ミサイルの襲撃に気がつくのと同時にその場からローブで顔を隠しながら飛び退く。すると、その数瞬遅れでミサイルが地面に着弾し、紅蓮の焔を撒き散らしながら盛大に爆発した。爆弾の一番の脅威である爆風はそれよりも速く飛び退いている事により無害となり、爆発の影響で飛んでくる破片はバリアジャケットであるローブでガードしているので無傷。あれが非殺傷設定されているとは考え難いので、多少の負傷を覚悟していたのだが、無事に避けられた事に安堵する。
そうして突然の襲撃によりシグナムへ向けていた集中が途切れ、この場に俺たち以外の人間の視線がある事に気がついた。ビルの上に立っているその人物は現代には残っていないはずのナチスのシンボルである
そして何より特徴的なのは、その人物の首から
《桜木、アレって転生者だよな?特典がどんな物か分かるか?》
《えっと……ちょっと待ってください。見覚えがあるからどこかで見た事があるはずなんだけど……!!》
《頑張って思い出してくれ。主に俺の為に》
桜木が外にいる時には使えなかった念話チャットだったが、中に入った事により問題なく使えるようになっていたのでそれを使う。赤城ではなく、御剣でもない転生者の正体はもう分かっている。分かっていないのは転生特典だけで、それの不明が一番怖かった。
未知であるというのはそれだけで恐怖するのに十分な理由となる。さっきの襲撃を見る限りでは爆撃機を召喚してミサイルで広範囲を爆撃していたが、それだけだとは限らない。攻撃する為に間合いに踏み込んだ瞬間、そのまま即死してもおかしくないのだ。
「お前か……どうしてこの場に来た?」
「……ヴィータが時空管理局と交戦している。蒐集は一旦中止し、助けに向かう」
「時空管理局に?……仕方がないな」
あのタイミングの襲撃で予想はしていたが、あの転生者はシグナムの仲間だった様で気軽に話しかけていた。他にも仲間がいるのだろう、その人物が時空管理局と交戦していると転生者から告げられると、少し悩むと名残惜しそうに剣を下げる。
「これからなのに済まないが仲間を助けに行かねばならない。この勝負、一先ず預けておくぞ」
「どーぞどーぞ。負けを覚悟してた勝負がお預けになるのなら喜ばしいからな」
もしも転生者が何もかもを無視して俺を攻撃していたら間違いなく負けていた。シグナムはその介入に対して不愉快には思うかもしれないが、最終的には目的を優先してそのまま手を組んで襲ってくるのが簡単に予想できる。その場合は離れた場所にいた狼ーーーザフィーラも間違いなく参戦していただろう。桜木は基本的に傍観に徹しているので助けは期待出来ない。
トンっと軽く地面を蹴り、シグナムとザフィーラは飛行魔法で飛びながら転生者のそばまで移動する。そしてシグナムはバリアジャケットの袖をまくって肌を露出すると、転生者は彼女の肌に爪を立てて傷を付けた。
その瞬間、転生者の身体から黒いモヤが噴き出す。それだけでも異常だと言うのにその黒いモヤには幾多もの縦になった目が蠢き、その目のどれもが例外無く一つの目に二つの瞳があった。
《気持ち悪ッ!!》
《一つの目玉に瞳が二つ……重瞳……?もしかして項羽の〝万象儀〟?だったらさっきのはルーデルの〝不死鳥〟?》
《思い出せたのなら後で教えてくれ。奴さん、捨て台詞吐きながら撤退するみたいだから》
黒いモヤに蠢く目を見て転生特典に関して思い出したらしいがそれを気にしている余裕は俺には無かった。
何故なら、黒いモヤに包まれている転生者から敵意が向けられているから。
「そこのお前。お前はシグナムを傷付けた。私はそれを許さない」
「閉じ込めて襲って来たのはそっちからだ。正当防衛だからセーフセーフ」
「そうだとしても。これが八つ当たりだってことは分かってる……それでも、許せないものは許せない」
それだけで何を言っても考えを変えないのを悟り、降参の意を示す為に両手を挙げてみる。少なくとも、あの転生者は自分の感情が八つ当たりだって事に気がついている。これで甘ったるい理想論を垂れ流す様なら適当に暗殺でもして退場させていたのだが、キチンと自分の感情と状況を把握して理解している上での言葉ならば受け止めるだけだ。
身内を傷付けられて許せる様な奴など、その怒りが簡単な言葉で覆る様な奴など、見ていてもつまらないだけだから。
言いたいことを言い終えたのか、転生者はシグナムとザフィーラと共に黒いモヤに包まれてその場から姿を消した。ハスターの探知に引っかからなかったところを見る限りでは今の移動は魔法によるものではない様だ。
そして彼らがいなくなってから数十秒、もしかしたら奇襲されるかもしれないと警戒していたが、時間が経ってそれは無いと分かったところで全身から力を抜き、その場に崩れ落ちた。
「両夜ッ!!」
それを見た愛歌がヴィマーナから飛び降り、触手を器用にビルに引っ掛けながら降りてくる。それを見てもリアクションをするどころか軽口を叩く事さえ出来ない。身体強化とシグナムの体捌きの最適化、それに加えてアドレナリンで誤魔化していたのだが、俺の身体は度重なる加速によって限界を迎えていた。どうにか戦場特有の緊張感でギリギリ動ける程度で留まっていたのだが、彼女たちが去った事でそれが一気に吹き出してしまったのだ。
《ハスター、回復頼む。動けるようになる程度で良いから》
《了解しました》
《レギオン、初めての実戦ご苦労様。回収が怠いから自動で集まってくれ》
《承知しました》
《はーい》
《あいあい》
《わはー》
念話でデバイスたちに指示を出していると、ハスターの回復魔法が効いて来たのか身体から痛みが徐々に消えていく。回復魔法は便利そうに見えるが人間の身体……正確には細胞には回復出来る回数というのは決まっている。それを無理矢理回復させるということは、若干ではあるが寿命を縮めている事と同じなのだ。それは乱用しない限りは誤差の範囲で済むような僅かな物だが、これからの事を考えれば出来る限り自然治癒で治しておいた方が良いと理解している。
回復魔法の具合から、後五分もあれば動けるようにはなるだろうと考えていると、そばに愛歌が駆け寄ってくる。
「両夜、大丈夫?」
《あー……口動かせないからチャットで話すけど大丈夫。ちょっとばかし無茶をしただけだから》
「動けなくなるような状態でちょっとの無茶って何よ」
《返す言葉も無い》
《まぁまぁ、加賀美さんは沙条さんを守る為に頑張ったんだから大目に見て挙げたらどうですか?》
ヴィマーナを宝物庫にしまいながら、外見では不愉快そうに眉間に皺を寄せている桜木が降りて来た。相変わらずの内外の温度差に吹き出しそうになるが、今の状態で吹き出したら間違いなく激痛に襲われるのが目に見えていたのでなんとか堪える。
《そういえば悪かったな。傍観するって言ってたのに巻き込んで》
《別に気にして無いですよ。確かに初めは傍観に徹するつもりでいましたけど、よくよく考えてみたら闇の書なんていうジュエルシードよりも危ない物が地球にあるんです。つまらない意地で介入せずにいたらバッドエンドなんて事も現状じゃ有り得ますからね》
《ホントそれな》
ジュエルシードは誰でも使うことが出来てしまうという意味で危険物だったのだが、闇の書は下手をすればそれを上回る。原作通りに期間内に完成させる事が出来なければ主である八神はやては死亡して闇の書は転生してしまう。完成させても転生者という不純物がいるせいで原作を上回る強さになる可能性が存在し、倒せなかったらその時点で地球滅亡。
闇の書側の転生者が早まらない事を祈るしか無い。
チャットで話している間に身体が動かせる程度まで回復したと判断して上半身を起こす。軽く動かして確認すれば、勢い良く動かせば鈍痛が走るものの、ゆっくりと動かせば問題なさそうだった。
「あーあー……良し、動けるくらいには回復したな」
「結界も無くなったし帰りましょう。今日はしっかり休んだ方が良いわ」
彼女たちがいなくなってからも結界が残されていたのは彼女たちなりの気遣いだったのか。俺が動けるようになる頃になってようやく結界は消滅した。それにより、周囲から無くなっていた人の気配が戻ってくる。深夜というほどでは無いが夜なので人は疎らだったが、もしすぐに結界が無くなっていたらちょっとした騒ぎになっていただろう。
「そうしたいところだけどなぁ……」
《魔力反応を確認。これは間違いなく来てますねぇ……》
本音を言えば、愛歌の言うように家に帰って休みたい。しかし、今の時期が悪かった。
転生者は時空管理局と交戦中だと言っていた。街中で結界を張られているのを見逃すほど、時空管理局と言う組織は間抜けでは無い。こことは別の場所で戦っていたようだが、それでも隠す事なく魔法が使われていたら、間違いなく見つかってしまう。
「ーーー済まない、少し良いだろうか?」
現れたのは黒い上着にジーンズ姿の少年。それだけならばただ声を掛けられたように思えるが、彼の手に握られている機械じみたアクセサリー……デバイスを見れば、あちら側の関係者だと分かってしまう。
「時空管理局執務官のクロノ・ハラオウンだ。さっきまで行われていた戦闘について話をしたいのだけど、付いてきて貰えるか?」
少年ーーークロノの言葉遣いは丁寧でこちらを気遣っているのを伺えるのだが、彼の提案には選択肢というものが存在していなかった。断れば間違いなく時空管理局から目を付けられることになり、最悪の場合実力行使で、なんて事もありえる。闇の書の騎士への対抗手段である時空管理局の戦力を削ってしまう事は好ましく無い。それに、現段階で加賀美両夜が目をつけられれば、この先が動き難くなってしまう。
どうやら休めるのはまだまだ先になりそうだ。
最後の転生者は闇の書側として登場。特典は作者が最近嵌ってる漫画から。分かる人には分かるかな?
戦闘は終わったけどクロノ登場。そりゃあ街中で結界張ってドンパチしてたらバレるよ。