道化の名は必要悪   作:鎌鼬

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dark knight・2

 

 

「よぉしよし、良い子だ……少しは落ち着いたか?」

 

「グズッ……ごめんさない、迷惑かけて……」

 

「何、いつもの事だから気にするなよ」

 

 

女騎士のご立派な胸元を見て絶望に打ちひしがれていた愛歌を慰める事数分、漸く彼女は人の言葉を話せる段階にまで落ち着いてくれた。まだ成長の余地があり、自分もそうなる可能性があるというのに見ただけでここまで発狂するのは成長する可能性が無いことを無意識の内に悟ってしまっているからなのか……言葉にしたら悪性情報の触手を出して暴れそうなので思っておくだけにしておこう。

 

 

さて、と慰めていた愛歌から離れ、律儀に待っていてくれていた女騎士と狼に向かい合う。

 

 

「悪いな、こっちの用事で待たせて」

 

「どうして突然泣き出したのか理解出来ないがそちらにはそちらの事情があるのは理解している。気にするな」

 

「うーん、見た目だけじゃなくて中身までイケメン」

 

 

凛々しい外見と相まって彼女の発言を聞く限りではイケメンにしか見えてこない。これが噂に聞くオッパイの付いたイケメンという奴なのだろうか。きっと彼女が男装をしたら女からキャーキャー言われるに違いない。あのご立派な胸元を隠すのは勿体ないと思うが。

 

 

「兎に角だ、そっちがリンカーコアの魔力を求めているのは分かる。だけどだからと言ってハイそうですかと気軽に渡せるものでも無い。加えて、リンカーコアからの魔力の譲渡は大なり小なりの苦痛が伴うらしいからな、素直に頷きたく無い」

 

「そうか……なら」

 

「まぁまぁ、話は最後まで聞けよ。魔力集めて何をしようとしているのかは分からないけど、そっちにも事情があるんだろ?だから、1つ提案したい……()()()()()。そっちが勝ったら魔力を持っていくなりなんなり好きにしろ」

 

 

ローブの中からレギオンを二本取り出す。うろ覚えになってきたが、記憶が正しければ彼女たちは闇の書の騎士たちで、闇の書を完成させる為にリンカーコアから魔力を蒐集している筈だ。俺にはリンカーコアは存在しているが、()()()()()()()()()()()()()()()()。そのことを話したところで向こうは信じてくれないだろう。愛歌は魔力こそ桁外れに多いのだが、戦う者では無い。なので、逃げることが出来ないこの場では俺一人が戦うしか選択肢は無かった。

 

 

一応愛歌の魔力は桜木の財宝で隠蔽していたはずなのに愛歌も結界に取り残されるのは相手の方が上手だったからだと考えよう。闇の書は確かベルカ時代に作られた魔導書だと聞く。現在では管理局により所持どころか研究すら禁じられている兵器を息をするように使って殺し合っていた地獄の時代の遺物なのだ。桜木の財宝による隠蔽を超える程の索敵能力があってもおかしくない。

 

 

「ほう……それは後ろの少女を守るためか?」

 

「分かってるなら聞かないでくれ。恥ずかしいから」

 

「……良いだろう、その提案を受けよう。加えて私が勝ったらお前から魔力を蒐集し、そちらの少女にはこの場では手を出さない事を約束する」

 

「良いのか?あの少女の魔力はかなりの物だが」

 

「済まないな、ザフィーラ。あの少年を見ていると微笑ましくなってな……か弱い少女を守る為に命を賭ける。まるで()()()()()()()()()()()()

 

 

女騎士は眩しそうに、そして羨ましそうに俺たちの事を見ていた。闇の書の騎士となり、騎士としての働きとはかけ離れた行いをさせられたのだろう。だからこそ、俺のことを見てそういう風に感じてしまっている……それこそ、なさねばならない事を一時の感情で止めてしまう程に。

 

 

それに関しては思うところはあるのだが、彼女はそれを承知の上で言っているのだろう。デメリットは無く、メリットしか無いこの提案を断る理由は無かった。

 

 

「良いのかよ、そんな気分で決めて」

 

「構わん。この場ではと約束したが他の場ではと言っているわけでは無いのだからな。別の場で出会ったのならその時は蒐集させてもらう」

 

「……ホントイケメンだよ。なんで女か不思議に思うわ」

 

 

俺が女なら抱いて欲しいと懇願してしまう程に今の彼女の姿はとても格好良かった。騎士を目指すのならこうでありたいと思うほどに、彼女は自分の気持ちに真っ直ぐで、だけども騎士として命令を下されたのならそれを無視して行動出来ると思い知らされる。

 

 

彼女たちは地面に降り、狼の方は離れる。どうやら一対一で戦ってくれるらしい。元々は一対二で戦うつもりだったので好都合だった。

 

 

「闇の書の騎士、烈火の将シグナムだ」

 

「魔術師、加賀美両夜」

 

 

本来ならば馬鹿馬鹿しいと言って切り捨てるはずの名乗り合いだが、彼女に敬意を表する代わりにその名乗り合いに付き合う。女騎士ーーーシグナムはデバイスである剣を構え、それに習う様に俺もレギオン二本を逆手に握って構える。

 

 

「いざ、尋常にーーー」

 

「勝負ーーーッ!!」

 

 

足場のコンクリートが砕ける程に全力で突貫、そしてシグナムと衝突しーーー()()()()()()()()()()()

 

 

シグナムは成人女性で、俺は未成年。純粋な質量はシグナムの方に軍配が上がるし、彼女の方が身体強化が強く施されている。確か古代ベルカ式の魔法は近接戦に特化しているのだったか。ミッド式の魔法の身体強化が劣っている訳ではなく、向こうの方が優れている。故に、最初の衝突は負けることが分かっていたので慌てない。

 

 

吹き飛ばされながら二本のレギオンをシグナムに目掛けて投擲する。不意を打ったわけでも無い単なる投擲は彼女には児戯に等しく、防ぐまでも無く最低限の体捌きだけで躱されてしまう。

 

 

正面からでは戦いにならない事など初めから分かっていた。なので、今使える物を使って食らいつき、シグナムの戦い方を学ばせて貰う。

 

 

霧に霞に紛れ込み、夢現(ゆめうつつ) と迷い込め

 

 

着地しながら体勢を整えて幻覚の魔術を行使すると、俺が5人に増えてそれぞれが動き出す。2人は正面から向かっていき、残り2人は左右から迫り、本体である俺はシグナムの注意が幻覚に向いた瞬間に気配を薄くする。

 

 

「幻か」

 

 

流石は闇の書の騎士。存在している期間が長いことはあって、それに比例するように経験も豊富なのだろう。突然増えた俺の幻覚に一切動じる事無く、冷静に剣を連結刃へと変化させ、鞭のように振るったそれの一振りで幻覚の俺を全て斬り伏せた。

 

 

もう少しは持つと思っていたのだがまさか一瞬で全滅させられた事に軽くショックを受けつつ、本体の俺を見失っているシグナムの背後を取って斬りかかる。狙うのは人体の急所である首。

 

 

完全に死角からで、意識外からで、不意を打った一撃だったのだが、彼女は振り返る事すらせずに元の状態に戻した剣を掲げてその一撃を防いだ。

 

 

「成る程、()()()?」

 

 

半歩程後ろに下がり、()()()()()()()()()レギオンを躱す。見ていなかった、見えていなかったはずなのに当たり前のように避けられたのは見覚えがある。恐らくは経験則による回避なのだろう。前世のアジアに跋扈していた拳法家どもや、ジェイルのところのパンダが同じような感じで避けたのを見た事がある。

 

 

狙っていた必殺が避けられた以上、接近している意味は無い。自ら弾き飛ばされるようにしてシグナムから離れ、再び幻覚の魔術を使って本体は気配を隠す。

 

 

現状では俺は全てにおいてシグナムに劣っている。力や技術は言うまでもなく、戦闘経験に魔導師としての経験もだ。

 

 

経験というのは持っているだけで価値がある。昔では長く生きていただけでリーダー扱いされていたりしていたが、それだって長く生きている為に他よりも多くの経験を積んでいるから、多様な問題に対処出来るという理由から来ている。前世での経験を入れれば密度だけなら負けていないという自信はある。しかし闇の書の騎士として長年戦い続けて来た彼女の戦闘経験は俺とは比べものにならない程に多い。さっきの必殺のつもりで放った頭上からの一撃も、前に似たような事をされた経験があるのかアッサリと看破されて躱されてしまったように。

 

 

唯一勝てそうな気配があるのはスピードくらいなのだが、それさえもシグナムの本気を見ていないので不明であるし、仮に勝てていたとしても経験していたという理由で簡単に対処されてしまいそうな気配はある。

 

 

現に今だって、彼女は幻覚を切り捨てながらも背後からの奇襲を警戒し、()()()()()()()()()()()。その隙を喜んで突きに行けば切り捨てられる未来しか見えない。試しに幻覚が切り捨てられるタイミングを見計らってレギオンを投擲する。完全に振り切った状態で、回避したとしても体勢を崩す事になるはずのタイミングでの投擲は狙い通りに体勢を崩し、そしてそのままデバイスを振った遠心力を生かして振るい、左右から迫っていた幻覚を切り裂くという結果に終わる。

 

 

冷静に彼我の実力差を見極めて、()()()()()()()()()()()()()。格上との戦闘という点では以前に戦ったプレシアと同じなのだが彼女は生粋の魔導師で、どちらかと言えば学者肌であったので彼女の予想を上回ったところで生じた動揺を突けば勝つことが出来た。

 

 

しかし、シグナムにはそれが通用しない。

 

 

例え彼女の予想を上回ることが出来たとしても、〝あぁ、そう来るのか〟とそれだけで受け止めてしまい、動揺する事なく冷静に対処されてしまう。そもそも経験の多さから、〝前にもこういう事をされた事がある〟と動揺させる事さえ出来ないだろう。

 

 

やりにくい相手ーーーそれが俺のシグナムの評価だった。

 

 

「どうした?いつまでも幻覚に紛れていては勝てるものも勝てないぞ」

 

「元々の勝率が絶望的過ぎるんだ、このくらいは見逃してくれよ」

 

 

もしかしたら隠れている位置さえバレているかもしれないが念のために魔術で声の位置を誤魔化しながらシグナムの軽口に付き合う。そう、この勝負はあまりにも絶望的過ぎるのだ。

 

 

戦闘経験が豊富な闇の書の騎士、その将を務めるシグナムに静観はしているもののいつ乱入して来てもおかしくない青い毛並みの狼。そして()()()()()()()()()()()

 

 

シグナムはこの場では愛歌を見逃すと言ったものの襲撃者である彼女の言葉を簡単に信じる事は出来やしないし、静観している狼が彼女を襲わないとは限らない。愛歌と狼に気を引かなければならない事になり、シグナムだけに集中する事が出来ないでいた。

 

 

勝ち目が無いからとリンカーコアの魔力を渡して引かせる事も考えたのだが、後々の事を考えればそれは余りにも悪手である。記憶が朧げになっているのだが、闇の書を完成させた事で出現した闇の書の闇は蒐集した者の魔法やスキルを使っていた。もしもそれが転生者である俺たちにも適応されるのなら、最終決戦で闇の書の闇を強化することになってしまうのだ。俺や黒須のような魔力変換資質はまだ良いかもしれないが、赤城や御剣のスキルを使えるようになれば手のつけられない存在が誕生してしまう。幸いなことにスフィアの監視によればまだ彼らは魔力を蒐集されていないようなので、それだけは絶対に避けなければならない。

 

 

と、改めて状況を確認したら色々と絶望的過ぎて泣きそうになるどころか一周回って笑いそうになってしまう。しかし、絶望的だからといっても勝てない訳では無い。時計を出して時間を確認する。家からここまでの距離を考えればもうそろそろやって来ても良い頃合いだろうなと思っていると、

 

 

上空から爆発音が聞こえてきた。

 

 

来たかと思い上を見れば、結界の一部が破壊されて再生している途中。そして上空には黄金に輝く一隻の飛行船が浮遊していた。

 

 

「ーーー全く、いつまで待っても戻らぬと思えばこの様な雑事に手を焼いていたとはなぁ」

 

 

黄金の飛行船に備え付けられていた玉座には1人の少年が座っていた。光り輝く黄金の飛行船の輝きさえ霞む金髪に鮮血の様に鮮やかな赤眼。服装はパーカーにカーゴパンツという有り触れた格好だったが、その左腕には鎖が巻き付けられていて、それだけで彼が少なくとも荒事に参加する意思があるのだと証明している。

 

 

傍観に徹すると発言していた転生者の1人、桜木累がこの場に現れた。

 

 

「悪かったって。こっちにも色々と都合があるんだよ」

 

「大方マナカの事であろう?手段さえ選ばなければ、貴様であれば傀儡の1つや2つなど苦戦はすれども負ける事は無い。あやつが巻き込まれたからこそ、貴様は行動を制限させられている」

 

「分かっているのならどうにかしろよ。飯抜きにするぞ」

 

 

距離は離れて声が聞こえないでいるが何を喋っているのか大凡理解出来るので会話が成立している。桜木はフンっと鼻を鳴らすと左手を愛歌の方へと差し伸べ、巻き付けられていた鎖を伸ばして愛歌を黄金の飛行船に釣り上げた。

 

 

「遅いわよ桜木君。負けるとは考えてなかったけど、凄い心配したんだから」

 

「ちょうどドラマの時間と被っていたのだ。許せ」

 

 

愛歌がその発言にキレてアッパーカットをかました。桜木の顎が跳ね上がり、玉座から落ちて痛みに悶え苦しんでいるのが伝わってくる。

 

 

ともあれ、桜木が愛歌のそばに居てくれるのなら心配する必要は無いだろう。前に一度だけ、頼み込んで桜木と模擬戦をした事があるのだが、桜木の存在は〝戦争〟と同意義だった。もしも桜木が敵になるのなら戦う事を徹底的に避けて、隙を見つけて暗殺しなければ倒せないと思うほどに強烈で強大で強靭なスキルだったのだ。

 

 

そんな彼が愛歌のそばに居てくれるのであれば、例え闇の書の騎士だろうが愛歌に手を出す事は出来ない。

 

 

「さてーーー殺りますか」

 

 

愛歌に意識を向けなくても良くなった事で、絶望的だった勝率が僅かに上がった。それでも勝つのは難しいことには変わらないのだが、よくよく考えてみればそんな事は前世では日常茶飯事であった。

 

 

なら、前世でやっていたように勝つ。それだけだと結論付け、レギオンを握り直した。

 

 

 






原作のヴォルケンリッターたちが弱く感じてしまったので魔改造。

ナイチチ聖王や拗らせヘタレ覇王が生きていた古代ベルカとかいう狂気の時代の出身だからこのくらい強いんじゃないかなぁって思いながら書いて、気が付いたらとんでもキャラになってしまった。でもこのくらいやりそうなのでこのまま続行。

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