桜木の登場により愛歌の危険が無くなったので幻覚を全て消し、気配を殺す事も辞めてシグナムの前に立つ。
「成る程、今までのは時間稼ぎだった訳だな?」
「あぁ。あんたは手を出さないとは言っていたけど、あっちのワンワンは分からないからな。助けを呼んで、来るまで適当に凌いでたんだよ……怒った?」
「いや、己の可能不可能を見極めてその範疇で彼女を守ろうと手を尽くしている。外道や非道と呼ばれる手ではない限り、それらを称賛こそすれども怒る理由になりはしない。それと、ザフィーラは犬では無くて狼だ」
「イケメン過ぎるだろ。なんで女やってるんだよ」
「生憎と私のオリジナルは女に生まれてしまったからな。父にもどうして女に生まれたのだと真顔で言われたものだ」
オリジナルという言葉に首を傾げるが、よくよく考えてみればそれは不思議な話ではない。シグナムたち闇の書の騎士は闇の書のシステムの一部である。防衛手段の一つとして作られた彼女たちだが、そこには元となった人物たちがいるはずだ。シグナムの言うオリジナルとはその人物の事を指しているのだろう。
軽く自然にあの狼の事を侮辱するような言葉を会話の中に混ぜてみたのだが、シグナムは愚か狼の方も乱入していた桜木を警戒しているくらいで反応を見せなかった。侮辱に怒り、思考が狭まって行動が単純化される事を狙っていたのだがそう上手くはいかないようだ。
人型で、感情と思考がある以上は
「幻覚を消して目の前に現れたと言うことは、正面から挑むつもりか?敵わないと悟ったから幻覚に紛れ、暗殺者のように振舞っていたのでは無いのか?」
「全くもって仰る通りだ。だけど、生憎と敵わないからって理由で戦うのを止められる程に諦めが言い訳じゃないからな。裏からこそこそするよりもこうした方が勝てそうだと思ったんだよ……それに惚れた奴と友人の手前だ。格好付けても良いだろ?」
勝機が存在しないからと言って泣き叫ぶのはあまりにも
俺が愛し、俺を愛してくれる人が見ているのだ。敵対する事など考えられない、同じ境遇の友人が見ているのだ。
ならばーーー粋がってやろうでは無いか、見栄を張ってやろうでは無いか。そのくらい出来なければ、男でいる意味が無い。
レギオンを握るのと同時に残数を数える。投擲に使用し、回収していないので残りは10本程。耐久度を考えればシグナムの剣戟を受け止める事は愚策であり、避ける以外には無いのだが、どこかで必ず受け止めなければならない時が出てくる筈だ。それを考えれば心許ないが、回収させてくれる隙をシグナムが与えてくれるとは思えない。まぁ、それさえも仕込みにしているので無駄では無いのだが、通じても一回だけだろう。2度目なんて通じるとは思えないし、そもそも一度目も経験則から躱されそうであるから期待しない方がいいかもしれない。
「……クックック、お前は馬鹿だな。もっと賢く振る舞えばいいのに」
「賢く振舞って息苦しさを感じるよりも、馬鹿でいて楽しく生きたいんだよ」
「だがーーーあぁ、私はお前のような馬鹿は嫌いでは無い」
そう言われてシグナムは微笑み、照れ臭さを感じて少しだけ顔が熱くなるのを感じる。シグナムの様なクールタイプの美女から嫌いでは無いと、凛々しい表情を僅かにだが崩して微笑まれたのだ。男である以上、それを嬉しく思わない筈がない。
しかし、その熱も黄金の飛行船ーーーヴィマーナから放たれた視線によって一瞬で引いてしまう。
思わずヴィマーナを見れば、愛歌が瞳孔を開ききった目で俺の事を見ていた。距離があるので会話は聞こえていない筈なのだが、どうして分かったのだろうか。
「よぉし、ちゃっちゃとバトろうか!!」
「あぁそうだな。少しばかり時間をかけ過ぎた」
愛歌の視線に耐え切れなくなり、急ぐ様にしてレギオンを構えて、シグナムが構えるよりも先に突貫する。
「身体強化ーーー思考高速化ーーー」
『Yes master.』
呟く様な指示にハスターが反応し、その通りに身体強化魔法と思考高速化魔法が行使され、突貫の途中で一気に加速してシグナムに肉薄する。
負けるつもりは無い。しかし、今の俺ではシグナムに勝てない事は分かっている。唯一優っているのかもしれないものはスピードだけで、それさえも時間をかけ過ぎれば慣れられてしまう。
故に、先ずは一撃を叩き込む事を目標にする。
突貫の途中の身体強化の行使により、タイミングを外した筈なのだがそれさえもシグナムの予想から出ていなかったのか、外した筈のタイミングを合わせられて剣を振るわれる。
「
速さが足りなかった。このままでは直撃し、戦闘不能になると高速化した思考で考えて、速度だけを上昇させる魔法を行使。更に加速する。
「
振り下ろしの一撃を寸でのところで躱す事に成功したものの、回避に集中していたせいで反撃まで移れ無い。そもそも、今のタイミングで無理やり攻撃したところで受け止められてから返しの一撃で終わっていたので攻撃する意味が無かった。
それをシグナムに追い付かれているから、速さが足りなかったからと結論付けて、更に加速する。
「
シグナムが追いつかない速度を目指し、更に加速する。現状で、スピードだけ見るのならばシグナムに勝っているのだろうが、彼女には長年存在して戦い続けたことによる経験がある。俺の動きを先読みし、最低限の体捌きだけでついて来られて剣を振るわれている以上、総合的な速さではまだ負けているのだと判断する。
「
だから、まだ加速する。減速する事など一切考えずに、身体が無茶苦茶な加速に耐えられなくなりつつあって痛みという形で警報を鳴らし、視界に映る光景が段々と認識し辛くなってくる。
いかに身体強化と思考の高速化を施したところでそれには限度が存在する。いくら身体の性能を引き上げたところで上限以上の能力を発揮しようとすれば耐えられなくなって自壊するし、情報処理能力を上げたところでそれ以上の情報が入れば処理出来ずにパンクする。
今の俺の状態がそれだ。加速に加速を重ねた事で身体は自壊する寸前、高速移動の影響で情報処理能力を上回る情報が入った事で脳はパンク寸前。ここまでして漸く互角かどうか……いや、シグナムを振り切れていないのだからまだ劣っている。
これ以上の加速は危険だと理解し、判断した上で、
「
「まだ速くなるのかーーー!!」
それがどうしたと全てを一蹴して更に加速する。身体があげる
度重なる加速にシグナムは漸く表情を驚きで崩す。だが、まだ彼女の目は俺の動きを追い掛けて、彼女の剣が先読みで振るわれている。
「違うーーー
身体が無茶苦茶な加速に痛みを訴えると言うことは、性能以上の能力を発揮しようとしていることもあるだろうが
最小限の無駄の無い動きだけでシグナムはスピードで優っている筈の俺に追いついている。無駄が無いということは、不要な動きを削ぎ落とした正しい動き方だという事。俺はそれを求めていて、目の前に丁度いい手本が存在している。それならば、それを利用しない手はない。
目を限界まで見開き、狭まった視野でシグナムの動きを観察する。筋肉の力み方を、重心の移動の仕方を、関節の使い方を。全てを
「ッ!?また速くーーー!!」
「アッハッハ!!いいなぁコレーーー!!」
結果、それは成功した。身体からあがっていた
ここに来てシグナムの先読みは通じなくなっていた。いや、先読みされている事には変わらないのだが、それが行動に移されるよりも前に俺がその場から居なくなってしまっているのだ。いくら経験則により俺の行動が先読み出来るとしても、それに身体が追いつかなければ意味を成さない。シグナムが手を抜いている可能性もあるのだが、悔しそうに歯を食い縛りながら剣を振るっている彼女の顔を見る限りではそれは無いだろう。演技であるかもしれないが、それが出来る程に器用には見えなかった。
つまり、ここに来て俺は速度でシグナムを凌駕した事になる。
仕掛けるのならばここでしかないとレギオンを握り、シグナムの首を狙う。狙うのは人体の急所である頸動脈。受けるのは不味いと考えたのか、シグナムは剣を持たない左手を盾にしてレギオンを受け止める。超高速で動く物は少量の質量であろうと多大な被害を産む。ネジのボルトサイズのスペースデブリで人工衛星が致命的な損害を負うのと同じ様に。
レギオンにプラスして俺の全体重を乗せた一撃は、盾にしたシグナムの左手を容易く斬り裂いた。バリアジャケットのせいで切断までとはいかなかったが、それでも使い物にはならない程の大きな負傷。
「ーーー紫電一閃ッ!!」
しかし、シグナムは
それを見た瞬間に、回避も防御も不可能だと悟る。避けるにしてもからだを酷使し過ぎたせいで咄嗟の反応が遅れてしまい、防御なんてそれごと斬り伏せられるのだから。
故に、
「ーーーレギオン、群がり絡め取れ」
『Yes master.』
ここまで終ぞ使う事のなかった仕込みを使う事にした。周囲にばら撒かれたレギオンからシグナムの剣と同じように薬莢が吐き出され、柄の部分からワイヤーが伸びてシグナムを拘束する。
「ほぅ、ここまであのデバイスを回収しなかったのはこの為だったか」
「そーだよ。元々は攻撃用にするつもりだったけどな」
拘束したとはいえワイヤーの経は細い。思っていた通りにシグナムはワイヤーを力技で引き千切って自由になるが、出来た一瞬の隙の内にシグナムの間合いから離れる事に成功した。
「驚いたぞ。まさかお前ほどの年頃で躊躇いも無く私の腕を斬るとはな」
「生憎と過去には色々とあってね、躊躇えば死ぬって事は嫌になる程に理解してるんだ」
思い返すのは前世の故郷。力が無ければ食い物にされ、善意を見せれば使い捨てられ、最後には死体すら余す事なく利用されるというクソのような環境。あそこで生きていくためには躊躇いなど邪魔でしか無かった。
それを聞いて納得したのか、シグナムは再び剣を構えた。左手は動かさないようにしているものの負傷は完全に無視している。コレで応急処置でもしてくれればその隙を狙っていたのだが残念だと思いながら、さっきの攻撃で刃がダメになったレギオンをしまって新たなレギオンを取り出す。高速移動での攻撃に付け加えてシグナムのバリアジャケットのせいで後少し負荷を加えたらそのまま折れてしまいそうだ。一応自動修復機能が付いているのだが、使える本数が減った事には変わりない。
シグナムの速さの限界は見た。再びそれを超える速さで攻め、殺しはしないが動かなくなるまで痛めつける事にしようと決意したところで、
警報のような、耳障りなラッパの音が聞こえ、俺の上に影がさした。シグナムから警戒を逸らさずに、視線を上に向ければーーー
「はーーー?」
カガっち、速さの一点特化でシグシグに一撃を入れる。反応されようが、経験から先読みされようが、それよりも速くに攻撃すれば問題ないとかいう超脳筋理論。だけどもそれは正しいっていう。
非殺傷設定ってあくまで魔法だけって事で。原作でもファイトそんがシグシグに一撃入れたっていうシーンで、シグシグのお腹には青アザあったし。
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