▲月a日
ベッドが愛おしく思えてきた今日この頃、高町恭也フルボッコ事件により俺は再び筋肉痛になった。全身を襲う激痛になんとか耐えながらも身体を起こせる程度まで回復させたところで実の息子を容赦なくフルボッコにする戦闘民族の士郎さんから俺の身体の事について話された。
彼の予想では、俺はリミッターが外れ易い体質なのではないかとの事らしい。普通、人間の身体は本来の性能100%を発揮すると耐えられないのでリミッターをつける事で問題無く使えるようにしている。緊急事態や感情が高ぶった時などはそのリミッターが外れて本来の性能を発揮することが出来るのだが、落ち着いてしまえば急激な疲労や無理な行使による激痛が襲ってくるらしい。前回の模擬戦、そして今回のフルボッコ事件を通して、彼はそうでは無いかと予想したらしい。
考えてみれば士郎さんの言っていることには心当たりがある。前世の幼少期に過ごしていた場所はこの世の地獄の様な、人間の醜悪な部分を集めて煮詰めた様な、まさに掃き溜めとしか言えない環境だった。善意を見せれば付け込まれる、弱者は食い物にされる、知恵がなければゴミの様に扱われる、そんな環境で子供だった俺が大人を相手して生き残る為には常に全力で抗う以外に方法が無かった。先天的に身についたのか、後天的に身についたのかは今となってはわからないが、確かに大人相手に廃材片手に立ち回った後には激痛に悶え苦しんでいた記憶がある。
士郎さんから言わせればこの体質はメリットであり、デメリットであるらしい。メリットは他の人間では発揮することが出来ない100%の性能を簡単に発揮出来ること。デメリットは言うまでもなく発揮してしまえばこうして動けなくなることだろう。
そう言われたがそれは身体が成長すれば解決する問題だ。前世では子供の頃は兎も角、大人になってからは多少身体が軋む程度で済んでいた。今は身体が子供だから100%の負荷に耐えられないだけであり、10年20年すれば自然と負荷に耐えられる身体に成長するはずだ。それに関しては士郎さんも同意見らしく、今後の稽古に力加減をコントロールする内容が付け加えられた。
もしかして前世で170センチ無かったのはこれが原因じゃ無かろうか?
▲月b日
ベッドから起き上がれ、歩ける様になったので出歩いても不審がられない時間帯を見計らって高町家が経営している喫茶店〝翠屋〟に行った。
子供ボディーになったせいで妙に威圧感たっぷりなドアを開けるといらっしゃいませと耳通りの良い声を掛けられた。出迎えてくれたのは高町桃子さんと高町美由希さん、そしてカウンターの向こうで難しい顔をしながらコーヒーを淹れている高町恭也だった。どうやら生前に士郎さんが担当していた係を引き継ごうとしているらしい。
憑いてきていた士郎さんがその光景を見て号泣していたのが鬱陶しかったので適当に念仏を唱えて昇天させかけた。
客として来ている、そして身体は今世の本来の姿なのだが、ここは戦闘民族が経営している店だ。なにかのタイミングで気配でバレたとかなりかねないので無邪気な子供のフリをしながら名物らしいシュークリームを注文して食べた。
頭が真っ白になった。
気がつけば頼んでいたシュークリームは無くなってしまい、胃袋がすでに収まっていることを知らせていたがそれを無視して追加でシュークリームを頼む。パリパリとした生地、濃厚でいてしつこさが全くないカスタード、それらを崩さないように適切な温度で冷やされている。前世でもこれだけ美味な食べ物は食べた事が無かった。
もう一個、もう一個と食べていくうちに気がつけば10個も食べてしまっていた。確かにこれは魔的である。士郎さんが家族補正込みで大げさに話しているだけかと思った。
これ以上入らないと胃袋が悲鳴を上げたところで満足し、テイクアウトでさらにシュークリームを頼んだ。これはヤバい。身元バレしてしまう可能性があるのに毎日でも来たくなってしまうでは無いか。
そして家に帰ってから手作りの士郎さんの位牌の前にテイクアウトしたシュークリームを置き、リビングのテーブルの上にもタナカへと紙に書いておいておく。是非とも彼にもこの魔性のシュークリームを堪能して欲しかったから。
朝になっていたらシュークリームは消え、代わりに日本円の札束が山積みにされていた。これは買ってこいという意思表示なのだろうか?
▲月c日
今日は面白い出会いがあった。
シュークリームの魅力に取り憑かれた俺は〝翠屋〟へとシュークリームを求めて出掛けていた。そしてその道中の公園で、言い合いをしているのが聞こえたのだ。
無視しようかと思ったのだがその公園は高町なのはと転生者の少年が良くいる公園。彼らに何かあったらこちらに支障が出てしまうので興味を惹かれたという程を装って覗き込んで見た。するとそこには転生者の背中に隠れながら怯える高町なのはの姿と、腕を組んで傲慢そうに見下している金髪の少年の姿があった。
金髪の少年が傲慢な物言いで高町なのはに語りかけ、それを転生者の少年が気に入らないのか怒気のこもった声で反論していて一触即発の空気が公園には漂っていた。最終的には転生者の少年が彼女の手を引いて公園から出て行ったのだが、面白いのはここからだった。
2人が出て行った事で無人になった公園。1人だけ残された金髪の少年は突然頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。ブツブツと何かを言っているようだが距離があって聞き取りづらい。なので金髪の少年に気付かれないように気配を消してこっそりと近づいた。
すると金髪の少年は「またやってしまった……」だの、「これどうしたらいいの……」だの、傲慢な物言いに対する後悔をしていた。思わず何をやっているのか気になって声をかけると、彼は飛び上がりながらさっきと同じ傲慢な物言いで話しかけて来たのだ。さっきの独り言を聞いていたのでそれを演技かと思い、普通に話すように言ったのだが彼は話し方を変えようとしない。なので近くに落ちていた木の枝での筆談を試みた。
結果、それは成功した。金髪の少年ーーー
不快そうに眉間に皺を寄せながら睨んでくるのに、筆談では「これでまともに意思疎通が出来る……!!」と感嘆符をつけてまで喜んでいたのがとてもシュールだった。
向こうも俺のことを転生者だと気がついたようで「良かったら友達になってください」と頼まれたのでオーケーを出した。その時に筆談は喜んでいたが、口では「貴様のような蒙昧が我が友になるだと?ハッ!!片腹痛いわ!!」などと言っていた。
また明日会うことを約束して桜木と別れた。中と外が全く違う友人が出来た、良い1日だった。
日記を書いていて気づいたのだが、転生特典とは一体何なのだろうか?ハスター辺りが知っているかもしれないので、明日聞いてみる事にする。
カガっちの体質は某喧嘩ドールの様なもの。某喧嘩ドール程身体が進化してくれなかったので、170センチに届かないところで成長がストップしてしまった悲しい事実。戦闘民族の助けがあるので今世ではワンチャンある。
翠屋特性シュークリーム。カガっち曰く、魔性のシュークリーム。一度食べてみたい。
カガっちとオリ主以外の転生者こと強制演技派転生者の桜ギル君。転生特典にギルガメッシュの能力を頼むという踏み台や噛ませに良くある行動を取りながらも、根は良い子だったのでそれをよく思わなかった神により〝強制的にギルガメッシュと同じ話し方になる〟という呪いを与えられた。人と話そうとしたらどう頑張ってもギル様チックな話し方になってしまう。傲慢すぎる話し方のせいで誰も近寄らず、友達が出来なかった。
そして筆談という方法で意思の疎通が出来る事を証明したカガっちと友達になる。
カガっちの反応から分かると思うけど、カガっちはFateが無い世界から来たのでFateを知らない。知ってたら魔術云々で分かるし。