黄衣の王と花の魔術師
ーーーいあ!いあ!はすたあ!!
暗闇の中、上下前後左右も分からない空間の中で四方八方から声が聞こえてくる。
ーーーはすたあ!くふあやく!ぶるぐとむ!ぶぐとらぐるん!ぶるぐとむ!!
それは讃美歌。旧支配者である〝名状しがたきもの〟、〝星間宇宙の帝王〟、〝邪悪の皇太子〟を崇め、讃えるための歌。
ーーーいあ!いあ!はすたあ!!
どうして俺はこの場にいるのだろうか。士郎さんとの鍛錬を終えてベッドにダイブした事は覚えている。そこから先の記憶が無いので、恐らく寝落ちしてしまったのだろう。なら、俺はこの場に呼び寄せられた事になる。自分の意思でここに来ようと考えた事など一度も無い。それ以外に考えられない。
「……いい加減、姿くらい見せてくれない?邪神様」
『おや、気づいていたのだな?』
呆れた様に言えば、讃美歌が途絶えて目の前に黄色いローブで全身を覆い隠した人物が現れた。見えなくても存在している事には気づいていたのだが、目にした事で改めて理解させられる。タナカの側だと言っていた悪神とは全く異なるベクトルの神。狂気、冒涜、醜悪という人間にとって忌避すべき物を脳髄にダイレクトに叩き込まれた様な衝撃を味わいながらも、その身から放たれる神性が下等な存在である俺に跪く事を要求してくる。正気を投げ捨てて、その欲求に従えば楽になれると理解し、
「
それを
仮に正気を投げ捨ててその欲求に従ったところで出来上がるのは狂信者が1人だけだ。タナカとの依頼があり、そうなれば嘆き哀しむ者たちがいるのだからそうする訳にはいかない。
『ふむ……現し身とはいえ飲み込んだか。何、そちらのデバイス?とかいう物にわざわざ我が名を付けていたのでな、暇つぶしを兼ねて呼び寄せたのだ』
「暇つぶしでたかが人間を自分の領域に呼び込むとかやめてくれませんかねぇ……」
『たかが人間?何を言うか!!現し身とはいえ我が姿を見て狂気に晒されながらも、それを飲み下して正気を保つ貴様のどこがたかが人間か!!』
「ハッ!!邪神の狂気だと?生憎と俺は悪を自称しているものでな、そんなもので押し潰される程度の柔な精神なんぞ持ち合わせていないんだよぉ!!」
ハスターが顔を近づけてきて視界いっぱいに蒼白い仮面が映る。それに対して引くのではなく、逆に顔と顔が触れそうになる程に踏み込んで行った。
虚勢でもいい、心を奮い立たせろ。ハスターを前にして少しでも臆してしまえば、その瞬間に俺はこいつの狂気に飲み込まれて戻ってこれなくなると誰に教えられた訳でもなく直感で理解していた。
そうやって数秒顔を突き合わせていると、ハスターから放たれていた狂気が僅かに和らいだ。仮面で顔は分からないが、気配からすると笑っている様だ。
『良いぞ、面白い。我が狂気に晒されながらも己を欠片も見失わなぬ強烈な自我……
「待って、それって加護っていうよりも呪いの類いじゃない?」
『精々その生き様で我を楽しませろ』
「この腐れ神ィッ!!愉悦ってんじゃねぇぞ!!ジャパニーズサブカルチャーパワーでお前の事を辱めてやるからな……!!」
『え?我何をされるの?』
日本のサブカルチャーへの力の入れようは狂気の域に入っていると思う。動物を、武器を、戦艦を、果てはグロテスクなクトゥルフ神話の邪神でさえも美少女に擬人化させてしまうから。初めて日本に来た時、サブカルチャーに触れて日本の闇の深さを感じたのが昨日の様に思い出される。
「精々萌えキャラになって触手でヌルネチョに犯される自分の姿を見て悶え苦しむが良い……!!」
『待て、それはどういうーーー』
これから自分が何をされるのか分からなくて恐怖を感じているのだろうハスターが慌てながら俺に向かって手を伸ばす。しかしその手が届く前に俺は不可視の力でその空間から弾き飛ばされた。
気がつけばそこはハスターの領域では無く、別の空間に来ていた。視界一面に咲き乱れる花、それを塔の最上階から見下す。空を見れば雲1つない青空で、暖かな日差しが強過ぎず弱過ぎず丁度いい塩梅で降り注いでいた。
「ここは……」
「ーーーやぁ、久しぶりだねキョウヤ」
ここがどこなのか理解するのと同時に、背後から抱き締められた。転生した事で縮んだ身体を必死に使う事で何とか身体の向きを変えると、そこにいた下手人は予想していた通りの人物だった。
「
薄い桜色に染まった長髪に女性らしい身体付きを隠そうともしない白いローブを羽織った女性。彼女はこの塔の主のマーリン。魔術の無い世界の住人であった俺に魔術を教え、それだけでは無く何も知らなかった俺に生きる為に必要な知識を教えてくれた女性だった。
「いやはや、君の世界から君の気配が無くなってあちこち探していたら、まさかあんなところで見つけるとはね。絡まれていたのが危ない奴だったけど、これは幸運だったと素直に喜んでおこう」
「俺も会えて嬉しいよ。ちゃんとした別れも出来なかったからな」
前もって死ぬ事が分かっていれば、死ぬかもしれないと覚悟をしていればその前に前世で別れを告げる事が出来たのだが、事故死だったのでする事ができなかった。前世で残した唯一の未練だったのだが、こうしてまた会う事が出来たので良かったと喜ぼう。
「でも世界を跨ぐ的な事してるけど大丈夫なのか?これって魔法の領域だと思うんだけど」
「ん?大丈夫だよ。知っていると思うけど、ボクと君が会っているのは夢の中だ。人間の夢っていうのは孤立している様に見えて実は繋がっていてね、それを辿ってこうして会いに来たというわけさ」
話を聞く限りではかなり無茶をしているように思えるのだが、彼女は無理なことは無理だと、無茶な事は無茶だと口にする人だ。彼女が大丈夫だと言うのなら大丈夫なのだろう。
「それなら良いんだけど」
「それにしても……キョウヤ、いつの間に君はこんなに可愛らしくなってしまったんだい?まるでボクらが最初に出会った時の様じゃないか」
「ちょっと頼まれ事があって、その結果別の世界に転生したんだよ」
「頼まれ事って……また悪役かい?」
頷く事で肯定すると、抱き締められる力がほんの少しだけ強くなった。そういえば前世でも悪役をする事を伝えたい時には似たような反応をされたなぁと懐かしむ。
「君が決めた事ならボクは何も言わない。だけど、1つだけ言わせてくれ……どうか、自分を大切にしてくれ。君はどうしても、自分の事を軽く見過ぎるからね」
「自己評価を間違えたつもりは無いんだけどなぁ……」
「評価じゃなくて価値を間違えてるんだよ。確かに、君は世間的には見れば換えの効く人間なのかもしれない。だけど、ボクや君の親友からすれば、君は何にも換えられない存在なんだ」
「言いたいのとは分かった……でもあいつ、容赦無く殺しに来てたけどな!!」
「それはそれ、これはこれと考えてるんじゃないかな?彼も彼で割と壊れた人間だったからね」
抱き締められ、久しぶりのマーリンの温もりにハスターによって削られた精神を癒していると視界が白ずんで来た。何度も経験したことのある夢の目覚めだ。
「また会えるよな?もっと話したい事があるんだ」
「また会えるさ。こうして出会えた事で君とボクの間に再び縁が出来た。あとはそれを辿れば良いだけだから、いつでも気軽に会う事が出来るよ」
「あぁ、それなら安心だ」
彼女とまた会う事ができる。そう言われた事により不安は無くなった。もう会えなくなるかもしれないと怯えながら夢から覚める様な事はしない。
「またな、マーリン」
「またね、キョウヤ」
だからこうして再会を約束する言葉を交わし、俺は夢から覚めるのだ。
色々と悩んだ結果、ここから日記形式を辞めていつも通りに戻します。日記形式はサクサク進んで良いけど味気ない気がするんだよなぁ……
悲報、デバイスにハスターと名付けたらガチモンが出てきて祝福をプレゼントされる。ガチモン様はカガっちの人生を見て愉悦する気満々だったけど、ジャパニーズサブカルチャーの闇により狂気のカウンターを食らう事になる。
カガっちの魔術の師匠マーリン登場。TSしてる?ノンノン、プロトのマーリンはCV川澄のアルトリア顔なので問題なし。カガっちが転生してから探し回ってたけど、こうして見つけられたので今度からちょくちょく夢に現れる様になるぞ!!