「よっと……ここがリーゼ姉妹が見張っている家か」
桜木の勧められた人物を捉えるために、その日の深夜に行動を起こす。管理局の護衛たちには気が付かれないように気配を消し、変身魔法を使って大人の姿になるのを忘れない。魔力を隠す魔法だけは使っているが、それ以外は全て技術で隠蔽を施している。前世の生まれ故郷で生き残る為に身につけた技術だ。そして仮面のデザインは若干変えて、口の部分を露出した物に変えている。タバコを吸う時に仮面をズラすのが面倒だからだ。
辺りを一望出来るように電柱の上を陣取りながら見下ろしているのは近くにある桜木がリーゼ姉妹が出没するだろうと言っていたのは海鳴内の民家。何でもここに重要人物がいるらしく、彼女たちは契約者の指示で見張っていると言っていた。その重要人物がどんな人物なのか教えて欲しかったのだが、後でのお楽しみだと言い残して桜木は寝落ちしてしまった。気になるのは気になるのだが、俺の目的は手駒として使えそうな人材の確保であってその重要人物の詳細を知ることでは無いので後日改めて聞く事にする。
「ハスター、解析モード」
『Yes.解析モードに移行します』
ハスターに指示を出すと視界が薄い緑色に染まる。桜木によればリーゼ姉妹は猫の使い魔で、猫に変身して監視をしているらしい。それを見破る為に即席でハスターに作ってもらったのがこの解析モードだ。
効果は単純なもので、魔法が使用されていればそれに反応し、どんな魔法が使われているのかを解析する物なのだがーーー
「おや?あれは要塞か何かかな?」
『過剰なまでに魔法が行使されていますね』
さっきまでは普通だったはずの民家が、解析モードを通して見た事で魔法でガチガチに固められている事に気が付いた。あまりの量が多い上に、魔法がミッドチルダ式では無いので解析が追いついていないのだが、それでも大凡の種類は判別出来る。
「アラームに自動迎撃、それらを隠す為の隠蔽魔法ってところか?」
『しかもあれらの魔法はベルカ式のようですね』
「Fuck、後でのお楽しみってそういう事かよ」
サポートに特化しているハスターが作った魔法だからこそあの要塞級の防備を固められている事に気がついたが、時空管理局はあれに気がつく事は無いだろう。察知しようと思えばアースラの全システムをそれだけに裂かなければ見つからないのでは無いかと思えるほどのガン防衛が築き上げられていた。
ここに来て桜木の勿体ぶった言い方の真意に気がつく。あの家にはシグナムたち闇の書の騎士がーーー正確には闇の書の主がいる。そうでなければ、あそこまで防備を固める意味が無い。記憶があやふやになっているので怪しいのだが、確か現闇の書の主は魔法について何も知らなかった一般人である上に、闇の書によって日常生活を送る事が困難になっている筈だ。戦う力も抗う力も持っていないから過剰と言えるレベルにまでガン防衛しているのだろう。
『この事を時空管理局に報告しますか?』
「
闇の書の主の居場所を知ってもそれを誰にも言わずに黙っておく事にする。確かにここで闇の書の主の場所を教えれば戦力を整えた管理局の襲撃でA's編は終わるかもしれない。だが、そうした場合だと間違いなく闇の書は別の世界に逃げる事になる。今後の闇の書の被害を出さない為には出来る限り原作通りに動いてもらい、原作通りの方法で完全消滅させてもらわなければならない。それに万が一襲撃が失敗すれば、シグナムたちの居場所が分からなくなってしまう。思いもよらず手に入れた情報だが、このアドバンテージを活かそうと思えば黙っておくのが一番なのだ。
後、間違いなく怪しまれる。一体どうやって闇の書の主の居場所を見つけたのかを。まだアクロ・ダカーハである事を隠したいこちらとしては、この段階で要らぬ疑いをかけられたく無いのだ。
『そうですかーーーマスター』
「あぁ、こっちでも見つけた」
そうやって民家を見張っていると、塀の上に一匹の猫がいるのを見つけた。一見すればただの野良猫にしか見えないのだが、解析モードを通しているのであれが魔法で猫に変身しているのだと分かる。
他に同じ存在がいるかどうかを確認するが、残念な事にいるのはあそこの一匹だけのようだ。優秀な人材はいればいるだけ良いのだ。洗脳するのが手間だが、それ以上のリターンがあるのならば手間暇を惜しまないのが重要だ。それに、良く良く考えてみれば
「ハスター、隠蔽のレベルを最大限まで引き上げて捕獲」
『YesーーーStruggle Bind.』
猫が塀の上から地面に降りた瞬間に、灰色の光帯が現れて猫を縛り上げる。それもご丁寧に声を上げられないように首を絞めた上で口を塞いでいる。さらにそれだけでは終わらず、猫はショートヘアの女性へと姿を変えた。あれが元の姿なのだろう。
「姉妹って聞いた時から覚悟していたけど、間違いなく愛歌が荒れるなぁ……!!」
『マスター、早くしなければ対象に逃げられてしまいます』
「分かってるわ」
ハスターに急かされながら電柱から降り、体重と体幹を操作する事で無音で女性の背後へと着地。そして気が付かれないまま、女性の首に手刀を叩き込んで意識を奪った。力無く崩れ落ちる彼女を抱き抱え、周囲の警戒をするが誰にも気づかれていないようだ。
「ハスター、移動するから警戒は任せた」
『了解しました』
本当だったら魔法で移動したいのだが、流石にシグナムたちの目の前で魔法を使うのは躊躇われる。なので気配を消し、気絶させた女性を肩で担ぎ上げて移動する事にした。
「ーーーう……ここは?」
「Good morning.随分気持ち良く眠っていたね、仕事で疲れていたのかな?忙しいのは分かるけど休む時には休まなきゃ」
「だ、誰だ!?」
海鳴にいくつか用意してある俺の隠れ家の1つ。そこに連れ込んで準備を済ませた時にタイミングよく女性は目を覚ました。起きたので挨拶をしたというのに勝気な目を吊り上げて敵意を向けられただけ。身体を動かそうとしているが、椅子に拘束された状態で座らされているのでそれも叶わない。
威勢の良さを感じて当たりを引いたと確信する。こういう手合いは洗脳するまでは時間がかかるものの、成功させてしまえば従順な手駒になるからだ。
「誰だとは礼儀がなって無いな……まぁ、目が覚めたら捕まってました〜なんて状態だし大目に見よう。初めましてお嬢さん、俺の名前はアクロ・ダカーハだ。以後お見知り置きを」
「アクロ・ダカーハ……!?クロ助が言っていた次元犯罪者か!!」
「知ってるのか、手間が省けて何より何より」
どうやらジュエルシードの時に動いた事によって、しっかりと時空管理局には犯罪者認定をされているようだ。この時点でアクロ・ダカーハという存在を植え付けられているのなら、今回は何度か手を出しておくくらいで良いだろう。
「名前を聞かせて欲しいんだが……その様子じゃ期待出来ないな」
「誰が教えるか……!!」
俺がアクロ・ダカーハだと分かり、女性から向けられている敵意に警戒が混じる。出来る事ならばこの段階で名前を教えてくれれば色々と楽になるから教えて欲しかったのだが、今の彼女ではそれは望めないようだ。
「名前だけじゃなくて色々と聞きたいことがあるんだけど……うん、いつも通りにやろうか」
部屋の隅に転がっていたロッカーを蹴破り、中から用意していた道具を引きずり出す。ノコギリ、ハンマー、ペンチ、電動ドライバー、釘、針金、ホース……前回の管理局員に〝質問〟をする為に使った道具。それらと拘束されているシチュエーションから、この先自分がどんな扱いを受けるのかを想像したのか、女性の顔が青くなる。
「この……ッ!!」
逃げ出そうと、身体強化魔法を使って拘束から抜け出そうとするーーーが、それは叶わない。前回の〝質問〟の最中で一度、管理局員に身体強化魔法を使われて逃げられそうになったのだ。その反省を生かし、彼女には魔力吸収の魔術を施している。
車があってもガソリンが無ければ動かないように、いくら魔法が使えようとも魔力が無ければ使う事が出来ない。デバイスでは無くてカード型の魔力貯蔵装置を持っていたが、それも魔力を抜き取ってから破壊してあるので意味が無い。
「壊れてくれるなよ?そうなったら色々と手間だからな」
管理局員にした〝質問〟のように、聞くだけが目的ならば容赦無くやれる。プレシアの時のように価値観を弄るだけならば多少強引にやっても上手く行く。しかし、今回の目的はあくまで手駒を増やす事なのだ。勢いに任せて壊れてしまえば要らぬ手間がかかる事になるので出来る限り丁寧に、時間をかけてこちらに引き込む。
ペンチで彼女の爪の先を摘む。これからされる事が予想出来ているのか、彼女の目には怯えと屈してなるものかという意志力が入り混じっていた。
それがいつまで持つのか。出来る限り長く持ってくれと祈りながらーーー手始めに彼女の爪を剥がすことにした。
カガっちによる手駒制作開始。一体どっちの猫姉妹が犠牲になったのだろうか……