戦いの本質とは、いかに効率的に敵を倒すかという事にある。
死力を尽くした殺し合いというのも好みといえば好みなのだが、この後にシグナムたちと管理局との本番を控えているのと傷だらけになって帰ったら愛歌を心配させてしまうので残念ながら出来ない。
気配を殺しながら魔力の使用によって俺の存在を勘付かれないために重力に任せた自然落下だけで上空からヴィータ目掛けて迫る。
万全の状態での彼女ならば気がついていたかもしれないが、巨大な魚を倒して目的である蒐集を行なっている彼女は隙だらけである。戦闘中の乱入ならば警戒されていて出来なかったかもしれないが、今の彼女は戦闘を終わらせた事で気が緩んでいる。シグナムやザフィーラ辺りならば見せないであろう隙であるが、それを告げる程に俺はお人好しでは無いし、見逃してわざわざ正面から立ち向かう程に戦いというものに清廉さを求めていない。
汚くても良い、醜くても良い。血に塗れてズタボロになったって最後に立って拳を挙げている者こそが勝者なのだから。
そのままヴィータの僅かに残されていた警戒を潜り抜けて間合いに侵入し、ナルカミを振るう。餌として使うつもりなので殺すつもりは無く、しかし抵抗は出来なくなる程度の深手を負わせるつもりで振るった一撃はーーー
気付いていてわざと見逃しているようには見えなかった。そうなら間違いなく反撃を食らわせているであろう。つまり、勘で避けたか経験で察したというところか。
見た目は幼女とはいえ闇の書の騎士の1人なだけはある。
「なーーー」
「どうもどうも
躱されたとはいえギリギリだったので刃は届き、ヴィータの背中に傷を残す。深手と呼べる程では無いが動く度に痛むだろうし、早急に手当てをしなければ出血が酷くなって動く事が出来なくなる程度の傷だ。一撃で仕留めるつもりだったとはいえシグナムを基準としていたので躱される事が前提のつもりでいたが、これだけの傷を付ければ初撃としては充分すぎるだろう。
自身の状態から不利を悟って逃げ出そうとするヴィータ。高度を上げようとするが、それを魔術で生成した真空波によって遮って範囲を制限する。
生憎と俺は他の魔導師たちのように飛行魔法の適性は無いので空中戦は得意では無い。一応戦うための手段は用意しているので戦えなくは無いが、不利になる。なので初撃に失敗したと判断すると同時に真空波で高度を制した。活動出来る範囲は湖から高さ3メートルと行ったところだろう。負傷覚悟で突っ込めば無視出来るかもしれないが、そうされたら空中戦に移行すれば良い。ボロボロの彼女の相手ならば、得意では無いとはいえ負ける気はしない。
「クソッ!!」
それを悟ったからなのか、ヴィータは高度を上げることを諦めて後退しながらもハンマーを握り直して交戦の意思を見せる。シグナムたちが助けに来るまでの時間稼ぎなのか、それとも一人で俺を倒せると判断したのだろうか……どちらにしても、戦ってくれるというのであれば好都合である。
気絶していた魚の上に着地し、それを足場にしてヴィータへと接近する。一匹や二匹だけならば足場としては使い物にならないのだが、蒐集の為に群れを倒してくれたおかげで湖の半分を埋め尽くしている。殺しはしないで気絶させているだけなのでいつ目覚めるか分からないが、少なくとも俺がヴィータを仕留めるまでには間に合うだろう。
足場の魚と魚を一歩で飛びながら進む俺に対してヴィータは魔力で鉄球を生成してそれをハンマーで打ち出す。方法は違うが高町が使っていたシューター系の魔法と同じなのだろう。打ち出された鉄球は真っ直ぐに飛ぶはずなのに物理法則を無視して弧を描きながら俺に向かって来る。
「ま、
一発一発の威力は重たいのだろうが、シューター系とはいえ弾幕が薄過ぎる。僅かな時間差で迫り来る鉄球の軌道を見切り、最低限の体捌きだけで躱して肉薄する。だが、避けられる事は予想していたのだろう。鉄球を潜り抜けた先ではヴィータがハンマーから薬莢を排出し、振りかぶりながら待ち構えていた。
「吹っ飛べぇぇぇーーーッ!!」
『Raketenhammer!!』
ハンマーの片方にジェット機が生成され、それがロケットのように噴出しながら加速して振るわれる。その最中にヴィータ本人が振り回されているように見えるが、ロケットの推進力に加えて遠心力も重ねられているので生半可な防御ではそれごと叩き潰されるだろう。事実、クロノから見せてもらった最初の襲撃の映像でこの方法で高町の防御を砕いてダメージを与えていたから。
デバイスが改造された事で更に硬くなった高町に通用するか不明だが、元より高町よりも柔らかい俺ではあの一撃を防ぐ事など出来ない。
なので、防がずに流すことにした。
高速回転しながら迫るハンマーの先端を目で追い、俺にぶつかる瞬間を見極めてナルカミと合流させ、振るわれる力に対して横から力を加える事で軌道を変えて受け流す。ハンマーとナルカミが接触した事で火花が飛び散るものの、ナルカミの刀身には歪みどころか欠けているように見えない。耐久テストをクリアしていたので大丈夫だと知っていたが、耐えられるかどうか不安ではあった。直撃を防ぐのは厳しそうだが、この程度の受け流しならば問題なく行えそうだ。
流されるとは思わなかったヴィータが驚愕の顔を見せながら通り過ぎて行き、回転したままで弧を描きながらUターンしてくる。回転運動を阻害したわけでは無いので当たるまで続けるつもりなのだろう。新たに距離を稼いだ事で回転速度は上昇し、それに比例する形で一撃の威力も上昇していく。さっきまでならば当たりどころによっては重傷で済んでいたかもしれないが、これではどこに当たっても致命傷を負いかねないだろう。
「
いくら加速して威力が上がろうとも、突然別次元のそれらに変わったわけでは無い。さっき受け流した一撃の延長線上でしか無いのだ。
一度見た、一度流した。ならば目に追える速さであるのなら、次は避ける事など容易い。
足場になっていた魚を蹴り、ヴィータに向かう。逃げる、もしくはさっきのように受け流すことに集中するのだと思っていただろうヴィータは俺の行動に目を開いている。驚きは思考を止め、身体を硬直させる。これがシグナムならばそういうものなのかと軽く受け止めて来るだろうが、精神が幼く設計されているヴィータには無理な話だったようだ。
飛び込んだ先に待ち構えているのは唸りを上げながら振り回されるハンマーの先端。これを食らえば紙装甲の俺では握り潰されたトマトのような死体に成り下がるだろう。
容易く即死させる一撃を、僅かに身体を沈めて躱す。
俺を殺すはずだった一撃が頭部のスレスレを通過する。そして一回転して次が来るよりも速くにカスパールの銃底でヴィータの腕を殴る。武器として使用されている以上、あのハンマーは頑丈に作られているだろうが、少女の身体をしているヴィータはそうはいかない。
耳に届いたのは水風船の弾けるような音。
カスパールから伝わるのは肉が潰れる感触と骨が砕ける感触。
高め過ぎた遠心力を利用してバリアジャケットの防御を貫き、彼女の両腕を潰した。
「なーーー」
痛みよりも驚きが優っているのか、ハリガネのようにひしゃげた腕を見てヴィータは硬直する。これがシグナムならばそれがどうした?近づいて来てくれたのだから殺すと折れた腕で剣を振るって来そうなのだが、それを彼女に期待するというのは酷なのだろう。
固まっている彼女の腹部にナルカミを刺し、組み込まれていたギミックで魔力を電気に変えて放電する。リンカーコアからの魔力の使用はまだ完治していないので緊急時以外は控えているが、魔力回路からのならば問題ない。
体内に直接電気が流されて、ヴィータの身体が無様にビクビクと跳ね上がる。皮肉な事に前世の経験で人の殺し方と言うものを良く知っている。それは裏を返せば人が死なない程度に痛めつけるラインを知っているという事になる。腹部に傷が残るかもしれないが内臓には傷を付けないように刺したし重要な血管は避けている。電気に関しても強めのスタンガン程度に抑えているので死にはしない。
事実、ヴィータは気絶するだけで終わった。バリアジャケットが収納されて私服姿になるものの、ナルカミに貫かれたままという事には変わりない。
「アイムウィナァァァーーー!!と、言うことで追い剥ぎの時間だオラァ!!ヘッヘッヘ……紳士達が喜びそうな身体してるじゃねぇか……!!……ダメだ、反応無いからつまらん」
ナルカミを引き抜き、魔術で傷口を塞ぐだけの簡単な治療を施して陸地に上がり、ヴィータから待機状態のデバイスを取り上げる。
「Hey,命令だ。他の闇の書の騎士達にメッセージを送れ。断ったらこのロリが愉快なオブジェクトに変わるだけだ。どうするのが良いか、バカでも分かるような事だけど……お、繋がったみたいだな?音声は一方通行で、レスポンスは要らん」
カスパールの銃口をヴィータの頭に突きつけながら脅迫すれば、命令通りにシグナムたちとの念話が行使される。注文通りにこちらからの音声しか送れない仕様になっているが、ここでしたいのは会話では無くて報告だけなので相手からの返事は要らない。
「ん、ん、ん〜!!聞こえてるかな、闇の書の騎士達?お前達のお仲間のロリ担当を拉致るから!!探したかったらこいつのデバイスの反応を追いかけて来てどうぞ!!……あぁ、1時間しても来なかったら、こいつは管理局に突き出すからそのつもりでな?」
それだけ伝えて会話を終わらせる。分かりやすいほどに誘っていると向こうにもバレただろうが、これで構わない。普通ならば無視したり、見捨てたりを選ぶだろう。闇の書の騎士という役割からしてもここでヴィータを見捨てて蒐集を続行するのが最善だ。しかし、こいつらは八神と過ごした事で優しさと家族愛を覚えてしまっている。ここでヴィータを見捨てれば八神が悲しむ事になると考え、例え悪手であろうが助けに来るだろう。それが悪い事とは言わない。逆に善意に満ち溢れた素晴らしい行いだと賞賛させて欲しいくらいだ。
まぁ、それはそれとして好き勝手やらせてもらうが。
「ハスター、マーキングしていた世界に転移の準備……あぁ、その前に蒐集をしておくか」
『了解しましたーーー魔力蒐集、開始』
ハスターに指示を出すと湖で気絶していた魚たちからリンカーコアが露出され、魔力が蒐集される。闇の書の蒐集ペースがどの程度なのか分からないのでこの集まった魔力でどれだけのページが埋まるのか分からないが、必死になって魔力を集めている彼女たちからしてみれば喉から手が出る程に欲しいだろう。
そして集まった魔力を握り潰し、起源にて干渉を行う。手を開いた時にそこにある魔力の外見は変わらなかったが、仕込みは終わらせられたと確信出来るので問題ない。
「これで良し。ハスター、始めてくれ」
『次元転移、開始します』
カートリッジに貯蔵していた魔力が消費され、足元に魔法陣が現れる。餌を確保し、仕込みは終わらせた。これから先の事を考えると興奮で顔がニヤけてしまう。
結末はとうに決まっている。ならば、その過程を楽しむだけだ。
シグシグ基準で考えられたらロヴィータじゃ相手にならないんだよなぁ……設計上の設定で精神が幼いから、ちょっとした事で動揺するし激昂するし……