているし、俺も彼女に対して同じような感情を持っている。いわば俺たちの関係は完成されている様なものなのに、横から出てきた月村の存在を認めて勝負を始めているのだ。
普通ならばこういった愛情によるイザコザは昼ドラのようにドロドロした感じになると思っていたのだが、どういうわけなのか二人の間にはそういう物は感じられず、寧ろ以前よりも仲良くなっているように見えている。何をどうしたら三角関係みたいな関係で、取り合っている者同士が仲良くなるなんて事態になるのだろうか。
俺も俺で愛歌の事が好きだからと言って拒絶すれば良いのに、月村の事は友人だからと強く言い出す事が出来ずに、今日までズルズルと引きずってしまっていた。いや、本当だったらすぐにでも断ろうとしたのだが、愛歌からまだ断らないでくれと言われたので断る事が出来ないでいた。
何でも俺と自分との関係はポッと出の月村なんかでは断ち切れない程に強い事を見せつけたいらしい。とんでもない理由だった。
今のままならまだいい。だが付き合いが長くなれば必然的に情が湧き、拒絶するのが辛くなってしまう。俺はそれを嫌って早く断ろうとしているのだと言ったが、愛歌はそれを理解している上で断らないように頼んだのだ。
何だかロクでもない事を企んでいる気がするが、惚れた弱味という奴だろう。最終的に俺は愛歌の頼みを受け入れてしまい、今日までそんな関係が続いている。その関係が煩わしく思っている訳では無いのだが、それが続いてしまえば断らなければならない日が来た時に彼女の事を思うあまりに断れないなんて事になってしまいそうで怖い。
はぁ、と溜息を吐くと寒さのあまりに息が白くなって風に乗って流れていく。この調子で寒くなれば年内中には雪が降るだろう。景色一面が真っ白に染まる光景は前世ではモヒカンが徘徊しているロシアくらいでしか見る事が出来なかったので正直なところ嬉しかったりする。
だけど前世の経験からモヒカンが沸いていないのか疑ってしまうのだが。
ボルシチとウォッカが無ければ増殖はしないはずなのだが、どうしても警戒してしまう。
半裸のモヒカンが狭い密室で犇めきながらボルシチとウォッカを決めてパーティーしているという地獄のような光景を思い出してしまい、それを忘れるために空を見上げる。街灯や町の灯りのせいで見えづらくなっているのだが、雲1つない夜空には三日月と大小様々な星がはっきりと輝いていた。
モヒカン・ボルシチ・ウォッカ・パーティーの記憶が徐々に薄れて行きーーーその最中で、突如として
「マジかよ」
「ねぇ、どうして人が居なくなったのかしら?」
結界が展開されたという事実にモヒカン・ボルシチ・ウォッカ・パーティーの記憶は消し飛んだ。しかし、結界内には俺と愛歌以外の人の姿は見え無くなっている。
ミッド式と呼ばれている魔法の結界は半円型であり、今回の三角錐型の結界では無い。それに付け加えて俺と愛歌の共通点、そして居なくなった人間などの情報に原作での出来事を照らし合わせればこの結界を張った下手人と目的は簡単に割り出せてしまう。
「愛歌、敵襲だ。守るつもりだけど万が一に備えてくれーーーレギオン」
『Yes master.』
『Set up.』
変身する手間も惜しいと子供の姿のままで、ハスターでは無くてジェイルに作ってもらった新しいナイフ型のデバイスーーーレギオンを起動させる。最初の頃は生意気だったレギオンだが、ハスターとのお話された事で影響されたのか、今では従順なデバイスになっている。問題があるとするなら、俺よりもハスターのいうことの方をよく聞くというところだが……今の状態にしてくれたのはハスターなので文句は言わないように気をつける。
レギオンを起動させた事で、設定していたバリアジャケットが展開される。ハスターを起動させた時の黄色いコートでは無くて、全身を覆い隠すようなフード付きのボロボロのローブ。ハスターの時のように簡単にバリアジャケットが思いつかなかったので愛歌にデザインを頼んでみたのだが、こんな暗殺者のような格好になってしまっていた。しかし動き易さやレギオンの携帯などは俺が思っていた以上に優れていたので愛歌のデザインを採用する事にしたのだ。
ローブの裏と身体の彼方此方にレギオンが存在しているのを確認する。今まで何度かセットアップしているので場所が変わっていないかを確認している訳ではなく、戦う前に行うルーティンワークとして確認しているだけだ。
しっかりと20本が存在している事を確認すると、上から気配を感じる。
「ーーー警告する。我々の目的はお前たちの持つリンカーコアだ。大人しく提供してくれるのならば必要以上に危害を加えない事を約束する。だが、もし断るというのならば実力行使だ。例え手足を粉砕してでも、リンカーコアの魔力を奪わせてもらう」
俺たちの頭上、何も無い空中に立っていたのはピンク色の長髪をポニーテールのように纏めた女性と青い毛並みの大型の狼。手に持つ機械仕掛けの剣と騎士のようなバリアジャケット、凛とした佇まいから女性の方は女騎士のように見えてしまう。彼女と狼の纏う雰囲気は管理局員の物とは比べ物にならない程に研ぎ澄まされていて、戦う者という印象が強い。
そして何より、女性の方の胸元の2つの大きな膨らみが驚異的だった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!卑怯よ!!卑怯だわ!!女騎士で巨乳とか属性が卑怯過ぎるのよぉッ!!」
「……お前の連れ、頭は大丈夫なのか?」
「割と平常運転だから心配しないでくれ。そのうち治まるから」
女騎士のご立派な胸元を見てしまい、愛歌は泣き叫びながらその場に崩れ落ちて地面を殴っている。その有様に敵であるはずの彼女からも心配される始末だった。狼の方も今は絶対のチャンスであるというのに仕掛けて良いのか迷っている様に見える。どうやら有無を言わさぬ二択を突きつけて置きながら、その性根はお人好しの様だ……いや、命令があれば問答無用で容赦無しに仕掛けて来ていただろう。
初対面ではあるがそうだと知っている。そういう存在であると知っている。
《ハスター、外部との通信は?》
《念話による通信は妨害されています。ですが、いつも使われているチャット機能による通信なら、一文程度であるなら一方通行ですが伝える事が出来ます》
《なら桜木に伝えてくれ》
愛歌を慰めながら、仕掛けてこない隙をついてハスターに桜木との通信を頼む。本当ならば念話による通信が出来れば一番だったのだが、敵の事情を考えれば通信妨害なんてして当たり前だ。寧ろそれの対策をしていなかったこちらに非がある。
こんなタイミングで仕掛けてくるとは思っていなかった。言い訳をするのならそういったところか。
《SOS……それとA's、その2つだ》
闇の書の騎士たちによる原作の第2部……それの幕開けだった。
あのままだとダラダラと幕間を続けてしまいそうだったのでA's編に突入よ〜
尚、開幕からシグシグとザッフィーのコンビ。裏ではロヴィータちゃんが魔王様と交戦中。