道化の名は必要悪   作:鎌鼬

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darkness heart・2

 

 

『ーーーそれで全裸で徘徊してた桜木が愛歌の愛歌ちゃんウィップに滅多打ちにされてからイレインにボコボコにされたんだけどよ、本人は〝(オレ)の究極美の肉体を見て恥ずかしんでいるのだな?フフッ……〟なんて簀巻きにされながら開き直ってやがってよ?だけどそれは口ではそうであって、内心じゃあ〝もうお婿に行けない……!!〟って死にそうになってたんだぜ?』

 

『難儀な体質をしているのだな、そのサクラギという者は』

 

 

ナハトヴァールと話し始めてどの位の時間が経ったか。ここには時計がないので分からないが、相当な時間話している気がする。とは言ってもナハトヴァールは外部から情報を得ることが出来ないので話題を持っておらず、俺がひたすら話し続け、それをナハトヴァールが相打ちするような形式になっている。

 

 

そして話した結果、ナハトヴァールはまだまだ未成熟だという事に気付いた。

 

 

バブアス・オギャアやキャストオフ桜木の話をしても笑うどころか引いている気配すら見せない。普通の感性を持っていればどちらかの反応をするはずなのだが、ナハトヴァールはどちらにも興味を惹かれているような反応を見せただけだった。自我を得てからそれなりに時間が経っているようで落ち着きが見られるものの、肝心なところが成長しておらずに幼いままである。知識はそれなりにインストールされているようだが、どれもが〝知っているだけ〟の状態であってそれを見たことも、触れたことも、感じた事も無いのだ。

 

 

非常にもったいないような気がするが、ナハトヴァールは何も出来なかったのだから当然かと納得する。

 

 

ナハトヴァールには自由が無かった。闇の書の自動防衛運用システムとして設計され、闇の書が暴走する度にそれをアシストするように顕現して、破壊と殺戮を振りまくだけの存在。自我を得たところでその役割から解放された訳ではなく、ただ役割に縛られて存在するだけでしか無かった。

 

 

その事にナハトヴァールは文句は言わないだろう。何せ、ナハトヴァールはそうする為に作り出された存在なのだから。銃が自我を得ても銃としての使われ方をしている事が当たり前であるように、ナハトヴァールもまたそうであれと願われて作り出されたコンセプトに従って行動しているだけなのだ。

 

 

文句を言うとしたらーーー俺だけだ。

 

 

『なぁ、ナハトヴァール。お前さ、もっと色んな事を知りたくないか?』

 

『どう言う事だ?』

 

『こんな薄気味悪いところに閉じ込められてるだけじゃつまらんだろ?身体を自由に動かして、自分の思うように動き、やりたい事をやってみようと思わないか?』

 

 

ナハトヴァールに興味を惹かれ、その境遇に同情し、解放されたらどうなるのかを知りたくなってしまった。

 

 

『ーーー不可能だ。私の役割は防衛運用システムである事。そしてそもそも私は肉体を持たない意志だけの存在だ。その気になれば暴走の際に顕現した管制人格の身体の支配権を奪うことが出来るだろうが、そんな事をしている時間は許されていない』

 

『違う、違うんだよ。可能か不可能か、出来るか出来ないかの話じゃない。()()()()()()()()()()()()。そう言う次元の話をしているんだ』

 

 

機械的に言えばナハトヴァールの意見は間違っていない。俺の言ったことは身体を持っていないナハトヴァールには全て不可能な事なのだ。実に機械的な判断だ。妨げとなるような感情的な考えを一切盛り込む事無く、現状を把握して条件を理解して、正しい答えに辿り着いてそれに悲観する事なく当たり前だと受け入れている。

 

 

それはーーーなんとまぁつまらないことか。

 

 

『可能不可能と判断する前に自分がそうならと考えた方は無かったか?自分がその状況の当事者だったらこうしてみたいともしもを思い描いたことは無かったか?出来るか出来ないかじゃない、やってみたいなぁと漠然と考えた事は無かったか?』

 

『……無い、訳では無い。だが、私にはそれをすることが許されていない。そんな事を思考するだけリソースの無駄だ』

 

『良いから聞かせてくれよ。やりたいか、それともやりたく無いかを』

 

 

ナハトヴァールからは返事は帰ってこない。しかしそれは機嫌を損ねたから口を閉ざしている訳ではなく、思案しているから喋らないのだと理解出来た。

 

 

ここがナハトヴァールにとっての分水嶺なのだろう。ただのシステムとしてこのまま終わる事を選ぶか、それとも意思を持った一個体として続く事を選ぶか。どちらを選ぶのか、それはナハトヴァールの意思を尊重する。選択を押し付けたのは俺ではあるが、最終的に選ぶのは他の誰でも無いナハトヴァール自身なのだから。

 

 

『ーーー私は……』

 

 

そうして長い沈黙を経て、ナハトヴァールは恐る恐ると言った具合で、口を開いた。

 

 

『私は……もし、叶うのなら……自由に生きてみたい。二本の足で地面に立って、二本の手で何かを掴みたい。センサーでは無くて目で物を見て、色んな物を味わってみたい』

 

『苦しいかもしれないぞ?ここに引きこもっていれば良かったと後悔するかもしれないぞ?』

 

『だとしても、その後悔を、その苦労を味わってみたいーーー私は、生きたい』

 

 

その言葉は後ろめたさを感じさせながらも、堂々と自分の意思を伝えていた。システムから生まれたナハトヴァールはAIであり、AIであるが故に最善を選ぶ。そのナハトヴァールが間違っていると自覚しながらも、自分の意思を言葉にしたのだ。

 

 

肉体では無い、魂だけの身体を思わず震わせる。あぁ、素晴らしい。()()()()()()()()()()と、魂がナハトヴァールの行動に興奮で震える。

 

 

『あぁ……気に入った。気に入ったぞ、ナハトヴァール』

 

 

機械的に判断して行動するだけの人形など興味が無い。自分の意思を持ち、それが間違っていると自覚しながらも、されども折れないその意思こそ、最も素晴らしいものだと信仰しているが故に。

 

 

例えナハトヴァール自身がそれが間違っていると自覚していたとしても、讃えよう。素晴らしいと叫ぼう。それで良いと認めよう。

 

 

『生きたいと言うのなら、俺がそれを叶えてやる。手段は持っていないが、それが出来そうな奴には心当たりがあるからな』

 

 

幸運な事にジェイルには貸しがある。それを理由にクローン技術を応用して肉体を作らせ、そこにナハトヴァールを入れれば良い。それが不可能でも魔術でホムンクルスを作ればナハトヴァールの身体を作る事は出来る。

 

 

『……出来るのか?本当に?』

 

『最悪は俺の身体にお前を移せば良いだけの話だ。その代わりと言っちゃなんだがーーー()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『闇の書の自動防衛運用システムが欲しいと言うことか?』

 

『そんな物要るかよ。俺が欲しいのはお前の意思だけだ。道具として使われたいのなら壊れ果てるまで道具として使ってやろう。生物として扱われたいのなら死に果てるまで生物として扱ってやろう』

 

 

だから、と言葉を続けてナハトヴァールの表面で蠢く蛇に触れるか触れないかの所まで手を伸ばす。

 

 

『お前の全てを、俺にくれ』

 

 

再び訪れる沈黙。ナハトヴァールは戸惑っているのか、球体だったはずのそれを歪ませながら思案しているようだった。とは言っても、それは俺を疑ってあるのではないのだろう。疑うという考えが出来るほど、ナハトヴァールは成熟している様には感じられない。本当に俺の手を取って良いのか悩んでいるように見えた。

 

 

『何故だ……何故私を求める?闇の書そのものでは無く、管制人格でも無く、自動防衛運用システムでも無い。ただのバグによって生じた私を、何故求める?』

 

『そんな物よりもお前の方が欲しくなった。それだけの話だ』

 

 

利益損害を全て無視してでもナハトヴァールの方が欲しくなったのだ。万人からすればナハトヴァールの挙げた物の方が価値があると考え、それらを欲しいと求めるだろう。闇の書も、管制人格も、自動防衛運用システムも、危険性さえ度外視してしまえば値が付けられない程の価値がある事は重々承知している。

 

 

だが、それら全てと比べたとしても、ナハトヴァールの方が素晴らしいと感じたのだ。それ以外に理由は無く、それ以外に理由は要らない。

 

 

『……貴方は、変わっていると言われるのではないか?』

 

『よく言われるし、変わっている自覚もしてるよ』

 

『……馬鹿だ。あぁ、大馬鹿だ。貴方はきっと、今を生きる人間の中で一番の大馬鹿だろうな』

 

『違いない』

 

 

クックック、と喉を鳴らすようにして笑うとナハトヴァールもそれに釣られて笑った。バブアス・オギャアの話でも、キャストオフ桜木の話でも笑う事の無かったナハトヴァールが、初めて笑っている。その事実に妙な感動を覚えてしまう。

 

 

まぁ、顔は無いので声だけで判断するしか無いのだが。

 

 

『……そうだな。私がこの役割から解放されるというのであれば考えてやろう』

 

『言ったな?言質は取ったぞ?』

 

『あぁ、楽しみにさせてもらおう』

 

『よし、それなら今から動くか。あぁ、意識が無くなるだけだから身体は置いておくけど壊すなよ?壊さなかったら好きにして良いから』

 

『好きにして良いと言われても扱いに困るのだが……』

 

 

始めは逆探知や緊急脱出目的でこの身体を破棄する事に決めていたのだが、再びナハトヴァールと会うための目印代わりにこの場に置いておく事にする。再度接続することが叶わなくてもこの身体は俺の魂の一部である。感覚的にどこにいるのかなんて手に取るように分かるのだ。

 

 

そうしてナハトヴァールに別れを告げて接続を切り、元の肉体にサブからメインへと切り替える。視界に入ってくるのは丁度夜明けの光景。どうやら一晩中話を続けていたらしい。

 

 

「よし、まずはジェイルに話をして、ダメならホムンクルスの材料を集めて……あぁ、その前にデータを起こしておかないとダメだな……それにホムンクルスを作るのなんて初めてだからマーリンにも一度話をしときたいし……やる事いっぱいだなぁ!!」

 

 

登ってくる太陽の日差しを浴びながら、睡眠を取らずに行動していたというのに気分が高揚し続けている。

 

 

何せ、ここに来てやる気が出てきたからーーーいや、正確にはやる気が増してきたというべきか。

 

 

闇の書の完全破壊、そしてリインフォースと名付けられる事になる管制人格の救済はもはや前提条件となっている。後に訪れるstrikers編では、俺は遠慮無く容赦無く、思う存分に行動するつもりでいる。黒須の事情や戦力など考えずに行動する。ワンサイドゲームなんぞ望んでいないので、そうならない為に向こう側の戦力を充実させておく必要があるのだ。だから管制人格を救い、向こう側の戦に加えさせる。

 

 

そう言った意味ではナハトヴァールの解放など完全に無意味である。そんな事をする暇があるのなら、もっと別の事に手間をかけろと叱られても文句は言えない。

 

 

だが、それで良いのだ。どう足掻いたところで、俺の結末は決まっている。だからこそ、その過程を楽しむのだ。無意味で無駄な事を努力して、あぁ楽しかったと馬鹿笑いするのだ。

 

 

所詮は自己満足でしか無い行動に過ぎない。だが俺が楽しむ為に、俺が満足する為に、全力で頑張らせていただきますか。

 

 

 






バブアス・オギャア再登場。そしてキャストオフ桜ギル君初登場。普通なら腹筋痛めそうな話をされても興味深そうにするだけの無知っ子がいるらしい。

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