道化の名は必要悪   作:鎌鼬

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normal day・2

 

 

「ただいま〜っと」

 

『お帰りなさ〜い』

 

『お帰り、加賀美くん』

 

 

月村が黒塗りの高級車に乗るのを見送ってから帰宅し、四つん這いになった士郎さんとそれに乗ったアリシアに出迎えられる。始めのうちはドン引きしていた光景であるが、何度も見せられたので慣れてしまっている。

 

 

いつもなら何かしらの言葉を返すのだが、今この家には俺の事を知らない管理局の人間がいる。幽霊が見えると言ったところで信じてもらえるはずが無く、そもそもこんな事を話す程に親しく無いのであえて何も言わない。2人もその事を知っているのでこの対応でも何も言わなかった。

 

 

『それじゃあ、私たち散歩に行ってくるからね!!』

 

『翠屋見に行って町を歩いて、翠屋見てから帰ってくるから』

 

 

そう言い残してアリシアを背中に乗せたまま、士郎さんは四つん這いの体勢で家から出て行った。アリシアが来た当初、ゴーストカースト最下位になった時は士郎さんは何かと言って逆らっていたのだが、今では当たり前のように従うようになっている。娘と年の近い幼女と触れ合えることがそんなに嬉しいのだろうか。聞いた話によれば高町が生まれても士郎さんはボディーガードの仕事が忙しく、世話は美由希さんと桃子さんに任せっきりだったそうだ。ボディーガードの仕事から引退し、ようやくまともに娘と向き合える直前で死んだのだから彼の気持ちも分からないでもない。

 

 

だけど常時四つん這いでお馬さんごっこは無いと思う。

 

 

「お帰りなさい」

 

「あぁ、ただいま」

 

 

家から出て行った2人と入れ替わるようにしてリビングから現れたのは愛歌だった。一旦家に帰って料理をしていたのか私服姿で、その上からフリル付きの白いエプロンを着けている。

 

 

「図書室に行ってた割には遅かったわね。何かあったのかしら?」

 

「体調崩してた月村を見つけてな、家から迎えが来るまで一緒に居たんだよ」

 

「成る程ね……このメールはそういう事なの……」

 

「メール?」

 

 

携帯の画面を見せて貰えばそこには〝やったよ〟というタイトルのメールが月村から送られていた。内容は慌てて打ったのか支離滅裂なものだったが、タイトルだけでどういう内容なのか察することが出来てしまう。

 

 

「これはそれ以上の凄い事をして自慢するしか無いわね……!!」

 

「何がしたいんだよ……」

 

 

目に闘志を燃やしながら拳を握る愛歌の姿に不安しか覚えない。と言うより、彼女は俺に何をさせるつもりなのだろうか。メールの内容がアレだったのであの図書室での出来事はバレていないだろうが、バレていないはずだからこそ愛歌が何を仕出かすのか分からないで怖い。

 

 

「っと、いつまでも玄関で話してちゃダメね……料理はもう少しで出来るから、先にお風呂に入ったらどうかしら?」

 

「そうさせてもらうわ」

 

 

家の中は暖房のおかげで暖かくなっているが、さっきまで冬に近づいている外を歩いていたのだ。前世のロシアの異常気象を身を以て体験して知っているので寒さには強いという自負はあるが、だからといっていつまでも寒い所に居たいわけではない。

 

 

靴を脱いで家の中に上がり、愛歌が手を差し出して来たのでご所望通りに背負っていたカバンを手渡した時、

 

 

「……なんか新婚みたいなやり取りだな」

 

 

ふとそれが以前にドラマで見た光景に似ていたのでそう呟いた。カバンを受け取った愛歌はそれを聞いて呆気に取られたような顔をし、すぐに何かを思いついたようにその場で一回転。エプロンとその下のスカートを回転で翻しながらニッコリと笑い、

 

 

「ーーーお帰りなさい、あなた。ご飯にする?お風呂にする?それとも……わ、た、し?」

 

 

そうドラマと同じようなセリフを言った。ノリの良さを見る限り、彼女はこれを使って月村への仕返しにするつもりらしい。そうでなければそうね、と恥ずかしさと嬉しさが入り混じったような笑みを浮かべるはずだから。

 

 

それにしてもどうしようか迷う。いつもなら前者の2つを選ぶのだが、それではノリが悪い。ここは愛歌のノリに合わせた方が良いと直感で判断し、

 

 

「なら、お前だな」

 

「え?」

 

 

迷う事なく愛歌を選ぶ。それが予想外だったのか惚けた表情を浮かべた彼女に近づき、顎を軽く持ち上げる事で顔を上に向けさせながら顔を近づける。

 

 

「りょ、りょりょりょりょ両夜!?」

 

「何を慌ててるんだ?愛歌が選べと言ったんじゃないか。だから俺はお前を選んだ……何かおかしな事があるか?」

 

「そういうのじゃないんだけど!!違うんだけど!!おかしいとかじゃないんだけど!!え?本当に?これって夢とかじゃないの?」

 

「嫌なのか?なら止めるけど……」

 

「嫌じゃない……けど……!!」

 

 

鼻と鼻が触れ合うほどの距離まで近づいたせいで視界は真っ赤になった愛歌の顔だけしか映っていない。俺の雰囲気から本気だと感じ取ったらしく彼女は観念したように目を閉じ、唇を突き出して完全にキス待ちの体勢になっていた。それを見てから俺も同じように目を閉じ、ゆっくりと焦らすように顔を近づける。

 

 

そしてあと少しで唇が唇に触れるーーーそのタイミングで軌道を変え、遥か上の額に口付けをした。

 

 

「……え?」

 

「クックック……冗談だよ。残念だけどファーストキスはまだお預けだ」

 

 

唇にされると思っていたのに額にされた。その事に唖然としている彼女の顔を見て思わず笑ってしまい、顎に添えていた手をズラして頭を撫でる。為すがままに撫でられている愛歌は未だに状況が把握出来ていないようだった。

 

 

愛歌は自分からする時は余裕を見せているが、逆に俺から攻めると面白いくらいにウブな反応をしてくれる。サディストは攻められると弱いと聞いた事があるが、それなのだろう。こうしてキョトンとしている愛歌の姿が何よりの証拠だった。

 

 

「もう少し、俺たちが大人になるまでお預けだ。楽しみにしておくんだな」

 

 

頭を撫でていた手をそのまま頬を這わせ、愛歌の唇を触れるか触れないかのギリギリのところでなぞる。コクコクと何も言わずに首を縦に降る姿に満足げに微笑みながらその場から離れ、風呂に入る準備をするために部屋に入りーーー扉を閉めるのと同時にその場に崩れ落ちた。

 

 

『心拍数の上昇を確認』

 

「自覚はあるから一々報告しなくて良いんだよ!!……っはぁ……恥ずかしい。よくドラマはこういうのを顔色1つ変えずにやるな。感心するぞ」

 

 

俺とデバイスたちを除いて誰も居ない部屋に入った事で気が緩み、高揚しないように努めていた顔が熱くなるのを感じる。さっきまでは余裕の姿を見せていたが、俺だって恥ずかしさを感じるのだ。前世で性交渉をしなかったわけではないのだがそれはどちらかと言えば作業のようなものであり、特別に好意を持った相手にしたものではない。日常的に密着していることはあるのでこのくらいなら大丈夫かと思っていたのだが、これはそれとは全く別物だった。

 

 

好いている彼女が相手だったからなのか、揶揄うつもりでいたのだが、少しでも油断をしていたらあのままキスをしていたかもしれない。

 

 

「あ〜……アッツ……」

 

 

そのまましばらく、俺は羞恥心によって上がった熱が引くまで部屋から出る事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう少し、俺たちが大人になるまでお預けだ。楽しみにしておくんだな」

 

 

両夜の言った言葉に首を縦に降る事しかできない。それを見て満足げに微笑み、彼はお風呂に入るために自分の部屋に戻って行った。

 

 

そして彼の姿が見えなくなるのと同時にその場に崩れ落ちる。

 

 

彼の行動が予想外過ぎて腰が抜けてしまったのだ。

 

 

そのまま這いずるようにしてリビングとは違う目の前の部屋の中に入り、扉を閉める。イレインは台所から離れないだろうし、管理局の人間も桜木君が相手をしているので動かないだろう。

 

 

「〜〜〜……ッ!!」

 

 

誰もここには来ない事を確信し、口を押さえて声が漏れないようにしてからその場でのたうち回った。床を転がる事で服に埃が付くのだが、そんな事は知らないとばかりに転げ回る。

 

 

なんだアレは?反則過ぎる。新婚みたいと言われたから揶揄うつもりで思いついた新婚っぽい事をしたら逆に揶揄われてしまった。両夜の事だからお風呂を選ぶと思ったのに迷う事なく自分が選ばれ、そこから顎クイされてキスされるかと思った。いや、私的にはキスをしてくれてもウェルカムだったのだが、彼の対応が余りにも余裕があったので飲み込まれてしまったのだ。

 

 

それに悔しさを感じるーーーだけども、額とは言えキスをされた事実にそれを上回る嬉しさが込み上げてくる。

 

 

両夜と私のスキンシップというものは殆どが私からのものだ。転生者である彼には前世があり、肉体年齢には同じなのだが精神年齢には私よりも遥かに成熟している。だからなのか、彼の私へのスキンシップは驚くほどに少ない。精神が成熟しているためにどこか達観しているのだ。だから私は彼への想いを自分から行動で、言葉で示している。

 

 

そんな彼が、額にとは言えキスという行動をしてくれたのだ。

 

 

これは愛歌ちゃんトゥルーハッピーエンド間違い無しだ。

 

 

このまましばらくこの幸福感を味わっていたいのだが、それは出来ない。私は料理の最中に両夜が帰ったので迎えると言ってその場から離れたのだ。いつまでも戻って来ない事に不信感を抱いたイレインが探しに来ないとも限らない。そうなればあのメイドの事だ。無表情のまま、嬉々として煽りに来るのが目に見えている。

 

 

早く戻らなければと思う反面、この幸福感を味わいたいというジレンマにしばし苛まれた。

 

 

 






すずかお嬢様を出したのだから今度は愛歌ちゃまを出さなくてはならないという強迫観念の元、愛歌ちゃまとのイチャイチャ。愛歌様も愛歌ちゃまも、絶対に押しに弱い(偏見

前世でやった事があるからカガっちは童貞じゃないんだけど恋愛未経験のクソザコな為にこうなるっていう。

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