道化の名は必要悪   作:鎌鼬

59 / 83
unhappy family・8

 

胸から手が生えた。それを認識していながら俺は然程動じていなかった。普通ならばそんな事をされれば即死か、あるいは致命傷であり、それに相応しい痛みが襲って来るのだがそれが少しも無く、強いて言えば痛みは無いのに身体の中を探られている様な不快感があるだけだった。

 

 

生えている手の骨格からして恐らくは男性のそれだろう。殺すつもりなら兎も角、こんな事をして何になるのだろうかと不思議に思っていたのだがその手の中心部にある物ーーードス黒く光る物を見て手の主の狙いが俺のリンカーコアだと気が付いた。

 

 

だとするならば1つ疑問が出て来る。それは、この手の主が一体誰なのかという事だ。リンカーコアが目当てだというのならば闇の書の騎士たちが思い当たるのだが、騎士たちの中で唯一の男性であるザフィーラはユーノとアルフのコンビを相手にしている上にこんな細かい芸当が出来るとは思えない。そうなれば闇の書の騎士たち以外の人物がこんな事をしているという事になるのだが、闇の書を完成させたところで恩恵を得られるのは今代の主である八神だけであって利益が無いはずだ。

 

 

胸から手が生え、リンカーコアから魔力が奪われそうになっているというのに頭の中は冷静で、身体を動かすつもりは無かった。初めは反射的にレギオンで手を斬り落とそうとしたのだが、それよりも面白い事を考えたので放っておく事にした。

 

 

「魔力が欲しいのか?良いぞ、くれてやるーーー取れるもんならなぁ!!」

 

 

手がリンカーコアの魔力を奪おうとするその瞬間ーーーどろりと、()()()()()()()()()

 

 

愛歌の悪性情報は俺のリンカーコアと魔術回路を汚染している。そのおかげで俺も悪性情報を使うことが出来るのだが、放出か変換されて外に出している悪性情報は周囲の被害を考えてある程度薄められた物を使っている。それなのにこの手はリンカーコアから……薄められていない場所に触れているのだ。そんな事をすれば即座に汚染され、形を保つことが出来なくなり腐った様に崩れ落ちるのは当然の事。流石に全身まで行き渡るようには時間が掛かるので無事な部分から切除するという手段を取れば逃れる事は出来るだろうが、少なくとも義手や移植でもしない限りはこの下手人は片腕を無くしたままで戦闘能力が低下し、大きな目印になる。

 

 

誰がやったのか分からず、何が目的なのかも分からないがやられたら熨斗つけて倍返しにすると前世から決めているのだ。特別な事情でもない限り、必ず報復をしてやると誓う。

 

 

「だがまぁ、中々の判断だったと褒めてやるか」

 

 

感心した様に呟きながら、胸に走る鋭い痛みを堪える。なんと下手人は腕が崩れ落ちるまでの間で魔力を奪う事を諦めて俺のリンカーコアを砕こうとしていた。リンカーコアという前世では無かった器官なのでハッキリとは断言出来ないのだが、感覚からして2つに割れている様に思われる。試しにリンカーコアから魔力を出そうとすれば傷口に塩を塗られた様な痛みが走る。

 

 

だが、魔術回路からの魔力の精製は問題なく行って事が出来た。全くの別物だから当然の話であるのだが、これで加賀美両夜は戦う事が出来ず、アクロ・ダカーハが戦う事が出来ると分かった。次辺りはアクロ・ダカーハとして暴れるのも良いかもしれない。

 

 

リンカーコアの事に関してはジェイルに任せれば治るだろう。仮に治らない、あるいは前よりもランクが落ちると言われてもアクロ・ダカーハとして活動出来るのなら問題にならない。

 

 

簡潔に自己分析を終え、再びめぐりを気絶させようとしたところで大きな揺れが来た。震源は下では無く上で、見れば結界に向かって黒い雷が落ちていた。恐らく管理局が来た事で分が悪いと判断した残りの一人がやっているのだろう。2度、3度と雷が落ち、結界の上部が砕けた。ベルカ式の結界だけなら解除すれば良いだけだと思っていたのだが、ご丁寧にベルカ式の上からミッド式の結界を被せて覆っていた様だ。

 

 

クロノ辺りがそうする様に指示していたのだろうか、いやらしい判断だなぁ、と思っていると、めぐりがシグナムに攫われて行った。

 

 

「次は、負けない……!!」

 

「残念、勝負ついてるから」

 

 

負け惜しみの様にめぐりが吐き出した言葉を、侮辱する様に嘲り笑う。今回は管理局の乱入に逃亡を許してしまったとはいえ、結果としては俺の勝ちなのだ。魔法だから安心だという幻想を打ち砕かれ、たった一撃を受けただけで膝を着いためぐりの姿は敗者以外の何者でも無い。どんな思いを込めて何を叫ぼうとも、その目に戸惑いと怯えが混じっている以上、彼女はそこから先に進む事が出来ない。

 

 

出来る事ならばそれでも彼女には立ち直って欲しいと願っている。最悪、この事件が終わるまでの間は折れていてくれても構わない。俺が悪として本格的に動くその瞬間までに立ち直り、成長してくれればそれで良い。

 

 

俺の態度が気に入らなかったのか、それとも図星を突かれたからなのか、めぐりは不愉快そうに顔を歪めながらシグナムと共に黒い霞に包まれて姿を消した。周りを見ればヴィータとザフィーラの姿も見えないので、彼らも逃げる事に成功している様だ。

 

 

タバコが吸いたいなぁと思いながら懐を漁って、出て来たのはお馴染みになっている棒付きの飴だった事に肩を落としながら口に入れる。

 

 

最後の最後で妙な事をされたものの、概ね俺が予想していた通りの展開で終わった事に満足しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーフェイトのリンカーコアが、闇の書の騎士たち以外の人物に蒐集されたという事を聞くまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《桜木、ちょっと地獄見せたい奴がいるから頭と手を貸してくれない?》

 

《のっけから殺意高すぎやしませんか?》

 

《両夜だから普通よ》

 

《加賀美様だから普通ですね》

 

《畜生!!味方がここに居ない!!》

 

 

シグナムたちとの戦闘の事後処理を済ませた深夜。護衛に来ている管理局員たちには寝ると伝えながら、いつも通りに念話チャットを行なっていた。

 

 

《僕は大人モードで仕事があったんで参加出来なかったんですけど一体何があったんですか?》

 

《フェイトがさぁ、闇の書の騎士たち以外の奴に魔力を奪われたんだよぉ》

 

《ギルティ》

 

《愛歌お嬢様、お静かに》

 

《多分、俺も同じ奴に魔力奪われそうになった。まぁ悪性情報の汚染モロに食らって失敗してたけど、リンカーコア傷付けられて暫くは使い物にならないな》

 

《ギルティ》

 

《ギルティですね》

 

《御二方、御静粛に》

 

《イレインもその場で待機な》

 

 

俺の隣で眠る愛歌が動き出そうとしていたので抱き締める事で止める。少し間を空けて彼女の体温が高くなったが、それはきっと恥ずかしくなっているからなのだろう。

 

 

《ちょっとここの女性陣たち殺意の波動に目覚めてないですかねぇ……あ、宝物庫の鍵は開けておくんで見つけたら教えてくださいね?出し惜しみ無しで行くんで》

 

《お前もお前で殺意の波動に目覚めてるんだよなぁ……で、心当たりはあるか?》

 

《ヴォルケンリッターの手助けをして利益のある人物……ギル・グレアムと、彼の使い魔のリーゼ姉妹くらいですね》

 

《リーゼ姉妹といえば、加賀美様の捕らえた雌猫の名前がリーゼロッテと記憶していますが》

 

《だから後は姉の方のリーゼアリアだけだな。ところでそいつらはシグナムたちの手助けをして何の利益があるんだ?覚えてる限りじゃあ闇の書を完成させたところでそいつらに益があるはずはないんだけど》

 

《ギル・グレアムは前回の……11年前の闇の書の事件の時に部隊の指揮を執っていたんですよ。封印に成功して帰還している途中で闇の書が暴走して、破壊する事には成功したんですけどその時に部下……クロノの父を死なせてしまったんです。だから独自の手段で闇の書を永久封印しようと目論んでいるんですよ》

 

《その為に闇の書を完成させる必要があると……何だ、こいつもこいつで復讐鬼に覚醒しているじゃねぇか》

 

 

ギル・グレアムのやっている事自体は間違いでは無いと思う。それまで管理局が行なっていたやり方では闇の書を封印する事が出来ないから別の手段で封印しようというのは当たり前の事だ。寧ろ、管理局からすれば違法行為を行ってでも闇の書を封印しようとしているのは好感が持てる。普段の俺ならそれを知って賞賛し、頑張れと高みの見物に洒落込んでいただろう。

 

 

それが地球で行われていかなったら、俺たちが巻き込まれていなかったらだが。

 

 

《にしてもギル・グレアムにリーゼアリアかぁ……地獄見せるのは止めにしておくか》

 

《おや?止めるんですか?》

 

《この用意していたアンチマテリアルライフルはどうすれば良いのでしょうか?》

 

《bjptxmoaaaaaーーー》

 

《なんか沙条さんバグってません?》

 

《ハグってるからそれでだろ》

 

《ところで、何故ギル・グレアムとリーゼアリアを血祭りにあげる事をお止めになるのか教えていただけないでしょうか?》

 

《簡単な話だよーーー我が家の殺意の波動に目覚めた復讐鬼ちゃんがその2人に復讐したいらしいからな。獲物を奪うわけにはいかないだろ?それに洗脳が完璧かどうかの最終テストにも丁度いいし》

 

《理由がクッソ外道過ぎるんですけど……》

 

 

そんなことを言われてもそうすると約束したのだから仕方がない。俺がそういう風に洗脳し、調教をしたとはいえ、それを望んだのは彼女なのだから飼い主として望みを叶えてやるのは当たり前のことだ。

 

 

兎も角、知りたいことは知れたのでチャットをそこで終わらせ、未だに疼く胸の痛みを誤魔化すように愛歌を抱き締めて眠りにつく事にした。

 

 

 





感想欄での愛歌ちゃまの扱いがヤバすぎて草しか生えない。みんな愛歌ちゃまを何だと思ってるんだ!!ただのカガっち大好きな金髪美少女だぞ!!(地球を滅ぼす可能性から目を逸らしながら

悪性情報に汚染されているカガっちのリンカーコアから魔力を蒐集しようとして無事で済むわけが無いんだよなぁ……劇薬に素手で触れるようなものだし。手が無くなる前にリンカーコアを割った姉猫のファインプレーよ。

確か闇の書を使わなくても魔力を集める事は出来たはずなんで、この小説ではそうするからね!!異論は認めないから!!違ってたら感想でこっそり教えてね!!直さないけど!!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。