道化の名は必要悪   作:鎌鼬

64 / 83
normal day・5

 

 

ヴィータを捕らえて30分後、俺はさっきまでいた世界とは別の世界にいた。あの世界は天候が悪く、辺りを見渡せば巨大生物がひしめき合っているような湖がいくつもある世界だったが、この世界は天候が悪いものの空気が乾燥していてとても過ごし易い。そして事前の調査で見つけた廃墟の一角でここに来るものたちを待ち構えていた。

 

 

「いやぁ、こういう遺跡チックなものロマンってぇの?それを感じられて良いな〜そう思わない?そこのロリータ」

 

『マスター、彼女は気絶しているので返事は無理だと思いますが』

 

「知っててやってる」

 

 

廃墟の一角、そこにあった一番高い建物の最上階に俺たちはいた。俺は壁に縋って楽な姿勢を取っているが、未だに気絶しているヴィータは掌に杭を打ち込まれて壁に磔にされている状態。これでは助けに来ても早々に救出する事は困難だろう。

 

 

そして、〝私は不審者に負けたクソ雑魚ロリータです〟と書かれたプラカードを首からぶら下げている。

 

 

この世界にヴィータを連れてきて、壁に磔にしたところまでは良かったが待つ以外に何もすることが無くて暇を持て余していた。そこでチャットで暇を潰せるような事は無いかと聞いたところ、敗者を辱める事は勝者の務めであるとイレインから言われたのだ。

 

 

そこでプラカードをぶら下げてみた。書いてある言葉は俺が考えた。

 

 

そしてその画像をチャットに乗せたところ、桜木と愛歌からの返事が無くなった。心配になってイレインに二人の様子を見てくるように訊ねたところ、二人して腹を抱えて爆笑していたらしい。

 

 

他にも愛歌とイレインからの案を実行した結果、ヴィータの頬には油性のマジックで渦巻きが、額には肉という漢字が、鼻の下に髭が、瞼に目が書かれているといえ凄まじい状況になっている。チャットを見ても愛歌からの書き込みが見つからない辺り、彼女は今頃過呼吸にでもなっているのだろう。

 

 

『それにしても、何故わざわざこんな回りくどい手段をお選びに?マスターの事ですから、一人で騎士たちの本拠地に特攻するとかやるものだと思っていましたが』

 

「それは考えてたけど、つまらないから止めにした。これはな、俺からしてみれば祭りと同じなんだ。結果はハッピーエンドかバッドエンドか、どちらかに決まっていてそれ以外は存在しないーーーだったら、その過程を楽しまなくちゃ損だろうがよ。面白そうだから首を突っ込んだけどつまらなかった……そうじゃない。どんな内容であれ参加したのなら、()()()()()()()()()()()()()。馬鹿みたいに頭空っぽにして、阿呆みたいに踊り狂う。あれやこれやと考えなきゃならん事は山ほどあっても、この瞬間だけは全力でそれに興じる……と、俺は考えてるけどお前らはどうよ?」

 

「ーーー成る程、狂人の類か」

 

 

廃墟の影から一瞬だけ鋭い殺気が溢れたのを知覚してそちらに声を掛ければ帰ってきたのは納得するような声と矢による狙撃だった。弓矢という、現代社会では主力にならない武器であるが、銃とは違い攻撃の瞬間に音を立てないという利点がある。殺気が溢れていなければ暗殺には成功していただろうに、と思いながら()()()矢を横合いから叩いて軌道を変える。

 

 

基本的に高速で動く物体というのは横からの力に非常に弱い。銃弾でさえ、近くにあった葉っぱに当たって軌道が変わったという事例がある程にだ。高速で飛んでこようとも、それを追える目と反応出来るだけの反応速度があれば、このように素手で対処する事は容易い。

 

 

「時間切れの30分前か……いいね、行動の早い奴は嫌いじゃない」

 

「貴様が下手人か……我らの仲間を返してもらう」

 

 

廃墟の陰から現れたのはシグナムが一人。他の者たちが見えないのは、シグナムを囮にしてその間にヴィータを助けようとしているからなのだろう。確かに、彼女たちの目的を考えればそれが一番正しい。わざわざ俺を倒さなくても、ヴィータを助けることが出来ればそれで良いのだから。

 

 

だが、それは俺も理解しているから当然対策はしてある。

 

 

頭上から落ちてくる気配を悟り、上空に仕込んでいたトラップを作動させると、間をおかずにそれらが起動して頭上が爆ぜた。待ち構えているのだから罠の1つや2つは仕掛けている。魔法によるものなので冷静に探知をしていれば気づけたのだが、どうやらそれに気付かないくらいには焦っていてくれるようだ。

 

 

しかし、せっかく仕掛けたトラップも効かなければ意味は無い。爆炎の中から飛び出してきたのはザフィーラで、火傷は負っている物の爆破の規模を考えれば軽傷と言っても良かった。

 

 

「はい、あとそことそこねー」

 

 

右、左と、適当に狙いをつけてカスパールの引き金を引く。使用したのは砲撃魔法で、カートリッジを2発ずつ消費して行使されたそれは光線となって廃墟都市の一角を破壊する。倒壊の影響で舞い上がる砂埃を突き破って現れたのは若草色のドレスを身に纏った金髪の女性ーーーシャマルと、白い羽毛を生やして鳥と人間の合わさった姿になっためぐりだった。

 

 

黒い霞を使う項羽とも、爆撃機を召喚するルーデルとも違う別の才能なのだろう。手にしているのはライフルである事から、狙撃手の才能だと推測出来る。恐らく射程距離内に入って狙撃しようと企んでいたのだろうが、それよりも先に俺に気付かれたので無意味に終わってしまったようだ。

 

 

「なんなんですかあの人……バレないように魔力遮断とか色々してたのに魔法を使われずにバレたんですけど」

 

「私も同じよ……折角ハスコックの才能使おうとしたのにレンジに入る前に気付かれたわ」

 

「めぐりは兎も角、シャマルは経験したことがあるだろう……ズバ抜けた気配察知能力を持ち、そしてヴィータを封殺出来るだけの実力を持っている。ああいう手合いは用心深く、そして手段を選ばない。前衛は私とザフィーラが務める。2人は後方から支援してくれ」

 

 

シグナムが俺を分析した結果を全員に告げ、指示を出す。誰もがそれに異論を唱えること無く、素直にそれに従った。流石は烈火の将といったところか。自身の戦闘能力が高いだけでは無く、人を使う事にも慣れている。

 

 

だが、ヴィータから視線を外している気がするが。

 

 

「貴様が何者か、ヴィータを攫った目的が何なのかと尋ねるつもりはない……返してもらうぞ」

 

「いいねぇ、すっごくカッコいいーーーだけど残念だ……祭りの楽しみ方を分かっちゃいない」

 

 

元が生真面目な性格だからなのか、しかしは俺がさっきまで言っていたことを理解してくれていないようだった。

 

 

これは俺にとっての祭りだと言った。俺は祭りとは楽しむものだと思っている……だが、それ以前に祭りというものは、()()()()()()()()()()()()()。気絶しているヴィータも含めて6人だけでは祭りだなんてとてもでは無いが言えたものでは無い。

 

 

なので、他に人を呼んでいる。

 

 

知らせた時間の事を考えればそろそろ来てもおかしくないと考えていると、俺たちがいる廃墟都市をすべて覆いかぶさるように半球のーーーミッド式の結界が張られる。地球で使われる結界は一般人たちに見つからない為のものであって、人のいないこの世界で使う意味は無いのだが、この結界は俺たちを逃さないために使われているようで転移を阻害する術式がこれでもかと言うほどに盛り込まれている。サポートに特化しているハスターでも、この結界を無視して転移することは難しいだろう。

 

 

そして逃げ場を塞がれ、管理局員たちが結界内に転移してくる。高町やリンカーコアの不調から回復したフェイト、クロノや黒須にアルフとユーノ、更に30人近い武装した局員たちと、中々に力を入れているように見える。

 

 

「貴様……まさか管理局に我らを渡すことが目的か?」

 

「そんな事してもつまらん……祭りは大勢で賑わうのが楽しいんだ。俺たちだけで馬鹿騒ぎしても、ふとした拍子に我に返って虚しくなるだけだからなぁ……それに、俺も管理局には嫌われてるし」

 

「時空管理局執務官のクロノ・ハラオウンだ。闇の書の騎士ヴォルケンリッターたちにその協力者、そしてアクロ・ダカーハ。魔導師襲撃や傷害、そしてロストロギアの不法所持などの容疑で纏めて逮捕させてもらう」

 

「ね?」

 

「何がね?よ……しっかり理由があるじゃない……」

 

 

ともあれこれで祭りを盛り上げられる程度の人数は揃った。後は馬鹿みたいにはしゃいで騒いで、心行くまで楽しむだけだ。

 

 

『と、言うわけで……桜木、出てきて良いぞー』

 

『ワーイ!!』

 

 

準備が出来たので待っていたであろう桜木にチャットでオーケーを出した瞬間、張られていた結界が破壊された。余程の強度で作られたのが穴が空いたのは一部分だけで、しかもそれは時間と共に修復されている。しかし必要なのは穴が空いたと言う事実で、外部からの出入りが可能になったと言う事だ。

 

 

闇の書の騎士たち、管理局、そして俺の三つ巴になっていた結界内に新たな侵入者が現れる。その正体は子供から大人の姿になった桜木だったが、何かしらの財宝でも使っているのか霞がかかっていて酷く認識し辛い。俺は桜木だと分かっているから正体を即座に看破することが出来たのだが、知らない者からすれば、正体は分からないのだろう。

 

 

『宝物庫を徹夜して漁った結果、見つかった効果の高い宝具を全部使ってきました!!これで誰が見ても僕の正体は気付かれず、更には〝情報抹消〟と同じ効果があるんで誰の記憶にも残りません!!』

 

『機械的な記録に関しては?』

 

『エルキドゥが頑張ってくれてます』

 

『ギルが楽しむために、全力で頑張るよ』

 

 

サポートに特化しているハスターと違い、桜木のデバイスであるエルキドゥは基本的に全性能が高水準の万能型だ。それだけなら足りないかもしれないが、桜木の宝物庫のバックアップありきならば機械的な記録も対応可能なのだろう。

 

ともあれ、これで桜木が管理局に身バレする心配は無くなった。

 

 

心行くまでこの祭りを楽しませてもらう事にしよう。

 

 

「ーーー祭り、祭りと言ったな?良い、許す。精々全力で踊り狂い(オレ)を愉しませてみせろ。下らぬ振る舞いをするならば、その首を落とす」

 

「Let's party !!」

 

 

誰もが桜木の登場に混乱し、立ち直っていない事を理解しながら、カスパールを上へと向けて引き金を引いた。

 

 

 






ロヴィータ、磔にされた挙句にカガっちによるクソ雑魚認定。強いか弱いかじゃないんだ。負けた方が悪いんだ。敗者を辱めるのは勝者の義務だってバッチャンが言ってた。

ヴォルケンリッター、管理局、カガっち、桜ギル君(大人モード)の四つ巴によるパーティー開始。この中で一番頭抱えてるのは管理局で、楽しんでいるのはカガっちと桜ギル君。ヴォルケンリッターたちはついて行けなくて困惑してる。

なお、ロヴィータは未だに磔にされてクソ雑魚プラカードぶら下げてる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。