道化の名は必要悪   作:鎌鼬

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unlucky family・3

 

 

「えぇっと……」

 

「何やねん、この重苦しい雰囲気は……」

 

 

予期せぬ形でシグナムとの再会を果たしてしまい、彼女の方もまさかこんな形で再会するとは思ってもいなかったのか、フリーズしてしまって数分。固まっている俺たちにどうしていいのか分からずに月村がオロオロとしていると、シグナムの背後から車椅子に乗った少女ーーー八神はやてがやって来た。そして固まっている俺たちを見て何をしているのかと呆れつつ家の中にへと案内されたのだが、今の雰囲気は最悪だった。

 

 

まずはあの夜に襲って来たシグナムとザフィーラ。シグナムは俺の隣に座って自然体を装っているが、俺が行動を起こせば即座に鎮圧出来るように備えている。ザフィーラは八神の側に控えていて、大きく欠伸をして人畜無害の振りをしているが何かあれば八神の盾になるようなポジションを確保している。

 

 

そして八神の右隣に座る赤毛の少女。彼女に至っては敵意を隠そうとしていない。初対面なのだが、シグナムたちから話は聞いていたのだろう。どういう関係なのか理解しているようで、幼いながらにも鋭い目で並んでいる。八神の左隣に座る金髪の女性も同じだ。この2人はシグナムとザフィーラとは違い、平時のように振る舞えて居ないがそれは赤毛の少女は幼いからで、金髪の女性は前衛職では無くて後衛職だからなのだろう。少なくとも彼女たちの振る舞いから、シグナムほどの手練れでは無いにしても彼女と同じ闇の書の騎士であることが簡単に予想出来た。

 

 

そうして、主に赤毛の少女と金髪の女性が原因で八神家のリビングは非常に重苦しい雰囲気になってしまっている。そりゃあ主が友人を招いたと思っていたら敵がやって来たのだ。混乱はするし、警戒もして当然。ただ、出来る事ならば荒事を経験したことの無い月村と八神に要らない心配をさせないように振舞って欲しかった。

 

 

内心で溜息をつきながら、イレインが用意してくれたロールケーキをテーブルの上に乗せて八神に差し出す。

 

 

「初めまして、加賀美両夜だ。これはお土産な……心配は無いと思うけど、一応食べる時には注意してくれ」

 

「沙条愛歌よ。親しみを込めて沙条様と呼ぶ事を許可するわ。豚のようにブヒブヒ鳴きながら感謝しなさい」

 

「アカン、突っ込みたいのにどれから突っ込んでええのか分からん」

 

「はやてちゃん、こういう時は1つずつ処理した方が良いよ」

 

 

月村の言葉に驚いた八神はそうやな、と言ってからティーカップに入っていたお茶を一口飲みーーー力一杯テーブルを叩いた。

 

 

「何でや!!何でお土産食べるのに注意せなあかんねん!!」

 

「作ってくれた奴が最近理解出来ない方向に進化してるんだよ。前なんてロシアン肉まんを作ったとか言って、大外れが超激辛中華まんだったーーー3日は何食べても味しなかったなぁ……お土産に用意されたやつだから大丈夫だとは思うけど、念のためにな」

 

「アンタが被害者かいッ!!それで次はアンタや!!何をどうしたら様付けが親しみになるねん!!豚扱いったらどういうことや!!」

 

「私、生まれつきこういう気質なのよ。支配者タイプってやつねーーーあ、両夜には逆に支配されたいわ!!」

 

「スルーやスルー!!最後にすずかちゃん!!何で平然としてられるねん!!度肝抜かれてもうたやないか!!」

 

「はやてちゃんーーー大丈夫、すぐに慣れるから」

 

「その満面の笑みが不安しか感じられへん……!!」

 

 

流石は関西弁で喋っているだけのことはある。八神は力の限り俺たちの発言に関して全力の突っ込みを行なっていた。彼女からすれば突っ込みたかったから突っ込んだだけなのだろうが、それだけで十分だった。

 

 

八神が全力で、それまでの雰囲気など知った事かと突っ込んでくれたおかげで重苦しい雰囲気は幾らか和らいでいる。

 

 

愛歌がツボにハマったのか、肩を震わせて笑いを堪えているのは予想外だったが。

 

 

《カガミ、と言ったな。聞こえているか?》

 

 

八神が息を整え、愛歌が笑いを堪えているのを視界の端に捉えながらお茶を飲んでいるとシグナムから念話が届いた。愛歌の様子からして話しかけられているのは俺だけなのだろう。こうなることは予想していたので顔に出さずに冷静に対処する。

 

 

《聞こえてる。久しぶりだな、シグナム》

 

《このような形で再会するとは思わなかったがな……貴様には悪いが、この場ではあの日の事は無かったことにしてほしい。はやてに我々の行いを知られたくないのだ。そちらも月村をこちら側に巻き込まなくて済む……条件としては悪くはないと思うが?》

 

《安心しろ。元々あの日の事を持ち出すつもりは無いからな》

 

 

この場ではシグナムたちに襲われた事を明かすのは簡単だが、そうすればこの先がどうなるのか分からなくなってしまうというデメリットが存在している。原作という形でこれから先の未来をある程度知っているものの、それは俺たち転生者の存在が無い場合での話。俺たちの与える影響を考えれば、いつ破綻してもおかしくない。なので、出来るだけ俺の知っている通りに物事を進ませる。物語の終盤……闇の書の完成されるその瞬間まで、そうしてくれた方が都合が良いのだ。

 

 

それにこの場で下手に動けば月村に魔法の存在を教えてしまう事になる。夜の一族という現実世界に生きる吸血鬼の彼女ならば魔法の存在もあっさりと受け入れるだろうが、だからと言って知らなくても良い事を知らせる必要は無いのだ。

 

 

〝深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている〟という言葉がある。それに当てはめれば、月村が魔法の存在を知った時、魔法も月村の存在を知る事になる。

 

 

例え魔法の存在を知ったところで、魔力を持たなければそれだけでお終いになるだろう。地球では魔導文明が存在していないので、一部の突然変異と呼べる例外を除いてリンカーコアを持たない。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()。活性化していないのか魔力を貯蔵する機能は働いていないのだが、彼女の身体にはしっかりとリンカーコアが存在しているのだ。

 

 

これを知れたのは偶然だった。ふと夜の一族と普通の人間はどんな差があるのだろうとハスターに月村の身体をスキャンしてもらった事で発覚したのだ。夜の一族はリンカーコアを持っているので吸血鬼になっているのかと考えてこっそりと月村忍の事もスキャンしたが、彼女の身体にはリンカーコアが存在していなかった。つまり、月村だけがリンカーコアを持っている事になる。

 

 

リンカーコアが活性化していないので魔力は持たないが何かきっかけがあれば活性化してもおかしくないと言うのがハスターの見解だった。魔法の存在を知り、魔法に触れる事でそうなるのであれば、俺は月村に魔法の存在を教えようとは考えない。夜の一族なんていう普通では有り得ない存在として生まれた事を苦悩していたのだ。これ以上普通と懸け離れた存在になる必要は無い。

 

 

《そうか……感謝する》

 

《てかさぁ、あの日の事を持ち出すつもりが無いのならあの2人どうにかしてくれない?特に赤毛の方。敵意を隠そうともしないんだけど》

 

《シャマルとヴィータか……シャマルは私の怪我を治療したから、ヴィータは設計上精神が幼く設定されているからだな。私からこの事を話せば幾分はマシになる筈だ》

 

《そう思うのなら早くしてくれ》

 

 

ともあれ、シグナムとの取引が成立した事でこの場でバトるような事態にはならなさそうだ。この事がシグナムから伝わったのか、赤毛の少女と金髪の女性ーーーヴィータとシャマルからの敵意は幾らか治った。それでもシャマルから警戒されている事には変わらず、ヴィータは相変わらず睨んでいるのだが。

 

 

「はぁ……はぁ……ふぅ……取り敢えず、あんたらの頭のネジが足りひんのは理解出来たわ」

 

「自覚はある」

 

「自覚しとるんかい!!」

 

「あら、そんなの当たり前よ?だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()じゃない」

 

「あぁもう!!これからあんたらの事はそういう奴やと思って接するわ!!えぇな!?」

 

「オッケー」

 

「どうやら遠慮しなくて良さそうね?」

 

 

愛歌が新しい玩具を貰った子供の様な、弄りがいのある人間(オモチャ)を見つけた様な無邪気と邪悪が入り混じった笑みを浮かべているが、八神はそれを向けられても徹底抗戦するつもりらしく愛歌の事を睨みながら中指を突き立てていた。骨のある人物で何よりだ。そうでなければ、愛歌がやり過ぎてしまった時に心が折れてしまうかもしれないから。

 

 

「はぁ……怒鳴ったら疲れたわぁ……シャマル〜、お茶のお代わり淹れてぇな。あ、ついでにこのお土産も出しといてな?」

 

「分かりました。あ、そうだ。ついでに私の作ったクッキーも一緒にーーー」

 

「ーーーヴィータ!!仕留めろ!!」

 

「任せろぉ!!」

 

 

その瞬間、ヴィータのボディーブローがシャマルの横腹に突き刺さる。スナップを効かせた良い一撃を無防備に食らったシャマルはその場に崩れ落ちた。

 

 

「……今のは何かしら?」

 

「見苦しい物をお見せした。シャマルの作ったものは……あれだ、見た目は悪くないのだが味が不味いのだ」

 

「初めてシャマルが作ったモン食べた時、救急車呼ぶかどうか迷ったもんなぁ……」

 

「ザッフィー、シャマル廊下に運んどいて」

 

 

それは彼女たちにとっていつもの事だったのか、ザフィーラは八神の指示に従いシャマルの首元を噛み、廊下まで引きずって連れて行った。あの様子からするにシャマルはしばらくの間は戻ってきそうに無かった。あまりの手際の良さに愛歌ですら呆気に取られ、月村は一度見たのか〝またこれか〟みたいな目で見ている。

 

 

「ーーーふぁあ……はやて〜?なんかシャマルが廊下で死んでたんだけど、また料理作ろうとしてたの〜?」

 

 

そして、シャマルと入れ替わりになる様に新たな人物がリビングにやって来た。

 

 

八神と同じ茶髪を肩の辺りまで伸ばして置きながら、寝起きなのか寝癖で荒れ放題。上はキャミソール、下は下着だけという非常にラフな格好の女性が眠たそうに欠伸をしながら姿を現しーーー

 

 

「ヴィータ!!ザフィーラ!!」

 

「おう!!」

 

「……」

 

 

その姿を見た八神の指示を受けたヴィータとザフィーラにより、速攻でリビングから姿を消した。

 

 

「……今のは?」

 

「ざ、座敷わらしちゃうかな?」

 

「声が震えてるぞ?それにあんなにデカイ座敷わらしがいてたまるか。顔は八神に似てたから身内じゃないか?」

 

「……そうです。ウチのお姉ちゃんです」

 

 

身内とはいえ……いや、身内だからこそなのか、家の中で非常にラフな格好をしていた姉の痴態から目を逸らしたいのだろう。八神は顔を手で覆いながらさっきの人物が姉であると告白した。

 

 

「そっかー姉かー……マジかー……」

 

 

俺だってさっきの光景は見間違いだと思いたかったが、八神の口から肯定されてしまったのだから信じるしかない。

 

 

今の人物こそーーーこの世界に転生してきた、最後の転生者なのだと。

 

 

 






来客中にキャミソールに下着姿で登場する痴女の様な転生者が存在するらしい。

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