道化の名は必要悪   作:鎌鼬

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surprise party・3

 

「リーゼロッテ、制服は大丈夫か?」

 

「んっ……ちょっと胸がキツイけど、大丈夫」

 

 

ミッドチルダの大通りから外れた路地裏。人気の無いそこで、俺とリーゼロッテは時空管理局の制服に着替えていた。俺の方はサイズはピッタリなので問題なく着ることが出来たが、リーゼロッテの方は少し胸のサイズが合っていなかったようで悪戦苦闘しながらも制服を着る事に成功していた。一応リーゼロッテのスリーサイズを聞き、ハスターのハッキングによって得た局員の個人記録を元にしていたのだがどうやら成長していたらしい。

 

 

この事を愛歌に話したら暴走間違い無しなので胸にしまっておく事にする。そう考えながら、()()2()()()()()()が入ったポリバケツの蓋を閉める。

 

 

管理局に潜入するに当たって必要不可欠なのはIDと管理局の制服だった。ID自体は既存の物を強奪してハスターのハッキングで顔写真を俺たちの物に差し替え、奪われた事に気付かれる前に使えば良い。制服に関してはどこかで作ってもらう事を考えたが時間が足りず、さらに管理局の制服という特殊な物を求めている客が居たという情報を残したくなかったのでIDと一緒に強奪する事に決めたのだ。

 

 

昼過ぎで外食の為なのか外に出歩いていた男女の局員を路地裏に誘き寄せ、制服が汚れないように気絶させてから始末するだけの簡単なお仕事だった。殺す必要がないと思うかもしれないが、意識が戻って制服とIDを強奪された事を報告されると困るので殺す事にした。

 

 

「それにしても……リョウヤはその、独特だね?」

 

「言葉を濁さずに似合わないと言ってくれて良いぞ。どういうわけか黄色を除いて黒っぽい色しか似合わないんだよなぁ……」

 

 

管理局の制服は紺色の物なのでもしかしたらと思ったがリーゼロッテの反応を見る限りでは駄目らしい。今回は必要なので我慢して着るが、事が終わったらさっさと処分する事にしよう。

 

 

反対にリーゼロッテは管理局の制服を見事に着こなしていた。前は管理局に所属していたからというのもあるだろうが、服に着られているのでは無くてちゃんと着こなしている。胸が苦しいのか時折胸元を弄っているが、その動作でも妙な色香を漂わせている。流石にそのままでは彼女の事を知っているもの達にバレてしまうのでウィッグを付け、化粧を施して変装をしている。今の彼女なら、知り合いに出会ったとしてもリーゼ姉妹に似ている女性としか認識されないだろう。

 

 

気休めにミッドチルダの露店で買ったサングラスを掛けてみる。

 

 

「これならどうだ?」

 

「うーん……なんとかセーフって感じ?それで、これから管理局に侵入するんだよね?」

 

「あぁ、ハスターのハッキングが成功したらだけどな」

 

「本当に大丈夫なの?これまでのはただデータを見てるだけだからバレなかったかもしれないけど、流石にデータの改竄は見つかりそうだけど」

 

「そうなったらそうなったで考えはある。それに、ハッキングくらい気にしてられない程の騒ぎを起こすからな」

 

 

一応作戦は考えてはあるが、細かな部分はリーゼロッテには明かしていない。これは別に彼女を信用していないからでは無く、伝える必要が無いと判断してだ。

 

 

「さて、本部までは歩いて移動するぞ。ちょっとした散歩……いや、制服デートって言っても良いかもな」

 

「で、デートって……!!マナカにバレたら怒られるよ!!」

 

『マスター、愛歌様からメッセージが届いていますーーー分かっているわよね?との事です』

 

「遂に次元を超えるまで至ったか……!!」

 

 

愛歌の進化が別次元に天元突破しているようにしか思えない。メッセージの内容からして、そういう事があったかもしれないという予感では無く、そういう事があったと確信しているのが分かる。

 

 

帰ったら何をされるのか恐怖で体が震えるのだが、それでも止めるわけにはいかない。変に距離感を感じさせれば不自然に思われて印象に残ってしまう。ギクシャクした2人組と親しげな2人組、この2つを比べると後者の方が好印象に見えるし、容疑者探しの段階で外れ易くなる。俺たちがこれからやる事を考えれば、疑われる可能性は少しでも減らしておいた方が好都合なのだ。

 

 

だから、愛歌からのお仕置きを覚悟する為に溜息を吐きながらリーゼロッテに手を差し出す。

 

 

「ほら、行くぞ。背中を曲げるなよ?挙動不審だと怪しまれるからな」

 

「え、あ、う、うん!!」

 

 

混乱しているのか慌てているのか、若干どもりながらも差し出した手を掴んだリーゼロッテに苦笑しながら裏路地から大通りへと出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

徒歩で十数分程かけて管理局にたどり着く。制服に着て変装しているからか周りからは怪しまれる様子は無かったが、周囲からの温かい目線が気になった。恐らくは手を繋ぎながら歩いているのと恥ずかしそうにしているリーゼロッテの姿からそういう関係なのだと思い込んだのだろう。変に目立つ事にはなったが、怪しまれた様子はなかったのでこれで良しとする。

 

 

道中で胸を押さえながら倒れる男性や、苦悶の声を上げながら泣き崩れる男性の方が気にはなったが。

 

 

「ハスター、どうだ?」

 

『ーーーハッキング、及び写真の差し替え完了。セキュリティーに気づかれた様子もありません』

 

「それは良かった。どうやらこれは脅しに使うだけで良さそうだな」

 

 

ハッキングが気づかれた場合、管理局を混乱させてその間に侵入するプランを考えていたのだが成功したようなので使わなくて済みそうだ。そちらの方が簡単に侵入することは出来そうだが警戒されて今後同じ手段で侵入する事が出来なくなってしまうので使うのは控えたかった。

 

 

「良し、行くぞ」

 

「ふぅ……うん」

 

 

心を落ち着かせる為に深く息を吐き出したリーゼロッテは、次の瞬間には気持ちを切り替えていた。さっきまでの恥ずかしそうにしている素振りは欠片も見せることなく、実に堂々とした立ち振る舞いである。

 

 

正面玄関からエントランスに入り、奥に設置されているゲートを目指す。あれを潜ることで所持しているIDと管理局のデータベースでの照合が行われ、一致しなかったりそもそもIDを持っていなかったら警報が鳴って全ての入り口がロックされる仕掛けになっているとリーゼロッテは言っていた。もしもそうなってしまえば管理局の全戦力との戦闘が始まる事になる。

 

 

そうなったら厄介だなぁ、と多大な緊張と()()()()()()覚えながらーーーリーゼロッテとともにゲートを通過する。

 

 

潜り抜けてもシステムが反応する様子は無く、出入り口がロックされているように見えなかった。つまり、これで最初で最大の難関を超えた事になる。

 

 

警備が厳重であろうが中に入ってしまえばそれらは全て意味をなさなくなる。すれ違う管理局員たちも俺たちの事を同僚だと思っているのか擦れ違いざまに挨拶をする程度の反応しかしてからず、疑っている素振りを見せない。それを見る限り、リーゼロッテの事も気づいていないようだ。

 

 

最も、何人かが彼女の胸をチラ見して鼻の下を伸ばしたり、自分の胸を見て表情が抜け落ちていたりしていたが。

 

 

「いやいや、これを使わずに済んで良かった」

 

「何それ? スイッチ?」

 

「ミッドの発電施設に仕掛けておいた爆弾の遠隔装置」

 

 

通り過ぎる人が居なくなったのでポケットから出したスイッチを回して遊んでいたらリーゼロッテに聞かれたので正直に答える。もしもの時にはこれを使って発電施設を破壊し、その際に生じる混乱に乗じて管理局に侵入するつもりだった。

 

 

「……えげつないね」

 

「安心しろ、自覚はしているから。嫌がらせっていうのは相手が一番嫌がる事をしなきゃ意味が無いんだよ」

 

 

魔法至高主義を掲げているとはいえ、ミッドチルダの文明を支えているのは機械だ。重要な施設になれば個別に発電装置を備えているかもしれないが、それ以外は発電施設から送られてくる電気が無ければ今の生活は成り立たない。しかも魔法による操作ではなく、純機械による遠隔操作なので妨害される心配も無い。魔法による犯罪の対策はされているのにこういう質量兵器への対策が甘い辺り、管理世界というのは本当に歪だと思わされる。

 

 

その後、リーゼロッテの案内の元でギル・グレアムがいるであろう部屋に辿り着く。途中で局員に所在を訊ねたところ、ここ最近はずっと与えられた仕事部屋に籠っているらしく、今日も居るのではないかと教えてくれた。

 

 

引きこもっている理由が脅えているのか、それとも俺たちが来ることを確信して待ち構えているのか分からない。出来ることならば後者であると嬉しいんだけどなぁ、と考えながらノックをする。

 

 

「ーーー入り給え」

 

 

低く、それでいて落ち着いた男性の声に失礼しますと返して扉を開け、リーゼロッテと共に部屋に入る。

 

 

ギル・グレアムの部屋は思っていたよりも質素なものだった。来客用のソファーと観賞用の絵画、そして観葉植物が置かれているがそれだけで飾りっ気が無い。そして一番奥に置かれている執務机には空中にいくつものモニターを投影しながら作業をしている初老の男性がいた。

 

 

その男性を見た瞬間、リーゼロッテが激昂しながらもそれを理性で押さえ込んだのを感じた。その反応だけで、あの初老の男性がギル・グレアムであると判断するには十分だった。

 

 

そしてギル・グレアムもまた、入室した俺たちを視界に入れた瞬間にーーー正確には変装しているリーゼロッテを見た瞬間に身体を強張らせ、何かを悟った様な表情になって深く息を吐き出して脱力した。

 

 

「……そうか、次は私の番なのだな」

 

「理解してくれた様で話が早い」

 

 

ここまで来れば隠している必要は無くなった。サングラスを外して胸ポケットにしまいながら来客用のソファーに腰を下ろしてテーブルの上に組んだ足を乗せる。

 

 

「初めまして、ギル・グレアム顧問官殿。俺はアクロ・ダカーハ、ぶち殺しに来たんだけど興味が湧いたから少し話しようや」

 

 

 





厳重に警備されているところって中に入るまでが大変であって中に入れば後は楽なんだよなぁ。中で働いてる奴らも部外者がそう簡単に入れるはずが無いって考えるから制服着てれば脳死で同僚だって考えてるし。

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