「援軍!?このタイミングで!?」
「……成る程、さっきまでのは時間稼ぎだったというわけか」
「そうだよ。そうでもないと一対二とかいう不利な状況で戦おうなんて思わないさ」
めぐりは管理局の登場に対して目に見えて動揺しているが、シグナムはどこか納得した表情で頷いていた。やはりめぐりは転生特典によって戦闘能力こそ得ているが、こういう点で未熟な所が見える。これは彼女だけでは無く赤城と御剣にも言える事だが、彼らはどうにも楽観視が過ぎる。神様から凄い力を貰ったから自分たちは凄いんだとでも思っているのだろうか。
全くもって馬鹿らしい。
凄い力を与えられたところでそうなのは特典だけであって、その人間が凄い人間になる訳ではない。これなら俺と同じでらしい特典を与えられなかったが英雄を目指して努力している黒須と特典を使いこなそうと影ながらに努力している桜木の方が余程素晴らしい人間だ。
勿論、その枠組みに俺が入ることは無い。自分がそんな人間ではない事など前世の時から理解している。
「済まない、結界の破壊に手間取った」
「加賀美!!大丈夫だったか!?」
自分という存在を改めて再認識しているとクロノと黒須が隣に降りて来た。二人は当たり前の様に飛んでいるが、飛行魔法の適性が悲しくなる程にない俺からしてみればそれはとても羨ましい事だった。一応空中戦を行うための手段は確保してあるのだがそれはアクロ・ダカーハの時の為の物なのでこの場で明かすことはしないでおく。
二人からの言葉を受け止めながら乱入によって掻き乱された戦況を見直す。高町とフェイトは前回のリベンジのつもりなのか二人掛かりでヴィータに挑み、アルフとユーノはザフィーラと対峙している。となるとめぐりとシグナムは俺たちが相手をするのだろう。欲をいえばもっと人手が欲しかったところなのだが、中途半端な実力者に来られても余計な被害が出るだけにしかならない。
「加賀美様、お待たせしました」
「御苦労」
ビルの壁面を登りながら屋上に現れたイレインに労いの言葉をかける。二人はイレインの存在を知らなかったので一瞬驚いていた様だったが俺の反応を見て味方だと認知した様ですぐに冷静さを取り戻していた。
「クロノ・ハラオウン様と黒須龍斗様ですね?私は加賀美様に仕えているイレインと申します。今宵、この場において主に武器を向けた愚者どもを片付ける為、微力ながら協力させていただきます」
「……クロノ、イレインさんの持ってる銃って管理局的にはアウトなんじゃない?」
「銃?一体何の事を言っているんだ?彼女は現場に居合わせた地球の住人で、魔法が使えないから使える武器を使って戦っていただけだ。何もおかしいところは無い」
「それで良いのか管理局……ッ!!」
「正しいだけ、ルールを守るだけじゃダメな時があるからな。このくらいの柔軟さを持ち合わせていなければ管理局ではやっていけないぞ?ーーーあぁ、勿論おおっぴらにしてはいけないけどな」
「腹黒いなぁーーーそういうのは実に好ましいけどネ!!」
サムズアップをすればクロノも同じようにサムズアップで返してくれる。その反応に内心で安堵する。
管理局の法では禁止されている質量兵器にあたる重機関銃を武器にしているイレインは、管理局的に言えば黒須が言った通りにアウトだ。これが頭の固い者だったら法律違反だなんだと言ってイレインの事を捕らえようとしていたに違いない。そうした結果、訪れるのは戦力の低下というデメリットだけであって一切メリットは無い。正義を掲げてそれに殉じることを俺は止める気は無い。だが、目的を果たすまで俺は死ぬつもりは無いから巻き込まれるわけにはいかないのだ。
「加賀美様、よろしければメイド服に着替えさせていただきたいのですが」
「ブッ!!」
「何ッ!?」
イレインは自動人形であるが、それを知っている者は俺を除いてこの場には居ない。そんな彼女が脱ぐと言い出したのだからそれに反応しても仕方がない。黒須は吹き出し、クロノは驚きに目を見開きながらもデバイスでその光景を撮影しようとしていた。
「クロノ、ステイだ。その動画撮影モードを起動させたデバイスをしまえ……イレイン、その発言は場所を考えなかったら痴女扱いされるから気をつけろ。で、なんでメイド服に着替えたがるんだ?」
「はい、やはりメイドにとっての戦闘服はメイド服を除いて他にはありません。貴方がた魔導師たちがバリアジャケットを着て戦うのと同じようなものです。具体的に言えば、メイド服を着る事によって私のやる気が現在の10倍に跳ね上がります」
「メイド服が戦闘服」
「こちらクロノ、アースラ聞こえるか?結界内の映像は撮れているか?」
クロノが欲望に素直過ぎる気がするが、色物が詰まっているアースラの指揮官相当の地位に就いているのだからと納得してしまう。艦長であるリンディ提督はクロノの実母なのだが、彼はその事を理解しているのだろうか。
「やる気が出るのか……いいぞ、許可する」
「感謝します……それでは、お目汚しを失礼します」
恭しく一礼し、持たせていたレギオンでメイド服を自身に重なるように召喚する。そうすると今着ている服の上に着てしまう事になるのだが、同時に服を送り返したのだろう。 俺がいつも目にしているメイド服姿になったが、着膨れしているように見えなかった。
魔法を使った早着替えの一種に黒須は安堵の溜息を零し、クロノはサービスシーンが見えなかったからか地団駄を踏んでいる。
そしてーーー足場にしているビルが
俺たちのやり取りが気に入らなかったのだろうめぐりが下手人である。振り切った体勢で手にしている道路標識は黒い霞によって長さが伸びていた。
「シグナムの方は知っているよな?もう一人の方はあの黒いモヤを使って攻撃してくるし、爆撃機を召喚してくるから気をつけろ」
「爆撃機!?なんて物を召喚するんだ!!」
「管理局にあった闇の書のデータには無かった人物だな……今代の主か?」
「私は遠距離からサポートに徹します。それではご武運を」
飛ぶことが出来ない俺とイレインは重力に従いながら下へ落下し、飛ぶことが出来るクロノと黒須は飛ぶ事で落下を回避している。ふざけた様に見えても執務官という役職に就いている以上、それなりに経験は積んでいるようでクロノは意識を切り替えてシューターを撃ちながらシグナムとめぐりを牽制している。
イレインはビルの破片を蹴りながら姿を隠した。言葉の通りに遠距離からのサポートを行うつもりらしい。クロノたちが来たことで四対二と数の不利は覆す事が出来たが、質の不利までは補えていない。
唯一の救いはめぐりの挙動がぎこちない事か。
どうやら俺の見せた幻覚が効いているようで、先程までに比べてどこか戸惑っているように見える。戦った事が、殺し合った事が無かったが為に生じてしまった隙。きっと次回では覚悟を決めてしまうので無くなってしまうであろうそれ。
遠慮無く容赦無く、突かせてもらう事にする。
一緒に落下していたビルの破片を蹴りながら空中を移動してめぐりに向かう。黒須の方はシグナムと戦うと決めたらしく、魔力変換によって炎を噴出しながらシグナムに突貫していく姿が見えた。どうやら黒須は正面からシグナムと切り結ぶつもりらしい。彼の技量とデバイスの頑丈さを考えれば、追い付くことは出来なくても追いすがる事は出来るはずだ。クロノの援護があっても勝ち目の無い戦いだが、負けは次回の糧になるのだから存分に楽しんで欲しい。
「よぉ、少し遊ぼうぜ?」
「加賀美ィ……ッ!!」
目に怒りを燃やしながらめぐりが向かってくるが、やはりその動きにはぎこちなさが見て取れる。さっきまではシグナムもいたので避ける事しか出来なかったのだが、この隙を突けば反撃をする事も出来る。管理局の介入に気がついている彼らの仲間ーーー面子からしてシャマルだろう人物が、撤退の準備をしているに違いない。早くて数分、遅くて十数分といったところか。
やられっぱなしというのは癪なので一発だけ返しておく事にする。
振り下ろされた道路標識の一撃を前に踏み出して躱し、手を伸ばせば容易く触れられる距離にまで近づく。これまで避けるばかりしかしていなかったからなのかめぐりは驚いていたがそれは一瞬だけですぐに膝で蹴り上げてくる。至近距離での攻撃手段なんて黒い霞を使ったものか徒手空拳くらいしか無いのでそれは予想の範囲内であり、膝に足を乗せてその勢いを利用し、上空へと飛び上がる。
と、その時、道路標識を握っていた手が弾けた。手放しはしていないものの仰け反らせて体勢を崩す。それがイレインからのサポートだと気付いて内心で良くやったと褒めながら、レギオン10本を取り出してめぐりの周囲にばら撒く。
「本当だったら趣味じゃないんだけど管理局がいるからな、あっちの流儀に合わせてやってやるよ」
『ワイヤー展開』
『収束』
『拘束』
カートリッジが消費されるのと同時にそれぞれのレギオンの柄からワイヤーが伸び、めぐりの身体を拘束する。どうやら実態のままだったらしく、先程のように霞になって逃げられるような事はなかった。しかし、それを喜ぶ事はできない。桜木によれば〝万象儀〟の本質とは支配であり、極論であるが地球さえも単独で掌握する事も可能だと言っていた。拘束したままにしておけばレギオンの支配権を奪われて武器にされるのが目に見えている。
なので許されている時間はめぐりが支配しようと意識を向けるまでの一瞬の間。
そしてそれだけあれば一発を見舞う事ができる。
「爆ぜろ」
呟いた言葉がキーワードとなり、レギオンが
「カ、ハ……」
爆炎の中からめぐりの苦しむ声が聞こえた。魔法に見えない技だが一応分類上では魔法に入っているので非殺傷設定が効く。食らうにしても魔力ダメージだけなのだが、それが効いている様だった。
赤城や御剣にも言えるのだが、転生して来た者たちは
事実、本家には遠く及ばない一撃を食らわせただけで、めぐりは息を乱して膝をついている。
「覚悟が無い、気合いが足りん。あれくらいのダメージ堪えてみせろよ」
「はぁ……はぁ……!!」
何を言っているんだと言う目で見られるがその通りなのだから仕方がない。戦っている最中で一々傷をつけられる度に痛がっていては話にならないのだから。理想は無傷で勝つ事だが、そう上手くいかないのが現実というものだ。最悪、
だって、そうでなければ
ともあれ、今回は俺の勝ちだ。才能があるのに本人の気質が故に味気ない勝利を得る為にレギオンを握り直し、気絶させる為に振りかざしーーー
「ーーーあ?」
胸から、人間の腕が生えて来た。
いつからクロノんが原作通りだと思っていた?頭のおかしい連中を部下に持っているのだから、多少なりとも汚染されるのだよ。でもクロノんくらいの年頃だと当たり前の反応じゃないかなぁって考えたり。
転生特典は凄いだろうけど、だからと言って転生者が凄い人間という事にはならない。カガっちみたいなアポカリプスな世界から転生したわけじゃないので痛みに対する耐性なんか人並みにしかない。これがシグシグだったら攻撃を食らいながら斬りかかってる。