道化の名は必要悪   作:鎌鼬

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normal day

 

 

「なーなー加賀美ぃ、隣のテスタロッサさんが休んでるけど何か知らない?」

 

「何故俺に聞くの?普通に隣のクラスの奴に聞けばいいじゃねえか」

 

「オイオイオイ俺に死ねって言ってるのかよ。隣のクラスには赤城と御剣がいるんだぞ?御剣の方は最近大人しくなったみたいだけど行きたいとは思わないよ」

 

「気持ちは分かる」

 

 

昼休みの時間帯になっていつも来ているフェイトの姿が見えないことを気にしてか、クラスメイトの男子が話し掛けてくる。今の学年になってから知り合ったような間柄であるが、狭い空間で半年以上も一緒に学校生活を送っていれば気軽に話しかけられるくらいの仲にはなれるのだ。

 

 

「風邪ひいたから休んでるって聞いてる。まだ引き始めっぽいけど大事を取って休むってさ。これで治るようなら明日には来るつもりらしいけど、本格的に引いたら二、三日は休むって」

 

 

言わずもがな、フェイトが休んでいる理由は風邪などではなく魔力を蒐集された事でリンカーコアが収縮したからだ。そのせいで体調を崩してしまったので、大事をとって学校を休んでいる。ノートの方は同じクラスの高町と黒須が取ると言っていたから心配ない。

 

 

「マジかー……テスタロッサさんの御尊顔が拝見出来ないなんて……」

 

「御尊顔」

 

「だってよー金髪美少女で可愛くって、若干人見知りだけど天然で優しいんだぜ?天使じゃん。崇拝するしかないじゃん」

 

「金髪美少女なら目の前にいるぞ?崇拝しろよ」

 

「あ、愛歌ちゃん様はほら、天使じゃなくて小悪魔だから」

 

「愛歌ちゃん様」

 

 

俺たちの会話を聞いていた愛歌がそれに反応し、ニッコリと微笑みかける。俺からすればそれは可愛らしい部類に入るのだが、彼はそうは捉えなかったようで少し顔を青くして身震いしていた。

 

 

彼が聞きたかったのはそれだけのようで、そこで会話は打ち切られてさっきまでいたグループに戻っていった。情報を共有し、お見舞いに行こうかどうかを話し合っているのが聞こえるがそればかりには集中していられない。

 

 

最後まで残った白米と鮭の切り身を口に放り込んで咀嚼し、飲み込んで手を合わせて一礼して食事を済ませる。

 

 

「ご馳走さまでした」

 

「お粗末様でした……で、今日はどうかしら?」

 

「……」

 

 

目の前にいる愛歌はどこか勝ち誇ったような笑みを浮かべながら俺が食べていた弁当箱を片付け、月村は緊張した面持ちで俺の言葉を待っていた。

 

 

夏休みが明けた頃から月村が俺に弁当を作るようになり、そこから自然と愛歌の作る弁当とどちらが美味いのかを勝負するようになったのだ。小学校といえば義務教育の最中で給食が出てくるものだと思っていたが、ここでは私立だからなのか各自で弁当を用意することになっているのだ。

 

 

愛歌と月村が用意してくれた弁当2つを平らげ、水筒に淹れていたお茶を啜る。自然と始まった弁当対決だが、その内容はどちらが俺にとって美味しかったのかという恐ろしくアヤフヤな物だ。初めから俺の好みを知っている愛歌にとても有利な勝負で、月村はそれを承知の上でこの勝負に望んでいる。

 

 

だからこそ弁当の味は真剣に吟味して、正直に結果を伝える事にしている。

 

 

「愛歌だな」

 

「ふふっ、当然の結果ね」

 

「また負けちゃったかぁ……」

 

「だけど、初めの頃に比べるとだいぶ俺好みの味になってるぞ?付き合い長い分、愛歌の方がよく知っているってだけで充分美味かったし」

 

「そっかぁー……」

 

「でも、私が、勝ったのよ!!」

 

「お静かに」

 

 

胸を張って月村のことを煽ろうとしていた愛歌を鎮める。勝てて当たり前の勝負とはいえ勝てることが嬉しいのか、それとも自分の方が俺の好みを熟知していることを知らしめたいのか、弁当対決で勝つと愛歌はその結果を勝ち誇っている。

 

 

前に止めずに放置していたら、気付いた時には愛歌が高笑いをしながら四つん這いにさせたクラスの男子の背中に座っていたからなぁ。

 

 

「ん?月村、少し顔色悪いけど大丈夫か?」

 

 

いつもと同じ結果とはいえ、負けた事に気落ちしながら弁当を片付けていた月村の顔色が少しだけいつもよりも悪くなっていた事に気がつく。月村と親しい奴でも見逃してしまうような些細な変化だが、そのくらいの変化に気づかなければ前世のクソのような故郷では生き延びられなかったので自然の観察眼が養われたのだ。

 

 

「へ?……うん、大丈夫だよ。ちょっと寝不足なくらいだから」

 

「また本でも読んでたのか?前に明け方まで本読んでて居眠りしたの忘れたのか?携帯に写真があるんだけど?」

 

「なーーーなんであるの!?」

 

「なんか知らんけど愛歌から送られてきた。指示された通りに保存して待ち受け画面にしてある」

 

「愛歌ちゃぁぁぁんーーー!!」

 

 

二つ折りの携帯を開いて待ち受け画面にしてある月村の寝姿を見せる。日当たりの良さそうな席で腕を枕にしながら眠っている月村の姿は絵になりそうなものだった。

 

 

学校でも人気があるからなのか、クラスの男子に画面を見られた時には全員が土下座をして頼んでくるという事態になった。

 

 

それも愛歌の蔑むような目と桜木の一言で収められたが。

 

 

「なんであんな写真あげたの!?それよりもなんで撮ったの!?」

 

「面白半分であげたわ!!それと、油断している方が悪いのよ!!」

 

 

月村に追いかけられて愛歌は捕まらないように逃げ回る。昼休みとはいえもう半分は過ぎているので弁当を出している者はおらず、注意するどころか捕まるか捕まらないかの予想までしている始末だ。この光景に慣れている証拠だろう。

 

 

時折、月村の背後に回ってスカートの中を覗こうとする猛者がいるが、それは女子の手で目潰しをされて未遂に終わっている。

 

 

追いかけられながらも楽しそうにしている愛歌だが、彼女のしたい事が分からない。月村の事を純粋に恋敵として見ているかと思えば、こうして手を貸すようなことを普通にしている。若干外道じみた方法であるのだが、それでも俺からすれば月村の手助けをしているようにしか見えない。女同士の友情という奴なのだろうか?男である俺には理解が出来ないものだった。

 

 

「月村ー、愛歌の昼寝中の写真あるけどどうする?」

 

「両夜ッ!?」

 

「私の携帯に送っておいて!!プリントアウトするから……!!」

 

「すずかぁ ーーーッ!?」

 

 

どういう事情でこうなっているのか分からない。しかし2人が楽しそうにしているのであれば、それで良いんじゃないかと思い、それ以上深入りすることを止めた。

 

 

月村が若干、我が家の芸風に汚染されているような気配を見せているのを見なかった事にしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は経って放課後、いつもなら愛歌と桜木と一緒に帰っているのだが、図書室に新しい本が入ったと聞いたので2人を先に帰らせて新しく入った本の確認をする事にした。人の目がある今の時間帯ならば闇の書の騎士たちの襲撃を心配しなくてもいいし、愛歌には桜木だけでなく管理局の護衛も付けられている。クロノがわざわざ色物が多い局員たちの中から比較的常識人の部類を選んでくれたので、彼らが暴走した挙句に愛歌によって行方不明になる様な事も心配していない。

 

 

「あ、カガミじゃない」

 

「加賀美君」

 

「どうも」

 

 

一体どんな本が入っているのかと心を躍らせながら図書室に向かう道中で高町と黒須、そして金髪を靡かせた少女ーーーアリサ・バニングスに出会った。バニングスとは繋がりが無かったのだが月村経由で夏休み明けから知人と呼べる関係になっている。

 

 

愛歌はまたキャラ被りなのかと悲嘆しかけていたが、バニングスがツンデレキャラだと見抜いて落ち着きを取り戻していた。それで良いのかと突っ込みたくなったが、そうしたら面倒になるんだろうなぁと思って自重する事にしたのは懐かしい。

 

 

「ねぇねぇ加賀美君、すずかちゃんを知らない?」

 

「月村?見てないけどどうしたんだ?」

 

「すずかったら午後の授業で体調が悪くなったからって保健室に行ったのよ。それで授業が終わってから迎えに行こうとしたんだけど姿が見えなくって……鞄も靴もあったからまだ学校にはいると思うんだけど」

 

「それでこうやって探してるんだけど、見てないか」

 

「月村ぁ……昼休みに言ったのに……分かった。俺の方でも探してみる」

 

「お願いね。私たちも別の場所を探してみるから」

 

 

本を楽しみにしていたが月村が行方不明になっているとなればそちらを優先する。また夏休みにあった時の様に夜の一族関連の件に巻き込まれているかもしれない。バニングスたちと別れ、待機状態になっているハスターに月村の居場所を探させる。高町と黒須はバニングスが一緒だからなのか魔法で探していない様子だったが、俺には躊躇う理由が無いので素直に使う事にした。

 

 

リンカーコアが損傷しているのでそれを使った魔法は使えない。なのでカートリッジに注入していた魔力を取り出すことでサーチ魔法を使う事にした。

 

 

「見つけたか?」

 

『捜索中ーーー発見。月村様は図書室にいます』

 

「図書室?」

 

『はい。図書室の隅、本棚の陰に隠れていますね』

 

 

どうして月村がそんな場所に隠れているのか分からない。だが、万が一のことを考えると俺1人で行った方が良い予感がしたのでバニングスたちに知らせるよりも先に図書室に行く事にした。

 

 

学校の設備に比例するように図書室も上等な物だが、小学校という環境だからなのか図書室を利用している者は誰もいなかった。折角本が揃えられているのに勿体ないなぁと考えながら薄暗く、誰も居ない図書室を進み、ハスターの言っていた通りに本棚の陰に隠れていた月村の姿を見つけた。

 

 

「月村、何やってんだよ?バニングスたちが探してたぞ」

 

「加賀美、君……」

 

 

薄暗い上に陰に隠れていたせいでその時の月村の表情は分かりにくかったが、それでも彼女の目に妖しい光が灯っている事には気付くことが出来た。どうした、一体何があったのかと訊ねるよりも先に月村の手が伸ばされーーー途中で我に帰ったように引っ込められる。

 

 

「ごめんなさい……!!私、ちょっと離れて……!!」

 

「単なる体調不良、ってわけじゃなさそうだな……夜の一族に関係してるか?」

 

「……うん」

 

 

薄暗さに目が慣れてきた事で月村の顔をようやく確認する事が出来た。今の月村は全力疾走した時のように呼吸が荒く、頬が赤く染まっている。何かを堪えているように熱っぽい吐息をしながら、その目は真っ直ぐに俺の首筋に向けられていた。

 

 

「成長期に、入ってるから、なのかな……血が、足りなくなって……しばらくしたら、落ち着くから……」

 

「血が足りないからそうなってる?なら話は早いな」

 

 

体調不良の原因を聞き、それと同時に解決策が思いついたので即座に人差し指の腹を噛み千切る。プツリと犬歯が皮と肉を傷付け、それによって指からは真っ赤な血が流れ出した。

 

 

「あーーー」

 

「ほら、我慢せずに飲んどけ。その様子じゃあ昼休み頃から我慢してたんだろ?」

 

 

偏にここまで堪えることが出来ていたのは自分が吸血鬼である事を隠したかったからだろう。しかし、今の図書室には俺たちを除いて誰も居ない。月村が吸血鬼であるとバレる心配は無く、目の前にはずっと我慢していた血が流れている。

 

 

少しずつ、少しずつ、月村は差し出された指に顔を近づけーーー僅かに理性が残っていたのか、だけども血を求める本能が優ったのか、遠慮しがちにではあるがしっかりと指を咥えた。

 

 

「はぁ……はぁ……んん……ちゅる……」

 

 

血を零さないように小さな口で咥え、味わうように舌で指を舐め、唾液と混ぜ合わせながら嚥下する姿はまるで奉仕しているようだった。こういう方法で吸血をした事が無いのか月村のそれは拙さを感じさせていたが、それ以上に彼女にこんなことをさせているという背徳感に興奮してしまう。

 

 

だが、これは彼女にとっては食事と同じ、つまり生存行為だ。それを悟られないように顔には出さないように努める。

 

 

そして2、3分程時間を掛けて、月村は指から離れた。その時に彼女の口元と指に唾液の橋がかかり、名残惜しそうにしていたが彼女の名誉の為に忘れる事にする。

 

 

「どうだ?少しは楽になったか?」

 

「うん……加賀美君の、熱くて、濃くて、だけど甘くて……美味しかった」

 

「さっきと言いその発言と言い、それ狙ってるの?」

 

「何の事?」

 

「良かった、ただの天然か」

 

 

狙って言っていたわけでは無いと安心するが、今までのが全て天然だった事実に戦慄を禁じ得ない。今でこれだけの破壊力があるのなら、彼女が成長した時には一体どれだけの威力になっているというのか。

 

 

「帰りはどうするんだ?あれなら送るけど」

 

「お姉ちゃんに連絡してノエルさんが迎えに来てくれる事になってるから大丈夫だよ」

 

「そうか。だったらバニングスたちに会って謝っとけ。月村がいないって探してたからな」

 

 

顔色は少しばかり悪かったものの、さっきよりも良くなっていたのであの方法で良かったのだろう。座り込んでいた月村に咥えられていた手とは逆の手を差し出す。月村はそれを遠慮しがちに掴み、しっかりと自分の足で立ち上がった。

 

 

 






ホノボォノな日常編。そして疑問に思って見返して気がついた……この回が魔王様のちゃんとした登場でちゃんとしたセリフだという事に。

カガっち、すずかお嬢様に指チュパされるという絶許案件。想像してごらん……若干虚ろな目になって床に座り込んでいるすずかお嬢様に指を咥えられて丁寧に舐めまわされるその光景を……

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