道化の名は必要悪   作:鎌鼬

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surprise party・6

 

 

八神はやてが入院したと、月村から教えられたと愛歌から連絡があった。本当だったら俺に直接連絡を取りたかったらしいのだが、生憎と地球の俺はタナカに連れられて世界中を飛び回っている設定なので、そして実際には地球どころか別の世界にいるので表向きには連絡を取る事が出来ないので愛歌を通じて教えてくれたらしい。

 

 

「八神が入院したのか……桜木は何か言ってるか?」

 

『外見は物語通りだってワイングラス片手につまらなさそうにしていたわね。内心は知っている通りの展開で安心していたみたいだけど』

 

「物語通りの展開、ってことは闇の書の覚醒もその通りになりそうだな」

 

 

普通ならば世界が違えば連絡を取ることは不可能だが、愛歌は万が一の為にとジェイルから渡されたデバイスがあるので俺と通信することが出来ている。空中に投影されているモニターに映る愛歌の顔は、少しばかり苦々しい物になっていた。

 

 

初めての邂逅がアレだったが、愛歌は八神の事を友人だと認めているのだ。助けるつもりでいるとはいえ、現在進行形で苦しんでいる八神の事を思えば手放しで受け入れられる事ではないだろう。

 

 

『それで明日にお見舞いに行くって事になったんだけど……』

 

「マジで?」

 

 

入院した友人のお見舞いに行く。それ自体は何もおかしな事ではなく、寧ろ行われるべき事だと思う。しかし、八神は闇の書の主である。万が一に備えて彼女の側には闇の書の騎士たちか八神めぐりが控えているだろう。後者ならば原作を知っているので大丈夫かもしれないが、もしも前者の誰かだった場合が問題だ。蒐集すれば八神が助かると信じているであろう彼女たちからすれば愛歌の存在は垂涎物である。リンカーコアが無いことを認めず、焦りで手を出してくる可能性がある。

 

 

安全を考えるのであれば愛歌をお見舞いに行かせなければいい。だが、モニターに映る彼女の顔は、その事を理解しながらもお見舞いに行きたいと訴えていた。

 

 

「あー……俺とイレイン、桜木のバックアップありなら大丈夫かな?」

 

『止めろとは言わないのね』

 

「本当だったらそれが一番なんだけどな。けど、愛歌が行きたいと言ってるのなら止めやしないさ。まぁ、そうするなら俺がそっちにいる理由が必要になるけどなぁ……」

 

『近くの国にいて私からの連絡を聞いて慌てて帰ってきたって事にしたら良いんじゃないかしら?』

 

「それがいいな……良し、それなら韓国で即席キムチのセールスやってたって事にしておくか」

 

『どうしてキムチの本場で即席キムチのセールスをしてるのよ……』

 

 

理由なんてその場で考えた適当な物でしかない。大切なのは近くに居たから駆けつけたという事で、適当な部分は冗談としてでも捉えてくれるだろう。

 

 

八神の性格ならそうしてくれると信じている。ノリツッコミでもしてくれそうだ。

 

 

そうして明日の合流する時間などを話して通信を切った。他に報告する事など無かった。バブアス・オギャア中将の事はここぞという時に明かして笑いのタネにしよう。

 

 

「ってなわけだ。明日には俺だけだけど地球に帰るから」

 

「リョウヤだけって……わ、私は!?」

 

「連れて行きたいんだけどねー、ほら、ギル・グレアムのアレがあるから」

 

 

ギル・グレアムを殺害したその翌日に、彼の死がリーゼアリアと共に報道された。流石に面子のためなのか時空管理局の本部で殺されたとは発表されていなかったが、誰かの手による殺害だと明確に告げていた。恐らくは地球にいるクロノたちにもそれは伝わっているのだろうが、闇の書の件を優先しているのかミッドチルダに帰る素振りを見せていない。

 

 

そんな中でギル・グレアムの使い魔であったリーゼロッテを連れ回すのはあまりにもリスキー過ぎる。前のように家の中にだけ居させれば良いかもしれないが、ここから闇の書の覚醒までは家には帰らずに動き回るつもりでいる。依存を拗らせて常に側にいないと情緒不安定になるリーゼロッテの存在は正直に言って邪魔にしかならないのだ。

 

 

「お前は頭が良いから分かるだろ?俺と一緒に居ることが俺にとって不都合だって事がさ。だから、少しの間で良いからここで大人しくしてくれ。何、すぐに会えるからさ」

 

「す、捨てない?私の事捨てない?」

 

「バッカ、誰が捨てるかよ。お前は俺の大事な大事な手駒なんだ。前にも言った通り、死ぬまでお前は俺の者だ。捨てられるかどうか悩んでる暇があるのなら、捨てられないように自分でも磨いてたらどうだろ?丁度いい相手がそこに居るしな」

 

 

指を指した先にいるのは宴会芸のつもりなのか玉乗りをして両手で器用に棒を持ちながら、その先端で皿を回しているパンダの姿。ふざけたような話であるが、あのパンダの実力は本物だ。無印編までは近接戦に関しては不安があったのだが、ナルカミとレギオンのデータ収集の際にあのパンダと戦っているうちにその不安は無くなってしまったのだから。

 

 

リーゼロッテは元より魔法は不得手で近接戦の方が得意だと聞いている。それならばあのパンダの相手をすれば何かしら得られるものがあるはずだ。

 

 

「うぅ……絶対、絶対迎えに来てよね!!約束だからね!!」

 

「おう、好きなだけハグして好きなだけマーキングするといいさ」

 

 

寂しい思いをさせているのだからそのくらいはさせても良いだろう。いつものスキンシップが多少過激になった程度で許されるのなら安いものだ。不安があるとするなら愛歌の存在だが……多分大丈夫だろう。あいつも何かとリーゼロッテの事を可愛がっていたし。

 

 

胸へのヘイトは凄かったが。

 

 

「まぁそれも明日の話だ。今日はどうしたい?」

 

「……一緒にお風呂に入って、一緒に寝る」

 

「了解」

 

 

不貞腐れたように、だけど恐る恐ると言った様子でそう言ったリーゼロッテの姿を見て苦笑してしまう。肉体年齢だけならば間違いなく彼女の方が年上だと言うのに、こうして見せる姿があまりにも幼過ぎて可愛らしいのだ。

 

 

リーゼアリアではなく、リーゼロッテを手駒に引き入れて本当に良かったと思う。

 

 

「ところでお見舞いなんて初めて行くんだけどさ、何持って行ったらいいと思う?お菓子とか?」

 

「入院してるって事は食事制限とかされてるかもしれないから……お花とかがいいんじゃないかな?」

 

「イヤイヤ、ここは私が開発した服だけが透けて見える特性コンタクトレンズをだね……」

 

 

しれっと、何の前触れもなくジェイルが話に入り込んで来たが、白熊が彼の首根っこを掴んで引きずって行った事で強制的に退場させられた。その時に〝納期が迫っている〟と書かれたスケッチブックが見えたので何かしらのオーダーを管理局の上層部からされているのだろう。

 

 

少しだけ服だけが透けて見えるコンタクトレンズに後ろ髪を引かれながら、八神のお見舞いに何を持って行くかをリーゼロッテと話し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤッホー」

 

 

ノックをして返事がされた事を確認してから引き戸を開けて八神の病室に入る。真っ先に目に入ったのはベッドの上で身体を起こして本を読んでいる八神と、椅子に座っているシグナムの姿。まだ話の通じる相手であった事に内心で安堵する。

 

 

「こんにちわ、はやてちゃん。お見舞いに来たよ」

 

「すずかちゃん、わざわざ来てくれておおきに」

 

「これ私たちからのお見舞いのお花よ。百合の花で良かったかしら?」

 

「取り敢えず喧嘩売っとることだけは分かったわ」

 

「冗談よ。本当はこっちのプリザーブドフラワーだから」

 

 

愛歌と月村は事前に2人で話し合って何を持って行くのか決めていたようで、百合の花束を部屋の隅に置いて箱詰めにされた造花を手渡していた。

 

 

「俺からはこれだな」

 

「フルーツの詰め合わせに……何やこれ?何が入ってるん?」

 

「イレインが作ったドリアンキムチだそうだ」

 

「ドリアンキムチ」

 

「一応試食はしてみたけどめっちゃ臭かったしめっちゃ癖があった。けど、それも慣れたら中々いける」

 

「病院で開けたらテロ扱いされそうやなぁ……お姉ちゃんに喰わせたろ」

 

 

フルーツの詰め合わせは枕元にあった机に置かれたが、ドリアンキムチ入りのパックはシグナムの手によって冷蔵庫に封印されてしまった。

 

 

「まだ浅くて年末ごろが食べ頃らしいから、それまでに退院しろよ?」

 

「そっかぁ……うん、楽しみにしとくわ」

 

 

わざわざドリアンキムチという癖の強過ぎる物を持ってきた意図を理解してくれたようで、八神は微笑んでくれた。取り敢えず生きる意欲が無くなった訳ではない事に安心する。バッドエンドを破壊するつもりではいるが、だからといって救われる者が生きる意志を持っていないのでは話にならない。桜木の話によれば、この頃の彼女は闇の書の侵食による痛みに苦しんでいると聞いていたが、これならば救う意味がある。

 

 

《カガミ》

 

《シグナムか》

 

 

愛歌と月村が八神と話を始めたのでお茶でも淹れようと支度をしていると、フルーツの皮を剥いているシグナムから念話があった。愛歌と八神は反応していないところを見る限りでは、俺だけに向けられているようだ。

 

 

《ムシのいい話だとは理解している。何か求めるものがあれば応じよう……だから、主の事を管理局には明かさないで欲しい》

 

《安心しろ。今日の俺は八神の友達として来ただけだからな。協力者として来たわけじゃないから管理局には言わないさ》

 

 

今もクロノたちが必死になってシグナムたちの事を、そして彼女たちの主である八神の事を捜索しているのを承知の上でシグナムの懇願に応じてやる。

 

 

《……こちらとしてはありがたいが、良いのか?》

 

《良いんだよ。利害の一致ってヤツだから》

 

 

俺が目指している結末を迎える為にはまだ管理局に八神の存在を明かさない方が都合が良い。理由はどうであれ、八神の存在を秘匿したいシグナムと目的は一致している。

 

 

シグナムは俺の事を警戒するだろう。管理局の協力者でありながら、敵対している自分たちの存在を明かさずにいるのだから。しかし怪しみながらも彼女はそれを警戒する事しか出来ない。八神の現在地を知っている俺に、そして俺に近いし存在に手を出せば、管理局に八神の存在を明かされると理解しているから。怪しいと、何か企んでいると警戒しながらも、それ以上の事をする事が出来ないで、俺の機嫌を損ねないように下手に出るしかない。

 

 

シグナムの訝しむような目線を感じながらも、目の前の愛歌と月村が八神と楽しそうに話している姿を目に焼き付ける。どこにでもあるような自然でありふれた光景。そんな光景こそが、俺にとっては何よりも眩しかったから。

 

 

人としての理性を投げ捨てた、獣の理が支配するこの世の地獄。そこで俺の憧れである男が涙を流しながら語っていた光景が目の前にあるのだから。

 

 

だからこそ、この光景が続くように願っている。これから先、八神には悲しみと苦しみが待ち受けている。しかし、それらを乗り越えた先にはこの光景と同じ物があるはずだからと信じて。

 

 

 






スカさんが服だけが透けて見えるコンタクトレンズを開発したらしい。まったく……あのマッドは本当に天才だなぁ!!(褒め言葉

高評価が続いていたと思っていたのに低評価が1つ入れられただけで前よりも下がってしまった……評価をくれよぉ!!(定期的な発病

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