道化の名は必要悪   作:鎌鼬

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unhappy family・6

 

 

「チィ……ッ!!」

 

 

イレインが引き金を引くのと同時にザフィーラがヴィータの前に障壁を展開しながら立つ。盾の守護獣の名の通りに、彼の役割はタンク役のようでその行動には一切の迷いは無く、また庇われているヴィータも動揺する事なくザフィーラを盾にしていた。

 

 

拳銃や軽機関銃などの人間が装備出来る種類の銃であればザフィーラ1人でも対処出来ていたのだろうが、生憎とイレインの使っているのは重機関銃。人間が直接使用する事を考えておらず、何かしらに設置して使用することが前提となっている物だ。人間ならばそうしなければまともに使用することが出来ない銃だが、自動人形であって人間では無いイレインはそれの反動を細腕一本で抑え込み、当たり前のように全弾をザフィーラに集中させている。

 

 

そうして出来上がるのは弾幕の壁。分単位で800発も発射する重機関銃を防ぎながらも余裕が無いのかザフィーラはその場に釘付けにされ、背後に庇われているヴィータもまた動く事が出来ないでいた。

 

 

あの銃は安次郎から送られてきた物なのだが、彼は一体何を考えてあんな物を送ってきたのだろうか。

 

 

「ッ!!シグナム!!そいつは任せる!!」

 

 

ザフィーラのガードの硬さは知っているであろうが、この状況は不味いと考えたのかめぐりはシグナムに俺の相手をするように言って2人を助けようとする。魔法の力にバリアジャケットという防御があったとしても、イレインの弾幕は驚異的だ。それを考慮すれば2人を助ける為にめぐりが動くのは至極当然だった。

 

 

ま、させないんだけどね(〝加速術式〟〝負荷軽減〟)

 

 

それを理解しているからこそシグナムの視線を掻い潜り、魔法で加速しながら2人の事を助けようとしていためぐりの前に飛び出し、両手に持つレギオンでめぐりの目と喉を切り裂く。目の前に俺がいる事を理解していながらザフィーラとヴィータに注意を向けてしまった隙を突いた奇襲は成功しーーー仰け反りながらもめぐりは()()()()()

 

 

桜木からの話によれば、爆撃機の兵装を使っているのはハンス・ウルリッヒ・ルーデルの〝不死鳥〟の才能。第二次世界大戦でドイツ空軍に所属し、三十を超える被撃墜回数を積み重ねながらも生還して戦い続けた事に由来する不死身の能力ーーー詳しく言えば、外的影響を同等の反作用力によって打ち消す事でどんな攻撃も無効化出来るらしい。

 

 

十全に理解する事は出来なかったが、あの状態のめぐりはどんな攻撃でも傷付けられない事だけは理解出来た。完全な不死者であるのなら相手をすること自体が悪手であり、出来るのならば戦場に立たせ無い事が好ましい。

 

 

だが、桜木によれば〝廻り者〟の才能は完全なものではないらしい。原典では才能の使用には例外なく多くの体力と精神力を使うとあったと聞かされている。転生した事で魔力が消費されるスキルに変わっているだろうが、それは変わらないだろうと言っていた。

 

 

つまり、あの不死身は限りのある不死身であって完全な不死身では無い。

 

であるのなら、魔力が尽きるまで戦い続ければ勝てると言う事だ。

 

 

「シィーーーッ!!」

 

 

シグナムが俺の行動に気が付くまでの一瞬の間で5度は致命傷になるように斬りつけ、固まっていためぐりの身体を蹴って横から迫る一閃を避ける。

 

 

予想はしていたが、今のめぐりの反応で確信した。〝不死鳥〟の才能は不死身になる才能であるが戦闘者になる才能では無いと。もしもそうであるのなら、斬られても怯むことなく行動していたはずだ。俺なら近づいていた相手を捕え、手にしている機関銃で撃っている。

 

 

そのままでいてくれればめぐりの存在は然程脅威では無い。爆撃機の爆撃こそ範囲が広くて厄介だが、それはそのまま味方を巻き込む可能性に繋がる。それと機関銃の銃撃にさえ気を付けていれば、めぐりはただの傷付けられない人間でしか無い。

 

 

「シグナム……」

 

「……私としてはそのままでいて欲しいのだがな」

 

「ごめん……でも、私も一緒に戦うって決めたから」

 

「謝罪は要らない、欲しいのは生きて帰るという覚悟とその結果だけだ。その為に為すべき事を為せ」

 

 

能面のような顔に僅かに罪悪感を浮かべながらめぐりは自身を背中で庇う様に立っていたシグナムの頬に手を伸ばしーーー爪で浅く傷を付けた。シグナムの白い肌に赤い雫が映える。出来る事なら俺がそうしたかったなぁと的外れな事を考えながらーーーめぐりの変貌を見届ける。

 

 

傷害行為を行うのと同時にめぐりから重瞳を貼り付けた黒い霞が立ち上がり、そのまま全身に纏わりつく。〝不死鳥〟の時にはあった甘さは一切消え失せ、今のめぐりからは傲慢さが滲み出している。

 

 

彼女から垂れ流される覇気に息苦しさを感じるが、動きにくさは感じない。前世で認めた英雄は彼女以上の覇気を放っていたのだ。()()()()()()()で動けなくなるなど、彼に対する侮辱でしか無い。

 

 

そしてめぐりの姿が黒い霞と共に解ける様に消えた。動く気配を見せないシグナムに疑問を抱きながら、姿を消しためぐりを警戒していると、上空に黒い霞が集まり、それがめぐりになって殴り掛かってきた。いつもならはそれを皮一枚で避けながらカウンターを決めるのだが、生存本能が警鐘を鳴らしているのでそれに従ってその場から飛びのく。

 

 

するとーーーめぐりのパンチ一発で、()()()()()()

 

 

飛んでくるコンクリートの破片をローブで防ぎながら、普段通りにカウンターを決めようとしていたら死んでいたかもしれないと肝を冷やし、頭上から迫っていた連結刃の剣先を躱す。この光景を見る限りでは今のめぐりの膂力はシグナムのそれとは比べものにならない程に高い。

 

 

更にそれだけでは終わらず、纏っていた霞がコンクリートの破片を黒く染め上げーーーそれが一人でに浮かび上がり、俺に目掛けて飛んでくる。質量とスピードからバリアジャケットでも受け止められないと判断して逃げ回れば、破片の陰に隠れる様にシグナムと握っている道路標識を棒術の様に振るうめぐりが接近していた。

 

 

「マジかよ」

 

 

一旦引いて態勢を立て直したかったのだが、残念ながら逃げ道はいつのまにか黒く染まったコンクリートの破片が待ち構えている。仕方がないので全身を弛緩させ、待ち受けることにした。

 

 

シグナムとめぐりが凶器を振るう度に耳に風を斬る嫌な音が届く。一対二、二方向から同時に、あるいはタイミングを僅かにズラしながら振るわれるそれらを二人の身体を見て、どういう軌道で振るわれるのかを予想しながら全霊で逃げに回る。レギオンのバリアジャケットは速度を出すために防御にはリソースを割いていない。一発でも受ければ良くて重傷、悪くて即死なのだが、反撃の事を一切考えずに避ける事だけに集中していれば問題ない。

 

 

〝廻り者〟としての才能の切り替え。〝不死鳥〟の才能では俺とは戦えないと判断し、彼女の使える才能の中で最も強い物であろう項羽の才能〝万象儀〟に切り替えた。〝不死鳥〟の時の様な戦いへの不慣れな素振りは欠片も残っておらず、シグナムと同じような歴戦の勇士の風格と達人級の武術の映えを見せつけている。

 

 

卑怯などとは言うつもりは無いが、呆れてしまう。個人であるはずなのに戦っているこちらからしてみれば何人もと戦っているように感じられるから。桜木の転生特典とはベクトルが違うが、彼女の特典もあいつと同じ様な〝戦争〟に部類される物なのだと認識する。

 

 

だとするなら、個人で戦うのはあまりにも分が悪過ぎる。圧倒的に特化した力でもない限り、そういう部類の人間と戦うのは厳しいのだ。大人の姿なら全力を出せばいけなくも無いのだが、子供の今では俺=アクロ・ダカーハである事を隠す為に色々と制限を設けているのだ。今の状態では拮抗に持ち込めれば御の字といったところだろう。

 

 

まぁ、今の俺の勝利条件は管理局が来るまでの時間稼ぎであって彼女たちを倒す事ではないのだが。

 

 

それにしてもめぐりの俺に対しての殺意が高過ぎる。シグナムは前回の戦いで戦闘狂(バトルジャンキー)や修羅っていると理解していたので特に驚く事も無いのだが、彼女の振るう一撃はどれもが人体の急所を狙った必殺のそれ。魔法であれば非殺傷設定が施されるだろうが、急拵えの武器である道路標識にそんな事をしている様には見えない。

 

 

もしかしたら、原作を知っているからこその思い込みなのかもしれない。非殺傷設定があるからどんな事をしても傷付けたり殺したりする心配は無いと考えているのだろうか。もしそうだとしたらその思い込みを正さなくてはならないのだが、それを実演して本当に死んでは話にならない。言葉で正そうにも今の彼女は軽くバーサークしているみたいなので聞く耳持たないだろう。

 

 

 

難儀だなぁと思いながらも二人の攻撃を避け続ける。反撃が出来ないこともあるのだが、二人の動きを見て自分の物とする為に。そうやって観察をしてーーーめぐりが未熟であることに気がついた。

 

 

確かに項羽の才能で驚異的な膂力を、武術の才能を得ているので強いのだろう。だが、彼女には圧倒的に経験が足りていなかった。一撃で殺せる攻撃を鋭く放って来ようとも、真っ直ぐにしかして来ないので避けるのは容易い。シグナムと二人掛かりで攻めて来ているというのに、めぐりは何も考えずに攻めていてシグナムがそれに合わせているといった風だった。

 

 

もしもシグナムが前回と同じように攻めて来たら観察するだけの余裕を持つことが出来ず、この事に気付かなかっただろう。桜木から聞く限りでは完全無欠の特典だと僻んでいたが、隙があるのならばどうにでも出来る。

 

 

いくら攻めても当たらない事に戯れて来たのか、めぐりが大振りの振り下ろしを放って来た。躱す事は難しくなかったのだが、その一撃で足場が崩れて一瞬だけ身体が宙に浮く。その隙を見逃してくれる程、シグナムは甘くは無い。

 

 

「紫電一閃ーーーッ!!」

 

 

飛び散っているコンクリートの破片など無視しながら接近し、剣から薬莢を吐き出して炎を纏わせた一閃を放って来る。

 

 

足場が無いので避けられる筈がなく、防ごうにもシグナムならば防御ごと斬り伏せて来るだろう。そういう予感があるのでは無く、()()()()()()()()()()()()()という信頼から来る確信。

 

 

迷う事なく、前回使わなかった短距離転移で炎剣の一撃を回避する。だが、これによりシグナムに俺が短距離転移が出来る事を明かしてしまった。出来る事ならば最後まで取っておきたかったが、だからと言って使わないでいて負けるなど間抜けすぎる。

 

 

兎も角これで二人と間を開けることが出来た。彼我の距離は大凡30m、シグナムであろうとこの距離を詰めるには2秒は必要の筈だーーーそう思いながら足をつけた瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「なーーー」

 

 

痛みに悶えるよりも先に驚きが来る。黒く染まっていることから〝万象儀〟による攻撃だと分かるが、こんな使い方も出来たのかと。棘から逃れようにも返しが付いているようで抜くことが出来ない。

 

 

「喰らえぇぇぇぇぇーーー!!」

 

 

吐き出した言葉に秘められたのは怒りか、憎しみか。めぐりが動く事が出来ない俺に向かって突貫し、道路標識の先端で俺の腹を穿った。

 

 

素手でコンクリートを砕く事ができるほどの膂力で放たれた刺突はバリアジャケットの防御を容易く超えーーー()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ーーー」

 

 

血飛沫と肉片を撒き散らしながら上半身は宙を舞って重力に従い落下し、下半身は棘によって支えられてそのまま残っている。そしてこれをした下手人は目の前の光景が信じられないと言わんばかりの表情をしていた。それを見て彼女は魔法技術を信頼し過ぎていた事を確信する。

 

 

「え……あ……う、嘘……」

 

「あぁ、嘘だ」

 

 

人を殺したという事実に顔を青くさせていためぐりの側にシグナムが立ち、地面に転がっている上半身を踏み砕く。

 

 

すると上半身、そして下半身は溶ける様に消えた。

 

 

短距離転移(ショートジャンプ)と同時に幻覚を使ったのか。中々精巧な物だったが私の目は誤魔化せないぞ」

 

「知ってるよ」

 

 

睨め付ける様に向けられたシグナムの視線を()()()()()で受け止める。特別な事はしていない、シグナムが言った通りに幻覚を残して俺は屋上に転移していたというだけの事だ。直感に従って行動していて良かった。していなかったら、あの幻覚が俺の末路になっていた。

 

 

「生き、てる……?殺して……無い……?」

 

「シグナム、そいつ大丈夫なのか?殺すつもりで来たかと思えば面白いくらいに動揺してるんだけど?」

 

「彼女は戦いを経験した事がない。そういう事だ」

 

「つまりは経験不足と……相手が俺で良かったな。俺以外だったら死んでたぞ?」

 

 

いくら才能を持っていようとも、使いこなせなければそれは役に立たない。今回で言えば、めぐりは才能を使いこなしていなかったから()()()()()()()()()()()。シグナムは殺さない様に心掛けているが、殺してしまう可能性も考慮している。しかしめぐりはそんな事は考えていなかった。だからこそ、あの俺の幻覚で面白いくらいに動揺しているのだ。

 

 

これに関して俺は責めるつもりはない。平和な現代で殺しても平然としていられるのは異常者か狂人の類だ。一般的な感性を持っている彼女はそれに当てはまらないから、殺しに対してショックを受けるのは当たり前の事だ。

 

 

俺の様なアポカリプスな世界から転生して来たか、シグナムたちの様な殺し合いが日常茶飯事な世界から来たのなら話は別だが。

 

 

ともあれ、これでめぐりに〝魔法は万能ではない〟事を植え付ける事が出来た。これを機に転生特典を使い熟す為に努力するか、それとも開き直って転生特典に振り回されるかは彼女次第だ。

 

 

「あぁ、()()()()

 

 

そろそろ来る頃合いだろうと思っていると、張られていた結界の一部が()()()()()()()()()。脳筋だなぁと思いながら上を見ればそこにはクロノとユーノとアルフ、そしてジュエルシードの時とは違ったフォルムのデバイスを展開している高町とフェイトの姿があった。

 

 

「さて、増援も来た事だし第2ラウンドと行こうか」

 

 

 






めぐりネーチャンは転生特典で才能を切り替えながら戦うタイプ。状況に応じていろんな才能を使う事が出来るけど、あくまで才能だけだから戦闘経験が足りていない感じ。

使い熟せてたらカガっちは避けに徹しても追い詰められてたんだよなぁ……

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