沢山の評価ありがとね!!よく訓練された読者たちで作者はとっても嬉しいよ!!
オラァ!!
八神のお見舞いを数日前に終わった。やはりというべきかシグナム曰く、八神の状態は闇の書の侵食が原因らしい。こちらは一応手を貸さないが彼女たちの存在を明かさず、それを条件に向こう側もこちらに手を出さない事を約束させた。口約束でしっかりとした契約という訳ではないが、騎士たちの将であるシグナムはなにかと義理堅い性格をしている。少なくとも俺から約束を破らない限り、向こうも約束を破る事はないだろう。
そう設定されているからなのか難儀な性格をしていると思う。その高潔さを捨てて外道に堕ちれば今よりも蒐集のペースが格段に向上するというのに。しかし、それは逆説的に彼女たちがまだ道から外れていないという事の証左でもあるので喜ばしい事なのだが。
12月に入って本格的に寒さの厳しくなって来た中で、海鳴の都市部に聳え立っているビルの屋上を陣取りながら夜の街を見下ろす。高所を陣取るというのは基本的にそれだけで優位に立てるのだ。360度開けた景色を見渡せば、視界の中に管理局の魔導師の姿が見える。どうやら騎士たちが地球を拠点にしているのではないかと考えての行動らしい。
今は大人の姿ではなく子供の姿でここにいるのだが認識阻害の魔術を行使しているので管理局に見つかる事はない。協力者なので堂々としていれば良いのでは無いかと思ったが、クロノには帰ってきた事は告げずに俺は未だに海外にタナカと一緒にいるのだ。八神のお見舞いを理由に予定を切り上げた事を伝えれば、そこから八神に対して捜査の手が伸びる可能性がある。まだ八神=闇の書の主だと明かす事は出来ないのでこうするしか無かったのだ。
「ーーー
寒空の中でビュンビュン飛び回っている局員たちに若干同情しながら同調を開始する。リンカーコアではなく魔術回路が唸りを上げて魔力を精製し、それと同時に意識が僅かにブレて夢見心地になり、
繋がったことを感覚的に理解し、片目を閉じて別の場所にいる自分の片目を開く。そこは深い深い闇の中だった。一寸先は闇という言葉を体現したかのように漆黒でありながら、光源がない筈なのに自分の姿をしっかりと視認出来ているという不思議空間。
そこは闇の書の内部だった。
『成功成功っと。初めてやってみたけどやれば出来るものだな』
以前にアクロ・ダカーハとしてヴィータを倒した時に彼女が集めていた魔力にとある仕掛けを施していた。それは俺の起源である《干渉》による魂の分割。魂を物質化するのならそれは魔術では無くて魔法の領域だとマーリンから教わったが、分割程度ならば魔術でもどうにかなると言っていた事を思い出して魂を分割し、ヴィータの集めていた魔力に《干渉》して忍び込ませておいたのだ。
実験的な意味合いでの仕掛けだったのだが、結果としてその試みは成功した。魔力が闇の書に蒐集された事で俺の魂も一緒に闇の書に取り込まれた。異物として排除される可能性や、魔力と一緒くたにされて失敗する可能性を考えていたのだが杞憂に終わったようだ。
外にいる自分の身体の機能を最低限にして、闇の書の内部にいる自分をメインとして動かす。比較対象が存在しないので定かでは無いが、今の身体は子供の姿であった。本当なら大人の姿で活動したいのだが、この場にいるのは俺だけでデバイスであるハスターたちは連れてくることが出来なかった。
戦闘にはかなり不安が残るが最悪こちらの俺は自壊させれば問題ない。そう考えて闇の書の深部を目指して潜行する。
今回の目的は闇の書、そして闇の書の原点である夜天の書のデータである。ジェイルから頼まれる以前に俺はデータをどうにかして手に入れる事が出来ないかと考えていた。目を付けているのは闇の書と夜天の書が持つ魔法・スキルの蒐集機能。本人の適正の有無を問わずに蒐集した魔法やスキルが使用できる機能を持っているのだ。出来る事なら完全に、出来なくとも断片的にでも蒐集機能に関するデータが欲しい。
外部からの主である八神以外のアクセスは認めず、無理にしようとすれば主を飲み込んで転生してしまうらしいのだが、俺の方法は内部からの干渉であってそれに当て嵌まらない。試しに幾らかのデータをコピーしてみたのだが、システムからの干渉は感じられなかった。そもそも俺にシステムを弄る意思は無く、ただデータをコピーしたいだけなのだから許して欲しいのだが。
『にしても、予想はしていたが酷いこと酷いこと』
普通の視界で見ただけならば、闇の書の内部は何もない暗い空間であるが、霊視の魔眼を通して見た場合はそうでは無い。
幽霊ーーーいや、死霊や悪霊と呼べる霊体が視界一面に蠢いていた。
どれもこれもが士郎さんやアリシアのように自我を持っていない。長い時間を経て失くしてしまったのか、それとも他の霊体に当てられて失ったのかは定かではないが、どちらにせよここに蠢いているのはただ死に間際の苦しみを叫び、生者を嫉み、
そしてこれが見える俺は、これらをどうにかしてやろうとは考えない。助けを求められたのならば気まぐれに救ってやろうかと考える事もあるだろうが、これらは死に間際の苦しみに囚われているだけでしかない。自分たちが死んだ事を認められず、生きている者を妬むだけの現象に他ならない。例えどうにかしてやろうと思って手を伸ばしたところで、これらは嬉々として自分たちと同じようにしてやろうと手を伸ばした者を引き摺り込むだけだ。
救いようが無く、どうしようもなく救えない存在だった。
何もしないと決めた以上、視界に映ってるこれらはただの邪魔者でしかない。意識的に見えているものを排除し、視界一杯に広がっていた苦しむ死霊たちを映らないようにする。そうして視界が元の暗い空間に戻った事を確認し、再び求めているデータを探しながら潜行を始める。
『これは違うーーーこれもダメーーーこれは惜しいけど違う……クソ、ちゃんとデータの整理くらいしておけよな』
魔力を蒐集している影響なのか、得られるデータはどれもが闇の書のものでは無くて他者から蒐集したデータばかりである。時折闇の書のデータも見つかることには見つかるのだが、求めているものとは違うので落胆しながら、欲しがっているジェイルのために一応コピーしておく。
別に無差別にデータをコピーする事も出来なくは無いが、そのデータを保存しているのは俺の本体の脳である。容量が限られているので出来る限りは目的のデータ以外のコピーを取りたくないのが本音だ。ハスターがいれば無差別にコピーする事も出来たのだが、それは無い物ねだりでしかない。
蒐集機能に関するデータを、あるいは闇の書独自の機能に関するデータを求めて潜行を続ける。その最中で銀髪赤眼の女性を見かけた。恐らくは夜天の書の管制人格だろう。彼女に俺の存在がバレそうになったが、気配を消してやり過ごす。生憎と今の段階で彼女と接触するつもりはないのだ。可能性は低いのだが、彼女から八神に俺の事が伝わるかもしれない。それは俺にとって好ましくない。
出来る事なら彼女がどういう心境なのか知りたかったが、それは最終決戦の時までのお楽しみとしておこう。
そうして潜行を続ける事数十分。ようやくお目当ての蒐集機能に関するデータを見つけることが出来た。幸か不幸か、転生機能に関するデータもその近くで発見する。
『蒐集機能に関しては完コピだな。転生機能は……どうしようか。ジェイルに渡してもろくな事にならなさそうだしなぁ……よし、コピーは取らないでおこう。蒐集機能と夜天の書の設計図を渡せば満足するだろう』
蒐集機能に関しては兎も角、転生機能はあまりにも害悪すぎる。ジェイルにこれを渡した場合、死んでも即座に転生する事が出来るような装置を作り出してもおかしくない。幸いにもジェイルの興味が惹けそうな物は見つかったのでこれで我慢してもらう事にしよう。
『ーーーッ、ーーー……』
『ん?』
目当ての物は見つかったのでこれ以上ここに居る理由は無い。なのでこちらの俺を破棄して元に戻ろうとしたのだが、声が聞こえた気がした。
気のせいな可能性はあるが、万が一を考えて耳を澄ませる。するとか細く、消えてしまいそうな物ではあるが確かに声が聞こえて来た。
『誰だ?管制人格は上にいるはずだけど……』
記憶を漁ってもこの現象を起こす事が出来る存在が思い当たらない。俺が思い出せないだけで桜木なら知っているかもしれないが、この状態では桜木と連絡を取る事が出来ない。一旦接続を解除して聞くことはできるが、深くに潜りすぎたせいで再びこちらの俺と接続する事が出来るか怪しいのだ。
探るか、それとも引くか。それによって得られるメリットと生じるデメリットとを秤にかけ……最終的に好奇心で探る事を決意し、声がした方へと進んでいく事にした。
『これは……なんともまぁ醜悪な……』
声がした方へと進み続け、見つけたものを見てそんな感想しか出てこなかった。
そこにあったのは空中に浮かぶ黒い球体。しかし近くによればそれは無数の蛇が絡み合って出来ているのが分かる。それだけなら醜悪なんて感想は出てこなかったが、問題なのはそれの状態だった。上ではただ蠢いていただけの死霊が、その球体に吸い込まれている。始めて見る現象でどうなっているのか理解出来ないが、現実で同じような事があれば間違いなく周囲に悪影響を及ぼすと断言出来るほどに、それは呪われていた。
『ーーーお前は、誰だ?』
『なんだ喋れるのか……喋れるのか!?どうやって声出してるの!?』
『音など所詮は振動に過ぎない。振動を起こす事が出来れば声帯が無くとも会話する事が出来るーーー重ねて問いかける。お前は誰だ?』
無視する事が出来たのにわざわざ律儀に球体は俺の疑問に答えてくれた。見た目や現在の状態がヤバいだけで思いの他生真面目な性格らしい。それに今ので少なくとも会話できる知性と、周囲を把握出来るだけの理性がある事が理解出来た。好奇心でここまで来た以上、最低でもこの正体を知って帰らなければならないので会話を続ける事にする。
『人に名前を聞くときにはまずは自分から。それが礼儀だぞ?』
『……済まないが、名乗る事は出来ない。名乗れる名が無いのだ』
『名前が無い、ね……だったら呼び名とかは?お前には名前は無くても、他の奴はなんて呼んでるんだ?』
『呼ばれた名か……それならばある。
ナハトヴァール、その名前に聞き覚えがあった。桜木から教えられた闇の書の自動防衛運用システムと同じ名前で、闇の書が暴走する要因の1つであると。
『ナハトヴァールね……俺は加賀美両夜だ。出来る事なら、俺のことは内緒にしてくれると助かるんだが……』
『安心しろ、私は誰とも意思の疎通を取ることはできない……いや、そもそもヴォルケンリッターは愚か管制人格であっても私に意思がある事を知らないだろう』
『知らない?AIとして初めから組み込まれていたんじゃないのか?』
『そうだ。私という存在は初めから存在していなかった。闇の書の自動防衛運用システムとして設計され、実用されていく内に自我に目覚めたのだ』
その言葉に思わず口笛を吹いてしまう。ナハトヴァールの言葉が本当なら、その生まれは紛れもなく偶然の産物であるから。誰の意思や意図が絡んだわけでも無い、純然たる奇跡の賜物。例えナハトヴァールが産まれたのと同じ回数繰り返したとしても、同じ結果になるとは限らない。
『成る程成る程。で、どうしてお前は俺を呼び出したんだ?』
『……さて、どうしてだろうな?正直なところ、私もどうしてカガミを呼んだのか理解していない。だが、話し相手になってくれると嬉しい。自我を得てから初めての会話なのだ』
『あぁ、良いぜ。管制人格に気付かれるまでならな』
その時ナハトヴァールに対して抱いた感情が同情なのか、それとも哀れみなのか分からない。しかし、初めて会話をするとどこか寂しげに話す姿を見て放っておくことは出来なかったと思ってしまったのだ。
俺と話すことでその寂しさが少しでも薄れるのなら、幾らでも話してやろう。
『でも話すっても何を話すんだ?』
『ふむ……それならばカガミの趣味を教えてくれないか?』
『お見合いかッ!!……しょうがない、それじゃあバブアス・オギャアという深過ぎる闇を抱えた人間の事を話してやろう』
型月の魔術って割と魂とかどうにか出来るよなぁって思ってカガっちの忘れ去られた起源と組み合わせて闇の書の中にのりめーしてみた。出来る……よね?魔法は魂の物質化ってだけだし、分割くらいなら出来そうだし。
闇の書はどういう事情であれ、沢山の人間を殺している事に変わりはないので当然恨まれまくっている。それこそ、lightの神座シリーズで言うところの聖遺物になれるくらいに。やらかした規模考えたら呪いのアイテムになっても当然なんだけどな!!
ナハトヴァールは産まれてからは長いけど、外部との接触が無いので割と無知っ子である。そんな無知っ子にバブアス中将の闇を教えるカガっちの外道っぷりよ……