「適当に選んだ服だけど変じゃないか?」
「大丈夫、似合っているわよ。やっぱり暗い色の方が両夜にはお似合いね」
「明るい色の服はどうしても着こなせないんだよなぁ……」
月村に誘われて新しく出来た友人の家に行くというので、普段は然程気にしていない身嗜みにも気を使う事にした。最近では日中も肌寒くなって来たので薄手のグレーのタートルネックのセーターにジーンズ、その上から黒のコートを羽織っている。愛歌はお気に入りとなっている翠色のドレスのような洋服の上からポンチョを被っている。
そこまでするのなら素直にズボンを履けばいいんじゃないかと思ったのだが、オシャレをしなくなったら女として死ぬのだと真顔で力説されたのでそれ以上は何も言えなかった。
目の前で四つん這いになっている士郎さんの上に乗りながらテレビを見ているアリシアはelectricalと書かれた真っ黄色のクソダサTシャツを着ているのだが……あれはそもそも死んでいるのだから例外なのだろう。愛歌の言っている通りなら、彼女は死んでいるのだからオシャレをしなくてもいいわけなのだし。
それにしても、最近の士郎さんはずっと四つん這いになっているような気がする。
「加賀美様、こちらを。遊びに行かれるという事なのでロールケーキを作らせて頂きました」
「サンキュー、イレイン」
「ガッデムイレイン。乳があってメイドな上に料理が上手くてお菓子も作れるとかちょっと卑怯じゃないかしら?」
「それが作られた私の役目なので。悔しかったら私以上の体型に成長されてはいかがでしょうか?もっとも……いえ、何でもありません」
「ねぇ、今なんて言おうとしていたのかしら?私のどこを見て言うのを止めたのかしら?」
「どうどう。イレインも煽るのは止めてやれよ」
イレインの煽りに対して笑顔のままで額に青筋を浮かべると言う器用なキレ方をしている愛歌を後ろから羽交い締めにする。彼女は我が家に来てから人間らしくなっているように見えるが、それ以上に煽りの技術が上達してきている。完全に我が家の芸風に染まってきている。
この間なんて存在は知っているものの見えない、感知できないはずのアリシアを清めの塩をばら撒いて追い詰め、俺の用意した魔術礼装で結界を張ってゴキブリと一対一で過ごさせるなんて事をしていたし。
「両夜……ねぇ、両夜……私は大丈夫よね?これから先、まだ望みはあるわよね?」
「愛歌様、身体的特徴は基本的に生活と遺伝によって左右されます。愛歌様のお母様のお写真を拝見した限り、愛歌様の成長は……いえ、忘れてください」
「忘れてくださいって何よ!!ほとんど言ってるようなものじゃない!!そこまで言うのなら最後まで言い切りなさいよぉ!!」
「落ち着け、本当に落ち着け。流石に今は触手は不味いから。イレイン、ちょっと煽り過ぎだ。これ以上怒らせると家が壊れる」
うがぁ、っと叫びながら愛歌は悪性情報の触手を伸ばしてイレインに向かって振り回している。もっとも、冷静さを欠いている上に戦闘用に作られたイレインには届かずにまるで踊るように避けられているのだが。
煽りに煽られて半泣きになりながら触手を振り回している愛歌だが、それでもまだ理性は保っているのか家具は壊れず、汚染されて溶けるような様子も見えない。これ以上怒らせるとどうなるのか分からないが。
「こんにちわ、月村です」
「ほら、月村来たから行くぞ」
「離して!!離してぇ!!この毒舌ロボメイドだけはこの場で八つ裂きにしてやらなきゃいけないのよ……!!」
「行ってらっしゃいませ、加賀美様……将来性の見込めない愛歌様」
「イレイン、お前しばらく充電禁止な」
「!?」
煽るなと言っているのに煽り続けているイレインに充電禁止という罰を与えておく。彼女の動力源は意外にも電力で、定期的に充電しなければ稼働する事が出来ない。仮に充電が切れたところでスリープ状態になるだけで彼女の記憶に問題は無いのだが、人間に言い換えれば仮死状態になっているようなものらしくイレインはスリープ状態になる事を嫌っていた。その事を考えれば、罰としては十分だろう。
玄関に向かう途中で愛歌がガチ泣きに移行し、コアラのように俺に抱き着いて来たのだが構わずにそのまま移動する。
「悪い、待たせたな」
「それは良いんだけど……愛歌ちゃんはどうしたの?」
「イレインに煽られた結果」
「あぁ……」
玄関のイレインの性格を知っている月村はその一言で納得したのだろう。泣きながら俺に抱き着いている愛歌を見て可哀想なものを見るような、同情するような目をしていた。
「愛歌ちゃん……なんて言われたのか分からないけど、きっと大丈夫だから」
「すずかぁ……ナイスバディな姉のいる貴女にそんな事を言われても慰めにはならないのよぉーーー!!」
「キャァーーー!?」
知らなかったとはいえ、月村の言葉は今の愛歌にとってクリティカルヒットだった。逆鱗にドロップキックを決めた後に昇竜拳を叩き込む行いだった。泣くのを止めたかと思えば月村に飛びかかって押し倒している。
夏頃までは互いに苗字呼びだったはずの2人だが、月村の誘拐に巻き込まれた後ごろから名前呼びになり、ちゃん付けに呼び捨てと非常に親しい仲になっている。2人の間に何があったのか予想は出来るが、俺から言うことは何も無い。こう言うことに男が口を出しても痛い目を見る事になるのは重々理解しているのだ。
「しかも何よ!!前よりも大きくなってるじゃないのよ!!羨まけしからんわな!!少しぐらい私に分けなさい……!!」
「んん……!!ま、愛歌ちゃん……や、止めてぇ……!!」
美少女と言える2人が、我が家の玄関で絡み合っている。
目の前の光景を言葉にすればそんな所で、アースラにいるロリ百合スキー共がこれを見ればスタンディングオベーション待った無しなのだろうが、現実には血の涙を流さんばかりに泣いている愛歌が一心不乱に月村の胸を揉みしだいているという犯罪的な光景だったりする。
見目麗しいと言っても過言では無い2人の絡み合いを前にしても、欠片も反応する気配の無いマイサンに悲しくなってくる。
「そこまでにしておけ」
「痛ッ!!」
愛歌の気持ちは分からないでもないがやり過ぎである。容赦無く拳骨を落とし、怯んだ隙に首根っこを引っ張って月村から引き剥がす。
「やり過ぎだ」
「だって……だってぇ……!!」
「だってじゃない。ほら、被害者の月村に謝れ」
「うぅ……ごめんなさい」
「はぁ……はぁ……だ、大丈夫だから……痛く無かったし、むしろ気持ち良かったし……」
後半の言葉は聞かなかった事にしておこう。それがきっと彼女の名誉の為だ。後、彼女が新たな性癖に目覚めない事を切に願う。
だが道路に停められた車の運転席からサムズアップをしていたメイドに対しては中指を突き立てておくのを忘れない。
「それで、これから会う月村の友達ってどんな奴なんだ?」
愛歌様御乱心事件が終息し、落ち着いた所で車に乗って本来の目的地に向かう道中で気になった事を聞いてみる。月村からは新しく出来た友達を紹介したいとしか聞いておらず、どんな人物なのか全く聞いていないのだ。
「あれ?教えて無かったっけ?」
「少なくとも、俺は聞いた覚えは無いな」
「えっとね、関西弁って言うのかな?そんな方言を使う女の子だよ。なんでも足が不自由で車椅子に乗ってるけど、凄く良い子だよ」
「関西弁で車椅子の女の子」
月村は凄く良い子だと言っているが、それに反して俺は凄く嫌な予感がする。関西弁、車椅子、そして女の子という3つのワードに当てはまる人物を、俺はたった1人しか知らない。
《両夜両夜、どうしてか分からないのだけどすっごく嫌な予感がするわ!!具体的に言えば傷害事件の加害者と被害者が道端で偶然出会うような!!偶々入ったお店で相席になるような!!》
《妙に具体的だなぁオイ》
愛歌も嫌な予感がしたようでチャットを使って話しかけてくる。それでも顔色1つ変える事なく月村と話を続けられている辺り、彼女には感謝するしかない。ここで顔色を変えてしまえば月村に心配をかける事になるから。
「名前はなんて言うんだ?」
「
《クソッタレがぁーーーッ!!》
この予感が外れて欲しいと僅かな期待を込めてその少女の名前を聞いたのだが、思っていた通りの名前が月村の口から出てしまった。本当だったら今すぐにでも叫びたかったが、それを代わりにチャットで叫ぶ事で堪える。
八神はやてーーー俺の記憶と、桜木から聞いた話を合わせれば、彼女こそがA's編の中核。今回の事件の中心にして、ある意味で
そして、八神はやてが闇の書の主だと言うのならば、その傍らには必ず闇の書の騎士たちが控えている。自分たちの行いが大衆にとって害悪になると理解している彼らならば、時空管理局が来ているこのタイミングで、主である彼女の側から居なくなる筈がない。
どうか何事も無く終わるようにと祈りながら、車が停まったのはとある民家ーーー俺が捕らえたリーゼロッテが見張っていた家。
《オワタ》
《ねぇ、オワタって何よ?何がオワタなのよ?両夜?両夜ーーー!?》
この時点でこの家に住む者が八神はやてであると確定してしまった。桜木の言っていた重要人物が八神はやての事であると納得し、同時に教えてくれなかった事に対して罰を与える事を心に誓う。
イレインのマキシマム・ロボメイドタイキックか、愛歌の愛歌ちゃんウィップによる私刑か、それとも俺のアポカリプス・プロレスメドレーか。
なんて事を考えながら現実逃避していたのだが、月村が呼び鈴を鳴らした事で追いつかれてしまう。
「よく来たなーーー」
インターフォン越しに確認したのか、何ら警戒する事なく家の扉が開かれ、そこからピンク色の長髪をポニーテールに纏めた長身の女性ーーーシグナムが現れ、俺と愛歌の姿を見て動きを硬直させる。家に張り巡らせているセンサーを、桜木から借りた財宝で乗り越えてしまった事が原因で油断していたのだろう。その姿は見ていてとても滑稽だった。
この日、予期せぬ形で俺たちはシグナムたちとの再会を果たす事になった。
愛歌ちゃま煽り検定一級のイレイン。安次郎のところにいた時はマトモだったのに、カガっち家に来た事により染まってしまったのだ……キチガイの芸風にな……