「ほぉ〜、あれが時空管理局の本部か」
『あれ?リョウヤってミッドに来たこと無かったの?』
「前にミッドチルダに来た時は廃墟区画の方に入り浸ってたからな。こっちの普通の都市部に来るのも、本部を見るのも初めてだ」
リーゼアリアの殺害の翌日、俺はリーゼロッテを連れてミッドチルダに来ていた。ギル・グレアムの殺害を計画しているのだが、肝心な本人に関しての情報が桜木の覚えている知識とリーゼロッテからの情報しか無いのだ。それに加えて時空管理局の本部に関しての立地的な情報も持っていなかったので、実際に現地に訪れて確認する事にしたのだ。
学校に関してはタナカの関係で日本を少し離れる事になったと説明して始業式まで休む事にしてある。普通なら疑われそうなのだが俺の授業態度が真面目だった事と、我が家の表向きの家庭事情により疑われる事なく休むことが出来た。クロノにもそれを説明し、緊急時には転移する事を条件に休みを勝ち取る事に成功した。
ミッドチルダの商業区画にあるデパートの屋上、そこに設置されている望遠鏡で遠く離れた場所に建てられている時空管理局の本部を見る。流石に幾多もの世界を管理している組織というだけはあって建物の規模は大きい。パッと見ただけでも一般用に解放されている区画や職員だけが立ち入ることの出来る区画、そして
リーゼロッテと桜木の話によればギル・グレアムは闇の書の件以外には暗い事をしていないそうなのでそういった類の区画には出入りしていないだろう。いるとするなら職員だけが立ち入れる区画の自分の仕事部屋だろうか。
「成る程成る程。よし、外見は大体理解した。次は近くに行ってみるか……服装、大丈夫だよな?」
子供姿で平日に出歩けば補導されるのは目に見えていたので大人の姿で怪しまれる事が無いようにバリアジャケットのデザイン変更機能を使ってダークグレーのスーツ姿に中折れ帽を被っている。顔はアクロ・ダカーハの……つまり成長した俺の物だが、仮面で隠しているので素顔で出歩いてもバレる事は無いだろう。
リーゼロッテは顔バレしているので人の姿ではなく猫の姿になって俺の肩に乗ってもらっている。元は茶色の毛並みだったが、髪と同じ白色に変わっているので見た事のある人間が見ても彼女だと気づく事は無いだろう。
『流石に近くまで行ったら声を掛けられるだろうけど、観光ですって言えば大丈夫だと思うよ?別の世界からの観光客もいないわけじゃないし』
「それは良かった。最悪、後先考えずに直接乗り込む事になるところだった」
『私としてはあの男を殺せたらどうでも良いのだけど』
「将来的には敵対する事になるけど、流石に今行動を起こすには準備不足過ぎる。俺は嫌だぞ?管理局に押し入ってギル・グレアムを殺す事が出来たとしても、何百人って言う局員に囲まれるなんて」
『あー……確かにそれは厳しいね』
ギル・グレアムを殺すという目的があるにしても、今の段階で管理局と事を構えるのは得策では無い。ある程度戦えたとしても、最終的には数の暴力に押し潰されるのか目に見えている。それに本部ともなれば襲撃される事を警戒して高町クラスの魔導師が警備を担当していてもおかしくは無い。質と数が揃えられている以上、考えなしに行動を起こした所で無意味なのだ。
「予定通りに今日は情報の収集だ。殺してやりたいだろうけど我慢してくれ」
『分かってるから安心して。一人で突っ込むような事はしないから……す、捨てないでね!?』
「捨てるかよ、バーカ」
ふとした事ですぐに捨てられるのでは無いかと不安になるリーゼロッテの姿に苦笑しながら、安心させるために彼女の身体を撫でてやる。若干クセが付いている毛並みだが、肌触りは良くスルリと指が通るのが心地よい。
耳元で気持ち良さそうに鳴いているリーゼロッテの毛並みを味わいながら、ギル・グレアムを殺す為の手段を頭の中で考えていた。
「分かってたつもりだったけど、警備厳しいなぁ……」
「あっち側だった時はそう思わなかったけど、こうして敵になってみると厄介だね……」
夜、管理局の偵察を終えて借りていた安宿のベッドの上で集めた情報を整理しながら、改めて強大な組織を相手する面倒さを体感していた。
今日の警備は確認出来ただけでも人間と魔法、そして機械のセンサーで外部からの侵入は完全にシャットアウトされていて、こっそりと侵入する事は不可能。唯一、一般向けに解放されている区画はその限りでは無いのだが、それ以上先に進もうと思えば局員が持っているIDが必要になっている。無理やり越えようと思えば超えれるのだが、その場合は配置されている魔導師たちが即座に出動するのが目に見えているので実質不可能である。
一応リーゼロッテがそのIDを持っているので入ろうと思えば彼女だけ入る事は不可能では無い。しかし彼女は俺に依存しているので、復讐の為だとはいえ俺から離れる事はしたがらないだろうから却下である。
「現実的なのはIDを偽造しての侵入って所だな」
「でも、どうやって偽造するの?」
「アテはある事にはあるんだけどなぁ……」
盗聴器や監視カメラなどが無い事を確認し、人の姿になったリーゼロッテに子供の姿で寄りかかって背凭れにする。
一番現実的な手段であるIDの偽造が出来るアテはある事にはある。管理局の上層部に飼われているジェイルならば上を通じて作る事が出来るだろうし、そもそもハッキングして架空の存在を作り上げる事だって出来るだろう。だが、そうしてIDを入手し、ギル・グレアムを殺したらジェイルがやったのではないかと疑われてしまう。それだけで済めば良い方で、最悪は上層部に見限られてる可能性がある。そうなればstrikers編に繋がるかどうか不明だし、愛歌に万が一があった時に設備不足で助からなかったなんて事もありえる。
「だったら、本部から出たところを狙うってのは?」
「ありはありなんだけど、出てくるか怪しい。最近は家にも帰ってないみたいだしな」
管理局の下見を終わらせた後にその足でギル・グレアムの家に向かった。いくつかのセキュリティーがあって防犯対策がされていたが、元とは言えその家に暮らしていたリーゼロッテのお陰ですべてを無視して家に入る事は出来た。家自体はハウスキーパーでも雇っているのか綺麗に掃除されていたが、冷蔵庫の中身や郵便物を確認した限りではしばらくの間、家に帰っていないようだった。自分も狙われていると警戒しているのか、それとも純粋に仕事が忙しくて帰っていないのか判断が難しいが家で待ち伏せるというのは却下。加えて、リーゼロッテの言っていた案を考えつき、家に放火してボヤ騒ぎを起こしてみたのだがギル・グレアムが管理局から出てきた様子は無かった。
重ねておいたギル・グレアムが集めていた上物の酒を1つ開けて一息つく。
「……兎も角、情報が欲しいな。ハスター、管理局にハッキングは出来るか?」
『可能ですが逆探知される可能性もあります。いくつかのサーバーを経由してアクセスしてみますが絶対にバレないとは言い切れません』
「十分、取り敢えず中の地図と局員の勤務表を見つけてくれ。リーゼロッテは休んでて良いぞ?」
「リョウヤも休まないとダメだよ?マナカからちゃんと寝るように言われてるの忘れたの?」
「あー……そうだったなぁ……」
俺がミッドチルダに行く事を決めると、愛歌はリーゼロッテに俺の世話を頼んだのだ。どうやら昨日のやり取りだけで彼女は俺に対して好意では無く依存しているだけだと気がついたようで、珍しく悔しそうな顔をせずにいつもの様子で話しかけていたのが印象的だった。
「徹夜して明日一日寝るってのは駄目?」
「ダメ。中身は兎も角、リョウヤは子供なんだから。ちゃんと寝ないと大きくなれないよ」
『私としてもマスターには最低6時間程の睡眠を取っていただきたいです。それに、今日は一日中マスターは歩きっぱなしでした。情報の収集と整理は私がしておきますので、マスターはお休みになって下さい』
「畜生、味方がいない」
「リョウヤ、私は貴方の道具だから貴方の心配をしているの」
『私としてもマスターの体調が悪くなるような事は避けたいですから。それと、風邪でも引いて帰ったら愛歌様が怖いですよ?』
「はぁ……」
ハスターとリーゼロッテが俺に作業をさせずに休ませようというのが純粋にこちらの身を案じての発言だから強く言い出すことが出来ない。これが少しでも敵愾心が混じっていれば無視していたのだが。
深々と溜息をついて、頭を搔く。そうして彼女たちを言い聞かせて作業をするよりも、いう事に従った方が良いと判断して、全身の力を抜いた。
「なら、休ませてもらうわ。リーゼロッテも休んどけよ?もしかしたら明日になったら良い考えを思い付いて即実行って事になるかもしれないしな」
「分かってるよ」
『それでは2人とも、お休みなさませ』
「あぁ、お休み」
「お休み」
そのままリーゼロッテと共にベッドに横になり、部屋の電気を消す。いつもなら寝るときは愛歌の事を抱き締めて寝ているのだが、今日に限ってはリーゼロッテに抱き付かれる形になっている。
愛歌を抱き締めて眠る時の暖かい者を抱き締めながら寝るのとは違う、暖かい者に抱き締められている感覚にむず痒さを覚えるが、これはこれで悪くないなと思いながら微睡みに身を任せることにした。
思いついたら吉日って事で、カガっちwith妹猫inミッドチルダ。スカさんと会った時は廃墟都市部をメインでウロついていたので、管理局本部の下見序でに観光していた。
おじさん、管理局に引きこもっていたらひっそりとホームレス。帰る家が無くなっても、勤めている職場で寝泊まりしてるから大丈夫だね!!でも管理局ってブラックっぽいから家があっても帰れるかどうか怪しいんだよなぁ……