黒須の振るう剣の一撃を躱すこと無くその場で受け止める。前に徹底して距離を保っていたのは接近戦の経験が皆無であったのと近接戦で耐えられそうな武器が無かったからだが、今回はパンダやシグナム相手に経験を積んでいる上にナルカミを保っているので解禁している。
炎を纏った剣と雷を纏うナルカミがぶつかる。上空から、炎を推進力として突貫してきたので衝撃は大きかったが耐えられない物ではないし、この程度ならば受け流す事が出来る。手首、肘、肩と関節部位を利用しながら手から伝わって来る衝突のエネルギーを全身へと分散させ、足の裏から地面に流す。
その衝撃に耐えられずに地面は爆ぜ、クレーターが出来上がるが俺は無傷。結果的にその場から一歩も動く事なく黒須と鍔迫り合う。
「久しいな、同類。元気そうで何よりだ」
「黙れッ!!お前に同類呼ばわりされる筋合いは無い!!」
「いやはや、これは手厳しい。
黒須の感情に呼応するように、背中から噴き出している炎の勢いが増していく。流石に強化だけでは押されてしまうので魔力を放出する事で力の格好を強引に釣り合わせる。
「そう邪険に扱ってくれるなよ。他の転生者たちとは違って同郷の人間だーーーその上、同類ともなれば仲良くやっていきたいと考えるのは当たり前だと思うが?」
「俺がお前と同類だと!?ふざけるな!!そんな事があってたまるか!!」
「ところがだ、そんなふざけた事があるのだよ」
後先を考える事なく魔力を炎へと変換している為に、その熱量はバリアジャケットの防御すらも貫通して肌を焼く。息をするだけで喉が焼かれ、見るだけで眼球が沸騰しそうになるーーーそれに構う事なく、顔を前へと突き出す。
「お前は英雄になりたいのだろう?あの世界で英雄へと至った究極至高の人間、ガリア・オールライトの様な存在に……いや、
「それが、どうした!!」
「ーーー故に、俺とお前は同類なのだよ」
放出している魔力の出力を上げ、足を前に踏み出す。
「あの男は、救いようの無い狂人だ。悪を認めない、悪を許せない、この手で必ず滅ぼしてやる……それを思う事は誰しもがあるだろうが、それを実行する事は誰もしない。何故なら、それは出来ないからだ。悪があるからこそ善が成り立つのであってその逆もまた然り。どちらかだけでは意味が無く、どちらも揃っていてこそ始めて善悪は意味を持つ」
更に一歩、足を前に踏み出す。
「それ以前に、あいつは異常者だ。諦めない心、不屈の精神と言えば聞こえが良いかもしれないが、あいつのそれは逸脱し過ぎている。楽を愚だと断ずるように、手助けを甘えだと断ずる様に、自らを傷つけて追い詰める姿は異常の一言に尽きる。マトモな奴が傷しか得られない道を喜んで進めると思うのか?出来ないだろうよーーーだって、苦しいのは嫌だものなぁ。誰だって楽が出来るのならそちらの方が良いに決まっている。それは生き物として当たり前の判断であって何の恥でも無いというのに」
黒須が押されている事に気付きながら炎の勢いを増す。それを上回る量の魔力を放出する事で乗り越え、更に一歩前に進む。
「故にお前は異常者だよ、黒須龍斗。異常者でしかないガリア・オールライトに憧れるまでなら良いさ。例え異常者であったとしても、誰だってカッコいい存在には憧れるものだからな……だが、それになりたいと思い、そうなろうと誓ったのなら別だ」
ここに来て拮抗していた天秤が此方に傾く。黒須から吹き荒れている炎の猛りは衝突時のそれを超えていて……しかし、俺の放出している魔力が容易くそれを凌駕している。
「異常者になりたいなどと考える人間の事を、異常者以外になんと呼べば良い?悪行を息をする様に行って、積み上げ垂れ流される屍山血河を眺めて愉快だと高笑う俺。そして異常者である英雄に焦がれなりたいと思う
「例え……ッ!!例え、そうだとしても……!!俺は……俺はぁ……ッ!!」
悲痛そうな、泣きそうな、苦しそうな顔で歯を食いしばりながらも、黒須の目からは戦う意思は消えていない。誰からも認められなくても、異常者だと罵られても、それでも自分の目指した憧憬を追い求めているのが伝わってくる。
その姿を見て満足し、力任せに剣を弾く。幸いにも飛ばされる事はなく手に握られたままであったが体勢は崩れて無防備な姿を眼前に晒している。
「その否定されたとしても貫こうとする姿には好感が持てるよ。取り敢えず、己を見つめ直してくるんだな」
そしてカスパールをホルダーにしまい、無防備な黒須の顔面に拳を叩き込む。鼻血を出しながら仰け反る黒須の脇腹にナルカミを突き立てて地面に縫い付け、マウントポジションを取って更に数発。反撃しようと動かそうとしていた手を握り潰して使えなくし、ついでに逆の腕も砕いておく。その最中で高町が黒須を助けようとシューターを放ってくるが、非殺傷設定を施されている魔法なんて恐れる必要が無い。これが砲撃魔法であったのなら話は変わっていたのだが、黒須を巻き込む事を恐れているのか使ってこない。
これがいくらかの戦闘経験を積んでいたのならそういう犠牲も必要なのだと割り切って、黒須ごと俺に向かって砲撃を撃っていたかもしれないが、この場にいる高町はまだ実戦を数度しか経験していない上に戦いのいろはを学んでいない。彼女の優しさが足を引っ張る形になっている。
そうして両腕を使えなくしてからマウントポジションを取って殴り続けた事で黒須は動かなくなった。いくらか加減はしているので死にはしないだろうが顔は打撲痕だらけで痛々しく、殴った手応えからして頭蓋骨にはヒビが入っているだろう。そんな状態でありながらもまだ動こうとしているのは感心する。
ともあれ、これで俺の知りたかった事を知れたので満足する。前回の戦闘で黒須が善の側に立っている理由を知る事が出来たが、だからと言ってそれを成せるかどうかが不安だったのだ。
だからこそ、徹底的に否定してやった。英雄になろうとしている姿を異常だと蔑み、憧れている英雄の事を異常だと侮辱した。矛盾だらけの暴論だと言われたらそうだと肯定するしか無い内容であったが、ガリア・オールライトという男を説明するのならあれで間違いない。
もしもこの程度の事で心が折れたり、自分の都合の良い事だけしか受け入れられない様な脆弱ならばこの場で殺し、適当な奴を代役として仕立てるつもりであった。悪神たちから不況を買い、消滅させられるかもしれなかったがそれでも殺すつもりであった。
だが黒須はそれを認めながらも、そうだとしてもと受け入れながらも折れる事なく向かって来た。なので生かしておく事にする。この敗北を糧にして、より一層精進して欲しい。
生まれが劣悪な環境下で無才の身でありながら、強靭な意志力を持って英雄と呼ばれるに至ったガリア・オールライトの様に。
『こちら両夜、こちら両夜。個人的な目的は達成した。あとは姉猫を引きずり出すだけだ』
『そうですか、分かりました。適当に結界破壊して行き来が出来るようにしておきますね?多分、そう離れてない所からこちらの様子を伺ってるでしょうし』
『だろうな。我が家の復讐鬼ちゃんによれば管理局と闇の書の騎士たちだけなら乱入しても逃げられるくらいには実力があるらしいし、俺とお前が乱入して混沌となってるから警戒してるんじゃないか?』
『それ以外に考えられないですからね。適当に1人になれば釣られてくれるんじゃないですか?確か、猫姉妹は結構家族愛って言うんですか?それが強かった筈ですし、無警戒でいたら感情的になって来てくれそうですよ』
『よし、なら結界壊してくれ。そこで俺が適当にでかいの打ち込んで撹乱するから』
『そろそろ見たいドラマの時間だったんで丁度良かったです』
「ふむーーー飽きた。
それだけ言うと桜木は財宝を結界に向けて射出し、来た時と同じように結界に穴を開ける。そしてそのまま、その言葉通りに、アッサリと飛行船を操作して結界の外へと出て行った。その行動が予想外だったのか呆気に取られているクロノたちとザフィーラの姿に笑いそうになるがそれを堪える。
そして紡ぐのは魔術を行使する為のキーワード。残念ながら自前の魔力は黒須との鍔迫り合いのせいで放出してしまったせいでそこそこの量しか残されていない。このままでは魔力が足りず、使おうとしている魔術は発動することが出来ずに不発に終わってしまうだろう。
無論、それを承知の上で使おうとしている。自前で足りないと言うのなら、他から持ってくれば良いだけの話だ。
コートのポケットに手を入れ、そこから蒼い宝石ーーージュエルシードを取り出して宿っている魔力だけを引っ張り出す。
ジュエルシードは願いを叶えるために使おうとすれば、使用者の意思に関係無く暴走して歪んだ形で願いを叶えるという危険物である。なので正しい使い方をする事は諦めて、魔力タンクとして使用する事にした。ジュエルシード1つで世界1つを崩壊出来るほどの魔力を宿しているのだ。魔力タンクとして使うのであれば、これ以上に使える物は他にない。
魔術の行使の気配、正確に言えば魔力の気配を感じ取った誰もが俺の方を向き、そして頭上に発生した積乱雲を見て止めようとするがもう遅い。止めるために行動に移すよりも先に、全ての準備は終わる。
非殺傷設定にはしてあるから安心してくれ。魔力ダメージだけでも相当な物だけど。
「ふぅ……」
級長津祀雷命を落とし、戦場が混乱しているうちに転移でそう離れていない廃墟に移動する。隠蔽をしている上にダミーをいくつか混ぜているのであの場にいた誰も俺がここにいる事には気付いていないだろう。唯一心配なのはアースラからの監視なのだが、それは桜木がアフターケアで誤魔化してくれるらしいので大丈夫だろう。
バレるとしてもA’sが終わるまで持てば良いし。
一仕事終えた、そういう風を装いながら廃墟に持ち込んでいたクーラーボックスからビール缶を取り出して一気に煽る。色々とはしゃぎ過ぎて火照っている身体にキンキンに冷えたビールが染み渡っていく感覚が堪らない。
「あーこの一杯の為に生きてるって感じがするわー!!キンキンに冷えたビールこそがジャスティス!!」
「ーーーそうか、だったら死ね」
空になった缶を握り潰し、次のビールへと手を伸ばそうとしたのと同時に、背後からそんな言葉をかけられて胸から手が生えてきた。
煽ってボコす。別にカガっちはリュー君の事を嫌っているわけじゃなくて、期待しているから辛辣に接してる。あれだよ、ライオンが子供を谷にポイィする感覚。あれと同じ感覚で煽ってボコしてる。
ジュエルシードってそのまま使ったらダメだけど魔力タンクとして使うならクッソ優秀なんだよなぁ……1つでも次元震起こせるだけの魔力があるから。
次回、姉猫死す!!デュエルスタンバイ!!