道化の名は必要悪   作:鎌鼬

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surprise party・4

 

 

「あぁ、構わないとも。だが少し待ってくれるかね?今引き継ぎのあれこれをしている最中なのだ」

 

「了解」

 

 

俺の返事を聴くとギル・グレアムは再びモニターを操作する作業に戻った。もしかしたらあれを使って外部と通信を取っているのかもしれないが、それを気にすることなくソファーに座ったままで正面に掛けられている絵画を眺める。

 

 

「……いやいやいや、それで良いの!?」

 

「良いんだよ。あいつ、死ぬ事を覚悟しているからあぁして引き継ぎの作業をしてるんだぜ」

 

 

でなければあぁも忙しなくモニターを操作している理由にならない。もしも彼がこれから先生きるつもりなのなら急いで作業をする必要などなく、すぐに俺との話に移って時間を稼げば良いからだ。

 

 

ギル・グレアムは死ぬつもりでいるからこそ、それによって生じる混乱を最小限にとどめるために作業を急いでいるのだ。

 

 

「でも作業をするフリをして外に助けを呼んでるんじゃ……」

 

「部屋に入った時点でそれをさせないようにしているから大丈夫だよ。外部への通信は魔法でも機械でも出来ないようにしてある」

 

 

リーゼロッテは気がついていないようだが、俺がこの部屋に入るのと同時に部屋全体を囲うようにして悪性情報を含んだ魔力を張り巡らせている。魔法を阻害するという特性上、念話を用いての連絡は不可能。更にいつものように濃度を意図的に薄めていないので物質にも影響を及ぼすレベルであり、壁の中に通っている電話線は今頃グズグズになって使えなくなっている。

 

 

「何?それは本当か?」

 

「本当だとも。気になるなら試してみるといい」

 

「ふむーーーテストテスト、放送テスト。レジアス・ゲイズ中将は最近、〝みっどっと〟という店で赤ちゃんプレイにどハマりしている……成る程、本当の様だな」

 

「さらりと誰かの性癖バラさなかった?」

 

「レジアス・ゲイズって、陸の防衛長官じゃない……!!」

 

「防衛長官が赤ちゃんプレイにどハマりしてるのか……」

 

「どうやら陸のぞんざいな扱いにストレスが溜まっている様でそうやって発散しているらしい。ちなみにこれが証拠写真だ」

 

 

目の前にモニターが現れ、そこに涎掛けとおしゃぶりにオムツ装備の中年男性が小学生くらいにしか見えない体格の際どい格好の少女に膝枕をされながらあやされている写真が映し出される。非常に汚い絵面だが赤ちゃんプレイに勤しんでいる中年男性はすべてから解き放たれていると思ってしまうほどに無邪気な笑顔を見せ、それに付き合っている少女も外見からでは不釣り合いな程の慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。

 

 

それを指差しながらリーゼロッテの方を見れば、彼女は顔を覆い隠しながら頷いて中年男性がレジアス・ゲイズという人物である事を肯定した。

 

 

あの格好に赤ちゃんプレイ対応というところを見るに、恐らく彼らのいる場は風俗店の類なのだろう。つまり、あの小学生くらいにしか見えない少女はしっかりと成人しているという事になる。

 

 

合法ロリにバブみを感じでオギャる中年男性とかちょっと情報量が多過ぎてついていけない。

 

 

「なんでこんな社会的に抹殺出来る写真持ってるんだよ。あれか?このオッサンの尻でも狙って弱みを探してたのか?」

 

「そんなわけあるか。私の目的を達成する為に必要になるのではないかと思って張り巡らせていた情報網に引っかかっただけだ。まぁ、思いの外業が深すぎて扱いに困っていたのだがな」

 

 

そう言われれば頷くしかない。桜木とリーゼロッテから聞いたのだが、ギル・グレアムの目的は闇の書の完全封印。その為にグレーゾーンを飛び越えて完全に違法行為に当たる事にも手を出していると言っていた。目的を果たしてからバレるのなら兎も角、果たす前に計画がバレてしまえば犯罪者として捕まってしまう。それを防ぐ為の手段として取引に使えそうな材料を集めている最中に得てしまったのだろう。

 

 

「バブアス中将のことは置いておいてだ。待たせた、引き継ぎは終わったぞ」

 

「折角忘れようとしてたのにほじくり返してるんじゃねぇよ」

 

 

ただの脅迫写真として処理しようと思っていたのだがバブアス中将という呼び方で笑いそうになってしまう。リーゼロッテも顔を覆い隠しながら肩を震わせている。表情が分からないのでそれが笑いを堪えているのか、それともショックを受けているのかは判断出来ない。

 

 

「ってか早かったな。そんなにやる事少なかったのか?」

 

「いや、今日までで進めていたから早く終わっただけだ。アリアからロッテとの連絡が取れなくなったと聞いた時からこうなるのではないかと思ってな」

 

 

流石は長年の間管理局に勤めているだけの事はある。リーゼロッテとの連絡が取れなくなったその瞬間から、直感的に自分の死を予想してその後の為に行動を始めていた様だ。とんでもなく優秀であるのだろう。顧問官という役職に就いているが調べた限りでは闇の書の完全封印の件以外では後ろめたい事にも手を出しておらず、完全に自分の実力だけでその地位まで上り詰めている。

 

 

「酷い目に合わせられているのではないかと心配していたのだが……」

 

「……私を見捨てたくせに心配していただと!!ふざけるな!!」

 

 

犬歯を剥き出しにしながら怒りを露わにするリーゼロッテだが、ギル・グレアムは怒気をぶつけられても慌てる事なく、取り乱す事なく、それは当然だろうと静謐にその怒りを受け止めていた。

 

 

「否定はしない。私はアリアから君が捕らえられていると教えられた時に、彼女に君の事は知らないと言うように指示を出した。それが事実だ。今更助けるつもりだったなどと言ったところで、言い訳にしかならないだろう……それを君は望んでいるのか?そうならば幾らでも語らせてもらうが?」

 

「ッ……!!」

 

「待て」

 

 

ギル・グレアムの物言いに激昂し、衝動的に殺しそうになったリーゼロッテを言葉だけで止める。何故止めると彼女は視線だけで訴えていたが、何も言わずに睨み返せば数秒後に苛立たしげに鼻を鳴らして一歩後ろに下がった。

 

 

「悪いな、直ぐに終わるから」

 

「……どうやら、ロッテは新たな主人を見つけた様だな」

 

「使える手駒が欲しかったものでな、じっくりゆっくりと洗脳させてこっちに引きずり込ませてもらった。罵詈雑言は受け付けるぞ?」

 

「……いや、こうなる事を予想して防ぐ手立てを用意していなかった私の不手際だ。何を言ったところで負け犬の遠吠えに過ぎん。それに……洗脳されたと言っているが、ロッテは自分の意思で君に従っている様だ。彼女が自分の意思で決めたのなら、私からは何も言うまい」

 

「娘分を取られた感想は?」

 

「ーーーブチ殺してやりたい」

 

 

隠すつもりなど欠片も無い、どストレートな殺意のこもった言葉だった。顧問官という役職に就いて一線を退いているはずだが流石は歴戦の勇士と言うべきか、その気迫は思わず身震いしてしまいそうな程に荒々しく、そこいらのチンピラが吐きそうな言葉だというのにこいつならやりかねないという納得を抱かせてくれた。

 

 

「まぁご覧の通りにあいつはご機嫌斜めだからな。グダグタと長話し出来ないんで1つだけ聞かせてくれ」

 

 

ソファーから腰を上げ、ギル・グレアムの正面に立つ。

 

 

「ギル・グレアム、あんたは自分の行いを後悔しているか?闇の書を完全に封印する為に主に選ばれた普通の少女を見殺しにする事を、娘と言っても過言では無い存在を俺なんかに奪われた事を、娘分の片割れを殺された事を、お前が目的を果たす過程で失われる者たちを、欠片でも悔いているか?」

 

 

初めはギル・グレアムは俺の知っているガリア・オールライトと同類だと思っていた。しかし彼を見て、彼と言葉を交わし、それは思い違いなのでは無いかと考えた。もしも俺の考えている通りに答えるのなら、こいつはガリア・オールライトと同じ異常者(えいゆう)の素質を持っていることになる。それならばこの場では殺さず、黒須と接触させて成長を促すつもりでいるが……

 

 

「悔いているか……君は若いから分からないかもしれないが、人生というものは後悔の連続だよ。あの時、あぁすれば良かった。あの時、こうしていれば……今日まで生きていて昔を思い出す度に、やり直しを願わずにはいられない」

 

「リーゼロッテ、リーゼアリア、あとはクライド・ハラオウンの事か?」

 

「クライドの事を知っているか……いや、ロッテから聞いたのか」

 

 

ギル・グレアムがこれまで積み重ねてきた経歴を全て無下にしてまで闇の書の完全封印を目論んでいる理由は桜木とリーゼロッテから聞いているので知っている。彼は11年前に闇の書事件の際に指揮を執り、その最中でクロノの父親であるクライド・ハラオウンを死なせた事が原因で、管理局の指示ではない別の方法での完全封印を企んでいると。

 

 

「あぁ、その通りだよ。クライドの事を後悔しているからこそ、私はこうして闇の書に執着している。敵討ちだなんて高尚な理由では無く、自分が楽になりたいからという低俗な理由でな」

 

「俺からすればそれも立派な理由なんだがな」

 

 

それにギル・グレアムはそうかもなと苦笑しながら答えた。その時の疲れ切った様な顔を見て、こいつはガリア・オールライトとは別者だと悟る。

 

 

ガリア・オールライトに同じ事を聞けば彼も悔いていると答えるだろう。だがその後で彼らの犠牲は無駄にはしないと、報いる為に良き明日を作ると宣言する。何故なら彼は英雄だから。過去(うしろ)を忘れる事はしないが未来(まえ)だけを見て突き進み、誰かの為に生きて死ねる、そんな人間だったから。

 

 

それに対してギル・グレアムはどうした?これまでの経歴を見る限りでは確かに素晴らしい人間なのかもしれない。しかし、過去を悔いてやり直したいと願い、誰かの為にではなくて自分の為に行動を起こしている。とてもではないが英雄とは呼べない俗物的な人間である。

 

 

だからこそ、俺は彼に敬意を抱いた。

 

 

ギル・グレアムも見る限りではガリア・オールライトの様な異常者(えいゆう)になり得る素質を持っている。自分を意思を貫き通し、邪魔する全てを粉砕し、己が間違いを認めながらも決めたからと前進し続ける、そんな存在になる事が出来る人間だった。

 

 

人間だったーーーそう、だったのだ。素質を持っていながら、彼はそんな異常者(えいゆう)になる事なく生きている。過去を振り返って後悔に捉われ、自分が間違っている事に気がついて苦悩している。

 

 

異常者(えいゆう)堕ちる(至れる)事が出来たというのに、唯一無二の存在になる事が出来たというのに、彼はどこまでいっても俗物で、普通の人間であり続けた。光の輝きという、とても魅力的な輝きに晒されながらもそれに惹かれる事なく、どこにでもいる普遍的な存在である事を選んだのだ。

 

 

英雄という存在を知っているからこそ彼に対して蔑みでは無くて敬意を抱いた。確かに俺は悪役で、自分の事を倒してくれる英雄を待ち望んでいるが、だからといって英雄の異常性を認めているわけではない。特別という甘美な響きに惑わされる事なく、凡夫であった彼を純粋に尊敬する。

 

 

「知りたいことは知れたかね?」

 

「十分にーーーリーゼロッテ」

 

 

一言、俺の後ろで堪えていたリーゼロッテに声を掛ける。それに勘違いして飛びかかる程に感情的になっているわけでは無いらしく、殺意を漲らせながらも彼女は行動に移さなかった。

 

 

「最後に何か言いたいことは?」

 

「ロッテの事を頼む。そして、闇の書の連鎖を断ち切って欲しい」

 

「任された。だから、死ね」

 

 

ヒュンと、俺の後ろからリーゼロッテが突貫し、手刀でギル・グレアムの心臓を貫いた。一撃で即死と分かる攻撃。だが彼女の手は止まらずに、そのまま絶命したギル・グレアムの身体を八つ当たりする様に素手で解体を始める。骨を砕き、肉を引き千切り、臓物をブチまける。

 

 

そうして数分後には部屋はギル・グレアムだった肉片と血液で真紅に染め上げられる。下手人であるリーゼロッテはどこか満足げに、しかし目からは涙を流しながら自身が模様替えした部屋を見ている。

 

 

本音を言えば早々にこの場から立ち去りたかったが、感慨深そうにギル・グレアムのいた場所を見つめている彼女の姿を見ているとそんなことは言い出せずに、彼女が満足するまでこの部屋にとどまることにした。

 

 

 






実は英雄の素質を持っていたというおじさん。一歩間違えれば〝まだだ〟と叫んで覚醒する光属性のおじさんになっていたと言う。ありがとう!!光堕ちしないでくれて!!

ところで陸の防衛長官でありながら合法ロリにバブみを感じてオギャるバブアス中将とかいう業の深い存在を生み出してしまったのだが……どうしよう。

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